2023年8月31日木曜日

燕のお宿


都会の燕は、モダンなお家に住んでいます。

何しろ小枝とかを集めたみすぼらしい巣ではありません。

ブラスチックの艶光した清潔そうな家に、さぞかし満足な事かと・・・・・

って、これ、カップ麺の容器じゃん。

誰が考えたのか、気の利いたことをしたものです。

きっと自慢のお家なんでしょうね。

2023年8月30日水曜日

セブンのおにぎり 8


今回、新発売になったのはこれ。

「生姜昆布」です。

下の方、1/3くらいに薄く削りだされたおぼろ昆布が巻いてあります。全体の味は薄めの出汁醤油に細かくした生姜が混ざっている感じ。

真中には昆布の佃煮に入っていますが、この味付けもわりと薄め。生姜の味をできるだけ生かすバランスということでしょうか。

ちょっと注目したのは、「加賀屋監修」というところ。

セブンのプレミアムおにぎりのシリーズで、このところ米そのものの監修をしているのは、京都祇園の「八代目儀兵衛」です。

一方、加賀屋は石川県の料亭。セブンの戦略として、高級料亭のブランド力を利用しようということ・・・

なんですが、セレブでもないとそういう店はよくわからないし、そこに価値は見出しにくいなぁ、という感じがします。

どちらかというと、「こしひかり」だよ、みたいな米の種類を前面に出した方が、高級感はわかりやすいように思います。

2023年8月29日火曜日

ロボジー (2012)

安定したヒット作を作り続ける監督・脚本、矢口史靖によるコメディ映画。


会社の宣伝のため、弱小企業の木村電機の社長(小野武彦)は、ロボット博覧会に二足歩行できるロボットを出展すると言い出します。ところが、期間は3か月しかなく、三人の社員、小林弘樹(濱田岳)、太田浩次(チャン・カワイ)、長井信也(川島潤哉)の三人は、しかだがなくロボットの着ぐるみで誤魔化すことにします。

敬老会で腰を痛めた鈴木重光(ミッキー・カーティス)は、娘夫婦(和久井映見、田辺誠一)からもボケて来たのかと心配される始末。ボケないように少しは働いてみたらといわれ、たまたま見つけた木村電機のチラシを見て着ぐるみの中入る人の募集に応じたところ、消去法的に合格してしまいます。

博覧会では、ロボットに扮した鈴木が暴走気味になり、柱の下敷きになりそうになったロボットおたくの大学生、佐々木葉子(吉高由里子)を助けてしまいます。おかげで、メディアで注目されることになってしまいます。しかし、鈴木は周囲の人に自分が入っていたと喋りますが、ボケていると相手にしてもらえない。

あちこちからイベント出演の依頼が来てしまい、三人と鈴木はしかたがなく嘘を続けますが、次第に鈴木が増長し、やたらと金のかかる待遇を要求。その上、勝手に娘夫婦の家にまでロボットのままでかけてしまいます。葉子からは、大学でロボットができるまでの講義を依頼され、三人はむしろ学生からロボット工学の知識を吸収するのです。

葉子は木村電機の就職説明会に参加しますが、葉子が入社するとインチキがばれると思った三人は葉子に悪態をついてしまう。これが逆効果で、カチンときた葉子は調べまわってインチキに気がついてしまいます。世間でも少しづつ雲行きが怪しくなってきたため、ついに記者会見を開くことになってしまいました。

嘘から生まれる、ペテンの話ですが、そもそも無茶振りされた三人の可哀そうな状況が憎めない。鈴木のじいさんも、孫からは面倒がられ、周囲の人からはボケ扱いされていたのが、ロボットの中に入ることで「生きがい」みたいなものを見つけるのです。

悲哀を感じる年寄りをHEROに仕立て上げ、「鈴木さん、助けてください」と頼られる状況を、無理なく笑いと共に作り出す矢口監督のセンスは相変わらず冴えています。

もちろん、ちょっと冷静になれば現代の科学力ではこんなロボットは作れるはずはないとわかるんですが、もしかしたらこんなことが出来る人間臭いロボットがいたら楽しいだろうなという願望みたいなものが、この映画のナンセンスな部分を許してしまえるように思います。


2023年8月28日月曜日

楽園 (2019)

映画化されている「悪人(2010)」、「怒り(2014)」などの、犯罪をベースに重厚な人間ドラマを展開させる小説家、吉田修一の短編集「犯罪小説集」から、「青田十字路」と「万屋善次郎」の二編を組み合わせた映画。監督・脚本は「64(ロクヨン)」の瀬々敬久。

この映画は「限界集落」がキーワード。限界集落は、人口の半分以上が65歳以上で、集落の共同生活の維持が困難になっている地域の事で、いずれ消滅する可能性が高いとされています。一般には、街からは離れ過疎化した高齢者ばかりの集落であることが多いとされます。

これらの地域は、地図上も他の地域との交流が困難で、古くからの生活習慣を守り続ける保守的・閉鎖的な暮らしが続いていることが多く、時には新規入植者や地域の暗黙のルールを侵す者を排斥する(いわゆる村八分)問題も起こりうる。

夏祭りでにぎわう山間部の村で、母(もとは外国人?)と息子の中村豪士(綾野剛)は細々とリサイクル品販売によって生活していました。村の重鎮である藤木五郎(柄本明)の孫、小学生の愛華が、ランドセルだけを残して行方不明になってしまいます。

愛華の消息が判明しないまま12年が経ち、愛華が行方不明になる直前まで一緒だった湯川紡(杉咲花)は、ずっと自責の念を抱えていました。偶然、豪士の運転する車に驚いて転倒した紡は、夏祭りの出囃子で使う笛を折ってしまいました。内気で言葉も少ない豪士は、街で新しい笛を弁償します。

夏祭り当日、またもこどもが行方不明になる。村の人々は、「そういえば12年前も豪士が怪しかった」などと言い、家に押し掛けドアを蹴破って侵入するのです。たまたまそこへ戻ってきた豪士は、こどもの頃のいじめを思い出し逃げ出す。人々は彼を蕎麦屋に追い詰めたため、豪士はついに灯油をかぶって火をつけ自死するのです。

妻を亡くし、養蜂を始めるため村に戻ってきた田中善次郎(佐藤浩市)は、村の家屋の修理や雑木の伐採など率先して手伝い、村に溶け込もうと努力していました。しかし、養蜂が村興しに役立つと考え提案しますが、人々は村で勝手なことをされるのを好まず、少しずつ善次郎は疎外されていくのです。

飼い犬が村人を咬んでしまったことが決定打となり、善次郎は人々から完全に村八分にされてしまう。そして森を再現するため善次郎が少しずつ行っていた植樹を、許可なしに行ったとして取り除かれてしまったことで、ついに善次郎は狂気と化し6人の村人を殺害し、自らも自死するのでした。

この映画は、賛否が完全に分かれます。限界集落の排他的な閉塞感のリアルを描き出した傑作という意見の一方で、何が言いたいのかまったくわからない駄作との意見も多い。自分の意見としては、何を言いたいのかは朧げにわかりますが、あまりにも説明すべきところが省略され、登場人物の誰にも共感できない「難解」なだけの映画という印象。

映画は台詞だけでなく映像があるので、すべてを語る必要はありません。また、提示された謎がすべて明瞭な解決に至らなくてもかまわないと思いますが、ある程度それらを見る者が自分で納得できる答えを見つけられる手掛かりは残しておいて欲しい。いや、手掛かりはあるけど、それを気がつけないだけと言われればそれまでですが、この映画はあまりにも不親切です。

過去の話と12年後の話、さらにその1年後の話が混在していて、その時点での話と回想されて出てくるシーンなどの区別が付きにくい。紡に近づく同級生だった広呂(村上虹郎)との関係も曖昧で、郷里でのシーンと彼らが東京に出てのものもほとんど境界が無い。広呂が突然病魔に侵されるのも唐突。

疎外される善次郎を心配する久子(片岡礼子)が、善次郎を温泉に誘うところも突然すぎて展開が理解しにくい。善次郎が亡き妻との思い出で大事にしてきたことについては、かなり時間がとられてわかりやすいのですが、ついに狂気に走って行動するシーンは一切描かれない。

12年前の事件では、母親は豪士が何か関係があると思っているようですが、紡は東京で愛華を目撃したらしいシーンがあり、紡の中では別の答えが用意されている。少なくとも豪士と善次郎が求めた「楽園」は手に入れることができず、紡だけは心の傷の癒し方を見つけるという結末になっているようです。

いずれにしても、2つのストーリーのどちらか一方だけに絞っても、十分に描きたいことは語れたと思います。主要な3人の演技力だけは高く評価できますが、彼らがまったく交わることのないバラバラ感が映画全体のテンションを低調にしていて、過程が断片的に語られ、結末はほとんど描かれない映画という印象です。

2023年8月27日日曜日

大誘拐 RAINBOW KIDS (1990)

これは老け役と言えば、北林谷栄と言われた、大女優の晩年の大傑作コメディ映画。北林谷栄は明治44年生まれで、若い時から老け役として定評があり、昭和のドラマでは一番知られた「おばあちゃん」でした。原作は天藤真の小説で、監督・脚本は岡本喜八。

戸並健次(風間トオル)、秋葉正義(内田勝康)、三宅平太(西川弘志)の三人の若者はケチな犯罪の前科があり、和歌山一の大富豪の老婆、柳川とし子刀自(北林谷栄)を誘拐して、身代金で社会復帰をしようと画策します。散歩に出たとし子と女中見習いの紀美(松永麗子)の前に飛び出し誘拐しようとしますが、とし子は見張りの手間が増えるだけと言いくるめられ紀美は逃がしてしまう。

紀美の話で、あわててとし子のこどもたち、国二郎(神山繁)、可奈子(水野久美)、大作(岸部一徳)、英子(田村奈巳)が集まって来て、県警本部長の井狩大五郎(緒形拳)は捜査を開始します。とし子は「あんたらの隠れ家なんてすぐ見つかる」と言って、とりあえず昔柳川家の女中をしていた中村くら(樹木希林)の家に犯人を引き連れて隠れます。くらもとし子に協力するのです。

さて身代金をどうするかととし子に聞かれた戸並は5千万円と言うと、とし子は柳川家の当主としてそれは安すぎるので百億円じゃないとだめと怒り出すのです。完全にとし子のペースに飲まれている三人は、しかたがなくその額で連絡するが、さすがに柳川家でもその額に驚くしかない。

