2018年1月17日水曜日

記紀より新しい古代


古事記は、神代の話から仁賢天皇まで、つまりオケ・ヲケ兄弟の話までが書かれていて、これは5世紀末までの話でした。日本書紀はもう少し長く、7世紀末の持統天皇まで書かれていました。

記紀の記述は、歴史として全面的に信用するわけにはいかないのですが、最低限日本書紀のみの記述になる6~7世紀については、登場人物の実在性への疑いはだいぶ希薄になったと言えます。歴史的事項についても、それなりに信用できて、現在使われている西暦を当てはめることが可能になりました。

そもそも日本の古代史を勉強しなおしてみようと思ったのは、神社で祀っている「神様」とは何ぞや? という疑問から始まったことで、そのテキストとして始まった記紀読破でした。ところが、読めば読むほど謎が深まる世界でした。それが新しい興味を呼び起こして、過去の限定された話のはずなのに底がまったく見えない事態に陥っています。

日本史の中で古代と呼んでいる時代は、政治的には天皇支配の平安時代までで、武家政治による鎌倉幕府成立(1192年)からは中世となります。ただし、支配者が誰かという実情を考慮して、1100年頃の荘園公領制度の確立をもってして実質的な古代の終焉とするのが、現在の一般的な考え方のようです。

となると、古代史を知るためには、まだ8~11世紀の400年間分、おおよそ奈良時代と平安時代までを勉強しなおさないといけないことになるんですが、奈良・平安になると、今度は仏教史も勉強しなくちゃいけないので、到底きりがない。だけど、持統天皇の後の日本はどうなったんだろうという疑問も湧いてくる。

もう少し新しい時代まで首を突っ込んでみようかと思うのですが、そうなると新しいテキストが必要です。当然、選択されるのは「続日本紀」という書物ということになります。

政府公認「日本の成り立ち昔話」として作られたのが古事記で、公式国史として編纂されたのが日本書紀です。いずれも、だいたい過去のことについていろいろな資料をまとめ上げたレトロスペクティブなもの。ここからは、今からすれば歴史書ですが、当時はリアルタイムに記述された「日記」みたいなもので、記紀に比べると内容の信憑性は格段と高まります。

続日本紀は、だいたい8世紀の百年間のことが書かれています。そして、それに続くのが日本後紀、続日本後紀、日本文徳天皇実録、日本三大実録と続き9世紀までのことを記述した、全部で6つの書物を六国史(りっこくし)と呼びます。

古事記に関する一般書物の量を10とすると、日本書紀に関するものはだぶ少なくなって5くらい。それでも記紀は諸説紛糾する歴史書であると同時に、謎が謎を呼ぶロマンの香り高い文学書としての価値も見いだされています。ところが、それ以後になると、とても読むにはハードルが高すぎる専門歴史書を除くと、一般向け解説本は極端に少なくなります。続日本紀で1くらい、それ以後の物については皆無に近い。

ですから、少なくとも続日本紀を、原典に沿って読み進むみたいな形は到底無理ですけど、ちょうど奈良時代がすっぽり収まるあらすじだけでも追いかけてみようと思います。そこで、探して選んだのが「平城京全史解読 - 正史・続日本紀が語る意外な史実(大角修・著、学研新書、2009年)」というもの。続日本紀の記述の順に沿って、大小の事件を解説していく「あらすじ本」で、新書で量も少ないので読みやすそうです。

日本書紀は通常の読みは「にほんしょき」ですが、続日本紀は当時の読み方に倣って「しょくにほんぎ」と読みます。編年体で全40巻あり、記紀に比べて一つ一つが詳細であることが想像できます。最終的に完成したのは平安時代の797年(延暦16年)で、公卿の菅野真道らによって編纂され、第42代の文武天皇から第50代の桓武天皇までの95年間が記載されました。

もちろん、記紀に比べて詳しくなったとはいえ、続日本紀の時代には知られていなかったこと、意図的に書かれなかったこと、間違って記載されたことなどは多々指摘されています。少なくとも、記紀のように創作して書き加えることはほとんど無いらしいので、そのつもりで多少の資料を加えながら探りを入れてみたいと思っています。