そもそも舞台で行われる俳優の生の演技を楽しむのが演劇ですから、それを録画メディアで見るなんてことは邪道であることはわかっています。だからと言って、劇場にせっせと足を運ぶというのもなかなか難しいし、人気のある劇団の場合はチケットも入手困難だったりする。
舞台での演技というのは、おそらく隅々の観客にわかってもらうために、声は張りがちで、動きも大きくなりがちだと思います。そうなると自然体から遠く離れて「嘘っぽく」なるわけで、それを不自然に感じさせないようにできるかどうかは俳優の技量にかかっているのかもしれません。
メディアで観劇する場合は、主として台詞を話している俳優を中心として編集がされていることが多く、舞台の周辺の出来事は見れないことがあるかもしれません。しかし、目の動きや手の仕草など意外に細かい演技をしてたりするところがはっきりわかるという利点があります。一方で、俳優の方々には粗が見えてしまうというマイナス面もあるかもしれません。
いずれにしても、テレビドラマや映画と違って、やり直しのきかない一発勝負の緊張感が舞台の醍醐味であり、それはメディアを通しても伝わってきます。ですから、本流ではないかもしれませんが、演劇の楽しみ方としてメディアを利用することも否定されることではないと思っています。
さて、北海道出身の演劇集団であるTEAM NACSは、道内で人気を高めた後に東京に進出し成功をおさめ、全国的な人気を誇るグループになりました。もともとが大学の演劇研究会の仲間で結成され、時に外部の助演を頼る場合もありますが、一貫してメンバーは固定した五人だけというのは珍しい。一人一役の演目もありますが、人数が多いとは言えないのでしばしば一人で複数の役を演じ分けるところも特徴の一つになっています。
北海道から東京、そして全国に飛び出して。アマチュアの学生演劇レベルから着実にプロフェッショナルとしてレベルアップしたTEAM NACSでしたが、この作品はさらに演技力・表現力が格段に上がっています。これは、着実に全国区で知られるようになった各人が、個々のドラマ出演などで着実に腕を磨いた成果と言えるかもしれません。
タイトルの「HONOR」は英語で「名誉」という意味。架空の恵織(エオリ)村の森の中に、何百年も前から村人を神木として見守り続けた白樺の大木がオナーの木です。この木を巡って、一人の老人の強い思いと、それを実現させようとするこどもたちの70年間という長い年月を駆け抜けるリーダーの森崎博之脚本・演出によるストーリーです。
戦前の恵織村で、村祭りで披露する和太鼓仲間の五作(安田顕)、竜太(森崎博之)、倫太郎(大泉洋)、建造(戸次重幸)、そして紅一点のチエ(音尾琢真)でしたが、五作と竜太はチエに秘めた恋心がありましたが、二人とも徴兵され竜太は戦死、五作は足を不自由にしながらも何とか帰国します。
一緒に太鼓をたたく約束をしていたチエは不慮の事故の火災によって、五作に再会する直前に亡くなってしまいます。悲しみにくれる五作は亡くなった人々の魂が宿ると言われているオナーの木から離れようとしませんでしたが、村人はオナーの木が縁起が悪いと火をつけて焼き捨てるのでした。
それから数十年の時が流れ、恵織村の幼馴染のこどもたち、花男(戸次)、寺の跡取り秀一(大泉)、建造の孫で花火師になることを夢見る光太(音尾)、そして倫太郎の孫でミュージシャンを目指したい高志(森崎)がいました。花男は五作から太鼓を習っていたのですが、五作は村人から変わり者扱いされていました。
中学生を卒業して、秀一を残して他の3人は都会に出て行ってしまいます。成人した彼らは、秀一からの五作の健康状態の悪化の知らせによって再び村に集まってくるのでした。4人は五作の想いを知り、五作の望みを実現してあげようと四苦八苦するのでした。
当然、そこそこにナックスらしいユーモアが散りばめられた笑いどころは用意してありますが、真のテーマは故郷に込められた想いにあります。ハート・ウォーミングな展開は、実演ではたった一幕で結構時代が行ったり来たりするので複雑な構成になっています。一人で複数の役をこなすナックスのステージですが、それでもちゃんとそれぞれのキャラクターがしっかりしていて、さすがだなと思いました。
最初と最後のは5人による和太鼓の実演にも力が入っていますし、ナックスファンからも最も好きな作品との評価も数多くされている名作です。