世界遺産に登録されるための基準は重要です。その中でも、「顕著な普遍的な価値 (Outstanding Universal Value, OUV)」は最も重要な概念であり、十二分に理解しておく必要があります。あらためて、世界遺産に含まれるOUVを中心とした概念についてまとめます。
最も重視されているのは、「顕著な普遍的な価値 (Outstanding Universal Value, OUV)」で、国家や文化、民族、宗教、性別などという枠組みを超え、人類全体にとって現在だけでなく将来世代にも共通した重要性を持つような、傑出した文化的な意義や自然的な価値を意味する。
世界遺産として登録される際には、2007年以降は推薦をした各国関係機関は「顕著な普遍的な価値の言明 (Statement of OUV)」を添付することが義務づけられ、それ以前の登録済み遺産についても遡って提出することになった(日本は2014年までにすべて添付済み)。
(1) 真正性 (Authenticity)
形状や意匠、素材、用途、機能などの点において、それぞれの文化的背景の独自性や伝統を継承していると証明されていること。日本は1992年に世界遺産条約を締結したが、木造建築物が多い日本の気候風土の中では、欧米主体の真正性の確保が難しいことから、1994年に「真正性に関わる奈良会議」を主体的に開催した。ここで採択された奈良文書で、「真正性は文化ごとに異なる可能性があり、遺産の保存・保全方法は、それぞれの場所の地理や気候、環境などの自然条件と、文化・歴史的背景などの文化的文脈との関係の中で評価すべきである」とした。
(2) 完全性 (Integrity)
顕著な普遍的価値を構成するために必要な要素がすべてが含まれ、遺産の重要性を示す特徴や背景を不足なく代表するための大きさが確保されている、また開発や管理放棄による負の影響を受けておらず、長期的な保護のための法律などの体制も整えられていること。
(3) 文化的景観 (Cultural Landscapes)
1992年から遺跡の定義の中に盛り込まれたもので、「人間社会が自然環境による制約の中で、社会的、経済的、文化的に影響を受けながら進化してきたことを示すもの」で、自然の景観と人工の景観の両方が含まれ、文化遺産と自然遺産の境界に位置するものである。意匠された景観(人間がデザイン・創造)、有機的に進化する景観(人間社会から生まれ自然環境に対応し形成)、関連する景観(自然要素が人に影響し文化を発展させる)の3つのカテゴリーを持っている。
(4) グローバル・ストラテジー (Global Strategy)
正確には1994年に採択された「世界遺産リストにおける不均衡の是正及び代表制、信用性の確保のための」世界的な戦略のことで、当初は西欧の記念碑的な遺産(宮殿、城塞、キリスト教施設など)に偏り、地域的な偏りも顕著であったため、これを是正し世界的な均等化を目指そうという考え方。
(5) シリアル・サイト (Serial Properties)
文化や歴史的背景、自然環境などが共通する遺産を、全体として一つの遺産として扱うことで、個々の構成資産がそれぞれ単体でOUVを満たさなくても全体で評価できれば良いとされ、時には複数の国に跨ることもある。
(6) トランスバウンダリー・サイト (Transboundary Properties)
人為的な国境線にとらわれない自然遺産のことで、関係各国の協力のもと保護・保全が必要となる。ただし、同一民族・文化圏が歴史的に別々の国家に分断された場合もあるため、国境を超える文化遺産に対しても用いられるようになった。
(7) MAB計画
UNESCOが立ち上げた、「人間と生物圏計画(Man and the Biosphere Programme)」とは、社会生活や商業活動などの人間の営みと自然環境の相互関係を理解し、環境資源の持続可能な利用と環境保全の促進を目的としたもの。自然遺産が自然環境を厳密に維持することを求めているのに対して、MAB計画では自然と地域社会の両立した持続的な発展を目指す。
(8) バッファー・ゾーン (Buffer Zone)
世界遺産を効果的に保護するために、周囲に設定されたエリア(緩衝地帯)のことで、利用や開発を規制することで遺産の周辺環境や景観を保護する目的で設定される。バッファー・ゾーン自体は遺産には含まれないが、原則的に設定されていなければならない。
(9) 記憶の場 (Sites of Memory)
国家とその国民が、もしくはコミュニティが、記憶に残したいと考える出来事が起こった場所のことで、最近加えられた考え方である。20世紀以後の紛争・戦争に関係した遺産は評価が定まっていないため、世界遺産の登録には議論が不足している。このような例を「記憶の場」として関係者間での対話を促す狙いがある。
(10) 戦略的目標 (Strategic Objectives)
世界遺産条約履行のために、2002年「世界遺産に関するブタペスト宣言」において4つの「C」が提唱され、2007年世界遺産委員会で加えられたものを含めて「5つのC」と呼ばれる。① Credibility (信頼性)、② Conservation (保全)、③ Capacity-building (能力構築)、④ Communication (情報伝達)、⑤ Communities (共同体)の5つが含まれ、世界遺産の価値を堅持するために、制度の信頼性を高め、保全を確実なものにし、各国の遺産の保有能力を向上させるものとした。そして、情報を正確に伝えることで人々の意識を高め、コミュニティの役割を強化するものとした。
(11) 定期報告
登録された世界遺産について、各国は6年ごとの自主点検による定期報告が義務付けられる。その中には、条約の履行状況、顕著な普遍的価値の継続の点検、周辺地域の変化や遺産の保全状況、適切な条約履行のための提言などが含まれる。
(12) リアクティブ・モニタリング (Reactive Monitoring)
世界遺産センターだけでなく、UNESCOの関係部署全体で、脅威にさらされていると関係国からの報告があった場合に、その保全状況を報告する仕組みのこと。できるだけ早くに状況の改善につなげ、少しでも登録抹消などの事態を招かないようにすることが目的である。
(13) 緊急的登録推薦
登録が確実と思われる遺産が、自然災害や人的破壊の被害を受ける危機に直面している場合、通常のプロセスを経ずに審議され、登録リストと同時に危機遺産リストにも記載される。
(14) 遺産影響評価
登録された遺産が受ける影響について評価するもの。近年、遺産の内部・周囲で計画・実施される開発プロジェクトが増加してきたため、プロジェクトが実行される前に行う評価であり、プロジェクトが遺産に及ぼす影響と回避するための合理的な代替案を検討する。
(15) 歴史的都市景観 (Historic Urban Landscape)
文化・歴史的な価値や自然の価値の積み重なりと、伝統文化、経験の蓄積によって認識される都市の範囲で、建造物だけでなく、空間構成や地下遺構などのすべての要素が含まれ、社会的・文化的な慣行や経済的作用などの無形のものも併せて、景観として保全していくことが重要とした。













