2025年10月3日金曜日

もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう (2025)


自分が高校生だったのは1970年代のこと。おやおや、もう半世紀以上も昔の事になってしまいました。家は東京の渋谷。それも、明治通りと青山通りと表参道に囲まれた三角地帯の中。

そう言うと、さぞかし遊び慣れした高校生だろうと思うかもしれませんが、実際はそんなことはない。繁華街の真ん中にあるにもかかわらず、ごく普通の住宅地でしたから、むしろちょっと出歩くと流行に乗ってチャラチャラした人間ばかりがいて、地元民としてはものすごく嫌で反発した生活でした。

何かにつけて買い物とかで出かけるのは、当然渋谷。高校を卒業して、見事に浪人生活に突入し、ますます渋谷にいる時間が増えました。朝、代々木ゼミナールに行きます。真面目に講義に出ると夕方までかかるわけですが、そんな疲れることをするわけがない。昼頃には、もう飽きて渋谷まで歩きます。そこそこ運動になるので、悪いことじゃない。

渋谷駅から道玄坂を上がっていくと、右側に恋文横丁というのがあった。いわゆる百軒店なんですが、横丁の入口には、確かストリップ劇場があって、当然興味はあるわけですが、お金のない浪人生は入ったことが無い(嘘じゃない)。目的地はそのすぐ左隣のジャズ喫茶です。名前は・・・確かSWINGだったと思います。

ジャズ喫茶は、けっこうな音量でジャズのレコードで音楽を流す店。うまくもないコーヒー1杯200円くらいでしたか。リクエストをすると、レコードの片面、約20分くらいを聞かせてくれる。居心地の良い勉強部屋として、ほぼ毎日3~4時間は居続けて、そのうち数回はリクエストがかかる。

他にもハンガーにかかった衣料品を所狭しとひっかけてある店があって、そういう服は「ぶらさがり」と呼ばれていました。その奥には、さらに浪人生には無縁のラブホテルがあり、突き当りには何故かお稲荷さんもあるという、狭い路地なのにワンダーワールドでした。

そんな生活をしていた身としては、この秋の新ドラマの中で、三谷幸喜が演劇人を夢見ていた青春時代を投影した「もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう」は、直感的に注目せざるをえないタイトルでした。

難解な演出で劇団から総スカンをくらう久部三成(菅田将暉)は、ストリップショーとコントを行うWS劇場に紛れ込みます。コント作家の蓬莱省吾(神木隆之介)、ダンサーの倖田リカ(二階堂ふみ)、いざなぎダンカン(小池栄子)、ジャズ喫茶のマスターの風呂須太郎(小林薫)、横町の奥にある神社の巫女をしている江頭樹里(浜辺美波)らとの交流を描く群像劇となっているらしい。

とにかく出演者がゴージャス。他には市原隼人、戸塚純貴、アンミカ、秋元才加、菊地凛子、坂東弥十郎、井上順、野間口徹などなど・・・これも三谷人脈のすごいところなのかもしれません。

舞台は1984年ということなので、自分がこのドラマの舞台となる界隈にたむろしていたのは、もう少し前のことなんですが、視覚的にこの設定は脳裏に浮かばせることができました。で、早速ですが、10月1日にもうその第1回が放送されました。

実に三谷脚本らしいと言えば、誉め言葉でありその逆でもある。たぶん、いかにもという種々雑多な雰囲気は、かなり人を選ぶ可能性が高い。1回目を見て、続けて見ようと思う人と、もういいと考える人に真っ二つに別れそう。見続ける方を選んでも、ある程度の我慢が必要かもしれません。

1回目は主要登場人物の紹介でほぼ終わっている感じで、有名俳優が多すぎて誰を中心に見るか悩みそうです。もちろん、菅田将暉が主役なのは間違いないのですが、その他の人々の絡みが複雑です。

はっきり言って、この舞台となっている「八分坂」は、実際のモデルとなった百軒店をイメージできないとかなり辛いかもしれません。実際、イメージできる人はかなり限定的でしょうから、大多数の菅田ファン、二階堂ファン、神木ファン、浜辺ファンの方々はたぶんわからない。まったく未知の世界として興味を持ってくれることを祈るしかありませんね。