2008年6月15日日曜日

くらしっくはつまらない

※リンクにはそれぞれの演奏の一部をMP3で聴くことができます。

と、思っているあなた。実は自分も、数年前まではそう思っていました。みーはー的ですが、フジ子ヘミングの登場で、演奏者の解釈や演奏法にけっこう違いがあるということを知りました。

なるほど、確かに楽譜というものがあって、そこにある音符をたどっていけば、誰が演奏しても同じといえますが、実は楽譜もいろいろ、テンポや強弱、さらに装飾音のいれかたなどにより、ずいぶんと違った印象をもつものなんです。

そこで、J.S.バッハ作曲のゴールドベルク変奏曲の主旋律であるアリアを例をとって聞いてみましょう。もともとバッハの時代デイから、楽器はチェンバロあるいはハープシコードと呼ばれる鍵盤楽器で演奏するのが由緒正しいと考えられがちですが、実はバッハは楽器の指定をしていないので、何で演奏してもかまわないわけです。

もともと戦前にランドフスカ女史のチェンバロの演奏が有名で、それ以上のものはいらないという雰囲気になっていました。ところが、ゴールドベルグ変奏曲といえば、カナダのピアニスト、グレン・グールドの1955年の演奏がたいへんに有名なわけです。

グールドのデヴュー盤だったこと、楽器がモダンピアノだったこと、反復して演奏する部分を省略して、若くてはじけるようなスピード感を出したことなどがその理由で、おそらくクラシックレコードでは世界で最も売れているのかもしれません。

リスト直系のアラウは男性的なドイツ音楽の正当な継承者としての演奏で、ピアノで演奏する場合の典型的なものかもしれません。

もう一人のドイツ音楽の継承者であるケンプは一切の装飾音を省いて演奏しているため、まったく別の曲のようにすら聞こえます。この演奏がアリアのエッセンスなのです。

チェンバロの演奏では、近年決定版として評判が高いのはレオンハルトの演奏。ピアノと違って、音の強弱が付けられないため、音の紡いでいく様子はピアノに比べより精巧になっています。

かわったところでは、ジャズピアニストのキース・ジャレットの演奏。ジャレットはバッハの他にもいくつかクラシックの演奏を録音していますが、残念ながらあまり面白くない。楽譜をたどるだけというのは、こういう演奏ですの典型かもしれません。

ジャズといえば、ジャック・ルーシェは昔からバッハの曲をスイングして演奏して有名です。さすがにアリアは崩しようがないのか、あまり面白くはありませんが、そのチャレンジ精神には拍手です。

鍵盤以外の他の楽器でもいろいろな演奏がありますが、一押しなのがギター。北欧のギタリスト、エトヴォスの演奏は内容的にも大変素晴らしく、楽器の違いによる違和感もなく素晴らしい。このようにいろいろな演奏があって、クラシックはあなどれません。

その中で、自分が最も気に入っているのはグールドの1981年の最録音。とにかくきわめて静に、そしてゆっくりとした演奏が特徴です。映画の中で、レクター博士が聞いていたのがこの演奏です。どうです、けっこう面白いもんでしょう。

クラシックははまりだすと、とにかく奥が深い。ゴールドペルク変奏曲だけでも、古今東西数え切れないくらいの録音があって、とにかくその一つ一つに演奏者の個性があるんですね。是非、皆さんも楽しんでみてください。