TEAM NACSの第7回公演ですが、「ときめき公演」としています。本来は2002年に上演した「WAR〜戦い続けた兵たちの誇り」が予定されていましたが、会場の閉館により急遽こちらに差し替えになっています。
リーダーの森崎博之による脚本・演出ですが、ナックスとしては珍しい恋愛コメディになっているので、サポート・キャストとして、当時メンバーが親しくしていたSKグルーブから小山めぐみ、福村澄江の二人、劇団イナダ組から小島達子、山村素絵、川井J竜輔の三人が参加しています。
始まっていきなりウェディングドレスを着たメンバーが、自己紹介を兼ねて一人ずつ飛び出してきます。中でも、"平成の怪物"安田顕の期待にたがわない裸同然の姿は嬉しい。それにも増して、戸次重幸が日本刀を振り回して出てくるところはまったく意味不明ですが、何か凄い。
まず恋人同士の戸次と素絵の別れのシーンから物語がスタート。振られた戸次を慰める大泉洋と音尾琢真でしたが、そこに大泉の携帯に電話がかかってきます。素絵も友人のめぐみと達子に慰められていたのですが、達子の発案で合コンをやることになり、めぐみが知り合いの大泉に人集めを頼んできたのです。
大泉とめぐみは4年前からともだち以上恋人未満が続いていて、お互いに好意を持っているものの進展が無いままでした。大泉と戸次、音尾以外に仕事場の部長の森崎、主任の安田が加わり待ち合わせた店に行きます。めぐみ、達子、澄江の三人が先に到着していましたが、4人目に登場したのは強烈な個性が爆発する順子(川井)でした。それより遅れて5人目として登場したのが素絵だったため、戸次は凍り付いてしまいます。
それでも、森崎・素絵、音尾・達子、戸次・澄江、そして安田・順子というペアができます。男性5人にはときめきを応援するときめきマンがそれぞれについていて、森崎にはピンク(戸次)、安田にはイエロー(音尾)、戸次にはブルー(安田)、音尾にはグリーン(森崎)がついていて、ときめくほど風船が膨らみ、ときめきが無くなると風船が割れてときめきマンも消えてしまうのです。何故か大泉についたときめきマンのレッドは大泉自身が演じます。
めぐみは昔からの夢だったデザイナーになるため、もうじきイタリアに移り住む決心をしていたのです。告白をしようかと思っていた大泉は、先にその話を聞かされ意気消沈して持っていた風船がしぼんでしまうのでした。
大泉以外の4組はいろいろあって結局はうまくいきません。それぞれのときめきマンは、レッドを復活させるために、めぐみの出発に合わせて大泉を飛行場に連れ出すのです。大泉は惠のもとに駆け寄ると「愛してる~」と絶叫。その途端に、ものすごい量の風船が舞台になだれ込んでくるのでした。
という、ほぼ王道のラブコメで、作者の森崎の引き出しの多さに感心しました。女子5人の一人に女装の川井を混ぜて、ナックスメンバーだけに頼らずに笑いを入れ込んでいます。舞台はシンプルですが、やはり照明をうまく使って、細かく場面をいろいろな場所に作るのは森崎演出の得意技です。
女子組との対比の仕方も、ちょっと凝り過ぎ感はあるものの、当時の若者たちの文化・情景が目に浮かんできます。準備期間が少な目で用意された舞台としては、傑作とは言わないまでも楽しく見れる作品です。
2025年9月5日金曜日
2025年9月3日水曜日
雅楽戦隊ホワイトストーンズ 〜最終章 呪われし神々の行方 (2003)
熱烈な要望を受けて、「ドラバラ 鈴井の巣」の「雅楽戦隊」シリーズ第3弾・・・なんですが、どうやらスポンサーからの要望が強かったらしい。ところが、スタッフは困った。というのも、前作で主人公の一人、南郷が死んでしまい、物語も一定の解決をしています。
