ニュー・アルバムのレコード・ブレスが開始されようと言うタイミングで、急遽工程にストップをかけたボブ・ディランは、ただちに弟のデヴィッドに楽器の調達と地元のミュージシャンを集めるように依頼し、12月27日と30日にミネアポリスの小さなスタジオに入りました。
当然コロンビア・レコードは、ディランのコロンビア復帰作第1弾として大かがりなプロモーションなどを含めた準備をしていたわけで、レコード・ジャケットは印刷が終了し完成済みです。さすがに焦りまくって怒り心頭ですが、何しろ復帰契約でレコード制作に口を出さないと約束させられていますし、ディランだけでなく会社としてももしも売れなかったらと言う不安も抱えていたので受け入れるしかありませんでした。
興味が無い方には、そもそもテスト盤なんてどうでもいいことなんですが、テスト盤では伴奏のバンドは入らないか、あっても本当に軽めのサポートなので、アコースティックな雰囲気に終始します。一方、公式発売盤はバンドによる伴奏がしっかりと効果をだしているので、一聴するとかなり違った印象を受ける仕上がりなのです。
ロックのオールタイム名盤100選とかのランキングで必ず上位に登場するアルバムが、2つの異なる雰囲気を持ったバージョンが存在していることは、ディランの音楽を聴いていく上で簡単には無視できないポイントになっているのです。
他の5曲は、ミネアポリスで急遽行ったセッションの演奏が採用されていますが、ここでもニューヨーク・セッションと同じように、ディランは集まったミュージシャンに対して、最低限の曲の説明しかせず、一発録りの緊張感を重視しました。
Tangled up in Blue
テスト盤(Take 3, Remake 3)ではアコースティックギターとベースのみで、ディランはゆったりとしたテンポで思い入れたっぷりにに歌います。ミネアポリス盤では、キーを上げテンポアップした躍動感のあるフォーク・ロックになり、アルバムのオープニングにふさわしくなったように思います。
Simple Twist of Fate
同じテイク(Take 3, Remake)が使われました。ディランの弾き語りにベースのみが絡むスタイル。
You're a Big Girl Now
テスト盤(Take 2, Remake)はディランの弾き語りにスティール・ギターが控えめに間を埋めていました。ミネアポリス盤ではオルガン、アコースティック・バンド・サウンドが追加されています。
Idiot Wind
テスト盤(Take 4, Remake)は、短いイントロに続いてアコースティック・ギターとベースのバックにオルガンが薄く響きます。ミネアポリス盤はイントロなしで、ボーカル、ドラムとオルガンが一気にスタートし、強めのロックになっています。
You're Gonna Make Me Lonesome When You Go
同じテイク(Take 2, Remake 2)が使われました。ディランの弾き語りにベースのみが絡むスタイル。
Meet Me in the Morning
同じテイク(Take 1)が使われました。ニューヨーク・セッションで、唯一フル・エレクトリック・ブルース・バンドをバックにしています。
Lily, Rosemary and the Jack of Hearts
テスト盤(Take 2)は、 弾き語りとベースのみ。歌詞は15節まで。ミネアポリス盤は陽気な雰囲気が漂う、テンポアップしたホンキートンク・カントリー調のバンド・アレンジに変更。歌詞は1節へって、全体の長さも1分ほど短縮しました。
If You See Her, Say Hello
テスト盤(Take 1, Remake)はディランの弾き語りに、マンドリンが寄り添い、ベースとドラムはかなり控えめ。ミネアポリス盤は、ギターのストロークをおさえて、オルガンの柔らかな伴奏が目立ちます。歌い方もより落ち着いた感じです。
Shelter from the Storm
同じテイク(Take 4)が使われましたが、テスト盤はディラン一人舞台だったのが、発売盤ではベースがミックスされています。
Buckets of Rain
同じテイク(Take 4, Remake 2)が使われました。ディラン一人の弾き語りです。
また、ニューヨーク・セッションでは、「Up to Me」、「Call Letter Blues」、「Spanish is the Loving Tongue」の3曲がouttakeとなり収録が見送られています。「Spanish is the Loving Tongue」は古いフォーク・トラディショナルで「地下室」セッションのバンド・パーション、「Self Portrait」セッションのカントリー版、ピアノ伴奏版がいずれもouttakeとされています。
全体を通して聞くと、テスト盤はディランの心の乱れ、虚しさ、怖れ、孤独感などが切々と伝わるアコースティック・サウンドが主体であり、確かに地味と言えば地味。発売盤はディランの心情を残しつつもバラエティ豊かな静と動が混在したバンド・サウンドが楽しめる作品ということができます。
どちらの方が優れているかというのは、個人の主観的な評価によるもので、どちらであっても最終的な評価は「傑作」、「名作」となったことは間違いない。基本的にはボツになった作品は聞かなくて良いはずなんですが、ことこのアルバムに関しては絶対に2つのバージョンを聞くべきであると思いました。
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