2007年11月3日土曜日

Evidence Based Medicine

Evidence Based Medicine、略してEBMという言葉が21世紀に入ってからの医療のキーワードの一つになっています。これは科学的な根拠の上に成り立つ医療、という日本語で説明され、統計学的にも意味のある差が出ることに基づいて医療を行っていこうという国際的な流れなのです。経験だけで、「こっちの方がいいから」という理由ではなく、「こうすればこうなる」という証拠があることが重視されます。

自分は、基本的には否定はしませんし、EBMの重要性は認識しているつもりですが、これは良いところと悪いところを備えていて、両刃の刃なのです。医学というのは個々の人間を扱う以上、統計学的なばらつきが大変多く、数字でくくってしまうことは、例外的な病人を無視していくことにもつながりかねません。実際、医療に関係した裁判が増えてきたため、自分のやった医療行為を正当化する根拠として準備されているケースが多く、患者さんを治療する目的からはかけ離れた使われ方をしているものもあります。

ある患者さんには自分が効果を認めている治療をし、別の患者さんにはそうではない治療をして、その差を論じることで治療方法の有用性が統計学的に証明されるわけですから、本来医者としてそのようなやり方はできないはずです。もちろん、そのような比較試験では医者は自分でもどちらの方法が患者さんに行われたかはわからないようにして行われていますので、積極的な良心の呵責に悩むことはないでしょうが、薬の治療では可能でも、手術では不可能です。わざと手術で操作をしないでどうなるかを経過観察するということはありえません。となるとこれだけ良くなったという結論を出しても、比較する対象がないので、あとは数学的な操作で有意な差を作るしかありません。

つまり、治療の正当性の根拠ではあるが、その正当性には人為的な部分が少なくないこと、そして一人一人に同じ病名がついても年齢・性別・生活習慣・その他もろもろのことから、治療方法を変えていくことにある程度の経験は必要であるということを忘れてEBMをおしすすめてはいけないということです。

関節リウマチという病気も個人差の大きい病気で、教科書に書いてあるような典型例の方が少ないと感じています。従って、きちんとしたEBMは必要です。患者さんがどうなるのか考えるための情報は、治療をしていく出発点として絶対に必要なのです。しかし、その後はその時の状況に応じて臨機応変に考える柔軟性がないと、個別の対応ができません。これには経験が必要です。

いくつかある抗リウマチ薬は、どれもそれなりに効果があることは証明されてはいますが、どれが一番良いという研究はありません。いくつかの薬の併用療法についても、効果があるという報告もあれば副作用のリスクの増大の報告もあります。しかし、早期の治療が効果を出すことはわかっており、ゆっくりと考えている時間はありません。となると、各医師の経験から使いやすいものを選択していくことになります。特に考慮されるのは安全性でしょう。

人間そのものはアナログであり、ものすごくファジーな生き物です。そこから学問、つまり最大公約数の知識を導き出すことは、大変にいろいろな問題と困難を含んでいます。