2021年1月30日土曜日

大統領の陰謀 (1976)

1970年代初め、時のアメリカ合衆国大統領はリチャード・ニクソン。ニクソン政権は、ペンタゴン機密文書漏洩により、メディア、特にワシントン・ポストとの確執を抱えていました。

そして、1972年6月17日、ニクソンの所属する共和党に対抗する民主党本部があるウォーターゲートビルに不法侵入者がいることに気がついた警備員の通報により、5人の男が逮捕されたのです。これが、アメリカ史上、初めて任期途中で大統領を辞任に追い込んだウォーターゲート事件の発端でした。

2018年のスピルバーグ作品「ペンタゴン・ペーパース」では、まさに警備員が不法侵入者に気がつくところで映画が終わっています。そして、そのシーンは、この映画の始まりとほとんど同じ構図になっており、間違いなく意図的につながるようにしています。

撮影はおそらく1975年ですから、1974年8月のニクソン辞任直後から映画化の企画は始まっていると思われます。ワシントンポストの二人の記者、カール・バーンスタインとボブ・ウッドワードは不法侵入事件には大きな陰謀があることを嗅ぎ付け、この大統領にまで疑惑が及んだ事件の取材を続け記事を書きました。彼らが著した「大統領の陰謀 ニクソンを追いつめた300日」を映画の原作としています。

監督は「アラバマ物語」などのアラン・J・パクラ。派手なアクションがあるわけではない、どちらかと言うと地味な政治ドラマですが、手堅くまとめています。ただ、事件関係者の登場人物が多く、事件の概要が中心で、主役になる二人の記者の人間性などの描き込みは物足りない。

外国人としては、あらかじめウォーターゲート事件の一通りの知識を整理しておかないと、ちょっと辛いかもしれません。映画はほぼ事件をなぞっていき、登場人物も実名ですので、ストーリー紹介は省略します。二人の記者は、ニクソン大統領の再選委員会が中心になって、さまざまな違法行為をしていたことを記事にしますが、裁判ではあっさりと証言を翻され、政府機関全体が加担していることが示されます。

最後は、それでも記事を書き続けていくうちに、しだいに事実が明るみに出てくることを示して終了します。さすがに2時間18分の映画では、本当の意味で「大統領の陰謀」を暴き切るには時間が不足です。本来は、パート2、パート3くらいまであって、ニクソンがホワイトハウスを去るところまでを描いて欲しかったところ。

とは言え、やはり二人の記者を演じたもダスティン・ホフマンとロバート・レッドフォードの二人の演技が良い。二人の上司に、ジャック・ウォーデンとマーティン・バルサムという渋い名脇役を配し、「ペンタゴン」でトム・ハンクスが演じた編集主幹ブラッドリーはジェイソン・ロバーズ、ウッドワードの極秘の内部情報提供者「ディープ・スロート」はハル・ホルプロックです。

アカデミー賞では8部門にノミネートされ、助演男優賞(ジェイソン・ロバーズ)、脚色賞、録音賞、美術賞を獲得しました。後期アメリカン・ニュー・シネマの範疇に含まれる作品として、一度は見て損はありません。

ちなみにですが、ディープ・スロートの正体は長らく秘密にされていましたが、2005年になって当時のFBI副長官であったマーク・フェルトであったことが公表されました。ディープスロート本人に焦点を当てた「ザ・シークレット・マン」が2017年に制作されています。