2011年3月6日日曜日

Miles Davis / The Last Word

1955年以来1985年までの30年間、マイルスはColumbia Recordsに所属して、レコードを制作し続けたわけです。81年の復活後は、しだいにポップ路線に転じ、今で言うフュージョン系の音楽をするようになりました。

しかし、1985年に突然、長年在籍したColumbiaを後にして、Werner Bros. Recordsへ移籍。1991年に突然亡くなるまでの6年間、さらなる大変身を遂げたのです。

ポップな味はさらに強まり、それまでほんとに数える位しか他人のアルバムに参加していなかったのに、どんどん外にでるようになります。それも、ジャズとはまったく無縁の大物でもないミュージシャンのアルバムに出てきたりしてびっくり。

その一方で、ステージを精力的にこなし、今でもBootlegとして、ほとんど毎日じゃないかというくらいライブ盤がでてくる。いずれも、子飼いのサックスやギター奏者をひたすらジャムらせて熱い演奏を展開するのです。

さらに、映画音楽にも参加。なかには「どブルース」というようなセッションがあったり、一番驚くのは自分が俳優としてトランペッターの演技をしてしまったこと。

そして、90年代には早くもラップを取り入れ、またもや新たな展開を模索しだすというのは、一体どこからエネルギーがわいて出てくるのか不思議でしょうがない。

ところが1991年、マイルス最後の夏には、急にクインシー・ジョーンズにのせられてか過去のギル・エバンスとの競演を再現。立て続けに、昔のバンド・メンバー大集合の思い出を振り返る大会のライブをやったりと、今までのマイルスでは考えられないようなことをしていたのです。

なんて充実していた濃厚な日々だったことかと思いますが、それぞれにいいところ悪いところがあることはさておき、この6年間を集大成したのが、この''The Last Word''という4枚組のCDセット。

実は、これは数年前に発売が予告され、ネット上でもこのジャケットが紹介されたりしたものの、直前になって発売中止。幻のセットとなったんです。

既発売分の音源については、別にどうということはないのですが、発表されていた内容には、まとまったスタジオ録音で未発表になっていたものや、なかなか集めにくい他人名義への参加作品などがたっぷり入っていることになっていたので、マニアとしては大変悔しい思いをしたのでした。

ところが、デモとして業界関係者に出回ったCD-Rから、ちゃんと既発売音源を除いた分をちゃんとBootlegとして出してくれました。どこのどなたかわかりませんが、涙が出そうなくらいありがたい。

ですから、このセットに対する執着はもうまったくなくなったというわけなのですが、昨年は他人名義のコレクションと一部の未発表分を含むベスト盤というのが、オフィシャルに発売になっています。

いまさら、かなり中途半端にアンソロジーと銘打って発売されても、マニアならすでに買う必要はないし、初心者に勧めるには本来のベストとも違う。もう、Wernerも完全にBootlegに出し抜かれて、なんとも中途半端なものを作ってしまったことか。

マイルス・デイビス、没後20年。とにかく、残してくれた音楽はだいたい出尽くしたと言っていいでしょう。もう驚くような新発掘されたものは、さすがに期待できません。これからはまさにLegacyとともに、マニアの心の中に生き続ける存在になるでしょうか。