井狩はテレビに出演し、誘拐団に対して毅然とした態度で「現実的な額での交渉を希望する。刀自が無事であることを証明してもらいたい」と語り、もうほとんどとし子に操られているような三人は、何ととし子をテレビに出演させることにします。これもとし子が主導で警察を出し抜き、山奥までテレビの生中継車を導き、自分の土地などをすべて処分すれば作れる額だと話すのです。

家族は大急ぎで資産を整理して百億円を用意します。「犯人だった」三人とも、肝の坐ったとし子に素性を明らかにしてしまいます。とし子の指示で身代金の受け渡し方法も決まり、百億円を積んだヘリコプターが飛び立ち、簡単に人が立ち入れないような吉野の山奥を迷走させられ、井狩は混乱する情報の中で、しだいにとし子の意思を感じるのでした。

犯罪のからくりを暴くという意味では、もちろん突っ込み所は無いわけではありませんが、それなりにうまくまとまっていて大きな破綻はありません。RAINBOW KIDSは、誘拐団をとし子が「虹の童子」と名付けた所からきています。

犯人の三人は、小悪党ですが根は素直でいい奴ら。資産家だけどとても優しさに溢れたとし子、その4人のこどもも遺産を狙うような嫌味な人間ではなく、誘拐された母を心配し、だけど少しでも出費を減らせないかと四苦八苦する。元女中のくら、現在の屋敷の関係者、ヘリコプターのパイロットすら、とし子の人柄を慕っていて、むしろ積極的にとし子の大冒険を応援するのです。

つまり、根っからの悪人は一人も出てこない犯罪ドラマで、テレビなどを通して見えていた北林谷栄の印象をそのまま集大成したような展開が楽しい。樹木希林も、晩年の人間味が傑出する前のとぼけたキャラが前面に出ていて懐かしい。硬派な役が多かった緒形拳も、実に珍しいやさしい刑事というのも楽しみの一つです。

2023年8月26日土曜日

しこふんじゃった (1992)

平成初めのスポ根映画。翌年、「Shall We ダンス?」でブレイクした周防正幸監督作品で、脚本も監督が担当しています。モッ君こと本木雅弘にとっても俳優稼業に自信を持った作品と言えそうです。

バブルな時代の大学4年生、山本秋平(本木雅弘)は適当に過ごしてきてコネで就職も内定。後は卒業するだけですが、卒論の指導教員の穴山教授(柄本明)とは会ったことも無い。元学生横綱でもある教授からは、単位が欲しければ廃部の危機にある相撲部に臨時入部する交換条件を出されます。

相撲部の唯一の部員、青木(竹中直人)は相撲は好きだがいまだかつて勝ったことは無く、部を存続するため4留している人物。相撲向きの田中(田口浩正)、秋平の弟で女子に人気の春雄(室井誠明)が加わるも、いきなり参加した大会で当然のボロ負け。

OBの熊田(六平直政)からさんざん罵倒された秋平は、おもわず「勝って見せる」と宣言してしまいます。大学院生の川村夏子(清水美沙)は、華奢なのに学生横綱だった穴山を尊敬しており、相撲部のためテレビの取材をセッティングして部員の気持ちを盛り上げます。

イギリスからの留学生でラグビー経験者であるジョージは、まわしの下にスパッツ着用を条件に参加。春雄目当てにかなり体格の良い間宮正子(梅本律子)も、マネージャーとして入部します。ところが、夏合宿で小学生に歯が立たず、さすがに部員たちは奮起するのです。

秋のリーグ戦が始まり、最下位の最下位の彼らは何と勝ち続けますが、春雄が骨折してしまいます。上位への入れ替え戦では、正子が男子に扮して参加し善戦するも・・・

相撲をエンターテイメントにするというアイデア自体は、とても斬新ですが難しそう。そこを学生相撲にすることで、スポ根として成立させたのは周防監督の功績。本木、竹中ありきで企画が進み、まさに二人ははまり役。

各種の映画賞を多数受賞し興行的にも成功した作品で、無条件に楽しめます。まだ若い俳優陣の在りし日の姿も懐かしさ満点です。

2023年8月25日金曜日

白ゆき姫殺人事件 (2014)

原作は「告白」で有名な湊かなえで、2011年に発表され、インターネットの拡大、特にSNS利用者の急増による情報拡散の怖さに早くから警笛を鳴らした作品。映画は、中村義洋監督、林民夫脚本の「ゴールデンスランバー(2010)」のコンビが担当しました。


長野県しぐれ谷で、めった刺しの上に焼かれた死体が見つかります。テレビのディレクターをしている赤星雄治(綾野剛)は、自分の行動やちょっと耳にしたことを四六時中ツイートするような生活。

化粧品会社で働く知人の狩野里沙子(蓮佛美沙)から電話があり、事件のことで警察に聞かれたことを赤星に話す。里沙子が、殺されたのは自分の指導を担当する先輩の三木典子(菜々緒)であること、典子は美人で仕事ができることなどを話すと、赤星は逐一ツイートにあげてしまう。

スクープになると考えた赤星は直接里沙子を取材すると、里沙子は典子の同期入社で地味な城野美姫(井上真央)が、仕事で差を付けられた上に彼氏を取られたせいで殺したのではないかと言い出すのです。事件の前日、先輩の送別会の帰り典子が城野の車に乗るところ、その後駅に走っていく城野が目撃されていました。城野は以来会社を休んでいて行方不明なのです。

里沙子の情報は、ほとんどが城野が指導担当をしている同期の満島栄美(小野恵令奈)からのまた聞き。そこで、赤星は次に満島を取材する。城野はふだんは物静かだが、急に過激な行動に走ることがあること、事件前日に典子の大事なペンが無くなった時にほくそえんでいたことを話し、城野が典子を車に乗せる口実を作るためにペンを盗んだと想像するのです。

赤星は次に篠山聡志係長(金子ノブアキ)を取材する。赤星が二人の交際について尋ねると、篠山は一方的に弁当を作って来ただけで薄気味悪かった、典子とは付き合っていたが別の彼氏ができて別れたと話します。

赤星が実名は伏せて取材状況をつぶやく。興味津々というのだけでなく、警察に通報しろよといったリツイートに混ざって典子が好きだった芹沢ブラザースというバンドの雅也が誰かに突き落とされ、音楽家として大事な手のケガをしたという情報も入り込んでくるのです。赤星は事件の現場に向かい、事件の核心に迫ったのは俺だけだとつぶやくのです。

赤星の取材をもとに再現VTRまで作り、ワイドショーで放送すると視聴率は上々。SNSでは、匿名であったにもかかわらず、瞬く間に城野美姫という実名が特定され、ツイートで情報を晒す赤星に対する非難も始まりました。城野の大学時代の親友、前谷みのり(谷村美月)はテレビ局へ講義する。


赤星は城野の故郷に取材する。同級生たちや近所の人々は、城野が放火騒ぎを起こしたかもしれないとか、呪いの力があるようだなどと話すのです。小学生の時いじめられていた夕子(貫地谷しほり)は、城野だけが自分のともだちだったと話しますが、昔の記憶は自分が都合が良い事しか話さないものだと赤星に釘を刺します。

ワイドショー第2弾。番組では匿名のままであったが、犯人は魔女のような女性という印象付けるような編集でした。その頃、ビジネスホテルに隠れていた城野美姫本人は、どんどん膨らんでいく自分の「情報」を呆然と眺めていました。そして、本当の自分をノートに書き留めるのです。

テレビやSNSで言われていることは、全部自分に都合が良いように作り替えられた話であって、三木典子は陰で自分への嫌がらせをしていたこと、付き合いだしたばかりの篠山を横取りしたことを書き留める。芹沢ブラザースの音楽だけが心のよりどころでしたが、それを知った典子は伝手を使い芹沢プラザースの雅也に近づいて、篠山を簡単に捨ててしまうのです。

典子は事件前日、芹沢ブラザースのコンサートのチケットを城野にあげるというのですが、翌日になるとやっぱりやめたという。典子に厳しくされていた狩野里沙子は、それを知ってうまくチケットを横取りする方法を城野に教えるのです。城野は寝てしまった典子からチケットを盗み、急いで駅に行ったのでした。事件が起こったのはその後だったのです。

まさに、インターネット上の情報の信憑性の問題。無責任なつぶやき・・・はっきり言って、ほぼすべてがそうだと言っても過言ではありません。他人の事を何の根拠もなく糾弾するが、自分がその責任を取ることは無いという現代社会の構図が描かれています。

まさに自分を含む現代人が、いつでも自分が起こすかもしれない、自分が巻き込まれるかもしれない展開です。登場人物の誰かは、まさに自分の鏡のような存在なのかもしれません。

2023年8月24日木曜日

甲子園


昨日は、甲子園球場で真夏の風物詩となっている、全国高等学校野球選手権大会の決勝戦が行われました。すでにご存じとは思いますが、慶應義塾高校が連覇を狙う仙台育英高校を8-2で下し優勝しました。

神奈川県代表の慶應高校は、大正5年(1916年)以来という107年ぶりの優勝ということです。地元は横浜市港北区日吉で、自分の関係する都筑区の隣の区。まぁ、ほぼ地元と言っておいて怒られないと思います。

予選会決勝では野球の名門、横浜高校に買って甲子園の切符を手に入れましたが、決勝戦では慶應に有利な判定があったのではないかと疑惑の眼差しで見られました。

本大会中でも、坊主頭ではない高校球児と誹謗され、メディアもやたらの慶應ばかりを持ち上げすぎと非難されてきました。

いろいろな事を跳ねのけ、いろいろなもやもやはすべて吹き飛ばして、誰からも文句の出ない完璧な勝利です。おめでとう、慶応高校。お疲れさまでした。

ところで、決勝戦が始まったのは午後2時。熱中症で倒れる選手も出ていた大会ですから、こんな暑さの真っ盛りの時間帯に試合を予定した大会本部は、選手だけでなく応援する方々の健康をもっと留意すべきなのかなと思いました。

2023年8月23日水曜日

秘密 THE TOP SECRET (2016)

清水玲子によるマンガが原作で、近未来の科学捜査をテーマにした作品。映画は「るろうに剣心」実写化の大友啓史が監督。原作では舞台は2060年ですが、映画の時間軸はほぼ現代。科学警察研究所法医第9研究室(通称、第9)が存在し、MRI捜査が行われていました。

