2019年1月12日土曜日

母と暮らせば (2015)

山田洋二の84本目の監督作品。松竹創立120年記念、第39回日本アカデミー賞で、最優秀主演男優賞(二宮和也)と最優秀助演女優賞(黒木華)を受賞しました。ちなみに、この年の最優秀作品賞は「海街ダイアリー」で、最優秀監督賞は是枝裕和が受賞しています。

井上ひさしの「父と暮らせば」と対をなす「戦後"命"の三部作(山田洋次が命名)」の一つ。井上ひさしが亡くなったため、山田洋次がその原案をもとに脚本を書きました。

「父と暮らせば」はすでに舞台劇として完成していたので、映画として舞台を限定した会話劇の体裁でした。こちらも、その流れをある程度意識して、基本的には母と子の楽しかったころを思い出しての会話劇のスタイルを踏襲しています。

ただ、さすがに映画監督が作るからには、登場人物も多くなり、母子の家以外の場所でのエピソードもそれなりに盛り込まれ、ファンタジー色も強めになっています。

「父と暮らせば」は、広島で被爆して生き残ったことを責め続ける娘のもとに、3年たって初めて戦争以外に気持ちがむきそうになることをきっかけに、父親の幽霊が出現してくるというもの。

一方こちらは、長崎で息子の浩二(二宮和也)を亡くした母親(吉永小百合)のもとに、3年たってやっと息子をあきらめようとすることをきっかけに浩二の幽霊が出現します。また、息子の許嫁、町子(黒木華)も気持ちの整理がつかぬまま重要な登場人物となっています。

被爆瞬間を、強大な光とその中でガラスのインク瓶が溶けていく様子で表現したのは秀逸です。浩二は町子との楽しかったひと時を回想しながら、しだいに町子が自分にこだわらなくていいと考えるようになります。

母親は、体調が悪くしだいに体力を落としていく中で、息子との会話の中から自分の人生を納得していきます。そして許嫁に対して、別の人を好きになっていいんだと説得するのでした。

年の瀬、町子は婚約者を連れて母親のもとを訪れます。この婚約者を演じるのは浅野忠信で、「父と暮らせば」に対するオマージュとしての配役でしょう。母親は、浩二に死期が近いことを教えられ、静かに息を引き取るのでした。そして母親と浩二は連れ立って天国に向かって行って映画は終わります。

何と言っても、吉永小百合さんが死んでいく役と言うのは驚き。ある意味、これは禁じ手です。一人で静かに死んでいくというだけで、涙ものとしかいいようがない。

でも、最後で婚約した町子を祝福したにもかかわらず、母親は「なんであの子だけが幸せになるの」と思わず本音を言ってしまうところは、「父と暮らせば」で生き残った娘の親友の母親が「なんであなたは生き残ったのか」と責めるところと同じ。

でも、こちらで、そんなことを言ってはいけないということはわかっているというのは、「父の暮らせば」の娘に対してのものかもしれません。

原爆の直接的な悲劇というよりは、戦争そのものが家族を引き裂いていくことがメインのテーマになっているように思いますが、中途半端な登場人物たちの喋る長崎弁が気になります。

また、浩二の幽霊の登場の仕方や、最後の二人で天国に旅立つシーンのベタな演出は好き嫌いが別れるところだと思います。この辺りは、ある意味「昭和的」なところ。

総合的に2作品を比べてみると、映画的には「母」が良くできていて、吉永・二宮という二人の「アイドル」の登場で、ファンタジー色が強まりました。しかし、戦争の悲劇を伝える力は「父」の方に圧倒的に軍配が上がるように思いますし、舞台劇の制約の中で映画的な処理に工夫を凝らしている点も高く評価できると思いました。

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