「Tempest」は2012年リリースの同名アルバムに収録された、13分54秒におよぶ長大な叙事詩です。アルバム全体が高く評価されている一方で、この曲に関しては初めて聴くと長すぎると言う評もありますが、聴き進めていくとしだいにこの世界観にはまって興味が湧いてきます。
西の町に青白い月が上り 彼女は沈みゆく大きな船の悲劇を語った
4月14日のことだった 船は予言された輝く未来に向かって船出した
星空は明るく海は澄み渡り影の間を進むが約束された時間が迫っていた
灯りは静かで船は滑るようだ 紳士淑女たちは永遠の住処に向かっていた
頭上のシャンデリアが静かに揺れて 楽団が終わった恋の歌を奏でる
いつものようにレオはスケッチブックに心に浮かぶ景色を描こうとしていた
その時キューピットの矢が胸に刺さると 彼は近くにいた女性の膝に崩れ落ちた
その時騒がしくなり良くない予感が彼の心に告げた ここにいてはいけないと
急いで後ろの甲板に行くと 水は3フィートの深さにもなろうとしていた
煙突が傾き足が重たく彼は渦巻く風の中を歩くが空は回って見えた
宇宙の口が開いたように船は沈んでいく 天国が呼ぶが天使たちは顔を背けた
通路の明かりは弱々しく点滅し すでに死んだ人の体が浮いていた
エンジンが爆発してスクリューが止まった ボイラーが破裂して船体が割れた
乗客は四方に飛ばされ呻いたりもがいたりしている 誰もが疲れ切っていた
わずかな時間ですべてが引き裂かれ 奇蹟に見放されてなすがままだった
船が45度に傾いた時 見張り番は船が膝をつくように沈む夢を見ていた
ベッドが滑り出した時ウェリントンは寝ていたがなんとかテーブルを押しやった
砕けたガラスが散らばり 彼は拳銃を手に取ったがいつまでもつか
部下や仲間の姿はなく 事の成り行きを静観していた
闇に包まれた通路は狭く 様々な悲しみを見たり聞いたりした
母親と娘は愛と悲しみの祈りをささげ、氷のような海に飛び込んだ
富豪のアスターは妻に口づけをした これが人生最後の旅だとも知らずに
3人の男が暗闇で賭けをしていた 誰もその結果は語れなかった
兄弟がいろいろなことで争っていた 死のダンスをするかのように戦った
沈みゆく瓦礫から救命艇が下ろされ 人々は他人を押しのけて我先と殺到した
司教は人々に手を差し伸べたが、天に向かってこの者たちを救い給えと言った
娼館の主人は女たちを逃がしたが すでに世界が終わるのを目の当たりにした
泳げないジムは笑うしかなかった そして足の不自由な子に場所を譲った
彼は東に流れ星を見た 死があたり一面に広がっていたが少し心が安らいだ
水が閉めたハッチを破ってきて金色に輝く階段の下で人々は溺れた
レオはクレオに「おかしくなりそうだ」と言ったがすでに理性は失われていた
皆を救うために出入口を塞ごうとしたが、怪我した腕からは出血していた
花びらが散るようにすべてが消えた 魔術師が呪いが続く長い時間だった
船主はブランデーと共に沈んでいった 誰よりも遅い最後だった
他にも永遠に名を残せない多くの人々がいた 彼らは初めての旅だった
手遅れの事態の中で見張り番は夢を見ながら誰かに伝えようとしていた
船長は舵を握りしめ何とか息をしていた 彼は5万トンの鉄屑の中にいた
羅針盤を見ると針は下向きになっていて、船長は敗北を悟った
薄暗い光で「ヨハネの黙示録」を読みながら過去を想い涙した
善悪、貧富に関係なく、1600もの命が消え死神の仕事もやっとおちついた
魂は事を理解しようとしたが 神のなさることなどわかるはずがなかった
衝撃の報はすぐに世界に広まり、愛の炎は消えすべてが終わったのだった
見張り番はタイタニックが青く暗い海の底に消えていく夢を見ていた
(意訳 : 亜沙郎)
便宜上、適当なところで改行を入れましたが、実際は1行が一つのコーラスなので、歌詞は45番まであることになります。居眠りをしている見張り番が度々登場し、彼の夢の中の出来事かのようにストーリーが進行していきます。
ヒントになったものの一つは、ウィリアム・シェイクスピア。そうです、有名な戯曲のひとつである「テンペスト」です。内容は、弟に国を奪われ娘と孤島へ流された元ミラノ公が、魔術で嵐を起こし仇敵の船を難破させ島へ誘い出す。彼は様々な策略で復讐を果たそうとしますが、やがて相手を許し、和解して帰国を選ぶというもの。
そしてもう一つが当然「タイタニック号の悲劇」です。1912年、当時世界最大の豪華客船タイタニック号が処女航海中に北大西洋で氷山と衝突し沈没しました。救命ボートの不足などから1500人以上の乗客乗員が犠牲となり、世界に大きな衝撃を与えた事件です。1920年代に書かれたタイタニックについての古い曲のメロディを下敷きにしていることはディラン自身が認めています。
また、登場するレオは、レオナルド・ディカプリオのことで、1997年の映画「タイタニック」の映像イメージに強くインスパイアされています。他には史実に基づく実在の人物や逸話も登場しますが、大半はディランの創作です。このことについて、ディランは「真実かどうかより、何が起こるべきだったのか、何が起こりえたのかを語ることが歌を作るものとして大事にしている」と述べています。













