2021年12月12日日曜日

クワイエット・プレイス (2018)

SFホラーというジャンルで、最近の成功した映画といえばこれ。エイリアンが次々と人類を餌食にする絶望的な状況を描いているのですが、とにかく極めて特異な設定が目新しい。エイリアンは音に反応して襲って来るので、生存者は極力音を立てない。当然、話すことができないため、映画の中で声を出しての台詞がほとんどありません。

監督をしたジョン・クラシンスキーは、俳優でありここでも中心となるリー・アボットを演じています。もともと彼が持っていた原案に妻の妊娠をきっかけに「こどもを守る」というポイントを押し出した脚本を書いたところ、妻の勧めもあって自身が監督を務めることになりました。その妻というのが、イヴリン・アボットを演じたエミリー・ブラントです。

およそ3か月前から始まった宇宙からの怪物の襲撃により、街は人がいなくなり荒れ果てていました。エイリアンは視覚はありませんが、音に対しては鋭敏に反応するのです。声を出せない閉塞感と恐怖の中で、アボット一家には長女リーガン(ミリセント・シモンズ)、長男マーカス(ノア・ジュープ)、次男ボー(ケイド・ウッドワード)の3人のこどもがいます。リーガンが耳が不自由なため、彼らは手話での会話ができました。一家は街で物資を調達した帰りに、音を立ててしまったボーが殺されてしまいます。

1年後。イヴリンは妊娠しており、リーガンはボーが音を立てたのは自分に責任があると考え、孤立感を深めていました。リーはマーカスに魚の捕り方を教えるため川に行き、より大きな音がする滝の近くで、久しぶりに会話をします。マーカスは、もっと姉さんの気持ちを察してあげてと言います。

陣痛が始まってしまったイヴリンは、あわてて釘を踏んでしまい声をだしてしまう。すぐさまエイリアンが侵入してきて、音のもとを物色し始めるのです。戻ってきたリーは異常を察知し、マーカスに花火をあげて音を立てるように指示します。

イヴリンが耐え切れなくなって声を出した瞬間、花火の轟音によってエイリアンは飛び出していき、イヴリンは男の子を生み落とします。しかし、エイリアンは執拗に獲物を探し続けるのでした。

クラシンスキーは初監督とはいえ、台詞が無いという特殊な環境が自然と恐怖を醸し出すことに助けられ、比較的うまく見ている者を怖がらせることに成功したようです。人が襲われる直接的なシーンは動きが早く、いわゆる血が飛び散るような場面はありませんので、音を出せない心理的な怖さと、じわじわと音を求めて獲物を探すエイリアンの迫って来る恐怖で盛り上げます。

出演者はほぼ家族だけですし、物語の性質上、音楽もほとんどありません。逆にたまに聞こえる効果音、それも普通に聴くような音がサスペンスになります。襲って来るエイリアンは、実際の人物が動いたモーション・キャプチャーにCG合成したもののようで、業界トップのILMが担当しています。比較的低予算の映画と言えそうですが、正味85分の中に程よくまとめられている印象です。

リーガンの使う補聴器がヒントになりエイリアンの弱点に気が付くのですが、その過程にも無理が無くうまく処理されています。親として「こども守る」というテーマからすると、どうがんばっても音が出ないはずがない出産は、スリルを増幅する状況としてうまく機能している。

ただし、この状況下で妊娠・出産すれば命取りになる可能性が高いのに、こどもを作ろうというのは現実的にかなり無謀な感じがします。こども一人失ったからとは言え、わざわざリスクを最大に侵すのは無理があるように思いました。

終わり方は一難去ってまた一難。彼らの未来への不安を残す終わり方です。当然、映画の高評価を確認して、すぐさま続編が作られました。