2008年1月2日水曜日

Antiaging

このブログは言わずと知れたクリニックを経営する医者の日々の日記みたいなものであるわけで、一番のテーマは健康についてのはずなのです。けしてロック少年の見果てぬ夢を追いかけるものでも、将来飲み屋の親父になる準備でも、あるいは秋葉系応援団というわけでもないのです。ですから、新年のネタの一発目は、まじめな話題からスタートしたいと思うわけです(何も言い訳するのも変ですが)。

近年アンチエイジングという言葉が、医学の世界でキーワードになっているのですが、お聞きになったことはありますか? Anti-agingとは、そのまま訳せば年を重ねることに対抗していくということですから、平たく言えば「若返り」の方法、あるいは「老化現象」防止策となります。ですから、この言葉には大変慎重になる必要があると思うんですよね。

生物としての本質は平家物語みたいに生があれば必ず死があり、難しい言葉で言えば「種の保存」であるわけです。でも、死にたくない、年を取りたくないというのは、誰にでも本来備わっている感情であるわけで、「アンチエイジング」という言葉には生物の本質をひっくり返してくれるという夢、あるいは妄想をかきたてる危険があるのではないかと思います。商業主義的には、アンチエイジングと呼ぶことで客が飛びつくキャッチャーなコピーとして利用しやすい。あふれる情報を選りすぐる能力が、ここでも求められているのですが、いかんせんまだまだ情報を選別するための情報が多いとはいえません。言葉が独り歩きして、新たな意味にいつの間にかすりかわってしまっているような状況もあると思います。

整形外科という骨・関節・筋肉・末梢神経などを扱う医学の領域では、最大の課題は神経と軟骨の再生です。自分は生物工学的な研究をしましたが、大多数の研究者は自然に治りにくい神経と軟骨をいかに治すかという研究をしているのです。特に軟骨は年とともに磨り減っていき、すべての人類共通の老化現象としての課題となっいるのです。自分がノーベル賞の選定の権限があったら、軟骨の保つ方法、あるいは再生させる方法を完成させた科学者には×100の賞をあげてもいいのではないかと思うくらいです。

寿命が5、60年くらいのうちはそんなに問題になる前に死を迎えていたのでよかったわけですが、医療・食事・生活環境の進歩により寿命は伸び続け100才を超える人はめずらしくありません。でも人間の体はそんなにもつようにはできていないわけで、いまだニュータイプへの進化はおこっていません。

軟骨はもともと血管か無く、関節の中にある潤滑剤の関節液が染み込んで何とか栄養をもらっている組織なので、新陳代謝がほとんど起こらない、一度いたむと再生できない組織の代表選手とされています。巷には「軟骨を治します」みたいな目的でコンドロイチン、グリコサミン、ヒアルロン酸などのことばをつけた健康食品(薬ではありません!!)があふれていますが、科学的な効果の実証については何一つ無いといっても過言ではありません。現実に医者が処方する形の医薬品としては皆無という現実は、何十年と変わっていません。

アンチエイジングのための学会が日本にもあって、そこではアンチエイジング(抗加齢)医学とは、疾病の医学が対象としていた「病気の治療」から、「健康な人のさらなる健康」を指導するプラスの医療、つまり究極の予防医学と定義し、元気に長寿を享受することを目指す理論的・実践的科学であると説明しています。

ですから、「アンチ」の中に混ざっている夢や希望に惑わされることなく、healthy-agingあるいはbeautiful-agingでありたい思うわけです。うまく年を取るということを忘れてはいけない、そしてそのために健康を維持して行く事が大切なんだということでしょう。アンチエイジングをうまく利用して、じょうずに心と体の年を重ねていけることが理想だと思うわけです。

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