2012年7月22日日曜日

小川京子/ Mozart Requiem K.626


レクイエムは、キリスト教の死者のためのミサ曲、日本語では鎭魂曲。モツレクといえば、モーツァルト作曲で未完成ながら(弟子のジュスマイヤーにより補筆完成)、フォーレやヴェルディのものとともに世界三大レクイエムと呼ばれている優れもの。

実際のところ、作曲の依頼主の正体不明であったり、モーツァルト自身が死の床にあって作曲を続けたことから様々な伝説がつきまとうことになります。また、モーツァルトが完成したのは全14曲中の1曲目だけで、のこりはスケッチ程度の草稿とジュスマイヤーへの指示によるものとされています。

その後の研究によって、ジュスマイヤーの間違いを指摘して、さまざまな版が発表されており、混乱した傑作ということが言えるかも知れません。ただ、とにかく直弟子のジュスマイヤーがモーツァルトの死後、遺志を直接に反映した形で完成させたことは評価すべきですし、これを決定版とするのが妥当ではないかと思います。

ちょっと古いところではベーム/ウィーンフィル盤が最も有名でしょうか。どっしりとしたテンポで、重量級のオーケストラと合唱による大迫力の演奏は、確かに魅力的です。 その他ワルター、ジュリーニ、ムーティなど、多くの名盤が存在するわけで、好きな人がはまるとなかなか深遠な世界です。

ところが、自分の場合は声楽が苦手で、かつオーケストラ作品もあまり好きではないという天の邪鬼クラシックファンですから、どうもモツレクのような曲は、もっと遠いところにある。ベーム盤も、実のところ全然よさがわからない。だいたい、そんな大人数の楽団が入れる教会なんてあるんかいなと思ってしまうわけです。

ところが、曲としてはけっこう好きなわけです。なんでかというと、実は弦楽四重奏版というのがあって、これがなかなかいい。自分の苦手なところが、ストリングスにすべて置き換わっているわけですから、悪いはずがない。

クイケンのものも有名ですが、自分がお勧めするのはStringFizzという女性だけのグループのもの。このグループは、ピアソラやガーシュインなども演奏し、本来弦楽四重奏ではない曲中心にレパートリーを増やしているんです。とにかく、めりはりのある元気な演奏で、レクイエムをまったく飽きずに聴き通せます。

さて、そこに今年登場したのが小川京子によるピアノ独奏版のレクイエムです。ピアノへの編曲はチェルニーという豪華顔合わせ。小川の全曲録音は、昨年の震災への思いからインスパイアーされたとのこと。

レクイエムですから、主として短調で、それほど早い曲想ではないわけで、ピアノだけでの演奏となると音数が少なくなりすぎてどうかと思いましたが、いや悪くないんです。このあたりはチェルニーの編曲の妙味です。うるさくない程度に音を配置して、空間をうまく満たしている感じなんです。

楽器編成を減らした編曲では、もともとの音楽の骨格が明瞭になってくることが多く、もしかしたらここでもモーツァルト自身が考えていた原型に最も近づいた演奏になっているのかもしれません。

大編成の演奏に慣れ親しんだ方が聴けば、さにらその思いを強く感じるのではないでしょぅか。そういう方に是非とも一度は聴いてもらいたい好演だと思います。