2020年2月19日水曜日

若杉弘 都響 / Mahler Complete Symphonies (1988-1991)

日本の唯一の純国産全集は、たった一つだけ。それが若杉弘指揮、東京都交響楽団の演奏です。おそらく、バブル期だから完成できたもので、今後はもう純国産で全集というのは商業ベースでの登場は期待できません。

若杉弘(Hiroshi Wakasugi 1935-2009)は小澤征爾と同い年で、声楽出身で小澤と同じく斉藤秀雄に指揮法を師事しました。東京響、読売響、N響を経て1977年にケルン放送響の首席となり、ドイツ語圏の有名なオケにたびたび客演して名を上げました。

1986年に東京都交響楽団の音楽監督・首席指揮者を務めるかたわら、チューリヒ・トーンハレ管の首席としても活躍しました。

マーラーの全集は、サントリーホールの開場10周年を記念したチクルスで、1988年から1991年までの正味3年間に新ヴィーン楽派との組み合わせのプログラムとして企画されライブ収録されたものです。

1988年 第5番
1989年 第6番、第7番、第1番
1990年
第2番 佐藤しのぶ、伊原直子
第3番 伊原直子
第4番 豊田喜代美
1991年
第8番 佐藤しのぶ、渡辺美佐子、大倉由紀枝、伊原直子、大橋ゆり、林誠、勝部太、高橋啓三
第9番、第10番(アダージョ)、大地の歌 田代誠、伊原直子

カタカナが無いことにある意味感動します。よくぞ、日本人だけでやれました。それだけで拍手喝采です。佐藤しのぶさんは、昨年亡くなったのは一般のニュースでも流れました。

若杉のマーラーは他に2枚のCDが残されています。
1983年 第9番 ケルン放送響
1986年 第1番 シュターツカペレ・ドレスデン

全集のポイントの最初は、第1番。第2楽章に「花の章」を入れ込んでの演奏は、交響曲第1番と呼ぶより、その原型にあたる交響詩「巨人」に近いもの。ただし、作曲家自身が破棄したアイディアを採用することには賛否両論、と言うより否定的な意見の方が多いと言わざるをえない。

そしてもう一つは、第2番。これも第1楽章を、原型である「葬礼」に入れ替えての演奏。「花の章」にしても「葬礼」にしても、あくまでも参考としておまけに付加するのは良いとして(例として小澤の1977年の第1番がある)、完成楽譜が無い形のものは疑問が残ります。

これらを除けば、いずれも一定以上の水準を保った演奏だと思います。オーケストラが下手という評価をする人がいますが、それほど気になるようなミスは無いと思いますけどね。

都響は、この後ベルティーニ、インバルらともマーラーを演奏することになります。日本でマーラー演奏に関しては、最も実績を残すオケに成長しています。

録音に関しては、よく言われている独唱が聴きずらい(特に第8番)ことは確かにその通りですが、ライブ収録であることもあり、しょうがないとあきらめることができる範囲です。それでも、伊原の歌唱はさすがに貫禄があり素晴らしい。

箱入りのセットはかなりプレミアがついていますが、バラだとそれぞれ1000円程度で入手できます。日本のマーラーを語る上では、はずせないセットであることは間違いない。

それにしても、この当時の日本のクラシック・コンサートに詰めかけた聴衆は、まるで先を争うかのように終わったとたん「ブラボー」を叫ぶのは本当にうんざりします。ほとんどの曲で、もしかしたら同じ人かと思うような叫びが入っているのが残念過ぎる。