2009年5月15日金曜日

がんばれ研修医

世間ではいろいろと勤務医が大変で、開業医は楽して儲けているみたいなことを言われます。

開業してみると、それはそれで楽なことなんてありませんよ。でも、勤務医と違って自分ががんばればがんばるだけ収入につながるわけですから、そこのところは開業医の一番のいいところかもしれません。

それでも、いきなり開業医をしている医者はいないわけで、開業医もみんなさんざん大学病院をはじめとする勤務医を経験しているわけです。

自分の場合も研修医の頃は1日おきに当直なんてことはざらにありましたし、徹夜で緊急手術をしても翌日は普通に勤務は当たり前。それでも、勉強のためですから当直料なんてものはつきません。開業しても、当直バイトをやめることはできず、経営者としての悩みも増える一方。

今の研修医には、今の時代の悩みはあるんでしょうが、医者という職業を選んだからには避けることはできないようなことだろうと思います。でも、確実に昔の研修医でよかった、今の研修医が大変と思うこともありますよ。

まず書類。とにかく今の時代、医療を行うために用意しなければならない書類の多さはきちがい沙汰です。これは医療に対する不信感が、その根底にあることですから、医者自身にも大きな責任があります。

とはいえ、医療の結果に100%は絶対にあり得ないわけで、かえって文章を残すことが医者の首をしめていくという部分もある。そのためにまた文章を用意するという悪循環。

アメリカなどでは、そういう事務的な仕事を専属でこなす「秘書」みたいな仕事が普通にあるのですが、日本ではすべて医者の仕事としてはねかえってきます。このあたりは、今の勤務医にとっては大変気の毒なところ。

また、その延長上の話ですが、医療行為の結果に警察が介入するというのも大変なことです。もちろん、医療の結果患者さんが亡くなることは「殺人」と同じと考える方もいるかもしれませんが、悪意を持って医療を行う医者はいませんし、医療を行わなければ患者さんにはそれなりの不利益が生じるでしょう。

まして、原則として医者は医療を求められれば拒否はできないわけですから、通常の刑事事件と同列に扱われれば何もできなくなってしまいます。

このあたりも、そういう事態に直面しやすいのは開業医よりも勤務医ですから、本当に大変なことだろうと思います。でも、これも元はと言えば医者が自ら蒔いた種なんですよね。

まあ、そんなに大きな話ではないにしても、一般の診療自体が今の研修医は大変でしょう。例えばレントゲン検査。自分が研修医で初めて外来をしたころは、患者さんの訴えを聞いて、身体の異常を診察したら、たいていはレントゲン検査。でもって、結果は・・・来週でよかったんです。

まだレントゲンフィルムの自動現像機が出回り始めた頃で、写真はすぐに見れなくて当たり前。わからない病気でも患者さんに説明するまでに1週間の猶予がありましたから、その間に勉強することができました。

今は・・・うちでも撮影したら電子処理で、診察室で見れるまでに長くても数分間です。そりゃ、今の自分にとってはすぐに説明できて便利でしょうがないのですが、研修医からすればすぐに答えをいわないといけないというのは、ものすごく大変なことでしょう。

ですから、知らないことやできないことを、知らない・できないとはっきり伝えることが本当に大事だということです。知っている振りやできる振りをすることは、一般の方からすれば「犯罪」に近いものだということなんですよね。

大きな病院の中で、そのブランド性がバックにあるからといって、いつの間にか何でもできるような錯覚に陥ることなく、自分の医者としての技量を客観的に見つめることが、患者さんからの信頼につながるということだと思います。

がんばれ、研修医。