ただし、最終シーンで何者かがカギとなる巻物を拾うシーンが挿入されていたことから、これは企画した鈴井貴之の確信犯的なところがありそうです。前作から5年後ということにして、南郷の代わりに息子の大志が加わることで、ホワイトストーンズを復活させました。
あの戦いから5年後、北郷(戸次重幸)は、皆の溜まり場である喫茶店HEROのマスターになっていました。本郷(安田顕)は、バカでも強くなれることを書いた本がベストセラーになり東京大学の講師として教壇に立っています。そして、大門は故郷の礼文島に帰り、漁師になっていました。恋人の富子(小野優子、HTBアナウンサー)がいたものの、洗脳された妹は元に戻らないまま亡くなっていました。
宮城県白石で爆弾テロ事件が発生します。札幌市白石区は宮城県白石の人々が明治の初めに入植してきた場所なのです(これは本当)。嫌な予感がした本郷は急遽戻って北郷と共に怪しいビール工場に潜入すると、二人の首領をトップにしたネオ悪の秘密結社に襲われます。しかし、二人だけではホワイトストーンズに変身できないため、逃げるので精一杯でした。
そして、白石区でも爆弾テロが起こり、南郷の息子の大志(北野雄大)と母親(北川久仁子)が巻き込まれ、母親が亡くなります。大志は母親の仇を討つためホワイトストーンズに加わるのでした。しかしまだこどもの大志は爆弾怪人に倒され、大志もまた川北博士(音尾琢真)の改造手術でより強くなって蘇るのです。
大門は「あなたを必要とする人がいる場所に戻って戦って」という富子の言葉により、ついに再び立ち上がります。川北博士も自分に責任がある悲劇の連鎖を止めるため、自らを改造したポプラーマンに変身しますが爆弾怪人と共倒れになってしまう。川北博士は、巻物を拾って白龍神社に隠したことを言い遺しました。
大門は白龍神社で巻物と共に伝説の剣と鏡を発見しますが、そこへホワイトストーンズが駆け付け、ネオ悪の結社の二人の首領(安田・戸次)も現れます。二人のボスは本郷と北郷に瓜二つの姿で、戦ってもまったく同じ力を持っているのでした。大門は善と悪は表裏一体であることに気がつき、剣で鏡を割ると強力な光によって二人の首領を倒すことに成功します。そして巻物は火を放って燃え、白鳥となって飛び立っていくのでした。
ヤマトタケルの東北遠征伝説を織り交ぜて、一見、壮大なストーリーになっているんですが、かなり無理矢理感は否めない。ただ、理詰めで見るようなものではないので、単純にどうでもいいようなストーリーを楽しめばいいだけです。
ドラバラの凄い所は、芝居だけでなく強引にナックスのメンバーに歌も作らせているところで、ふざけた歌詞もありますがけっこう良い曲がたくさん出てくる。彼らが鼻歌的に作ったメロディを、採譜して曲に仕上げるター・ナー・カー氏の技量には脱帽です。これらはTEAM NACSの結束力や技術的な底上げに大きく役立っていると思われ、かれらのアマチュアからプロへの脱皮を助けたことは間違いありません。
ただし、最終シーンで何者かがカギとなる巻物を拾うシーンが挿入されていたことから、これは企画した鈴井貴之の確信犯的なところがありそうです。前作から5年後ということにして、南郷の代わりに息子の大志が加わることで、ホワイトストーンズを復活させました。
あの戦いから5年後、北郷(戸次重幸)は、皆の溜まり場である喫茶店HEROのマスターになっていました。本郷(安田顕)は、バカでも強くなれることを書いた本がベストセラーになり東京大学の講師として教壇に立っています。そして、大門は故郷の礼文島に帰り、漁師になっていました。恋人の富子(小野優子、HTBアナウンサー)がいたものの、洗脳された妹は元に戻らないまま亡くなっていました。
