2011年6月5日日曜日

チェロの魅力

クラシックピアノの世界では、よくバッハの平均律クラヴィア曲集を「旧約聖書」、そしてベートーヴェンの32のピアノソナタを「新約聖書」と呼びます。音楽の規範となるべき傑作としての称号ですが、他の楽器についても同じようなものが当然あるわけです。

ヴァイオリンでは、バッハの無伴奏パルティータとソナタは「旧約」でしょうし、パガニーニの24の無伴奏カプリースが「新約」となることには異論はないと思います。

チェロだったらどうでしょうか。やはりバッハの無伴奏チェロ組曲が筆頭にあげられるところまでは間違いないのですが、他にはどれが「聖書」扱いされるかは微妙なところです。

個人的にはチェロ作品としては、ベートーヴェンの5つのチェロソナタが素晴らしい。ですが、他のチェロソナタとはだいぶ趣が異なり、これをチェロの聖書とするには賛成できません。

なぜならば、ベートーヴェンの作品ではチェロとピアノが主役と脇役ではなく、対等に渡り合い、時に美しい合奏を、時に別々に絡み合うように、場合によってはお互いを攻め立てるように旋律を刻んでいくのです。つまりチェロのための作品となっていますが、場合によってはピアノソナタ・チェロ伴奏付きと言っても過言でないところが少なくない。

ショパンも数少ない室内楽作品としてチェロソナタを作っていますが、やはりこの人は根っからのピアニスト。正直言ってピアノパートの充実に比べて、チェロパートが貧弱で、あまり面白いとは言えません。

比較的低音部の補強のために使われるチェロは、ヴァイオリンに比べると主役に躍り出るチャンスの少ない楽器です。しかし、気持ちを落ちつかせる音色で、あるとないではアンサンブルの質感がまったくかわってくるものです。

まだまだ聴き方が不十分なので、チェロの新約を見つけることが出来ないでいるのですが、そんな探し物をしながら聴いていくという楽しみ方もクラシック音楽にはあったりするんです。