MRI(Momory Reproducting Imagingsystem)は、死後10時間以内であれば脳内に残る記憶の電気信号を映像化して取り出すことができる技術のこと。殺人事件の被害者が最後に見た映像を再構築することで、犯人が判明することを目的とします。

まず、基本的にこのシステムの存在を肯定しないと話が進まないわけです。少なくとも現代医学では荒唐無稽。可能だとしても、どのように解析できるのかは作者の想像でしかありません。映画では実際に俳優がヘルメット型カメラを装着して、超主観的映像を「らしく」見せてくれます。

MRIは遺体の脳を露出し、多くの電極のついたヘルメットを被せ取り出した記憶信号を室員が別室で疑似体験するような仕組み。検者の受ける精神的重圧が強く、過去に記憶情報を見た鈴木克洋(松坂桃李)は発狂して自殺しています。

第9の若き室長、薪剛(生田斗真)は、プロファイラーとしての能力が高い青木一行(岡田将生)を新しいメンバーに加えます。そして、青木に一家惨殺事件の犯人として死刑が執行されたばかりの露口浩一(椎名桔平)のMRIを命じます。犯罪事実の確認と一家で一人だけ行方不明になっている長女の絹子(織田梨沙)の行方の手がかりを探すはずが、何と取り出した記憶から、犯人は絹子であり、浩一は娘の身代わりであったがわかります。

父親に気がつかれているのを知ったうえで、絹子は家に何人もの男を引き込むサイコパスと考えられ、今も生存して新たな犯罪に手を染める可能性が高いと考えられましたが、主観的な脳内映像は証拠にできず、またそれを認めると誤認逮捕が発覚することから上層部は公にすることは拒否します。

その直後、3年間行方不明だった絹子が姿を現します。記憶喪失で何も覚えていないという絹子は、薪や青木から真犯人と指摘されても、まったく平然としているのでした。第9から表立って動きがとれないため、昔ながらの剛腕刑事である眞鍋(大森南朋)に、絹子が関係した男たちの所在を調べるように依頼します。

彼らの一人が自殺し、MRIを行うと28人連続殺人事件の犯人、貝沼清孝(吉川晃司)による洗脳が自殺の原因と判明します。そして、絹子も貝沼と関係がありそうだと考えた薪は、ついに自殺した鈴木の凍結保存された遺体から脳内映像を見る決断をするのでした。

実は、逮捕され拘置所内で自殺した貝沼の脳内映像を見た鈴木は、貝沼の脳を銃で吹き飛ばし、薪に自分の脳を打ち抜くよう迫り、もみ合っているうちに薪が射殺してしまったのでした。それは貝沼の情報の中に薪には見せられない何かがあるということ、そしてそれが一連の事件に関係していると考えられたのです。

正直、ちょっとよくわからない映画でした。原作のマンガ(かなり長くて複雑らしい)をしっかり読み込んでないと、どうしてこのような展開になるのかがよくわからないのかもしれません。かなり重要そうな貝沼の事件だけでも謎が多いのに、絹子絡みでストーリーが進むので消化不良になってしまいます。

リリー・フランキーが精神科医としてちょっちだけ登場しますが、これも薪らの診療をしているようなのですが、やたらとエキセントリックで暴力的な描写で演出の意図がまったく伝わらない。映画のオリジナルシャラである眞鍋刑事も、どう見ても昭和の警察官だし、捜査へののめり込み方も違和感を感じます。

記憶による脳内映像という、ある意味究極の「個人情報」が見れるということは、倫理的な問題と共に、検査をする側に過大な精神的負担をかけることは話の前提として認めることはできるのですが、そこまで科学捜査が進歩しても結局は物的証拠の中でしか事件が解決しないというのは残念なところ。大友サンの映画なので期待し過ぎたのがいけないのかもしれません。

2023年8月22日火曜日

人間の証明 (1977)

角川春樹が映画界に参入した角川映画の第2作。1作目の「犬神家の一族」の成功に後押しされ、ここでも元祖メディア・ミックス作戦が功をせいし映画として大ヒット。原作者の森村誠一も、一躍著名推理小説家として認知されることになります。

ニューヨークの空撮から始まり、製作者の気概が最初から現れています。一転して、日本。人気デザイナーの八杉恭子(岡田茉莉子)による華やかなファッションショーが開かれていたホテルのエレベーター内で、ニューヨークのハーレムから数日前に来たばかりの黒人の若者、ジョニー・ヘイワード(ジョー山中)は、古びた西城八十詩集を落として倒れ込み、そのまま「ストウハ」と言い遺して亡くなるのです。胸にはナイフが刺さっていました。

警視庁捜査一課と麹町署は、那須主任(鶴田浩二)のもとすぐさま捜査を開始。ホテル近くの公園の草むらが事件の発生現場と考えられ、血痕と共に古い麦わら帽子が発見されます。棟居刑事(松田優作)は、ストウハは麦わら帽子(straw hat)のこと、そしてホテルを見上げると最上階の回転棟の照明が麦わら帽子に見えること気がつきます。

その頃、会社役員の新見(夏八木勲)とショーの楽しんだ、新見の愛人、なおみ(范文雀)は帰り道で暴走車に轢かれ死亡します。運転していたのは八杉恭子の息子の郡恭平(岩城滉一)で、遺体を海に捨ててしまいます。しかし、現場に特徴的な懐中時計を落としてしまい、戻ってきた新見に拾われてしまいます。新見は、独自の調査で時計が恭平のものであることを突き止めます。恭子は恭平をニューヨークに逃亡させるのでした。 

ニューヨークの刑事、ケン・シュフタン(ジョージ・ケネディ)は、インターポールの依頼でヘイワードの調査を始めます。シュフタンは、ヘイワードがどこに行くのかと尋ねられ嬉しそうに「キスミー、ママ」と答えたこと、父親のウィルシャーが当たり屋をして渡航費用を工面したこと、ウィルシャーが進駐軍で日本にいたことなどが判明します。

棟居は、西城八十詩集のなかにある母親を思う「ぼくの帽子」に注目し、そこへ登場する霧積温泉が「キスミー」であることを見つけます。棟居は横渡刑事(ハナ肇)を伴い霧積に向かい、旅館の中居をしていた中山タネが、戦後間もなく進駐軍の黒人兵と日本女性と彼らの子の三人連れを見たらしいという話を聞き込み、タネに会いに行きますが、入れ違いでタネは殺されていました。

戦後の混乱期にタネが横須賀で水商売をしていた時、その店で働いていた一人が八杉恭子でした。そして棟居も当時、進駐軍に襲われた恭子を助けた父親が、暴行され亡くした過去を背負っていたのです。棟居は直接、恭子にあなたがヘイワードの母親であり、ヘイワードを殺した犯人だろうと問い詰めますが、まったく表情に変化はない。ところが、咄嗟に横渡が西城八十の詩を口にすると、恭子は驚きの表情を見せます。

ヘイワードの父親から直接母親が誰か聞き出すしかないと考えた棟居はニューヨークに行き、シュフタンの協力で父親を発見します。そして、逃亡していた恭平も発見し追跡しますが、拳銃を向けたためシュフタンに射殺されてしまいました。シュフタンの腕の入れ墨は、棟居の父を暴行した進駐軍兵士の一人と同じでした。棟居は、鏡に写るシュフタンに向け銃を発射するのでした。

これは自分が高校生の時随分と話題になり、西城八十の詩も暗誦できるほどになっていました。もちろん原作も読みましたが、その後は映画も原作もそれほど高い評価はされていないように思います。実際、あらためて見ても少なくとも映画に関しては傑作とは言い難いように思います。

 母さん、僕のあの帽子、どうしたんでせうね?
 ええ、夏、碓氷(うすい)から霧積(きりづみ)へゆくみちで、
 谷底へ落としたあの麦わら帽子ですよ。

 母さん、あれは好きな帽子でしたよ、
 僕はあのときずいぶんくやしかった、
 だけど、いきなり風が吹いてきたもんだから。 
 
 以下省略 西城八十「僕の帽子」より 

少なくとも、詩人・西城八十という名前を後世に残す要因の一つになったことは間違いないと思います。監督は東映でアクション中心に活躍した佐藤純彌、台本は松山善三という強力な布陣で、出演陣も今から思えば豪華そのもの。

何しろ、共演者は夏八木勲、和田浩二、峰岸徹、地井武男、鈴木端積、大滝秀治、北林谷栄、竹下景子、坂口良子、ジャネット八田、高沢順子、西川峰子、佐藤蛾次郎、室田日出夫、小林稔侍、鈴木ヒロミツ、NY警察署長はアカデミー主演男優賞を取っているプロデリック・クロフォードです。そして極めつけは、八杉恭子の夫に三船敏郎というから凄すぎる。

さすがにお金をかけた話題作りに関しては、さすがの角川春樹というところですが、推理物としてはトリックもアリバイも無く、動機の解明だけに絞られたストーリーが物足りない。この映画の時点で戦後30年、自分も含めい「戦争を知らないこどもたち」が多数派になってきた頃ですから、戦後の混乱期の闇市、進駐軍などの話の基盤が弱くなってきています。

タイトルの意味については、恭子の「罪をどうやって背負って生きていくかが人間としての証」だと言う台詞によって説明されますが、ただその罪は償われて初めて証として意味を持つように思います。恭子にしても、恭平にしても罪から逃げるためにさらに罪を重ねているわけで、証の方向性を誤りあまり説得力があるとは言い難い。

2023年8月21日月曜日

チア☆ダン (2017)

チアダンスはチアリーディングを芸術性の高いスポーツに特化し、笑顔重視でエンターテイメント性を追求するもの。そういう意味では、この映画は青春スポーツ根性コメディなんですが、何しろ実話をもとにしているというのがポイント。

2006年に創部された福井県立福井商業高等学校のチアリーダー部は、2009年に本場アメリカで行われた選手権に出場し何と優勝したというのが事実。しかも、その後2016年までに6回の優秀を誇ると言うから凄すぎる話。タイトルは正式には「チア☆ダン〜女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話〜」という長い物になっています。

監督は河合勇人、脚本は林民夫。主演の広瀬すずにとっては、「ちはやふる」に続く似たテイストの映画で、ある意味青春弾ける感じは最も得意ジャンルなのかもしれません。基本的に最終的には優勝してしまうことがわかっていることなので、その分どうなるかというハラハラドキドキ感は低くなってしまいます。その代わり、一番の見所は若手の女優陣が数か月の特訓でどこまで優勝レベルのチアダンスを習得するかというところ。

