2007年4月20日金曜日

肉離れの正体~肉を切ったら骨を断てない

親離れ・子離れを総称して、肉(親)離れといっているわけじゃありません。スポーツ新聞に、××選手は「肉ばなれ」のため欠場というような、見出しをしばしば見ます。スポーツによる代表的な筋肉のケガなわけです。スポーツというと、私は関係ないと考えられる方もいるかと思いますが、これは普段の運動能力に比べて、どれほどの力が筋肉にかかったかが問題なのですから、必ずしもスポーツでしか起こらないわけではありません。

医学的に言うと、これは筋肉の部分断裂なのです。お肉屋さんから買ってきた肉をみたことがあるでしょう。細い糸みたいな線維組織が集まっていますよね。完全に断裂してしまえば、「筋肉が離れてしまう」のでしょうが、通常はこのようなことはまれです。十分な準備運動なしに急激な力で筋肉が引き伸ばされると、糸のような筋肉の線維の一部が、動きについてこれずにところどころで、ぷつんと切れてしまうのです。筋肉が断裂あるいは部分断裂すれば、その筋肉の運動能力は落ちますから、さらに運動を続けるのは困難になります。

治療は急性期と慢性期とに分けて考えなければなりません。受傷直後の急性期には、とにかく安静と冷却が必要です。筋肉は血液を豊富に含んだ組織ですから、断裂した部分から大量の内出血が起こります。あて木をして傷めた筋肉の上下の関節を含めて固定し安静にすることと、冷却して血管が縮こまることで、出血を最小限に止めます。湿布薬は貼ったときにヒヤリとしますが、最近の物は含まれている消炎鎮痛剤の効果が中心になっているので、冷却効果はそれほど期待できません。むしろ、氷を使って本気で冷やしましょう。本気で冷やすと麻酔効果つまり鎮痛効果もありますので、これによって腫脹をおさえ痛みも強くしないですみます。内出血した血液は、皮膚の下でかさぶたになってしだいに吸収されていきますが、量が多いと吸収されきれずに固い瘢痕組織となって傷跡を残します。瘢痕組織は痛みの原因になったり、周囲の筋肉の伸び縮みを妨げたりします。

2週間から3週間たつと、急性期から慢性期に移行します。この時期になると、今度は温めることと運動することが大切です。急性期に安静にして動かさなかった筋肉は、瘢痕組織の出現も重なって全体にこわばってきています。これをマッサージしてよくほぐし、ストレッチを中心にした運動を行って下さい。さらに温めることによって、血管が拡張し血液の流れがよくなると効果が増します。

2007年4月10日火曜日

くだける腰~ぎっくり・びっくり・動けない

その瞬間、腰の力が抜けて崩れるようにその場にへたりこむ。立とうにも力が入らず、無理に動こうとすれば、腰の周囲に激痛が走る。そして動けずに、ただただじっとしているだけで、時間が一秒一秒を確認しながらのように過ぎ去っていくのであった。

あなたは、ギックリ腰になったことがありますか。あれは辛いですよ。正しくは急性腰痛症と云いますが、いくつかの発症原因のどれかによって、急激な腰痛が生じる症候群なのです。予想もしない時に急激な激痛で身動きが取れ無くなりますから、本当に辛いものです。普通は、中腰や前屈みの姿勢を長くとったり、急に重たいものを持ったりしたときに生じます。

中腰や前屈みの姿勢は腰に対しては大変に負担となる姿勢なのです。ここで簡単な実験をしてみて下さい。必要なものは鉛筆一本、なければ箸でもなんでも構いません。机の上にまっすぐ鉛筆を立てて、真上から押して倒れないようにしてみて下さい。まっすぐの場合には、触れている程度のほんとに少しの力で十分に倒れないように支えていられます。ところが、すこしだけ傾けてみるとどうでしょう。今度は明らかに押していないと鉛筆は倒れてしまうでしょう。それだけ斜めの物を支えるには力がかかるということなのです。これは腰痛の予防を考えるとき、重要なヒントになるでしょう。

さて腰部椎間板ヘルニアは、ギックリ腰を起こす病気のなかでは老若男女を問わず最もポピュラーなものです。ギックリ腰と腰部椎間板ヘルニアを、ほとんど同じ意味で使っている医者もいるくらいです。動物の背骨は、ちょうど鮭缶のような形をしており、これがいくつも重なって支柱としての脊柱(せきちゅう)になっています。椎間板は背骨と背骨の間でクッションの役目をする軟らかい組織です。ヘルニアとは、体の組織が正常の位置から飛び出した状態です。椎間板ヘルニアの場合、なんらかの原因でグズグスになった椎間板が、いろいろな負担を受けて背骨と背骨の隙間からはみ出したものです。ちょうど鮭缶と鮭缶で饅頭を挟んで押したら、中のあんこが外に飛び出した様なものです。

