昭和のはじめ、夢を抱いて多くの日本人が外国に出ていきました。その中で、カナダのバンクーバーには日本人街が作られ、多くの日本人が働いていたのです。彼らは、低賃金で自分たちの仕事を取られたと考える多くのカナダ人から、虐げられ苦しい生活を強いられていました。
彼らの気持ちを代弁し、勇気を与え、そしてカナダ人にもその存在を認めさせたのが、アサヒという野球チームでした。この映画は、アサヒの実話を元にして、フジテレビが開局55周年記念として映画化した物で、脚本は最新作「国宝」であらためて注目される奥寺佐渡子、監督は「舟を編む」の石井裕也です。
レジー笠原(妻夫木聡)は、父親の清二(佐藤浩市)、母親の和子(石田えり)、そして妹のエミー(高畑充希)の4人家族でしたが、清二は出稼ぎばかりで家に寄り付かず、自分は外国で成功していると思われたくて稼ぎは全部日本に送ってしまうのでした。
レジーは日本人だけの野球チーム「アサヒ」に入ってショートを守っていましたが、体格差があるカナダ人相手にまったく歯が立たない。仲間には、ピッチャーのロイ永西(亀梨和也)、キャッチャーのトム三宅(上地雄輔)、セカンドのケイ北本(勝地涼)、サードのフランク野島(池松壮亮)らがいました。
何とか勝つにはどうすればいいのか考え込むレジーは、ある日の試合でセーフティバントを試みます。巨体のカナダ人の意表を突くこの作戦は成功し、さらに盗塁も決め、ついにホームベースに戻ってくることができたのです。試合に負けたものの、点を取ったことで町の人々も大いに喜びます。
そして、機動力を生かした野球によって初勝利をつかみ、カナダ人も頭脳的な戦略を用いるアサヒノの戦いを感心するようになるのです。審判による明らかにアサヒに不公平な判定に対しても、カナダ人から批判の声が聞かれるようになりました。
しかし、レジーが頭にデッドボールを受けたことで、ロイは相手ピッチャーの元に走り寄ります。これが両軍入り乱れての乱闘になってしまい、アサヒだけが出場停止になってしまうのでした。
妻夫木以外は野球経験者で固めていますので、さぞかし手に汗握る試合シーンがあるかと思うと意外と大したことはありません。実際は迫害されている日系人というのがテーマですから、カナダに溶け込めず家族との関わり方が下手糞な父親とか、理不審な扱いを受けても何とかカナダという国を好きでいたいと願う妹、そしてさまざまな忍耐を強いられている町の人々などのある種群像劇的な雰囲気でストーリーは進みます。
主役の妻夫木、助演の亀梨などもいいんですが、実は最も大事なところを任されているのは高畑充希です。出場停止処分がカナダ人からのクレームによって解除され、再び士気を高める集まりで、すべての町の日系人の気持ちを代弁する長いシーンは、一番の見所になっていると思います。
バンクーバーでのロケもされていますが、最も素晴らしいのは国内で組まれた日本人街の広大なセットです。当然、CGなども使われているとは思いますが、役者が走り回る様子は相当な面積で本当に町一つを作り上げたのかと思ってしまいます。
内容としては日系人は虐げられる被害者という立ち位置ばかりなので、ちょっと同法に味方のし過ぎではないかと感じる部分もありますが、移民として現地の人々と真に心を通じさせるところまで描くには132分の尺では厳しいようです。そういう意味で、ちょっと物足りない印象を持ってしまいました。