2020年11月28日土曜日

ジョーズ (1975)

スティーブン・スピルバーグの名を世界知中に知らしめたこの作品は、撮影されたのは1974年で、スピルバーグは28才でした。

パニック映画、ホラー映画、海洋冒険映画などのいろいろなジャンルの中で、それまでの映画の記録を一気に塗り替える大ヒットとなりました。この映画の後、サメ物の映画が山ほど作られ、さらに動物全般に襲われるものまで数えきれないほどのパチモンが作られています。

ピーター・ベンチリーの書いた小説の映画化権をすぐさま獲得したユニバーサルは、当初考えていた監督に断られたため、急遽スピルバーグに白羽の矢が立ちました。スピルバーグは、最初の時点で「激突!」との類似点に気が付いており、撮影の途中でもシナリオを追加・変更しながら、見ているものに様々な形で恐怖を体験させました。

アミティというアメリカ東海岸の夏のバケーションに絶好の島が舞台。主な登場人物は、海が得意とは言えない赴任したばかりの警察署長ブロディ(ロイ・シャイダー)、鮫の専門家として協力する海洋学者フーパー(リチャード・ドレイファス)、そして土地の荒くれ漁師で鮫に対して異常なほどの憎しみを持つクイント(ロバート・ショウ)の三人。

鮫の襲撃を中心にストーリーを追いかけてみます。

始まってすぐに不穏な雰囲気が漂います。夜の浜辺でキャンプを楽しんでいた女性が、海に入り泳いでいると、いきなり何かに引っ張られ、海の中へ引きづり込まれてしまいます。翌日、浜辺に死体の一部が打ち上げられました。

島は海開きを前に、市長が率先してこの事件を公にしない。しかし、すぐに今度は昼間、ビーチで遊んでいた少年が襲われます。派手に血潮が海水を染めますが、ここでも何も姿を見せません。死んだ少年の母親が、サメ退治に懸賞金をかけたことで、事件は島中の人々の知れるところになります。
 
夜に桟橋から鎖で縛った肉塊を投げ入れて釣り上げようとした漁師は、桟橋ごと崩れて海に落ちます。沖に向かっていた壊れた桟橋が反転してこっちに向かって来るということが意味するのは恐怖でしかありません。

懸賞金目当てに仕留められた大きなサメにより、市長は一件落着を宣言しますが、フーバーは口の大きさが違うと主張し、ブロディと共に腹の中を切り開きます。そして、人喰いザメであることを証明するものは出てきませんでした。

そこで二人は海に探索に出ると、破壊されたベテラン漁師のボートと彼の死体を発見します。ここでも、鮫の影もありませんが、突然画面に登場する死体で驚かせます。

そして、映画のほぼ中盤、海開きの日が来ますが、海水浴客の中に鮫の背びれが出現し海岸はパニックになるんですが、これはこどものいたずらでホッとさせます。しかし、その直後、本物の鮫が出現し、またもや犠牲者が出てしまうのです。ここに来て、やっと鮫の頭部が見えて、見えなかった恐怖が現実のものとしてしっかり登場するのです。

ここから、いよいよクイント、ブロディ、フーバーの三人がクイントの小さな漁船に乗り込み本格的に鮫との対決が始まります。最初に登場するのは、プロディが撒き餌をしている時。画面右下のブロディが、左上に映っている海面に背を向けて餌を放り投げているところに、にゅっと顔を出します。もう、絶妙のタイミング。

これ以降、鮫はどんどん船に襲い掛かりますが、鮫との対決の間の小休止で、夜空に流れ星が映ります。すでに「未知との遭遇」の構想を考えていたスピルバーグの遊びのようですが、決戦を前にちょっと心が和む作りになっています。

クイントが樽をつないだ銛を何回打ち込んでも、鮫はものともしません。ついに船は浸水しはじめたため、フーバーが檻に入って毒薬を至近距離で打ち込むことにしますが、檻も簡単に壊され失敗、フーバーは間一髪海底に逃げのびます。

鮫は船尾に乗り上げて巨大な口を開くと、クイントはその中に滑り落ちていき絶命します。ブロディはダイビング用の圧縮空気のボンベを口の中に放り込み、次に襲ってきた時にこのボンベをライフルで打ち抜き、鮫の頭部と共に爆発させたのでした。

恐怖の対象である、鮫の攻撃はこのようにすべて違うパターン。前半は、得体のしれない何かがじわじわと怖さを増幅していきますが、合間でその緊張をうまくほぐしていくことで、次の恐怖・驚愕をより大きな物にしていく演出は実に見事。

実際に本物の鮫を撮影した映像と、機械仕掛けの鮫による攻撃シーンを組み合わせ、さらにミニチュアを使って鮫の巨大さを示したりと、CGの無い時代にあの手この手で作り上げた手腕はさすがです。

とは言え、実は巨大鮫の模型が壊れたため、制作中止の危機もありましたが、当初よりも姿を見せずに鮫の視点からのショットを増やしたことが怪我の功名につながったらしい。また、これもまた有名になったジョン・ウィリアムスの、何かが迫ってくるような不気味な音楽も、見事な効果を演出しています。

スピルバーグ自身が、この映画で学んだことの一番大きなことは、自分で制作・監督・編集などの権利を管理する必要に気が付いたということと、海での仕事はこりごりということでした。