高校に入学した友永ひかり(広瀬すず)は、中学の友人、サッカー少年の山下孝介(真剣佑)を応援したいという理由でチアダンス部に入部します。ところが、顧問の早乙女薫子先生(天海祐希)は、超スパルタで口癖が「地獄におちるわよ」となると、どんどん部員は脱落し、入部したてなのに部員は1年生だけという事態。

経験者の玉置彩乃(中条あやみ)が部長になり、ストリートダンスの得意な紀藤唯(山崎紘奈)、クラシックバレエ経験者の村上麗華(柳ゆり菜)以外は、まったく素人同然の集まり。家庭環境が複雑でポッチャリの東多恵子(富田望生)、オタク系でノー天気な永井あゆみ(福原遥)、そしてひかりらは毎日悲鳴をあげるしかない。

しかし、彩乃のリーダーシップで何とか持ちこたえ、翌年初めての県の競技会に出場します。当然最低の結果で、気位の高い麗華は下手糞に足を引っ張られるのは御免だと部を去ってしまいます。しかし、ひかりはこうなったらあきらめたくないと、一度バラバラになった部員を一人一人説得して回る。2年生になって部員が増え、有望な後輩も入ってきましたが、翌年の大会も成果が出せません。

学校では廃部も検討され始めますが、早乙女先生の熱心さにひかりらも校長室に押し掛け、ついにアメリカでの優勝宣言をしてしまいます。そして、高校生最後の全国大会を勝ち抜き、ついにアメリカに渡ることができました。

予選では緊張もあって実力が発揮できないチームに対して、早乙女先生はずっとセンターで踊っていた彩乃をはずし、ひかりとセンターを入れ替えることを決めます。彩乃のショックは大きく、ひかりも先生を軽蔑すると怒ります。

しかし、早乙女先生がどれだけの想いであえて厳しく自分たちに接しているのかを知り、自分たちが何を目標にしているのか、どこで踊ろうと全員が一丸となれば同じことだと気がつき、本選では最高のパフォーマンスを見せて審査員・観客の度肝を抜くのでした。

というわけで、難しいことはいりません。無条件に女子高校生の青春パワー爆発を楽しめば良い映画です。素人目に見てもチアダンスもなかなかのものを披露していて、優勝レベルかどうかはともかく、相当練習を積んだのだろうと納得の演技です。

部員中心の話が進み、個性強烈なはずの早乙女先生の活躍があまり無いのがちょっと寂しいところですが、2時間の映画で3年間の成長を描くのでいたしかたがないところ。また福井弁(らしい)の方言全開の台詞回しも楽しいポイントです。映画が好評だったため、後にテレビ・ドラマ版も制作されました。

2023年8月20日日曜日

ウォーターボーイズ (2001)

監督の矢口史靖は、21歳から自主製作の映画作りを始めて、1993年、26歳で劇場作デヴュー。当初から脚本も自ら作りこだわりの世界を映像化していましたが、世間に名前が知れるのはこの作品が最初。

埼玉県立川越高校の水泳部が、1988年から文化祭の演目として男子シンクロナイズドスイミングの公演を行っていました。それがテレビで紹介されことが映画化のきっかけ。映画のヒットにより、2003年にはテレビドラマ化もされました。

舞台は静岡の男子校、唯野高校。水泳部は3年生の鈴木智(妻夫木聡)ただ一人で廃部寸前。そこへ新任教師として美人の佐久間恵(眞鍋かをり)が赴任し、水泳部の顧問になり部員は急増。ところが、恵が文化祭でシンクロナイズドスイミングをやると言い出したことで、鈴木以外は中途半端な元バスケ部員の佐藤勝正(玉木宏)、マッチョになりたいダンス少年の太田祐一(三浦哲郁)、泳げないことがコンプレックスのガリ勉野郎の金沢孝志(近藤公園)、女の子っぽい早乙女聖(金子貴俊)だけが残ります。

ところが、恵は妊娠が発覚してさっさと去ってしまいます。しかも、例年プールはバスケ部が釣り堀に使っていて、放流された魚を全部回収したらプールが使えることになりますが、水を抜いて魚を全滅させてしまうのです。

途方に暮れていた鈴木は、桜木女子高の空手少女、木内静子(平山綾)と予備校で知り合い一目惚れ。静子と水族館に出かけて、魚たちの動きに魅了されてしまいます。イルカの調教をしていた魚屋の磯村(竹中直人)にシンクロを教えて欲しいと頼み込みます。

しかし、磯村は水族館の雑用をさんざんやらせるだけ。ところが、魚の動きを観察し、掃除で筋力がつき、ゲーセンのダンスでリズム感を鍛えた彼らはみるみる上達していくのです。プールが使えない彼らが海で練習していると、溺れていると勘違いされニュースに流れてしまう。急に注目されることになり、部員も戻りプールも使用できることになるのです。

いよいよ明日が文化祭という時、唯野高校でボヤ騒ぎが起こり、何と消火のためプールの水の大半が使われてしまいました。同じ日に文化祭を行なう桜木女子高の計らいで、桜木女子高のプールが使えることになり、部員たちは大喜び。しかし、鈴木は静子にシンクロのことを話していなかった・・・

もう話はよく知られているので、とやかく言う必要はありません。90分という比較的短い映画ですが、必要十分な台詞と映像でスピード感重視で飽きさせません。矢口監督の笑いのセンスの良さはすでに覚醒している感じです。

1999年デヴューの妻夫木は、これが二十歳で映画初主演。同じく二十歳の玉木も映画は2作目。金子もまだまだ駆け出し。これは、シンクロの練習に時間がかかるため、人気俳優のスケジュールをおさえられなかったためで、かえって若手の未熟な活躍が素人シンクロらしい魅力になりました。一緒になって応援したくなる雰囲気が、自然に盛り上がっていきます。

2023年8月19日土曜日

人魚の眠る家 (2018)

東野圭吾が書いた、犯罪に絡むサスペンスではなく、極めてセンシティブな社会問題がテーマの小説が原作。監督は多くのヒット作を手掛けてきた堤幸彦。

播磨薫子(篠原涼子)は、ロボット工学の会社の社長で仕事人間で家庭を顧みない夫の和昌(西島秀俊)とは別居。瑞穂(稲垣来泉)と生人(斎藤汰鷹)の二人のこどもの成長だけが生きがい。ある日、薫子と和昌が小学校受験の面接予行演習をしている際中に、祖母(松坂慶子)らとプールに遊びに行った瑞穂が溺れ脳死に陥ってしまう。

医師から臓器移植の意思を尋ねられ、二人は脳死と心臓死の究極の選択を迫られるのです。そして脳死を受け入れ臓器移植を了承しますが、薫子はわずかに指が動いたところを見たことで一転して拒否するのです。和昌は会社の研究員である星野(坂口健太郎)の意見から、瑞穂に横隔膜ペースメーカーを埋め込みます。「呼吸」するようになった瑞穂は人工呼吸器がはずれ、薫子は在宅看護を決意します。

横隔膜が動くことで代謝が改善されたと聞いた和昌は、星野の脊髄への電気刺激による筋肉運動のコントロールの研究を利用する。もともと研究熱心な星野は、瑞穂の体を動かすことにどんどん深入りしていき、恋人の川嶋真緒(川栄李奈)とも気まずくなっていくのです。

和昌もはじめはどんどん動きがよくなっていくこと喜んでいましたが、薫子が機械を操作して笑い顔を作るところを見て衝撃を受けるのです。和昌は星野に、自分の意思と関係なく笑い顔を作るような研究を終わらせるように進言しますが、星野は自分が動かして成長させていることに嫉妬していると拒否するのです。

薫子は瑞穂が生きていることを信じ続け、周囲にもそれを認めさせようと精神的に追い詰められていく。しかし、小学生になった生人は「死んでいる」姉を理解しはじめる。和昌は、街頭で心臓移植のための募金に寄付をしたことで、薫子から「あなたも死んでいると思っている。臓器移植を承諾しなかった罪悪感で募金した」となじられるのです。

そして、生人の誕生会。家族全員が揃い、生人の友人の到着を待ちますが、誰も来ない。生人は死んでいる姉に会わせたくないといい、薫子は生人に手を挙げたため和昌はついに薫子を平手打ちしてしまいます。逆上した薫子は、包丁を持ち出し瑞穂に向けるのでした。

脳死とは、大脳・小脳・脳幹部がすべて組織として機能せず、自分の意思を表明したり体を動かすことは一切無くなった状態の事。植物状態と似ていますが、植物状態は少なくとも脳幹部が生きていて自発的な呼吸が可能です。心臓そのものは、心臓自体に拍動するための信号の発火点があり、条件が揃えば脳死でも動き続けるのです。

法律上は、死は明確な定義はされていませんが、心停止、自発呼吸の停止、そして瞳孔反射の消失を医師が行う「死亡確認」をもって人の死とされています。自発呼吸の停止は脳幹部の死、瞳孔反射消失は脳の死を意味しています。医学の進歩により、心肺機能を維持する機器・薬品が充実し「延命」が可能となったことで「脳死」という概念が登場しました。

自分も医者のはしくれですから、死亡確認は何度も行いました。理屈としては脳死が人としての死であるということは理解していますが、心拍の消失も死亡確認に含まれますから、どうしても「心臓死」を捨てきるというのは難しさを感じます。

ましてや、一般の方が脳死を人としての死と受け入れることはさらに難しい。そこに臓器移植の問題が絡むと、話はさらに複雑になります。移植臓器は心停止後、できるだけ早くに摘出する必要があります。つまり、積極的な心臓死を人為的に起こすことになります。ですから、脳死判定は大変厳密に行われ、その基準も従来の死亡確認よりも複雑です。

日本では2009年に臓器移植法が成立したことで、「脳死は人の死」であると法律的にも認められていますが、6歳未満については脳死判定の難しさ、家族の心情などによりなかなか臓器提供が行われていないのが現実です。

包丁を振り上げた薫子は、「瑞穂がすでに死んでいるなら、刺しても罪に問われない。殺人罪になるなら、瑞穂が生きていることを証明出来きる」と叫ぶのです。まさに法律的な解釈が明確化されていないことを、映像を通して明確に突きつけるのです。世の中には、このような境遇にいる家族は必ずいるでしょうから、映画の話としてはフィクションだとしても、現実に究極の選択を迫られる可能性は誰にでもありうることです。

