2015年7月5日日曜日

術後死亡問題

医療は、100%の結果を出すことはできません。そう言うと、なんか自己弁護のようですが、何しろヒトが相手で、相手は個々で微妙に違う。いろいろなデータが発表されますが、統計という一括りですべてを片付けきれないところが、難しいところです。

それでも、何とか標準を作ろうと、先人達は研究を重ね、そして自分たちのような現場の医者も、そこから逸脱しないように、より良い結果を出そうと努力をしているつもりです。

最近は、某大学病院の腹腔鏡手術の問題があってか、手術後の死亡率が取り沙汰されることが多くなりました。各地の公立・私立を問わず、いろいろな病院で指摘を受け、ニュースを通じて問題が公にされています。

当然、手術そのものの失敗、つまり術者のミスは論外です。ヒトに対してメスをふるうということは、手技としてのミスは許されません。ミスがあれば、率直に認めて反省し、より研鑽を積む努力をする必要があります。

手術による合併症は、残念ながらゼロではありません。どんな手術でも、出血と感染症は必ずついてまわるもの。特に感染症は、肉眼で見えない細菌を相手をしているので、一定の確立で生じるものです。

術後感染に対する処置の上手な医者は、手術で感染症を作っているからという皮肉な言い方もあったりします。例えば人工関節置換術の手術では、数%の術後感染症の発生が、世界的に認められます。

自分の大学の後輩に、通常の10倍くいらの頻度で術後感染を起こしている術者がいました。彼の場合は、手術時間が長く、傷が開いている時間が多いと落下細菌の確立が高くなり、また出血量も増えることも影響していたと思います。

お腹の中の手術は、自分は経験がありませんから、あまり口を出すことはできません。しかし、開腹手術にしても、腹腔鏡手術にしても、手術が終了すると、傷は閉じてしまいますので、あとで縫合不全のような問題が生じても、すぐに確かめることができません。

直接、患者さんの生死に関わる問題に発展しやすいことですから、手足の手術に比べてより慎重さが求められることは間違いない。手術をしなければ、死亡するような病気であったとしても、医者が寿命を縮めるような結果を出すことは問題です。

ただ、あえて弁護するならば、手術は技術ですから、うまれつき上手い医者なんていません。上手くなるためには、天性のセンスは絶対に必要ですが、同時に練習も欠かすことはできません。

練習は、結局たくさんの手術に助手として参加して、上手い人の技術を盗む。そして、そういう上手い人についてもらい、自分で手術の数をこなすしかありません。机上の訓練だけでは、どうしようもないところ。

ですから、おそらく問題になる病院では、それらの手術を適切に指導できる医者が不在であり、未熟な技術を指摘出来る医者や検討するシステムが確立していないということなのでしょう。

そして、場合によっては、術者におごりがあるのかもしれません。少し、話は違うかもしれませんが、手術をする医者を「神の手」と呼んで持ち上げることがありますが、そんなものはありません。もしもあるなら、その医者の地道な努力しかなく、それはまさに「人の手」でしかありません。

しばしば、問題を大きくするのは周囲の第三者であることがあります。結局は、患者さん、そして家族の方々に、事前に十分すぎる説明をして、納得してもらうしかありません。

医療訴訟の問題とも絡みますが、こういう問題が大きくなると、医療が委縮していくことが心配です。標準的な合併症の頻度の中でも、より医者は慎重にならざるをえなくなり、治療の適応をより安全度の高いものに絞ってしまうかもしれません。

自分が現在専門にしている、関節リウマチ診療についても、重大な副作用を起こす危険のある薬剤を使用しますので、それらのリスクを患者さんにも納得してもらえるだけの、根拠の提示と発生時の対策の確立は絶対に必要だと思っています。