宮城県白石で爆弾テロ事件が発生します。札幌市白石区は宮城県白石の人々が明治の初めに入植してきた場所なのです(これは本当)。嫌な予感がした本郷は急遽戻って北郷と共に怪しいビール工場に潜入すると、二人の首領をトップにしたネオ悪の秘密結社に襲われます。しかし、二人だけではホワイトストーンズに変身できないため、逃げるので精一杯でした。
そして、白石区でも爆弾テロが起こり、南郷の息子の大志(北野雄大)と母親(北川久仁子)が巻き込まれ、母親が亡くなります。大志は母親の仇を討つためホワイトストーンズに加わるのでした。しかしまだこどもの大志は爆弾怪人に倒され、大志もまた川北博士(音尾琢真)の改造手術でより強くなって蘇るのです。
大門は「あなたを必要とする人がいる場所に戻って戦って」という富子の言葉により、ついに再び立ち上がります。川北博士も自分に責任がある悲劇の連鎖を止めるため、自らを改造したポプラーマンに変身しますが爆弾怪人と共倒れになってしまう。川北博士は、巻物を拾って白龍神社に隠したことを言い遺しました。
大門は白龍神社で巻物と共に伝説の剣と鏡を発見しますが、そこへホワイトストーンズが駆け付け、ネオ悪の結社の二人の首領(安田・戸次)も現れます。二人のボスは本郷と北郷に瓜二つの姿で、戦ってもまったく同じ力を持っているのでした。大門は善と悪は表裏一体であることに気がつき、剣で鏡を割ると強力な光によって二人の首領を倒すことに成功します。そして巻物は火を放って燃え、白鳥となって飛び立っていくのでした。
ヤマトタケルの東北遠征伝説を織り交ぜて、一見、壮大なストーリーになっているんですが、かなり無理矢理感は否めない。ただ、理詰めで見るようなものではないので、単純にどうでもいいようなストーリーを楽しめばいいだけです。
ドラバラの凄い所は、芝居だけでなく強引にナックスのメンバーに歌も作らせているところで、ふざけた歌詞もありますがけっこう良い曲がたくさん出てくる。彼らが鼻歌的に作ったメロディを、採譜して曲に仕上げるター・ナー・カー氏の技量には脱帽です。これらはTEAM NACSの結束力や技術的な底上げに大きく役立っていると思われ、かれらのアマチュアからプロへの脱皮を助けたことは間違いありません。
2025年9月2日火曜日
雅楽戦隊ホワイトストーンズ 〜白き伝説よ永遠に (2002)
「ドラバラ 鈴井の巣」で放送された「雅楽戦隊ホワイトストーンズ」シリーズの第2弾。札幌市白石区だけを守る戦隊物で、基本的には完結編です。
南郷進(鈴井貴之)は、兄を悪の秘密結社に誘拐され、国際秘密諜報員の大門通(大泉洋)は妹を誘拐されている。悪の秘密結社は再び、白石区を狙って暗躍し始めました。彼らはこどもさらって改造し戦闘員として育成していたのです。
幼稚園バスを襲って大勢の園児を誘拐します。こどもたちを助けるため、南郷、本郷(安田顕)、北郷(戸次重幸)はホワイトストーンズに変身します。建設中の札幌コンベンションセンターが悪の秘密結社のアジトであることを突き止めた大門は先に潜入しますが、女性戦闘員に動揺して捕らえられてしまうのです。
後から駆け付けたホワイトストーンズは、雑魚を倒しながら奥に進み大門を救出しますが、大門は女性戦闘員をかばって逃がしてしまうのです。その女性戦闘員は、実は洗脳された大門の妹だったのです。捕らえられた幼稚園児を助け出すと、その中に別れて暮らしていた南郷の息子・大志も混ざっていました。