第三者として見れば、脳死を受け入れ臓器提供した方がより多くの命に役に立つのですから、薫子の心情はこどもへの執着でしかない。和昌がしだいに疑問を感じていくことの方が共感しやすい。しかし、映画では、出来るだけ薫子の視点から話を展開することで、映画を見る者にそれが自分のこどもだったらということを忘れないように釘をさしているように思います。

映画として大変重たいテーマですので、ずっと暗さが目立ちます。しかし、少なくとも最後の最後にどのような選択をしたとしても、登場人物それぞれの選択に誤りは無かったと思わせるある種の救いを残したことは正しいエンディングなのかなと思いました。「人魚」は瑞穂を象徴していることは明らかで、水の事故から始まり生きているのか死んでいるのかわからない存在としてタイトルに使われたのだろうと思います。

2023年8月18日金曜日

ナミヤ雑貨店の奇蹟 (2017)

人気のミステリー作家、東野圭吾の小説の映画化です。ですが、こんな話も作るんですか、と驚きます。ミステリーというよりファンタジー。東野調の人間物語をより温かくさわやかな後味。

矢口敦也(山田涼介)、小林翔太(村上虹郎)、麻生幸平(寛一郎)の三人はコソ泥をして逃げる途中で、古い商店街の入り口にある今は空き家となっているナミヤ雑貨店に朝まで隠れることにしました。すると、降りたシャッターの郵便受けから急に手紙が落とされたのです。

三人は、ここはやばいと思い外に出ますが、どんなに走っても再びナミヤ雑貨店の前に戻ってきてしまうのでした。しかたがなく手紙を開封すると、差出人は魚屋ミュージシャン(林遣都)とあり、稼業の魚屋を継がず大学も辞めて東京で音楽活動をしているがこのままでいいのだろうか、という相談が書かれていました。

店内にあった古い雑誌を見ると、ナミヤ雑貨店の店主、浪矢雄治(西田敏行)は小さい物から大事まで様々な町の人々の悩み相談を受けていたらしい。簡単な相談は店の前の掲示板に回答を貼り出し、特に深刻なものについては横の牛乳瓶受けの箱に入れるようにしていました。翔太と幸平はこんなときでないと人の相談になんてのることは無いからと、返事を書くのでした。

魚屋ミュージシャンは、一度曲を聞いてほしいとシャッターの前でハーモニカで自作の曲を演奏します。それを聞いた三人は、その曲が歌手の水原セリ(門脇麦)が恩人の曲だと紹介していたものだと気がつくのです。セリは弟と二人で児童養護施設の丸光園で育ち、丸光園が火事になった時弟を助けて身代わりに亡くなったのが魚屋ミュージシャンだったのです。

ある時、雄治が受け取った相談は、不倫でできたこどもをどうすれば良いかというものでした。しばらくして、雄治は相談者が生まれたばかりの女の子を道連れにして自動車で海に転落して亡くなったという新聞記事を見つけます。雄治は余命3ヵ月で入院していましたが、自分の無責任な回答によって、他人の人生を不幸にしたと悩み、息子の貴之(萩原聖人)に頼んで、店に戻ってみるのです。

店には雄治の昔の恋人だった皆月暁子(成海璃子)の姿があり、そして次から次へとかつて悩みを相談した人々からの手紙がが郵便受けに入って来るのでした。暁子は丸光園の創設者で、二人は「未来からの手紙」によって楽しい時を過ごすのです。実は雄治の三十三回忌に、雄治の遺志により貴之が1日限りでその後の人生がどうだったかの回答を募集したのです。

その中に、母親が不倫して生まれたこどもからの手紙がありました。事故で助かった彼女は、丸光園に引き取られたのです。高校生の頃、母親の事故の新聞記事を見つけショックを受けますが、一緒に育ったセリが園長から預かったという雄治の返事に勇気づけられたと言うのでした。そして、最後に郵便受けに落とされた手紙は白紙でした。

次に三人が受け取った手紙は、クラブで働く田村晴美(尾野真千子)からのものでした。晴美は丸光園で育ち、身寄りのない自分を育ててくれた人に恩返しするため客の愛人になるか迷っているというものでした。敦也は「過去からの手紙」を受け取っていることに気がつき、表に回って白紙の手紙を郵便受けに入れてみますが、中にいた翔太と幸平は白紙の手紙は入って来なかったというのでした。

以下は結末です。



今度は敦也が、晴美へ地道に働くことを勧める返事が書きます。そして、80年代以降のバブル景気とその崩壊を下敷きに経済を勉強するように勧めます。晴美は事業が成功し、丸光園にも多くの協力をします。しかし、現在の園長は、補助金を横領し、丸光園を売却しようとしていました。実は三人も丸光園の出身者で、丸光園を晴美が潰そうとしていると勘違いして晴美の自宅を襲っていたのです。

全てが丸光園とつながっていることに気がついた三人は、自分たちが襲ったのが晴美であったことに気がつき、夜が明けて自分たちの過ちを認めるため晴美の元に戻ることにします。敦也は、雑貨店を出る時にふと牛乳瓶受けをのぞくと手紙がありました。それは雄治からのもので、白紙の手紙の主に対する物でした。その手紙の内容は・・・最後に難題の相談を貰いました。白紙は自分の道が見えていないあなたの心を反映しているけど、あなたの未来は白紙ですから、可能性は無限です・・・


こうしてあらすじを整理しても、いろいろな時代が錯綜する構成はなかなか理解しにくいところがありますが、意外とその不思議な時間の流れが自然に受け入れられるような気がします。

ただし、この映画を見て良しとするのか否とするのかは、シャッターの郵便受けの外と中で時間軸が異なることの理解ができるかにかかっています。当然、現代の若者である三人は、最初どういうことなのか理解できず、返事を書くのも退屈しのぎ的なお遊びにすぎません。

しかし、魚屋ミュージシャンの歌が、自分たちが知っている曲で、なおかつその作者は火事で亡くなっていることから、しだいにこの現象を事実として受け入れていくようになります。ただし、このあたりの描写が簡単過ぎるかもしれません。

監督は廣木隆一で、ポルノ映画出身で恋愛物を得意とする多作の監督。1980年の商店街という設定ですが、ちょっと街並みが古臭い。どちらかというと60~70年代前半で、けっこう違和感がある。それでも、かなり大掛かりな昭和のセットを用意したことには拍手しておきたい。

西田敏行、尾野真千子らの好演は当然のことながら、やはりここでも山田涼介の演技力には感心させられます。ジゃニーズ系タレントの中では、木村拓哉、二宮和也に次ぐ三強と評価しておきたいと思います。

2023年8月17日木曜日

春を背負って (2014)

かつて黒澤明監督の懐刀、撮影に困ると大作を呼べと言わしめた木村大作撮影監督が、自ら監督した二つ目の作品。原作は笹本稜平の短編小説で奥秩父を舞台にしていますが、映画ではより絵になる景色を求めて立山連峰の大汝山で1年をかけて撮影されました。

東京でトレーダーをしている長嶺亨(松山ケンイチ)は、立山で山小屋を営む父、勇夫(小林薫)が遭難者を助けて身代わりに亡くなったと麓で民宿をしている母、菫(檀ふみ)から連絡を受けます。久しぶりに実家に戻った亨は、まだ雪深い山小屋、菫小屋に母、去年から小屋と民宿を手伝う高澤愛(蒼井優)らと登ります。

亨は小屋を引き継ぐ決心をし、東京を引き払うのです。大量の必要物資を歩荷で小屋に向かう亨は、同じように荷物を背負う多田悟郎(豊川悦司)に追いつかれ、一歩一歩自分の脚で普通に登ればいいと、かつて勇夫が言った言葉と同じことを言われるのです。勇夫の大学時代の山岳部の後輩である悟郎は、勇夫が夢枕に出て、亨が一人前になるまで頼むといわれたから、しばらくいるんで気にするなと言う。

夏山の登山シーズンとなり、小屋を開くと大勢の登山客がやって来て、亨は朝早くから夜遅くまで慣れない仕事をこなしていきます。遭難しそうになる人を助けたかと思うと、通称「大飯くん」も悪天候の中出発し滑落してしまうのです。出発を止められなかった亨は落ち込みます。

ふだんは明るく振る舞う愛でしたが、家族を失い心の隙間を埋めるため立山に来て動けなくなったところを勇夫に助けられたと話す。悟郎は、愛は背負ってきた重たい荷物の一つをおろそうとしている、そして菫小屋からたくさんの酸素を貰ったと言うのです。

いよいよ冬が近づき、小屋を閉める日。悟郎が脳梗塞を起こし、救助隊を待っているのでは助からないと考えた亨は、悟郎を背負って下山することを決意します。病院で悟郎は、亨がまだ半人前だから勇夫から帰されたと話します。

翌年、春が来て、再び小屋を開く準備に忙しくしている亨、愛、菫のもとに悟郎が帰ってきました。やっぱり、人との触れ合いが大事だしここが一番落ち着く場所だと話すのです。亨と愛も自分の居場所がはっきりとわかりました。

木村大作は名カメラマンで、監督兼撮影を担当し、いつもながら本当に見事なヴィジュアルを堪能させてもらえます。ただ、木村作品は、美しい景色に主役を持っていかれてしまう傾向が否定できないところ。しかし、この作品は、それぞれの登場人物の人間像が台詞として語られ過ぎず、映像の中で少しずつ積み上げられていく感じが映画的で心地よい。

物凄く大きなことを言わんとしているわけではなく、ほのぼのとしたエピソードの積み重ねではありますが、東京の生活を無味乾燥の物として描くわけではなく、大自然の中でより大きな価値を見つけることで主人公の成長を見守っている感じがします。

また、出てくる人物が一人も悪い人がいないというのも気持ちよい。山に関わる人々には、皆で助け合うという暗黙の不文律が自然と芽生えて、それが家族として固まっていくということ。そして、父から受け継ぐもの、父を越えていくものとは何だろうと考えさせられました。木村大作監督3作品に中では、文句なしに一番の傑作として推したいと思います。

