1980年代半ばは、MTVを中心に洗練されたスマートなシティ・ポップ全盛の頃です。マドンナがデヴューし、a-haやWham!のようなボーカル・グループが人気を博し、ロック・バンドも壮大な雰囲気を持つメロディアスな曲でヒットを飛ばしました。コンピュータ音楽の統一規格であるMIDIが整備されたことで、演奏にもシンセサイザーが多用され、メリハリのあるダンサブルなリズムが目立ち、今で言う「打ち込み」の原点がスタートしていたと言えます。
ボブ・ディランですら、これらの潮流を軽視することはできず、レコードを売るために時代の流れに迎合することを良しと考えたことは、古くからのディラン・ファンには意外なことだったはずです。どちらかと言うと骨太な音楽を作り続けてきたディランにとって、アルバム「エンパイア・バーレスク」は確実に問題作でした。
曲自体は1984年のツアー中から作り始め、ツアー中にも時々試しに披露し、一部のレコーディング・セッションも行われました。最終的には、1985年の2~3月のセッションでとりまとめられましたが、基本的なプロデュースはディラン自身が行い、ミキシングはアーサー・ベイカーに任されました。DJの仕事も兼ねるアーサー・ベイカーは、多くの有名アーティストのリミックスを手掛けたヒット曲請負人の人気プロデューサーです。
いつものように録音されたディランの曲は、ベイカーの手によって多くの装飾が加えられ、まさに当時人気のダンス・ナンバーのように仕上げられていきました。ディランのすでに20年を越えるキャリアの中で、間違いなく異彩を放つ、異色な、らしくない、最も現代的な・・・いくらでも言葉を並べられそうな作品になっています。
当然のことのように、6月にアルバムが発売されると皮肉を込めた否定的な評判ばかりとなり、流行に乗ったディランを残念に思う人が続出しました。ディラン自身も、レコードを売り物として最終的に仕上げることに関しては無関心だったようですが、後年時代に流されたことを認める発言をしています。
現在は、ディランのコレクションの貴重な珍しい作品としての価値が認められたり、曲自体は良い物が揃っているという肯定的な評価もされています。それというのも(以前から海賊盤は出回っていましたが)、2021年に「The Bootleg Series Vol.16 Springtime in New York」が発売され、このアルバムのベイカーの手が入る前のラフ・ミックスが公開されたことが大きいと言えます。
もしも、ベイカー抜きで作られていたら・・・たらればの話をしてもあまり意味はありませんが、少なくとも「Infidels」の延長上にあるいつものディラン作品として、マンネリという評価もありますが素直に受け入れられたかもしれません。いずれにせよ、両ミックスを聞くことが必要ということには変わりありません。
そんなことを念頭に置いて、アルバムの中身を見てみます。タイトルは「帝国の茶番劇」という辛辣なもので、おそらく当時のアメリカの社会全般や音楽界に対するディランの気持ちが根底にありそうです。もっとも、「自分自身のパロディ」という自虐的な意味合いも含まれている、という見方もできたりします。バックを固めるメンバーは、曲ごとにかなり変わっています。
1曲目の「Tight Connection」は、前作のアウトテイクの改作で、シングルにもなりました。MVは何と日本で撮影され、倍賞美津子が出演しています。軽いレゲエ調のキャッチーな曲ですが、打ち込みのドラムと繰り返されるギターの単音が強調され、よりポップな仕上がりになりました。
2曲目も元はギターのリフが強調されたストレートなロックだったのが、ギターの代わりにホーンが取って代わりソウルフルなダンス・ナンバーに改変されています。3曲目は屈指の名バラードでディランの弾くピアノから次第にバンドが加わりますが、さすがにこれはあまり変更されていません。
次はホンキートンク調のロックンロールですが、ボーカルとコーラスが強調され、ギターにロン・ウッドが加わったバンドが遠のいてしまいました。7曲目はオルガンメインからピアノメインに変更。8曲目はダンサブルなナンバーですが、もとはハード・ロックです。ラストはディラン真骨頂の弾き語りで、すこぶる評判の良い曲ですが、淡々と繰り返される同じメロディに難解な歌詞がのせられています。
Tight Connection to My Heart (Has Anybody Seen My Love)
Seeing the Real You at Last
I'll Remember You
Clean Cut Kid
Never Gonna Be the Same Again
Trust Yourself
Emotionally Yours
When the Night Comes Falling from the Sky
Something's Burning, Baby
Dark Eyes
Bob Dylan (vo, g, ke, pf, harmonica)
Ted Perlman (g), Mick Taylor (g), Mike Campbell (g)
Ronnie Wood (g), Sid McGinnis (g), Ira Ingber (g)
Chops (horns), Alan Clark (key), Vince Melamed (key)
Sly Dunbar (ds), Don Heffington (ds), Jim Keltner (ds)
Anton Fig (ds), Robbie Shakespeare (b), Bob Glaub (b)
Howie Epstein (b), Jon Paris (b)
Bashiri Johnson (perc), Stuart Kimball (g), Al Kooper (g)
Richard Scher (key), Benmont Tench (key), Urban Blight (horns)
David Watson (sax), Madelyn Quebec (vo)
July 26, 1984, December 1984 ~ March 1985, NYC
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Carolyn Dennis, Peggi Blu, Debra Byrd, Queen Esther Marrow (back.vo)
July 26, 1984, December 1984 ~ March 1985, NYC
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