2019年2月13日水曜日

リアル~完全な首長竜の日 (2013)

ホラー映画を中心に活躍し、コアなファンが多い黒澤清監督による作品。乾緑郎によるSF小説で、第9回「このミステリーがすごい!」大賞の大賞受賞作である「完全なる首長竜の日」を原作としていますが、主だった設定を引き継ぎながらもほぼ別の話というくらい改変しているらしい。

メインのモチーフは、米映画「インセプション(2010)」で注目されたアイデアで「他人の意識の中に入り込み、仮想現実空間で対話する」というもの。世界レベルのVFXをうまく使いながら、主演の綾瀬はるかと佐藤健の二人芝居を中心に進行するストーリーは難解で、個人の感じ方によって映画を受け入れられるかどうかずいぶん違ってくると思います。

冒頭、人気漫画家として活躍する和淳美(綾瀬はるか)は、自宅のマンションで幼馴染で恋人の藤田浩一(佐藤健)と食事をしています。淳美は「昔からずっと一緒だったみたい」と言い、浩一は「これからもそうだよ」と答えます。

1年後、浩一は先端病院で淳美の心の中に入り込む「センシング」を行うことになります。1年前に自殺未遂を起こしずっと意識が戻らないため、和美の意識の中に潜入し自殺の原因を確かめ何とか回復させることが目的。

意識の中で淳美は、締め切りに追われて漫画を描き続けており、浩一に「こどものときに渡した首長竜の絵を探してほしい」と頼みます。何度かのセンシングにより、和美の潜在意識の中でみた光景が、しだいに浩一の現実の中に混入し始めてきます。

ある日、何と驚いたことに淳美からセンシングを依頼さてきたという連絡を受け、浩一は病院に急ぎます。この中で、絵が見つからないことを伝えさらに混乱を深くした浩一はマンションに戻って、首長竜の絵を自ら書きはじめます。

そこへ淳美が部屋に入ってきて、「やっと会えたね。絵が描けるようになったね」と言います。実は、自殺未遂をして昏睡状態が続いている漫画家は浩一の方で、センシングで意識の中に入ってくるのは淳美だったのです。

自殺未遂は単なる事故だったことがわかりますが、浩一の心の中にはかつて自分をいじめてくる友人が海で死んだとき、それを見捨てて逃げたことが深くトラウマになっていました。その友人を、首長竜の絵に託して封印していたのです。

友人は浩一を死の世界に連れて行こうとしたため、現実の浩一は脳死状態に陥ります。淳美は最後のセンシングを試み、浩一の意識に入ると、必死に浩一を呼び止めるのでした。それに怒った友人は首長竜になり二人を襲って来ます。

何とか首長竜の怒りを鎮め、浩一は「昔からずっと一緒だったみたい」と言い、淳美は「これからもそうだよ」と答えます。現実の浩一も回復に向かい、ついにゆっくりと目を開けるのでした。

この映画では、前半と後半が鏡面構造のように展開します。仮想現実の映画だと、その境界が見ていてよくわからないことが多いのですが、この話ではセンシングのオンとオフがわかりやすく、しだいに混乱していく現実というのも受け入れやすい。

ただ、そのことをうまく利用して、前半の浩一だけの想像の世界を本当のようにうまく「だます」ことに成功しています。そのために、後半の「真実」の話へ違和感なく突入していけるのです。

前半、浩一が車を運転するシーンで、車の外の景色をあきらかにスクリーンプロセスによっ映しています。CGなどが活躍する前の手法で、実際に演じている後ろに風景の映画を映して一緒に撮影するというもの。そのくらいの予算をけちるはずがないので、これはいったい何だろうと思わせます。医者の怪しげな行動も不思議。これらのすべてが、浩一の意識下の仮想現実であることを暗に匂わせていたわけです。

一度見ただけでは、なかなか理解しにくい映画ですが、演技力のしっかりした二人の若手俳優によって、VFXだけに頼らない見ごたえのある作品に仕上がっていると思いました。