2023年8月16日水曜日

麺とび六方 @ 茅野


気楽にラーメン食べようか、行ったことない店でいいんじゃない、ほんじゃここでいいか。

そんな感じで店に入って驚いた。

カウンターの上の壁に、「野菜と麺の天地返し」という張り紙があって、も、も、も、もしかして、ここはいわゆる二郎系と言われる店なのか。

二郎系というと、極太麺にてんこ盛のもやし、にんにくたっぷりみたいな感じだと思いのですが、今までその量に恐れおののいて挑戦したことがない。

何の考えもなく辛味噌(辛さ普通)の食券を渡してましたが、運ばれてきたがこれ。

スープは魚粉たっぷりの味噌スープ。脇に大量のラー油でしょうか、いかにも辛そうな見た目。

下の方から、麺を顔出させるのにけっこう力が必要。出てきた麺はまさに極太。洋食屋のナポリタンくらいの太さがあります。

味は悪くない。けっこう好きな感じ。ただ、やはり危惧した通り、全体の量が多くて、とにかく麺ともやしを食べるので精一杯。とてもスープを飲み干すとかムリムリ。

やはり、どんな店か事前の調査は必要ということでした。

2023年8月15日火曜日

Cafe La Boheme @ 自由が丘


ラ・ボエムは、主として都内を中心に展開するイタリア料理のチェーン店で、横浜だと中華街にもあります。

最初に水にしますか、それとも炭酸水にしますかと聞かれるので、絶対に炭酸水がお勧め。ちょっと何かのフルーツの甘味のような味で、めちゃくちゃに美味しい。アルコールを飲まない場合は、これだけで十分です。

ピッツァは、焼き窯が用意してあるのでその場で焼いています。ただし、おそらく生地はすでにできている冷凍物かもしれません。

リゾツトは明らかに、生米から煮るのに必要な時間より早くに出てきました。米は日本米で、おそらく半分できた状態の冷凍だと思いますが、かすかに芯が残る出来具合はまったく問題ありません。

パスタはカルボナーラを頼んでみました。

コショウが少な目で、パンチェッタが塩味が強めですが、カルボナーラ・ソースは大変美味しい。パスタの茹でかげんもOKだと思います。

冷製カルボナーラもあるみたいですが、普通のパスタを食べつくした方が試すのが良いと思います。

2023年8月14日月曜日

自動運転


まぁ、トヨタは日産と違って自動運転については、あまり積極的に宣伝しませんが、少なくとも5年前くらい前からほぼ実用的なシステムが車に搭載されています。

こちらももう若くないので、こういう楽できる機能は嬉しい。使えるところでは積極的に使ってしまいます。

初期にはクルーズ・コントロールと言って、スピードを一定に保つ機能だけでしたが、アクセルから足を離せます。これだけでも、長い高速の運転は楽でした。

その後、衝突回避のレーダー・システムが実装され、前車との距離によって自動でスピードが変化するようになり、必要であれば停止します。

それとは別にLTA(レーン・トレーシング・アシスト)という機能もあって、車線がはっきり認識できる場合には、その真ん中に車体を保ってくれるというもの。もっとも、急カーブではダメですけど。

これらが、まとまると・・・そうです。自動運転です。

アクセルから足を話してもOK。ハンドルから手を離すのもOK。

とは言っても、ハンドルから手を離すのは、ちょっと勇気がいります。それでも、周囲に車がいない、ほぼ真っ直ぐの道だと・・・離しちゃった!!

そしたら、数十秒後に車から警告が出た。「ハンドルを保持してください」と怒られた。写真は、自分で撮るわけにはいかないので、横から撮ってもらったのでピンボケですみません。

さすがに、危険回避のため、少なくともハンドルに手を乗せておけということのようです。

2023年8月13日日曜日

クリニックは夏休み中


クリニックもお盆の夏休み期間に入っています。

台風の進路が心配ですが、みなさんコロナ禍からの行動制限が解除され、何年振りというような帰省や旅行を楽しもうと思っていることでしょう。

水を差すわけではありませんが、いろいろなところに危険は転がっていて、事故に遭うことも無いわけではありません。

特に、天候が心配ですから、くれぐれも無理はしないことが肝心。せっかくだからと頑張りすぎると、思ってもみないアクシデントが待っていたりします。

くれぐれも注意して、楽しい休みを満喫してもらいたいものだと思います。

 

2023年8月12日土曜日

蟷螂


カマキリです。

暦には、蟷螂生(かまきりしょうず)というのがありますが、これは七十二候で6月の頭の時期の話。

そのころに卵から孵化したカマキリは緑色ですが、今頃は大人になったのか茶色・・・じゃなくて、雄が茶色になるらしい。

翅はあっても、威嚇が主要用途で、飛ぶのは下手。メスはほぼ飛べないと言うのも面白い。

2023年8月11日金曜日

南極料理人 (2009)

西村淳が著した「面白南極料理人」、「面白南極料理人 笑う食卓」を原作とした映画。西村氏は、1952年生まれ、海上保安庁に勤務し、1988~1990年と1996~1998年に南極地域観測隊に調理担当として参加しました。

2回目の時は、日本の昭和基地よりさらに内陸にあるドームふじ基地で越冬しています。ドームふじ基地は、昭和基地から1000kmも離れた標高3810mにあり、年間の平均気温は-50℃という、南極の中でも特に過酷な環境にあります。

西村氏の著書にあるエピソードを用いて、映画ではドームふじ基地で越冬する隊員たちの日常を描きます。そういう意味では、ストーリーらしいストーリーはなく、細かい日常の出来事の積み重ねみたいな感じです。

閉鎖された空間に集う隊員は以下の8名。

西村淳(堺雅人) 調理担当
南極行きを喜んでいた候補者が交通事故で、急遽派遣されることになり、家族からはうるさいお父さんがいなくて喜ばれています。

金田浩(きたろう)
ドームふじ基地の隊長。気象庁から派遣された気象学者。無類のラーメン好き。

本山秀行(生瀬勝)
国立極地研究所から派遣され雪氷観測担当。

川村泰士(高良健吾)
大学院生で、雪氷観測担当。1分740円の衛星電話で、彼女との会話が楽しみ。

御子柴健(古舘寛治)
自動車メーカーから派遣された車両担当。当初から南極に来たことを後悔している。

西平亮(黒田大輔)
通信社から派遣された通信担当。広島東洋カープのファン。

平林雅彦(小浜正寛)
国立極地研究所から派遣され大気測定担当。

福田正志(豊原功補)
北海道の病院から派遣された医師。医療担当。

おおまかな流れは、基地内でのレジャーなどを通じて、次第に打ち解けていく隊員でしたが、夜食に食べすぎて備蓄のインスタントラーメンが底を尽き、少しずつ隊員たちのストレスが増していくのでした。

また、御子柴が貴重な水をシャワーで使い放題し、隊員たちと争いになる。そのドタバタの最中に、西村はお守りにしていた娘の抜けた乳歯を採氷の深い穴に落としてしまいます。ついに、西村も料理を作ることを拒否してしまうのでした。

本山がベーキングパウダーがかんすいの代わりなることを調べ西村に伝えると、西村は早速小麦粉、塩、ベーキングパウダーで手打ち麺を作り上げ、隊員たちはオーロラの観測をそっちのけでラーメンをすするのです。

室内はセットでの撮影ですが、屋外は網走の雪原で行われ、南極でなくても本当に寒そうな映像はなかなかのもの。監督・脚本は沖田修一。いろいろな映画賞を受賞したほのぼのとした良作です。

2023年8月10日木曜日

黄金を抱いて翔べ (2012)

高村薫原作のクライム・サスペンス。高村の小説家デヴュー作です。監督は「パッチギ」の井筒和幸。

大坂の銀行本店の地下に保管されている240億円分の金塊を盗み出そうと集まった6人の男。リーダーは既婚者でこどももいる北川浩二(浅野忠信)、過激派の調達係をしていた幸田弘之(妻夫木聡)、システム・エンジニアの野田(桐谷健太)、某国のテロリストのモモ(チャンミン)、北川の弟で死にたがりの北川春樹(溝端淳平)、エレベータ技師のジイちゃん(西田敏行)がメンバー。

少しずつ準備を始めた6人でしたが、モモを利用したい左翼や公安、某国の諜報員などが周辺で暗躍し始めます。ジイちゃんが公安にモモの情報を流したのです。街のゴロツキ(青木崇高)たちは、店を荒らした春樹を拉致して脅迫してくる。

春樹を取り返したものの、北側の妻と子がひき殺されました。春樹はバイクでゴロツキの車に激突し相手を死なせたものの、自分も瀕死の重体になります。いよいよ明日決行というとき、モモのアパートに公安の二重スパイが突入し、モモと幸田は銃撃され負傷してしまいます。

幸田とモモは、近くの教会に隠れます。その教会は、父親が神父をしていてこどものとき幸田が放火した場所です。朝になるとモモは息を引き取っていました。幸田はモルヒネで痛みをこらえながら、北川、野田、ジイちゃんと合流します。

野田による近くの変電所の爆破から始まり、エレベータ故障を装ってビルに侵入した北川、幸田、ジイちゃん。ジイちゃんがエレベータ室に行き制御し、北側が警備員を倒し、幸田が要所を爆破しついに彼らは金庫にたどり着くのでした。

全体に暗く濁った雰囲気の中で、強盗のリアルを描いている作品。そのわりには、計画は緻密なようでずさん。ほころびは内側と外側の両方から始まる。実行までのトラブルの多さを考えると、そのまま決行するというのは、あまり無茶という感想。

結局、誰も幸せにはならないという・・・まぁ、犯罪ですから当然なんですが、何とも見終わっても暗澹たる気持ちにさせられます。傑作なのか、凡作なのか、はたまた駄作なのか・・・なんともわからない映画。

それなりにスリルはあるんですが、6人のキャラクターの描き方が何か中途半端。というか、描いているようで描けていないというジレンマがあり、結局誰にも感情移入はできないというのが問題なのかなと思ってしまいます。とりあえず、6人の名演で成り立っていることは間違いありません。