悪の秘密結社の首領(鈴井貴之 2役)は、さらなる人体改造の方法が記された巻物の半分を持っており、白龍神社に安置している残り半分の巻物を狙っていました。危険を察知した宮司(森崎博之)は、川北博士(音尾琢真)に頼んで人間爆弾に改造してもらうのです。20年前に溺れた南郷・本郷・北郷と共に助けようとした宮司も溺死していたのですが、川北博士によってサイボーグとして蘇生していたのです。
宮司は神社を襲ってきた怪人化した首領に抱きついて自爆しますが、首領を倒すことができません。南郷は首領の正体が兄であることに気がつき、取り押さえようと飛び出します。その時二つの巻物がつながり、巨大な白龍が飛び出してきたのです。白龍の力によって首領は爆死し、南郷も息を引き取るのでした。
オフィース・キュー社長の鈴井貴之は、もともと劇団を主宰していたんですが、わざとかもしれませんが多少疑問を感じる演技力です。もっとも、まだまだ駆け出しのナックスのメンバーも似たり寄ったりのところはあるので、あまりツッコミを入れてはいけないところかもしれません。
ただし、第1弾と合わせて見ると、それなりに辻褄が合っていてストーリーの骨格はよくできている。原作・脚本を担当した鈴井の力量はそれなりに評価されるべきです。当然、白石区の中だけの話なので、ローカル・ネタに精通していれば、かなり楽しめるだろうと思います。
南郷進(鈴井貴之)は、兄を悪の秘密結社に誘拐され、国際秘密諜報員の大門通(大泉洋)は妹を誘拐されている。悪の秘密結社は再び、白石区を狙って暗躍し始めました。彼らはこどもさらって改造し戦闘員として育成していたのです。
幼稚園バスを襲って大勢の園児を誘拐します。こどもたちを助けるため、南郷、本郷(安田顕)、北郷(戸次重幸)はホワイトストーンズに変身します。建設中の札幌コンベンションセンターが悪の秘密結社のアジトであることを突き止めた大門は先に潜入しますが、女性戦闘員に動揺して捕らえられてしまうのです。
後から駆け付けたホワイトストーンズは、雑魚を倒しながら奥に進み大門を救出しますが、大門は女性戦闘員をかばって逃がしてしまうのです。その女性戦闘員は、実は洗脳された大門の妹だったのです。捕らえられた幼稚園児を助け出すと、その中に別れて暮らしていた南郷の息子・大志も混ざっていました。
悪の秘密結社の首領(鈴井貴之 2役)は、さらなる人体改造の方法が記された巻物の半分を持っており、白龍神社に安置している残り半分の巻物を狙っていました。危険を察知した宮司(森崎博之)は、川北博士(音尾琢真)に頼んで人間爆弾に改造してもらうのです。20年前に溺れた南郷・本郷・北郷と共に助けようとした宮司も溺死していたのですが、川北博士によってサイボーグとして蘇生していたのです。
宮司は神社を襲ってきた怪人化した首領に抱きついて自爆しますが、首領を倒すことができません。南郷は首領の正体が兄であることに気がつき、取り押さえようと飛び出します。その時二つの巻物がつながり、巨大な白龍が飛び出してきたのです。白龍の力によって首領は爆死し、南郷も息を引き取るのでした。
オフィース・キュー社長の鈴井貴之は、もともと劇団を主宰していたんですが、わざとかもしれませんが多少疑問を感じる演技力です。もっとも、まだまだ駆け出しのナックスのメンバーも似たり寄ったりのところはあるので、あまりツッコミを入れてはいけないところかもしれません。
ただし、第1弾と合わせて見ると、それなりに辻褄が合っていてストーリーの骨格はよくできている。原作・脚本を担当した鈴井の力量はそれなりに評価されるべきです。当然、白石区の中だけの話なので、ローカル・ネタに精通していれば、かなり楽しめるだろうと思います。
2025年9月1日月曜日
雅楽戦隊ホワイトストーンズ 〜雅やかな愛の戦士たち (2002)
