周囲の思惑など気にせず、自分がこうと思ったらどんなことでやってきたボブ・ディランですから、交通事故も離婚騒動も、そして改宗すらも創作のエネルギーに変えて20数年を突っ走ってきたといえます。しかし、ユダヤ教からキリスト教、キリスト教からユダヤ教への復帰を経て、80年代半ばからしだいに自分に対する自信が揺らいできたのかもしれません。
ディラン自身も語っていることですが、過去の自分を超えられないという気持ちがしだいに強く感じられるようになったようです。また、あえて現代風の曲調を取り入れたりしても、売り上げが思ったほど伸びず、評論家からもケチを付けられる始末です。いわゆる燃え尽き症候群と言って良い状態に陥ったディランは、実質的に全盛期を過ぎたと自覚し、まさに音楽的にスランプに陥っていました。
とは言え、悪いことばかりではなく、プライベートでは1986年1月に女の子が生まれています。母親は、ずっとバックコーラスを担当していたキャロリン・デニス。娘の健全な成長を願って、6月に二人は正式に結婚していますが(1992年に離婚)、家族のプライバシーを守るために、これらのことは公にされていませんでした。ただし、2001年になってジャーナリストのハワード・サウンズが、ディランの半生をまとめるために公的文書の精査をしていて発覚してしまいました。
1986年のほぼ半分は、トム・ペティと彼のバンドであるハートブレイカーズと共に世界ツアーを行いました。両者は前年の「Farm Aid」で急遽共演したのですが、ディランの音楽ルーツを理解していたペティとの相性が良かったことでディラン側からオファーされたものでした。2月のオーストラリア、ニュージーランド、3月には日本、6~8月は北米をまわり、約60公演をこなしています。
マイク・キャンベル(g)やベノン・テンチ(key)らハートブレイカーズの演奏力が高く、すでに人気者だったトム・ペティのディランに対する確かなリスペクトもあって、概してこのツアーは好評でした。ただし、過去のアリーナ・ツアーを踏襲するようなステージは、少なくとも新しさはありません。この時のライブは「Hard to Handle」というタイトルでシドニー公演のビデオが発売され、その後DVD化もされています。
日本公演が終わって帰国したディランは、4月にニューアルバムの制作に取り掛かりました。トム・ペティとの共演を盛り込めば良かったのかもしれませんが、新しいインスピレーションが湧いてこないディランは、他人のカバーを3曲、他人とのコラボレーションを3曲をニューアルバムに収録し、自身によるオリジナル曲は2曲だけにとどまっています。
オリジナル曲の一つ「Drifting Too Far from Shore」は「Empire Burlesque」のセッションの残り物で、正確にはわかりにくいのですが、他にも過去のセッションで部分的に録音されていたソースにオーバーダビングをして作り上げているようです。そのせいで、一般には一貫性が感じられないと低い評価ばかりが目立つアルバムと言われています。個人的には、前作の取って付けたようなモダンな味わいが減っているので、まぁ、普通に聞けるという印象です。
7月にアルバムがリリースされると、そんな中で、サム・シェパードとの共作とクレジットされている「Brownsville Girl」だけは、高く評価されました。11分を超える大作ですが、実はこれも「Empire Burlesque」のセッションの残り物で、もともとは「New Danville Girl」というタイトルでした。ウディ・ガスリーが「ダンビルの娘に夢中になった」と歌ったことがヒントになっていて、昔の恋人に現在の恋人のことを、グレゴリー・ペックの西部劇のことを絡めて語り掛けるというもの。
8月に北米ツアーが終了すると、ディランは映画「Hearts of Fire」の音楽制作を始めるのですが、8月末に行われたセッションにはエリック・クラプトン(g)とロン・ウッド(b)も参加し、サウンド・トラックにはカバー1曲とオリジナル2曲が含まれました。この映画は、「STAR WARS / ジェダイの帰還」のリチャード・マーカンドが監督し、ロックスターになることを夢見る女の子にフィオナ・フラナガンが扮し、それを助けるロック・スターが・・・何とボブ・ディランという配役で、はっきり言って興行的には爆死です。
You Wanna Ramble
They Killed Him
Driftin' Too Far from Shore
Precious Memories
Maybe Someday
Brownsville Girl
Got My Mind Made Up
Under Your Spell
Bob Dylan (vo, g, key)
Clem Burke, Anton Fig, Mike Berment, Milton Gabriel, Don Heffington,
Bryan Parris, Stan Lynch, Raymond Lee Pounds (ds)
T Bone Burnett, Tom Petty, Ira Ingber, Mike Campbell,
Jack Sherman, David A. Stewart, Ronnie Wood (g)
Steve Douglas (sax), Steve Madaio (tp)
Howie Epstein, James Jamerson, Jr., John McKenzie,
Vito Sanfilippo, Carl Sealove (Brownsville Girl), Jon Paris (b)
Phil Jones (congas), Al Kooper, Vince Melamed,
Patrick Seymour, Benmont Tench (key)
Al Perkins (steel guitar)
Carolyn Dennis, Peggi Blu, Lara Firestone, Keysha Gwin, Muffy Hendrix,
April Hendrix-Haberlan, Dewey B. Jones II, Larry Mayhand,
Queen Esther Marrow, Angel Newell, Larry Meyers, Herbert Newell,
Crystal Pounds, Madelyn Quebec, Pamela Quinlan, Daina Smith,
Maia Smith, Medena Smith, Annette May Thomas, Damien Turnbough,
Majason Bracey, Chyna Wright, Elesecia Wright, Tiffany Wright (Back.vo)
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