2025年7月19日土曜日

ビブリア古書堂の事件手帖 (2018)

三上延によるミステリが原作ですが、2013年に剛力彩芽主演でテレビ・ドラマとして放送されています。実は、ちょっと魅力的なタイトルだったので、リアルタイムに第一回を見ましたが、当時は女優さんに魅力が感じられなかったため(ゴメンナサイ)、2回目以降は見ませんでした。原作を知っている人からも、あまりに主人公のイメージが違い過ぎると批評されていたと思います。

映画化では、黒木華が主人公を演じて、今回は小説から浮かび上がってくるイメージにかなり近い形に寄せているようです。脚本は「3月のライオン」の渡部亮平、監督は「しあわせのパン」の三島有紀子です。

北鎌倉でビブリア古書堂という古本屋を営んでいるのは、祖父から店を受け継いだ篠川栞子(黒木華)で、ふだんは人と話すのが不得意ですが、本に関する古今東西の知識は圧倒的で、本の事となると人が変わったように饒舌になります。数か月前に路地の階段で転落し、今は松葉杖を使っています。

五浦大輔(野村周平)は、昔大好きな祖母が大切にしていた夏目漱石全集を触れたことで祖母から強く叱られ、以来かつじを見ると気分が悪くなり本がまともに読めなくなっていました。その祖母が亡くなり、あらためて遺品の夏目漱石全集をみていたところ、「それから」の最後に「夏目漱石 田中嘉雄様」というサインを見つけます。

大輔は、漱石の直筆か鑑定を栞子に依頼します。栞子は、漱石のサインは偽物であり、大輔がかつて祖母に強く叱られたこと、大輔という名(「それから」の主人公は代助)は祖母が付けたこと、「それから」が禁断の恋愛をテーマにしているなどから、祖母の絹子(夏帆)が夫いる身で小説家志望の田中嘉雄(東出昌大)と不倫に走ったことを推察するのです。

就活中だった大輔はビブリア古書堂でバイトをすることにして、自分で読めない「それから」を栞子に代読してもらうことにします。しばらくして、実は栞子の怪我は、栞子が所有している貴重な太宰治の初めての作品集「晩年」を狙う大庭と名乗る人物によって階段を突き落とされたものであることがわかります。

栞子と大輔が古書競売に出かけると、本のことに詳しい稲垣(成田凌)と知り合いになります。栞子は本の話題が通じることで、いつになく饒舌に会話をしているので、大輔はやや面白くない。稲垣と大輔は大庭という謎の人物から栞子を守ることにして、「晩年」初版本は大輔は預かることにします。しかし、その夜、大輔は襲われて「晩年」を奪われてしまうのでした。

原作をすでに読破していると理解できるのかもしれませんが、「晩年」に執着する大庭の動機がよく理解できない。いちいち出てくる60年ほど前の絹子と田中嘉雄のシーンが多すぎて、どちらのストーリーがメインなのかよくわからなくなります。

古書に残された様々な痕跡から、これまでの持ち主の人生を推理するという発想は独創的で素晴らしいのですが、それは原作の手柄です。映画としてはその部分についてはうまく表現できていると思いますし、黒木華の演技によるものが大きいように思いますが、野村周平はちょっと柔らかすぎるかもしれません。

成田凌は当時は売り出し中で注目される若手という感じでしたが、積極的に近づいてきた稲垣が怪しいことはかなり露骨に匂わせすぎなので、結末の驚きはかなり控えめになってしまいます(というか、ほとんどありません)。どうせキャラがネタバレするなら、むしろ稲垣の視点から描くというような思い切った改変もあっても良かったかもしれません。