北海道テレビで放送された「ドラバラ 鈴井の巣」は、ドラマとバラエティ(メイキング)を同時進行で放送するという変わった趣向の番組でした。鈴井というのは、北海道のローカル芸能プロダクションであるCreative Office Cueの社長である鈴井貴之で、主たる出演者は鈴井とTEAM NACSの大泉洋と安田顕の3人。
実際は他のメンバー、森崎博之・戸次重幸・音尾琢真も登場していて、オフィース・キューに所属するタレント総出演で作られています。
基本の3人で順番に企画・脚本を回していくという構想でしたが、その第1回作品となったのが「雅楽戦隊ホワイトストーンズ」でした。もともとはローカル局のバラエティなのに全国的に人気となった「水曜どうでしょう」の前身とも言える「モザイクな夜」で始まったもので、基本的なコンセプトは札幌市白石区だけの平和を守る戦隊物です。
悪の秘密結社により祖父を殺され、そして兄を連れ去られた南郷進(鈴井)は、本郷隆(安田)と北郷誠(戸次)と共に雅楽の楽器を奏でることで雅楽戦隊ホワイトストーンに変身するのです。20年前に、三人が川で溺れて死んでしまったところを、悪の秘密結社から逃げ出した川北博士(音尾)の手術で改造人間として蘇った体だったのです。
悪の秘密結社は、白石区の下水道処理場から毒ガスをばらまき区民を混乱に陥れます。妹を連れ去られ両親を殺された大門通(大泉)は、国際秘密諜報員となって悪の秘密結社を追っていましたが、毒ガス事件でホワイトストーンズと協力して対決することになります。
悪の秘密結社首領(鈴井 二役)は、部下のナメリン大佐(滑川まさみ)にホワイトストーンズを倒すように命令します。ナメリンは怪人レンガレンガを使って、さらなる毒ガス散布をしようとしますが、川北博士の作った特殊爆弾によってレンガレンガを倒したのでした。南郷は瀕死の重傷を負いますが、川北博士により回復し、そして白石区の平和は守られたのです。
往年の戦隊物を彷彿とさせる王道の展開ですが、怪人の巨大化、それに伴う巨大メカの登場はありません。かなりバカバカしいストーリーですが、正規の戦隊物も冷静に見ればかなり無理を通しているので、笑いのネタだけ増えたと思えばすんなり受け入れられそうです。
実際は他のメンバー、森崎博之・戸次重幸・音尾琢真も登場していて、オフィース・キューに所属するタレント総出演で作られています。
基本の3人で順番に企画・脚本を回していくという構想でしたが、その第1回作品となったのが「雅楽戦隊ホワイトストーンズ」でした。もともとはローカル局のバラエティなのに全国的に人気となった「水曜どうでしょう」の前身とも言える「モザイクな夜」で始まったもので、基本的なコンセプトは札幌市白石区だけの平和を守る戦隊物です。
悪の秘密結社により祖父を殺され、そして兄を連れ去られた南郷進(鈴井)は、本郷隆(安田)と北郷誠(戸次)と共に雅楽の楽器を奏でることで雅楽戦隊ホワイトストーンに変身するのです。20年前に、三人が川で溺れて死んでしまったところを、悪の秘密結社から逃げ出した川北博士(音尾)の手術で改造人間として蘇った体だったのです。
悪の秘密結社は、白石区の下水道処理場から毒ガスをばらまき区民を混乱に陥れます。妹を連れ去られ両親を殺された大門通(大泉)は、国際秘密諜報員となって悪の秘密結社を追っていましたが、毒ガス事件でホワイトストーンズと協力して対決することになります。
悪の秘密結社首領(鈴井 二役)は、部下のナメリン大佐(滑川まさみ)にホワイトストーンズを倒すように命令します。ナメリンは怪人レンガレンガを使って、さらなる毒ガス散布をしようとしますが、川北博士の作った特殊爆弾によってレンガレンガを倒したのでした。南郷は瀕死の重傷を負いますが、川北博士により回復し、そして白石区の平和は守られたのです。