脊柱の後方には脊髄という神経の束が頭からお尻まで通っているので、ヘルニアが後方に飛び出ると神経を圧迫して足の麻痺症状が出て来ます。こうなるともう立派な病気です。これらの変化がゆっくりと進行する場合もありますが、中には急に重たいものを持ったときに、いっきに飛び出すことも珍しくありません。麻痺症状が強い場合は、緊急的に手術治療を必要とすることがあります。

もちろん腰部椎間板ヘルニアの他にも、ギックリ腰の原因はいろいろ考えられます。背骨と椎間板がいくつも積み重なって脊柱を構成することは前に説明しましたが、これらだけでは柱としてビシっと立っているのは難しいのです。実際には柱の周囲を、いわゆる背筋と呼ばれる太いしっかりした筋肉がいくつもいくつも取り囲んで支えているのです。したがって背骨だけで支えきれない分の負担は、まわりの筋肉に対してかかってくるのです。このため筋肉への負担が大きすぎると腰部筋膜炎という状態になります。これも急性に生じればギックリ腰ということになります。この場合は真ん中の背骨の部分より、そのすぐ横(傍脊柱と云います)の方の痛みが強く、通常は神経症状は伴いません。

その他にも、背骨の老化現象の総称である変形性腰椎症、背骨の一部に亀裂が入って不安定になる腰椎分離症、上下の背骨の重なりがずれてしまう腰椎辷り症(すべりしょう)、骨が脆くなる骨粗鬆症など、多くの原疾患が考えられます。

いずれにせよ、腰痛の急性期は、一に安静、二に安静、三四も安静、五も安静です。適当な鎮痛剤を使いながら、最も楽な姿勢で横になっていることです。どれだけ安静を保てたかによって、痛みの程度や持続期間が決まってくるのです。無理に動いて病院に行くより、救急車を呼ぶか、何とか動けるならば2~3日安静にして痛みが少し楽になってから病院に行って適切な診断と治療を受けましょう。

2007年4月1日日曜日

指の腱鞘炎~かっこん動くばね指の秘密

一般の方が使う言葉で、医者の側からすると何だろうと思わせる言葉がよくあります。「すじ」という単語は、使う人によって意味が異なっている場合があり、やっかいです。ある人は、「すじを伸ばした」と云います。この場合は、関節の周りで関節がぐらぐらしないように固定している靭帯組織を指しているようで、ようするに捻挫のことであろうと思います。一方「すじに沿って痛い」という使い方もあります。この時の「すじ」は、筋肉あるいは腱のことであり、前者とは逆に関節を動かすための組織を指すことになります。

腱に沿って痛みがあるとき、たいていは腱鞘炎という病名を聞かされますが、本当の腱鞘炎以外に「腱鞘炎みたいなもの」も含まれていることが多いようです。実際、ここだけの話しですが、私も腱鞘炎ではないのに「腱鞘炎みたいなものですね」という表現をします。患者さんは妙に納得してくれることが多く、話しが早いのです。そこで今回は日頃の嘘の罪滅ぼしに、腱鞘炎の話しをしましょう。

まず登場人物の紹介をしましょう。てがたい演技で主役を引き立てるのは「筋肉」です。そして筋肉から引き続いて登場するのが「腱」。骨にくっついている筋肉が縮んだり伸びたりして腱を引っ張ります。腱も骨にくっついているので、筋肉の動きによって筋肉と腱との間にある関節が動く仕組みです。そして筋肉が縮んで、関節が曲がった時に腱が骨から浮き上がりすぎないように頑張っているのが、今回の主役「腱鞘」です。本来一直線に腱が伸びている場合には、腱鞘はありませんが、関節の周辺で腱が方向を変えている場所では必要になって来ます。まぁ云ってみれば、滑車みたいなものだと考えて下さい。

腱鞘はどこにでもあるわけではありません。手の甲では、指を伸ばす筋肉の腱が手首の部分で腱鞘に包まれています。手の平では、指を曲げる筋肉の腱が手首の部分と指の部分で腱鞘に包まれます。筋肉が動くと腱は腱鞘のトンネルの中を行ったり来たりしています。したがって、指や手を使いすぎるとこのトンネルの中での腱と腱鞘の擦れ合いが強くいたんでしまい、しだいに肥厚した固い腱鞘に変化していきます。こうなると、腱鞘内での腱の滑りが悪くなり、痛みが出て来ます。これが腱鞘炎なのです。指を曲げる部分で腱鞘炎が起こると、固くなった腱鞘の中をやっとのことで腱が滑るため、かっこんかっこんと指が動くようになります。この状態を「ばね指」と云います。

痛くなったら安静・消炎鎮痛剤の外用あるいは腱鞘内への注射を行いますが、程度のひどい場合は簡単な手術で固くなった腱鞘を開きます。いずれにせよ早めの治療が大切なのは云うまでもありません。