2012年4月6日金曜日

江川紹子 / オウム真理教追跡2200日

日頃テレビを中心としたメディアに対して批判的な書き方をすることが多いのですが、もちろんテレビというものの存在を否定するつもりはありません。テレビが世界中の出来事をリアルタイムに「お茶の間」に持ち込んだことは、確かに情報の伝達という観点からものすごい変革であったことは間違いありません。

しかし、お手軽に見ることができるようになった出来事の多くは、世間を震撼させる悲惨な事件であることが多く、必ずしも楽しいものではありませんでした。

自分の経験からは、記憶に残るテレビで放送された出来事というと、「連合赤軍・浅間山荘事件」 、「日航ジャンボ墜落事故」、「阪神淡路大震災」、「アメリカ同時多発テロ事件」、そして去年の「東日本大震災」といったところがランキングの上位に並んできます。

いずれも、テレビという箱の中に映し出される映像は現実ではなく、何かの映画の世界? と感じました。自分の頭の中で考えることができるリアリティを超越した出来事であり、すぐには受け入れて理解することが不可能な出来事だったわけです。

ここでもう一つ、絶対に忘れられない大きな事件というと、一連のオウム真理教事件です。表沙汰になったものは、坂本弁護士一家殺害事件が最初で、目黒公証役場事務長拉致事件、松本サリン事件ときて地下鉄サリン事件でピークを迎えます。

そして、その後の警察とオウム真理教の毎日のテレビでのせめぎ合いは、今思い返しても尋常の沙汰ではありませんでした。その中で警視庁総監銃撃事件や村井幹部刺殺事件という、単なるサイドストーリーとして片付けられない出来事も起こって、それらがどんどんテレビで放送されていたわけです。

先日、オウム真理教のサリン精製に関与した人物についての番組があり、久しぶりにこの事件の怖さ、当時の衝撃を思い出しました。昨年逃亡中の手配犯の出頭ということがあり、あらためてこの事件はいったい何だったのだろうかと思いだしていたところでした。

事件が麻原の逮捕により一段落して、一連の事件を追い続けていたジャーナリストの江川紹子がまとめあげた本がこの「オウム真理教追跡2200日」です。あらためて眺めてみると、多少筆者の思い入れがあり感情的な記述が少なくないように思うところもありますが、事件の概要を整理するための材料としてはこれ以上のものは無いように思います。

しかし、その後の長い裁判の前の出版であり、その後にわかってきたことや、いまだにわからないことを含めてこの事件の日本の戦後史の中での総括がされていません。あらためて、そこをはっきりさせるべき時期が近づいてきているのかもしれません。