2025年10月13日月曜日

累 (2018)

原作は松浦だるまによるマンガ「累(かさね)」で、「ストロベリーナイト」の監督・佐藤佑市と脚本・黒岩勉が再びタッグを組み、土屋太鳳と芳根京子のW主演で映画化されました。

唇から頬にかけて醜い傷がある淵累(芳根京子)は、大女優と呼ばれた故・淵透世(檀れい)の娘で、母から「独りぼっちで。本当に辛い時はこれを使うように」と口紅を託されました。その口紅を塗って誰かとキスをすると、姿や声がそっくり12時間の間入れ替わることができるのです。

透世の十三回忌で羽生田(浅野忠信)に声をかけられた累は、羽生田がマネージメントしている美しい女優り丹沢ニナ(土屋太鳳)の舞台を見学しました。何故か口紅の秘密を知っている羽生田は、透世の才能を受け継いだ累に、体調に不安を抱え演技力に問題があるニナの代役を務めるように言うのです。

容姿のためにずっと劣等感を抱き続けてきた累でしたが、毎日9~21時はニナと入れ替わり芝居のオーディションに合格、ニナが以前から憧れていた演出家・烏合(横山裕)に認められるのです。初めは累のことを自分が成功するための踏み台と考えていたニナでしたが、しだいに累に対して嫉妬を感じるようになり、ついに累を追い出そうとします。

しかし、ニナは持病の発作を起こし5か月もの間眠り続けてしまい、その間に累が演じる「ニナ」は大成功して世間に広く知られるようになってしまうのでした。ニナが目覚めた時、二人の立場は逆転していました。実は、透世も口紅によって他人の顔を使い続けていました。羽生田は過去に透世のマネージャーだったので、そのことを知っており、累を第二の透世として世に送り出そうと考えていたのです。

ニナは累の実家を訪ね、累の生い立ちや母の秘密を知ります。踏み台にされているのは自分であることに気がついたニナでしたが、「偽物が本物を超える」と宣言した累はニナの唇を自由に使うため睡眠薬で眠らせ続けるのでした。

18世紀の歌舞伎作者として有名な四代目鶴屋南北が、現・茨城県常総市の累ヶ淵を舞台とした怨念の物語をもとに狂言を作り人気を博しました。醜い容姿の累が義父に殺され祟り続ける話ですが、江戸末期の落語家・三遊亭圓朝が「真景累ヶ淵」という長大な怪談話としてまとめ上げたものが有名です。

この映画はこれらの物語からモチーフをもらっていることは明らかですが、自己中心的で演技力不足の美貌の持ち主ニナと、確かな演技力があっても醜さからくる強い劣等感を絶えず抱いている累という対照的な二人の主人公の対立軸がテーマです。

土屋太鳳と芳根京子は、数年土屋の方が先輩ですが、ほぼ同世代で容姿や体形も比較的似ていて、人の入れ替わり物としては絶妙な配役だと思います。両者とも、真逆な心理状態を表現しなければならず、しだいに狂気に飲み込まれていくかなり難しい役所だと思いますが、芝居をするシーンは本物でも偽物でもニナで、どちらも土屋太鳳が演技をするので、より土屋の方が大変だったかもしれません。

いずれにしても、二人とも見事にこなしていてなかなか見応えがあります。芳根にとっては、演技力を知らしめる絶好の機会になったのかもしれません。浅野忠信の演じる羽生田は、いかにもという演技なんですが、やや強引過ぎてもう少し透世に対する想いを丁寧に描けていれば厚みが出たかもしれません。