2015年8月22日土曜日

人食いバクテリア

なんか、B級ホラー映画のタイトルみたいで・・・実際、最初にこの言葉を聞いた時は、医者が使うにはやや躊躇するなと思ったものです。

実際は、溶血性連鎖球菌と呼ばれる細菌による感染症。通常は、略して溶連菌(ようれんきん)と呼んだりします。溶連菌感染はたいへんありふれたもので、こどものかぜ症状の原因になることはしばしばあります。

稀に猩紅熱と呼ばれる全身の発赤を伴った重症型を発症する場合がありますが、一般的な抗生物質が効きますので、診断さえちゃんとつけばあまり心配なことは起こりません。

ところが、大人で溶連菌感染を起こした方のごく一部で、数日の短期間の経過で激烈な症状を起こし、感染部位の組織の壊死を起こして、半数くらいは敗血症により死亡するという怖いケースがあります。

年間数例の発生があり、以前は千葉県の限られた地域での発生が多かったこともあり、一種の風土病と考えられていた時期もありましたが、原因がはっきりしてからは全国的に発生が確認されています。

さて、この人食いバクテリアによる劇症型溶連菌感染症が、今年は増加しているということがニュースになっていました。

実は、自分は20数年前にこの病気に遭遇していて、数少ない学会報告をしているんです。今では、病気としては原因がはっきりしていますし、治療法も特別なものがあるわけではないので、比較的学会としては地味なネタですから、あまり参考になる文献は多くない。

患者さんは、とにかく尋常ではない大腿部の痛がり方をしていて、痛み止めで様子を見ようという雰囲気ではありませんでした。今なら、すぐにMRI検査をして、異変の初期をキャッチできるかもしれませんが、当時はMRIはまだそれほど普及していませんでした。

何かの感染症かもとしかいいようがなく、とにかく汎用性の高い抗生物質の点滴を開始したのですが、翌日には痛がっていた大腿部がみるみる腫れ上がり、手術を行いました。大腿部の筋肉はほとんどが壊死しており、トロトロに溶けたみたいな状態で、可及的に切除しました。

この患者さんは、比較的早くから抗生物質を使用していたので、何とか救命できましたが、膝の動きには高度の障害を残してしまいました。

一見、かぜかなと思っても、いろいろな怖い病気があるもので、こういう数日が勝負の感染症では知っているか知らないかが勝負の分かれ目になることがしばしば。四肢の強い痛みで患者さんが病院を訪れることを考えると、整形外科医は頭の片隅においておかないといけない病気です。