2014年6月3日火曜日

古楽器演奏家たち

そりゃ、カラヤンだってバッハはやるわけで、モダン楽器による演奏でバッハを聴くのもありですが、できることなら優れた古楽器によるピリオド奏法で聴きたいものだと・・・そこで、だいたいどんな名前を注意しておきたいかをまとめてみましょう。

古楽系のアーティストは、50年代から活動し始めた、元ウィーン・フィルのチェロ奏者ニコラス・アーノンクール、オランダの鍵盤楽器奏者のグスタフ・レオンハルトあたりが総元締めという感があります。アーノンクールは70年代に、古楽器による楽団コンツェントゥス・ムジクス・ヴィーン(CMW)を組織して手兵として今でも活躍しています。レオンハルトは、惜しくも2012年に亡くなりました。

二人の共同作業となった、J.S.バッハのカンタータ全集は、初めての古楽器によるものとして、現在に至る古楽ブームに決定的な影響を与えたのではないでしょうか。

70年代から活動を開始する第二世代に属するのが、我がジョン・エリオット・ガーディナー先生。イギリス人で、今年結成50周年を迎えたモンテヴェルディ合唱団を軸に、内容によってイングリッシュ・バロック・ソロイストとオルケストル・レヴォリューショネル・エ・ロマンティークを使い分けています。

トレバー・ピノックのイングリッシュ・コンサートもイギリスの古楽では有名です。バッハよりはヴィバルディ、そしてやや古典の方が得意な印象です。 逆に、中世~ルネッサンスが得意なのはサイモン・プレストン。

そのほかにイギリス人では、クリストファー・ホグウッドとロジャー・ノリトンが有名。ホグウッドは学者的なカラーが濃厚で、アカデミー・オブ・ア ンシエント・ミュージックと共にマニアックに活動中。ノリトンはロンドン・クラシカル・プレイヤーと共に古典~ロマン派中心に活動中です。 

ベルギーのヴィオラ奏者シギスヴァルト・クイケンはラ・プティット・バンドを結成し、器楽曲を中心に活躍していますが、兄のチェロ奏者ヴィーラント、弟のリコーダー奏者バルトルトらと共にクイケン三兄弟として有名。

フィリップ・ヘレヴェッヘもベルギー人で、この人ほど、手兵のオーケストラや合唱団をいろいろ持っていて、使い分けが細かい人はいないでしょう。中心はコレギウム・ヴォカーレ・ヘントだと思うのですが、バロックから現代音楽まで、実に多才な活動を繰り広げています。

元々カウンターテナーとして活躍したルネ・ヤーコプスはコンチェルト・ボカーレを組織して、特に21世紀になってからは指揮者として名をなしてきました。最近はベルリン古楽アカデミーとも密接な関係にあり、知られざる名曲の発掘でも気になるところです。

ベルギーにはもう一人、鍵盤楽器奏者のヨス・ファン・インマゼールが有名。アニマ・エテルナを組織して、活動していますが、どちらかというと古典が中心でしょうか。

元々リコーダー奏者として名を成したオランダのフランス・ブリュッヘンは、1981年に18世紀オーケストラを組織し指揮者に転進しました。名前が示すとおり、バロックよりも古典派のハイドン、モーツァルト、べートーヴェンあたりが主要レパートリーです。

オランダには忘れてはいけない人が、もう一人います。鍵盤楽器奏者のトン・コープマンで、レオンハルトの直弟子です。単一演奏者による始めての古楽器によるバッハ・カンタータ全集は金字塔でしょう。他にも、バッハのオルガン全集や、フクステフーデの全集などの業績も後世に残るものです。

ドイツではラインハルト・ゲーベルと彼の手兵ムジカ・アンティーク・ケルンが、最も有名です。ルネッサンス~バロックの、まさに古楽の中の古楽がレパートリーで、古いものを聴こうとすると避けては通れないアーテイストです。

スペインにはジョルディ・サバールというガンバ奏者がエスペリオンというグループを組織して活躍しています。中世~古典まで、比較的幅広く演奏し、宗教曲のレパートリーも少なくない。

バッハを頂点とする宗教曲のジャンルを中心に見ると、アーノンクール、ガーディナー、ヘレヴェッヘ、コープマンあたりが直接的なライバルとして、しのぎを削ってきたというのが第二世代というわけです。

実は、イギリスにはもう一人、アンドリュー・パロットという指揮者がいます。やはり、タヴァナー・コンソート&プレイヤースという組織を持っていて、結構CDも出ているのですか・・・いかんせん、あまりにガーディナー先生とレパートリーがかぶりすぎ。

お気の毒としか言いようが無いのですが、ちょっとそれでは目立たない。アメリカのリフキンが提唱し始めた、バッハの時代は演奏者は1パートにつき一人(One Voice Per Part)という怪しい説を実践しているくらいが特徴でしょうが、重々しくないバッハを聴くにはいいかもしれません。

80年代に入ると、古楽器の演奏の技術も格段に進歩して、ただ古楽器を使いましたというだけではなく、内容的にも充実してブームといえる状況になってきます。

イギリスでは、ポール・マクリーシュのガブリエル・コンソート&プレイヤース、 ロイ・グットマンとハノヴァー・バンド、ハリー・クリストファーとザ・シックスティーンなどが台頭してきます。フランスではマルク・ミンコフスキーが登場。

そして我が日本の鈴木雅明とバッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)が頭角を現してきます。鈴木はクリスチャンで、コープマンの弟子。いまや、ガーディナーに続いてバッハ・カンタータ全集を完成し、世界的なレベルで評価されています。


90年代はまさに、モダンを追い落とす勢いで、古楽器によるピリオド奏法がクラシック界を席巻しました。第二世代の人たちの全盛期だったといえます。そして21世紀になると、第三世代の活躍が増えてきましたが、古楽器による演奏の必然性と、高度な内容が求められる時代であることは間違いないところでしょう。

アンサンブルとして、特定の指揮者を持たないようなグループが誕生してきて、実際の楽器の演奏者が主体の組織が目立つようになってきたような気がします。


最近の注目株としては、ヘンデルのイタリアン・カンタータを網羅したイタリアのファビオ・ ボニツォーニと彼の率いるラ・リゾナンツァ、バッハのミサ・ブレビスを集成したフランスのラファエル・ピションとピグマリオンなどは要注意です。

自分の主観だけですから、大事な人が抜けているかもしれませんが、宗教曲を中心に考えると、まぁだいたいこのくらいおさえておけば間違いないでしょう。