2009年5月5日火曜日

Nina Kavtaradze / Wagner Piano Works

どうせ、マニアックな話ですから、もう一つ、ついでに「げげっ、こんなんあんですか!?」という奴を紹介しちゃうましょう。

何って、これワグナーのピアノ曲集。けっこう珍しいでしょう。まぁ、普通のクラシックファンの方にはあまり縁がないものです。

ワグナーといえば19世紀の真っ只中にオペラの達人として活躍した作曲家。他にも交響曲や一般の管弦楽曲とかも作ったようですが、そのほとんどが断片、書きかけ、消失とされていて、本当に作ったんだかどうだかよくわからない。

とりあえず反ユダヤの思想の持ち主だったり、社会主義に傾倒して追放されたりと、まぁ芸術家としては変わり種の経歴が面白い。

その一方でピアノの鉄人、リストの娘コジマと不倫関係にあったりと、けっこう私生活はいい加減。性格は利己的で、めちゃくちゃな話は後を絶ちません。まぁ、人間らしいと言えばそれまでですけどね。亡くなった後は、ヒットラーに利用されたことも有名です。

そこで、映画です。イタリアのネオリアリズムの巨匠の一人、ルキノ・ヴィスコンティ監督の作品にゲルマン三部作と呼ばれるものがあります。トーマス・マンの「ベニスに死す」ではマーラーに模した主人公を登場させ、交響曲5番第4楽章をものの見事に使い込んでいます。「地獄に堕ちた勇者ども」ではナチスの退廃を描きました。

そして、最も長大な「ルードヴィヒ」はワグナーのパトロンとして、芸術の中に狂気を増していき自滅していったバイエルンの若き国王ルードヴィヒ2世がテーマとなりました。この中でも、ワグナーの無茶ぶりは、けっこう描かれていました。

そして映画の中で、始まってすぐの衝撃的な真っ赤なタイトルバックに重なって流れるのが、ワグナーのピアノ曲だったのです。不倫の末結婚したコジマに捧げられたエレジーで、最後の作曲とされています。ヴィスコンティの映画には不可欠な音楽監督であったフランコ・マンニーノが自ら弾いていました。

ゆったりと悲しみの和音がつづられる大変印象的な曲でした。そんなわけで、たまたま他にもピアノ曲があることを知って、是非聴いてみたくなり探していて見つけたのがこのCDというわけです。

それにしても、この演奏者のおばさま・・・いゃ、失礼・・・迫力ありますね。名前は何て発音するんですか、よくわかりません。ニーナはいいとして、カフタラーゼですかね。

音楽は全体にロマン派の流れを汲んでいるものの、まぁそれほどバカテクが必要そうなものはありません。ムード一発という感じ。あまり重苦しくなく、むしろ映画に使われたエレジーだけが異色の存在かもしれません。

まぁ、少なくとも後世に残る作曲家の作品ですから、こんなのもあっていいんじゃないの、ということでした。