2023年8月9日水曜日

配膳ロボット


コロナ禍を経験して、世の中いろいろ変化がありました。

久しぶりに、ファミレスに行ったら驚いた。

ホールの係の店員さんは、わずかに2名。注文は、各テーブルのタブレットで、人を呼ぶ必要がありません。

そして、何と、配膳はロボットが行っていました。

まれに間違ったテーブルに行くこともあるらしいのですが、人と人の接触を防ぐというレストランの進化形ということで、コロナがもたらした物の一つと言えそうです。

下世話なことを考えると、ホールを5人から2人にバイトを減らすと、月々給料は少なくとも50万円くらい節約できる。

この手のロボットはレンタルで月額4万円程度らしいので、2台導入してしても、年間400万円以上の節約になるように思います。

ロボットに係る費用は時給換算で100円程度らしい。最低賃金を大幅に下回っているじゃないか!! と怒る人はいませんね。

2023年8月8日火曜日

祈りの幕が下りる時 (2018)

東野圭吾の「加賀恭一郎シリーズ」を原作とするテレビ・ドラマ「新参者(2010)」の劇場版第2弾です。テレビでは2014年にスペシャル・ドラマ「眠りの森」が放送されているので、阿部寛の加賀恭一郎は4年ぶりということになります。

加賀恭一郎最後の事件という位置づけで、シリーズに一貫して流れる、加賀の母の失踪にまつわる謎が大きく関わって来ることになります。


1983年、田島百合子(伊藤蘭)は夫と別れこどもも置いて仙台に一人やって来ました。そしてスナックで働き出しますが、家族の話は口をせず心を閉ざしたまま2001年心不全で亡くなります。親しくしていて息子の住所を知っていたらしい綿部という男性が連絡を取り、加賀恭一郎は仙台にやって来ました。そして、綿部を探しましたがまったく手掛かりはありませんでした。

2017年、荒川の河川敷のアパートで、滋賀から訪れた押谷道子の腐乱死体が発見されました。部屋の住人であった老人は数日後に、少し離れた場所で絞殺され焼死体となって発見されるのです。押谷の営業先を訪れた警視庁捜査一課の松宮(溝端淳平)は、施設に居候する身元不明の女(キムラ緑子)が押谷とトラブルになったことを知ります。押谷は、女に中学の同級生だった浅居博美(松嶋菜々子)のお母さんでしょうと尋ねますが、女はすごい剣幕で押谷を追い出したのです。

東京に戻った松宮は、新進気鋭の舞台演出家となった博美を訪ねますが、押谷には逢ったが母親のことを言われ「母はいない」と突き返した、その女は父を自殺に追い込み家族を崩壊させたと話します。松宮は帰り際に、博美と剣道着姿の加賀が一緒に収まった集合写真を目にするのです。

松宮は、老人の部屋にあったカレンダーに日本橋近辺の橋の名前が毎月書いてあることを加賀に言うと、加賀は血相を変え、松宮が言うよりも早くその橋の名前を列挙するのでした。実は加賀の母親の遺品のカレンダーに同じような書き込みがあり、筆跡から亡くなった老人は綿部と推定されました。

橋の名前は毎月の待ち合わせをする場所を決めていたものらしく、加賀は日本橋「橋洗い」に集まる人々を写した膨大な量の写真の中から、綿部の姿を探すのですが、何と意外な人物、浅居博美を発見します。滋賀に向かった加賀は、博美の担任だった苗村(及川光博)が急にいなくなったこと、元妻が苗村が浮気相手に渡したと想像していたペンダントを博美が身につけていたことを突き止めます。

加賀にはいろいろな線がつながるにも関わらず、全体像はいつまでも見えてこない。何かが足りない・・・そして、残されたピースが「自分」であることに加賀は気がつくのでした。

あらすじを書いてみても、すごく複雑な人間関係が錯綜するため混乱します。加賀にとっては母親の失踪、そして浅居博美にとっては父親の自殺。30年近くさまざまな想いを抱きつつ、それぞれが母親と父親への想いをから日本橋にこだわり続けたストーリー。映画の推理物としては、犯人捜しよりも、何故このような事件が起こってしまったのかという人間ドラマが中心です。

ふと思い出したのが松本清張の「砂の器」です。事件の概要はもちろん違いますが、自分の過去にとらわれついに人を殺めてしまうという悲劇的な重苦しい事件の雰囲気が似ていると思いました。一連のシリーズを貫く、加賀の父との確執、母の失踪の謎が解き明かされることは、まさに「最後の事件」と呼ぶのにふさわしい内容でした。

しかし、初めてこのシリーズの映画を見る人には、重厚なだけで後半は謎の答えがどんどん明かされてしまう内容に少し物足りなさを感じるかもしれません。作る側は、そのあたりは多少割り切っているのかもしれませんが、逆に見る側も下準備としてテレビ・ドラマの「新参者」、映画第1作の「麒麟の翼」、出来ればテレビ・スペシャルの「赤い指」を見ておいた方がよさそうです。

いずれにしても、加賀恭一郎は大変魅力的なキャラクターなので、普通の刑事ものとしてワン・クール分くらいの原作が残っていますから、是非2nd Seasonを期待したいですね。

2023年8月7日月曜日

麒麟の翼 (2011)

今を代表する推理作家、東野圭吾は「ガリレオ」シリーズの他にも、映像化された人気作品が多数あります。刑事「加賀恭一郎シリーズ」もその一つで、2004年から5年かけて連載された「新参者」は9作の連作短編が集まった物。特徴的なのは、各短編が別々の事象を扱っているのですが、関連し時系列も前後するところ。そして、最後まで読んで初めて一番大きな謎が解き明かされるというところが面白い。

2010年に阿部寛主演で「新参者」がテレビドラマ化され、この時も日本橋に最近引っ越してきた「新参者」の女性が殺された事件を追いかける加賀が、いろいろな謎を全10話で追いかけ、最終回ですべての謎がつながる構成になっていました。

翌年、TVではスペシャル・ドラマ「赤い指」が製作され、さらに劇場版「麒麟の翼」が公開されました。「新参者」の事件より数年前を扱う「赤い指」では、加賀が敏腕刑事だった父親の隆正とは、母親の失踪をきっかけに関りを持たなくなり、父親が末期がんであっても一度も見舞いに行っていないことが語られています。これがシリーズ全体に関わる謎になっているのも興味深いところ。

日本橋。ここは、かつて五街道(東海道・中山道・日光街道・奥州街道・甲州街道)の起点として江戸の要所で、もともとは木製の橋が架けられていましたが、1911年に現在の石造りになり、橋柱には青銅製の麒麟像が飾られ、ここから飛び立つという意味を込めて翼が付けられています。加賀もまた紆余曲折を経て、「新参者」事件から日本橋署に赴任した新参者でした。

日本橋の麒麟像の下で、青柳武明(中井貴一)が腹を刺され亡くなりました。また、その直後に付近の公園で、青柳の鞄を持っていた八島冬樹(三浦貴大)は警察官に見咎められ逃げ出したところをトラックに轢かれ意識不明の重体になってしまいます。

所轄の加賀は警視庁捜査一課の松宮脩平(溝端淳平)と組まされる。二人は従兄で、松宮は刑事として加賀を尊敬していますが、加賀は「警視庁のお前が指示してくれ」と言いつつも、知りたいことがあると勝手な行動を取るので、松宮はいつも振り回されるのです。

八島は福島の養護施設で一緒だった中原香織(新垣結衣)と同棲していて、半年前に青柳の会社の工場を派遣切りで失職していました。実は、八島は工場の安全ルール無視の操業が露見するのを防ぐために、負った怪我の労災隠しで首を切られたのでした。

青柳は家庭では、長男の悠人(松坂桃李)からうとまれる存在でした。半年前から青柳は、日本橋七福神巡りをして毎月色変わりの百羽の折り鶴を奉納していたのです。悠人は、そのことに気がつくと、父親の最後のメッセージを理解します。悠人はある事件をきっかけに、父親が期待していた水泳を辞めていたのです。

労災隠しの恨みから八島の犯行と思われましたが、加賀は悠人が水泳を辞めた理由に大きな鍵があると考え、ついに「キリンのツバサ」を発見するのでした。

まずキャスティングですが、2009~2010年にデヴューした新進気鋭の若手俳優がたくさん起用されていることに注目です。その後人気俳優になった三浦貴大、松坂桃李、菅田将暉、山﨑賢人らの若々しい演技が見ることができます。加賀恭一郎の父親に山崎努、父親を担当する看護師に田中麗奈、加賀の上司に松重豊、加納の部下に鶴見辰吾などが脇を固めています。

推理物で探偵役、それもシリーズで登場する場合は、その人物像が魅力的でないと興味が半減します。加賀恭一郎の場合は、シリーズを貫く本人にまつわる謎が垣間見えるところからして異色。聞き込みで得られた情報のちょっとした違和感も逃すことなく、一見無関係に思えるような質問に対する答えの中から事件の真相に近づいていく過程が面白い。また、日本橋界隈を日頃から歩き回って街を知り尽くしていることも捜査に大いに役立っていて、見ている側も「ブラリ散歩」を楽しめるところが、映像として楽しめます。

身寄りのない二人が東京に出てきて挫折していくストーリーと、何不自由無いように見えた家族が実は家庭内で疎遠になっていく現代にありがちな問題が絡み合っていく構成はさすが人気作家だけのことがあります。

犯人は誰かというのは、推理ドラマの主要テーマではありますが、この映画では確かにその部分についてもうまく展開しています。ただし、それ以上に、家族のことを知っているようで知らないことがあったり、家族だからこそ信じ切る大切さと難しさみたいなものが、映画の中に溢れているように思いました。

2023年8月6日日曜日

セブンのおにぎり 7


セブンイレブンのおにぎりで「カレーの祭典」中です。

確か、どっちも過去に登場したものだと思うので、食べたことがある人は多いかもしれません。

一つは「SPICY CURRY 魯珈」が監修した「スパイシーカレー&魯肉飯(ルーローハン)おむすび」というもの。魯肉飯は肉煮込みと八角の香りが特徴の台湾料理。

中央にカレー風味の煮込み肉が具として入っていて、カレーとしては比較的マイルドな味。

一方、インドカレー専門店「DELHI」が監修するのが「ストロングドライカレー」です。

名前が示す通り、スパイス感はこちらが圧倒的に強い。口の中に残る辛さが、好きな人にはたまらない。ベーコンの強めの燻製香も絶妙なアクセントになっています。

暑いときは辛い物を食べて汗をドバーっとかくのが好まれます。それなら、これ。とは言っても、さすがにおにぎりで汗は出ませんね。

2023年8月5日土曜日

よおんじゅうどお~


いやいや、まじか。

昨日は、午前中から35℃を突破する勢いで気温が上昇。

Windowsにデフォルトでインストールされている天気アプリで、午後3時には、ついに、ついに、ついに横浜市都筑区で40℃を表示しました。

一時、38℃くらいに下がりましたが、午後5時過ぎまで断続的に40℃が続きました。

日本では、熊谷とか、ごく一部の地域でしか見たことが無い数字です。

天気予報専門サイトからの情報を基にして表示されているようですが、一体都筑区のどこでどうやって測定した気温なんでしょうか。

気象庁のデータだと、昨日の横浜市(中区)の最高気温は34℃のようです。あまりに差があります。

当然、体感に近いのは40℃なんですが、横浜市の行っている観測データでは、横浜市の中では南部に比べて北部の方が2~3℃高い傾向があるようです。

まぁ、何でもいいんですが、こうなると台風が来るかもというのも、多少でも気温が下がるので歓迎ということになりかねません。

2023年8月4日金曜日

チョコ、ぬいじゃった


これは何でしょう?

