2021年3月25日木曜日

ムーンライズ・キングダム (2012)

これは、まさにウェス・アンダーソン監督による「小さな恋のメロディ(1971)」みたいなもの。

「小さな恋のメロディ」は、劇場でも見ましたし、その後テレビでも見ました。少年と少女が幼い知恵を絞って、追いかけてくる大人たちから逃げて駆け落ちする話。最後はトロッコに乗って、たぶん自由な世界に向かっていくところで終わっていました。ビージーズの挿入歌も素晴らしく、サントラ盤も購入した記憶があります。

屋内のシーンについては、もう完成されたアンダーソン・ワールドは安心して見ることができます。カラフルな色彩使いと左右対称の完璧な構図はいつも通り。そこを横への平行移動と、回転するカメラがスムーズに場面を見せてくれます。

今作の問題は屋外と、暗いところでのシーンが多いこと。意識的にセットを構成することができにくいし、そもそも色彩も上がりません。今までの作品よりカット割りが多い感じはしますが、それでも人物を真横からとらえたり、自然の風景をうまく利用した対照的構成はこだわり抜いている。

舞台設定は1965年。ニューイングランド沖にあるニュー・ペンザンス島(架空の島)。両親がいない12歳のサム・シャカスキー (ジャレッド・ギルマン)は、里親から出されてこの島のボーイスカウトのキャンプで共同生活をしていましたが、仲間からは変人扱いされ嫌われ者でした。

島に両親(ビル・マーレイ、フランシス・マクドーマンド)と3人の弟と住む12歳のスージー・ビショップ(カーラ・ヘイワード)もまた、うるさく自分を認めてくれない親や大人たちに不満を抱いて本の世界に没頭していました。

たまたま知り合った二人は、1年間にわたって文通を続け、ついて駆け落ちを決行します。とは言っても、島という限られた範囲での行動は限界があるので、このあたりは微笑ましい。

島でただ一人の警官であるシャープ警部(ブルース・ウィリス)やボーイスカウトのウォード隊長(エドワード・ノートン)は、二人を探し回り、やっとのことで島の知られていない入り江でキャンプをしているところを発見しました。

二人は離れ離れになりますが、ボーイスカウトの仲間たちは、サムに対して取ってきた態度を反省し、二人を逃がすことに成功します。しかし、その頃島には大型のハリケーンが近づいていました。

毎度おなじみのビル・マーレイ、二人の結婚を認める臨時神父のちょい役でジェイソン。シュワルツマンといったお馴染みが登場。スージーのカーラ・ヘイワード、隊長のエドワード・ノートン、司令官のハーヴェイ・カイテル、福祉局員のティルダ・スウィントン、ナレーション役のボブ・バラバンらも新しくアンダーソン一座に加わることになります。

主人公の子役二人は初めての映画出演ですが、何しろ怖くない警官を演じるブルース・ウィリスを含めて、これだけ名優で脇を固めていることで隙の無い作品を作り上げています。

スージーが持ち歩くトランクの中には、架空の小説の本が6冊。いずれも、半分本気で話が作ってあるあたりは、小道具にこだわるアンダーソンの遊び心がよく表れています。またスージーはいつも双眼鏡を使いますが、これもこだわりの一つ。遠くは見えても、近くは意外と見えていないということ。サムは近眼で眼鏡をかけているので、こっちは逆に近くは見えても遠くは見えない。

この二人の恋がいつまで続くのかはわかりませんが、こどもの時って誰しもがこれと同じとまではいかないにしても、何か冒険に出たくなることがあったはず。大人になると守りに入って、冒険はできなくなってしまう。この映画は、二人を通じて見るものに何かを思い出させてくれて、温かい気持ちになれるのです。