1966年7月29日、ボブ・ディランは自ら運転していたトライアンフのバイクの後輪がロックしたことで転倒しました。ディランが交通事故というニュースは、あっという間に世間に知れ渡りますが、中には死亡説まで飛び出すのです。実際は脊椎のヒビ程度のケガで命には別条はなかったのですが、秋のツアーをキャンセルして雲隠れしてしまうという伝説が生まれます。
実際には、ニューヨーク郊外のウッドストックの自宅で、ここまで休みらしい休みを取っていないディランは隠遁生活を送ることにしたのです。それまで何かととんがってきたディランは、妻子との田舎暮らしによって精神的な充足感を味わったことは間違いありません。
とは言え、音楽家としての仕事をまったく無視するわけにもいきません。マネージャーから曲作りを催促され、またそれらの著作権を取るためのテープ・レコーダーを渡されたディランは、翌年2月にHawksのメンバーを自宅に召集します。ディランの事故で仕事が無かった彼らはウッドストックに移り住んできて、早速ディランの自宅でセッションが開始されました。
ただ自宅では手狭だったので、近くに地下室のある家を借り、セッションの場は移動します。この家が外壁がピンク色だったため、通称「ビッグ・ピンク」と呼ばれるようになります。Hawksは、その後「The Band」と改名して人気を博すのですが、彼らのデヴュー・アルバムのタイトルは「Music from Big Pink」でした。
外界からシャットアウトされたプライーベートな空間で、彼らは半分自分たちの楽しみのために、自作曲だけでなくお気に入りの曲などをビッグ・ピンクの地下室で演奏し続けました。南部を放浪していたレヴォン・ヘルムも戻ってきて、これらのセッションは10月まで続きます。
マネージャーは膨大なツアーのキャンセル費用などのために、ここで録音された新曲のデモ音源をまとめて、他のアーティストに使用権を売り込むことにします。こうして作られたごく少数のレコードが業界外に流出し、1969年に「Great White Wonder」というタイトルで非公式に発売されてしまいます。これが、世界初の海賊盤レコードと言われているもので、真っ白のジャケットにスタンプで押したタイトルだけが表記されているだけで、アーティスト名はどこにも記載されていませんでした。
こうなると、公式も黙ってこれらの音源を放置していくわけにはいきません。本来レコードとして正式に売り出すつもりのないプライベート録音ですから、音質もバラバラ、楽器間のバランスも一定ではなく、演奏者たちの会話なども入っていたりというしろものです。コロンビア・レコードは、その場に居合わせた当事者であるロビー・ロバートソンを呼び寄せ、商品に出来るだけの編集を加えます。この過程で、実は多くのオーバー・ダビングが追加されていました。
全24曲のうち、8曲はTHE BANDだけの演奏が含まれましたが、1975年7月に2枚組レコードが「地下室」というタイトルで発売されると、ディランの謎の空白期間を埋める音源であり、さらに気負わず楽しく演奏する良質な内容が高く評価されました。
初めて聞くと、これが本当にプライベート録音かと思うほどですが、実は幾多の未編集の海賊盤が出回っていて、それらは当然だろうという音質です。逆に大企業のリマスター力に関心すると同時に、よそ行きに作り替えられた本当の姿とは違うところに疑問も生まれてきます。
そのような声は当然コロンビア・レコードにも届いているわけで、2014年についに「The Bootleg Series Vol.11」として生の(raw)音源を集大成したボックスが登場しました。ロバートソンが行ったオーバーダビングを排除して、ビッグ・ピンクの地下室で生まれた音だけを集めたものですが、残念ながらTHE BAND単独の演奏は除かれています。
とは言っても、本当の「生音源」は海賊盤で知れ渡っているように聞き苦しい物も含まれているので、公式盤として最低限のリマスターは施され、音質はかなり改善しています(それが生ではないという批判もあります)。CD6枚に時系列に138曲が収録されたうち、117曲が未発表曲というのにも驚きますが、しだいにお遊びから仕事モードにスイッチしていく感じがわかるのは貴重です。
ただし、基本的に注意しないといけないのは、これらは本来は公開されるつもりのなかった音楽であるという点です。ミュージシャンにとっては、正式に自分の音を主張する場ではない、その場での掛け捨て、あるいは将来発表するためのプロトタイプの音楽の集大成という意味合いがあることは忘れてはいけません。
Odds and Ends
Orange Juice Blues (Blues for Breakfast)*
Million Dollar Bash
Yazoo Street Scandal*
Goin' to Acapulco
Katie's Been Gone*
Lo and Behold!
Bessie Smith*
Clothesline Saga
Clothesline Saga
Apple Suckling Tree
Please, Mrs. Henry
Tears of Rage
Too Much of Nothing
Yea! Heavy and a Bottle of Bread
Ain't No More Cane*
Crash on the Levee (Down in the Flood)
Ruben Remus*
Tiny Montgomery
You Ain't Goin' Nowhere
Don't Ya Tell Henry*
Nothing Was Delivered
Open the Door, Homer
Long Distance Operator*
This Wheel's on Fire
Bob Dylan (aco.g, p, vo), Rick Danko (b, mandolin, back.vo)
Levon Helm (ds, mandolin, b, vo), Garth Hudson (org, clavinet, accordion, ts, p)
Richard Manuel (p, ds, harmonica, vo), Robbie Robertson (g, ds, back.vo)
* THE BAND only
April ~ October, 1967, "Big Pink" Woodstock
☆☆☆☆
* THE BAND only
April ~ October, 1967, "Big Pink" Woodstock
☆☆☆☆