瓢箪型で長さ約3cmのビスケットなんですが、実はこれ、「キノコの山」の柄(茎)の部分。

キノコの傘にあたるチョコレートを無くした菓子が、「チョコ、ぬいじゃった」です。

ひと頃は、定番の菓子にオーバー・トッピングするのが流行りましたが、これは逆の方向性でウケを狙ったもの。

感想としては、「ゴマの無いギンビス・アスパラガス」、「味の本体が無くなってぼやけた菓子」という感じで、自分には不評。

でも、これが美味しいと言う方もいるんで、評価は人それぞれです。

まぁ、ビスケットを無くしてチョコだけにするよりはインパクトがありますけどね。

2023年8月3日木曜日

セブンのおにぎり 6


セブンイレブンのおにぎりシリーズです。

今回紹介するのは、何でも値上げでお財布が苦しい中、安くで嬉しい2種類。

「一番だしで炊いた」と頭に付く「わさびめし」と「しょうがめし」です。安さが売りなので、海苔が巻かれているわけではありませんし、具材も貧相ではありますが、味はなかなかのもの。

わさびめしは、だいぶ前からあったと思いますが、真ん中に刻んだわさびがはいっています。一口食べると、ほわーっとわさびの香りが口の中に広がります。

具のわさびががツーンと来るかと思いきや、ギリギリ来ない丁度良いところでとどまっています。個人的には、もう少しツーンでも良いと思うくらいです。

しょうがめしは、米の中に千切りの生姜が混ぜ込んであるので、一口目から生姜の味がしっかり感じられます。

真中にまとまって生姜が入っていますが、こちらも生姜の辛さは感じないくらいで、味としては大人しい感じ。

これだけだと、おかずが無さ過ぎではありますが、2個3個と食べるなら、そのうちの1個はこれでもいいんじゃないでしょうか。

2023年8月2日水曜日

沈黙のパレード (2022)

9年ぶりにガリレオが戻ってきました。東野圭吾原作の天才物理学者、湯川学(福山雅治)が難事件を解決に導く本シリーズの映画第3弾です。今回も、封切り直前に、テレビでスペシャル・ドラマ「禁断の魔術」が放送されています。

スペシャルでは、湯川の相棒になる女性刑事は新木優子が演じていますが、映画では何と「容疑者Xの献身」以来、14年ぶりに柴咲コウが演じる内海刑事が帰ってきたのは嬉しいポイント。湯川・内海の名コンビが揃うだけで、より物語に厚みが出るように思います。

教授になった湯川は実験のため東京都菊野市に長期滞在し、町の居酒屋「なみきや」の常連客になっていました。なみきやを営むのは、並木祐太郎(飯尾和樹)と真智子(戸田菜穂)の夫婦で、5年前に歌手デヴュー目前だった長女の佐織(川床明日香)は行方不明になっていました。

なみきやに集まることが日課のようになっている人々の中には、祐太郎の親友で佐織を幼い時から可愛がっていた食品加工会社社長の戸島修作(田口浩正)、書店を経営し佐織とも仲良しだった宮沢麻耶(吉田羊)、佐織と恋人同士だった高垣智也(岡山天音)、そして佐織を歌手として育てていた新倉直紀(椎名桔平)と留美(檀れい)夫妻らがいました。

静岡県で民家が放火・焼失し、焼け跡から佐織の白骨化した遺体が発見されたことで、なみきやはあわただしくなります。犯人は蓮沼寛一(村上淳)と考えられ、湯川の友人である草薙俊平(北村一輝)や内海薫らは彼を逮捕します。

蓮沼は15年前に12歳女児誘拐殺人で逮捕歴があり。当時の担当刑事は草薙でした。蓮沼は取り調べでも裁判でも完全黙秘により、最終的に無罪を勝ち取ったのでした。今回も蓮沼は沈黙を続け、送検できないと判断され釈放されます。そして、これみよがしになみきやに現れ、並木夫婦や他の常連たちを気持ちを逆なでするのです。

年に一度の菊野市の祭りの当日、なみきやの常連も参加して、多くの仮装したグループが趣向をこらした山車と共にパレードをするのを湯川も見物して楽しんでいました。パレードが終わろうとする頃、蓮沼が住み着いた倉庫のような場所で、彼の死体が発見されました。現場の状況から湯川は、小さな穴から液体窒素を室内に入れ、酸素欠乏により蓮沼が窒息死したと考え、草薙らの前で実証してみせます。

最も強い動機を持つのは並木夫婦ですが、アリバイが成立。液体窒素をどうやって手に入れ、運んだかということも単独犯では不可能と考えられました。戸島の工場には液体窒素があり、何人かのリレーによってパレードの山車に隠して運び、また別の誰かが液体窒素を噴出させた・・・しかし、新倉直紀が蓮沼に佐織を殺したことを白状させるために、液体窒素のバルブを開放し認めさせましたが死なせてしまったと自首してきたのです。

最初の事件で蓮沼を有罪に持っていけなかった草薙の後悔、そしてそのために再び誰かに犯罪を犯させてしまった苦悩。それにも増して、佐織を直接知る人々の警察に対する不信、蓮沼に対する憎しみ。それらの狭間で、湯川と内海は真実を探り出さなければならなくなります。物語では、佐織の死に対する責任が誰にあるのか、さらに隠されていた信実があぶり出され混迷を深めていくのです。

映画版「ガリレオ」は、物理学を駆使して難事件を解決するだけではなく、これまでも人間・湯川学を描くことに注力してきたわけで、この作品でも推理ドラマとしては謎解きはあっさりしていて、むしろ湯川と、特に今作では草薙の人柄を描くことが重要な要素になっています。そういう意味では、1作目の雰囲気に近い重苦しさが全編を貫いている。

原作者が「被害者を愛した善良の人々が力を合わせたら、湯川でさえも手こずるような謎が生まれるのではと考えた」と語っているように、相手が天才学者でなくても束になってかかってくれば、湯川でさえもそうは簡単に正解を見つけられないという作品になっています。

もしかしたら最後の「福山ガリレオ」作品かもしれませんが、独特のキャラクターが際立つ探偵物であり、その中で映画ではドラマ性を強く押し出す展開が大きな魅力。もう少し新作を見てみたいという気持ちになります。

2023年8月1日火曜日

真夏の方程式 (2013)

東野圭吾原作の「ガリレオ・シリーズ」は、2013年に再度テレビ・ドラマとして復活しました。そしてドラマに続いてすぐにスペシャル・ドラマと映画第2作が作られました。スペシャルは「ガリレオXX」というタイトルで、主役は柴咲コウ演じる内海刑事、そして内海はここでの事件を最後に研修のため渡米します。代わって、ドラマから湯川の相棒となっているのは吉高由里子が演じる岸谷美砂です。

今作もドラマと映画は、大きく雰囲気が異なります。単なる推理ドラマではなく、犯罪に関わる人間ドラマの色彩が強く、テレビ・シリーズのファンからは物足りないという意見が聞こえそうですが、映画として見れば今作もよく出来ていると感じます。

美しい海が広がる玻璃ヶ浦。沖合の海洋資源の調査の一員としてやってきた天才物理学者、湯川学(福山雅治)は、資源開発反対の急先鋒である川畑成実(杏)と両親の川畑重治(前田吟)、川畑節子(風吹ジュン)らが営む民宿に宿泊しました。

湯川と同じ列車で、夏休みを過ごすため成美の従兄で小学生の恭平(山崎光)もやってきました。近づかれると蕁麻疹がでるほどこども苦手な湯川でしたが、物おじしない恭平には何故か平気でした。理科なんて嫌いという恭平に、湯川はペットボトル・ロケットの実験をして見せるのでした。

そこへ15年前の殺人事件を担当した塚原元刑事(塩見三省)が訪ねてくる。塚原は事件の犯人、仙波英俊(白竜)を逮捕しましたが、これまでずっと納得がいかずついに節子に自分の考えを話すつもりだったのです。成美、節子、重治、そして仙波には重大な秘密がありました。

塚原は翌朝、防波堤から転落した遺体で発見されます。はじめは事故かと思われましたが、司法解剖により死因は一酸化炭素中毒であることが判明し、岸谷刑事も東京と玻璃ヶ浦を往復して情報収集に努めることになりました。

塚原は民宿の客室で中毒死したことが確実となり、ボイラーの不完全燃焼が原因であわてた重治と節子が死体を遺棄したと自白しました。しかし、湯川には、これが事故による過失致死ではなく殺人だということ、そして彼らが何に代えても守ろうとしていた秘密が少しずつ見えてくるのでした。

物理学以外に何も興味が無いかのような湯川ですが、今回も実に人間的な感情を露にします。それがらしくないと批判の的になる部分もあるのですが、湯川なりに精一杯の心情が見えるところが「実に面白い」という感じ。

資源開発の地元説明会をさぼって、恭介のために本気でペットボトルロケットを飛ばすあたりは、説明会の緊迫感と岸谷が捜査で走り回るところとを矢継ぎ早に画面転換してその本気度を際立たせる演出はうまいアイデアです。ただし、画面上は手掛かりはちょっとずつばらまかれていますが、湯川が真相にたどり着くのがちょっと乱暴なところは否定できません。

杏は女優として認知度が高まってきた時期で、水着姿のサービスショットだけでなく、堂に入ったシュノーケリングもたっぷりみせてくれます。ここでの吉高由里子は、添え物的な感じであまり重要度は高くなさそうですが、やや化粧がきつめなのが気になるかもしれません。