2017年5月15日月曜日

Dietrich Fischer-Dieskau / Schubert (三大歌曲他)


クラシック音楽に限らず、音楽界の巨人とか巨匠と呼ばれる人は、歴史上大勢いるわけですが、音を録音して記録に残すレコードが発明されるまでは、後から検証しようがない。

音楽は限られた人々の楽しみであったわけで、場合によっては、時の権力者がお気に入りにしたことで有名になっただけということもあるでしょう。

今のように興味を持った人は誰でもいつでもどこででも楽しめる、場合によっては映像もある時代は、ミュージシャンはある意味厳格に評価されて大変だろうと思います。

そういう意味で、ディートリヒ・フイッシャーディスカウはクラシック音楽における真の巨匠として、万人が迷うことなく名前を挙げることができる数少ない一人だろうと思います。

もちろんあまり詳しくも無いのに、あまり声楽のことを語るわけにはいかないのですが、人の声というのは最も原始的な「楽器」であり、言葉をより印象的に伝え記憶に残すために、主として宗教的な側面から発達しました。

教会内、あるいは宮廷内での音楽が、17世紀ごろからは少しずつ一般にも広がり、人々が「音を楽しむ」ことができるようになり、劇場で身振り手振りを加えた歌劇(オペラ)や、家庭で簡単な伴奏で楽しむ歌曲(リート)として発展していったことは容易に想像できます。

フィッシャーディースカウは、1925年生まれのドイツ人で、もちろんオペラでの名演もさることながら、2012年に亡くなるまでのドイツ・リートの継承者としての活躍は完全に歴史になりました。

特にシューベルトの歌曲、さらに絞るなら歌曲集「冬の旅」についてはライクワークとして取り組み、録音として残されているものだけ7種類もあり、シューベルトの歌曲を聴く上で避けて通ることはできないことになっています。

名演として評価が高いものは別にあるようですが、ドイツ・グラマフォンに系統的に録音されたほぼ「全集」と呼べるシリーズは、盟友ムーアのピアノ伴奏と相まって、音質的にも最も推奨されると思います。

CDで21枚にわたる男性独唱曲の集大成は、一歌手によるものとしては他に類がなく、まさに偉業と呼ぶのに相応しい。今は廉価版ボックスで再発売されていますので、1万円前後で入手可能です。

実は、独唱曲全集があまりに有名で、DGも積極的に再発売しないためにやや影に隠れているのですが、フィッシャーディスカウが主導してその他の歌曲を集成したシリーズもあります。

こちらは女性独唱曲、二重唱、三重唱、四重唱、合唱を集めてCD8枚の構成で、女性独唱と合唱以外にはフィッシャーディスカウが登場します。

これらを集めてCD29枚で、シューベルトの歌曲はほぼ網羅されることになり、かなりマニアックなことを考えないなら「大全集」として揃うのも、ひとえにフィッシャーディスカウのお陰です。

ドイツ・リートの「教科書」として、好事家の方は一家に1セット、是非揃えておきたいものです。もちろん、シューマン、ブラームスの全集も合わせてどうぞ。