往年の戦隊物を彷彿とさせる王道の展開ですが、怪人の巨大化、それに伴う巨大メカの登場はありません。かなりバカバカしいストーリーですが、正規の戦隊物も冷静に見ればかなり無理を通しているので、笑いのネタだけ増えたと思えばすんなり受け入れられそうです。
2025年8月29日金曜日
WAR ~戦い続けた兵たちの誇り (2002)
TEAM NACSによる「約束公演」と呼ばれた、実質的には第8回公演です。2年前にこの演目を予告していたものの、予定していた会場が閉館してしまったため1年延ばしになったもので、観客との「約束」を守るという意味合いが含まれていました。
ナックスの5人以外に、交流のあった劇団イナダ組や大学の後輩、ナックスの所属していたオフィース・キューの芸人である藤尾仁志・河野真也ら15人が客演する舞台となりました。
北海道のローカル・テレビ局で中継され、後にビデオ・デーブが限定発売されています。現在はニコニコ動画を根気よく探すと、分割された形で視聴が可能です。ただし、画質・音質はかなり状態が悪いので、出演者の判別や台詞の聞き取りはかなり制約を受けることは覚悟しないといけません。
NSF (Never Stateless Force)に参加する男たちの物語。NSFは無国籍軍という意味で、世界各国から参加した兵士によって、リチャード総帥(森崎博之)のもと、世界から戦争を無くすために戦争を仕掛けるという集団です。彼らはサハリンを支配下におくと、次なる標的を日本に定めます。
ホーク中尉(大泉洋)はエースパイロットで、自信過剰で自分が隊長に選ばれないことに強い不満を持っています。ロイ隊長(音尾琢真)は人格者ですが、人を殺したことが無い。そのため、敵を殺せずに部下を死なせた過去に苦しんでいる。
マイク(戸次重幸)はホークの部下で、話すことができせんが視力は抜群。捕虜になって拷問を受けて死んでしまいます。ロイ隊長は死んだマイクを前に、「我々は復讐のためではなく、誇りのために戦うのだ」と声を上げます。
ハイド(安田顕)は、NSFの公用語の英語がうまくないため無口。マイクとは唯一心が通じる仲間でした。生真面目な性格で「何のために生きるのか」を真剣に考えている。彼が目を覚ますと・・・日本人の普通の若者、モリ、オオイズミ、シゲ、オトオらの仲間からヤスケンと呼ばれ、普通にバカ騒ぎするのが好き。
ヤスケンはリアルな戦争の夢を見たと話します。そこは、誰もが本気で死と向き合って、生きるために必死になっている世界でした。今の自分に疑問をもったヤスケンは酒をあおり寝込んでしまうと、再び彼はNSFのハイドになっていたのです。
ナックスの5人以外に、交流のあった劇団イナダ組や大学の後輩、ナックスの所属していたオフィース・キューの芸人である藤尾仁志・河野真也ら15人が客演する舞台となりました。
北海道のローカル・テレビ局で中継され、後にビデオ・デーブが限定発売されています。現在はニコニコ動画を根気よく探すと、分割された形で視聴が可能です。ただし、画質・音質はかなり状態が悪いので、出演者の判別や台詞の聞き取りはかなり制約を受けることは覚悟しないといけません。
NSF (Never Stateless Force)に参加する男たちの物語。NSFは無国籍軍という意味で、世界各国から参加した兵士によって、リチャード総帥(森崎博之)のもと、世界から戦争を無くすために戦争を仕掛けるという集団です。彼らはサハリンを支配下におくと、次なる標的を日本に定めます。
ホーク中尉(大泉洋)はエースパイロットで、自信過剰で自分が隊長に選ばれないことに強い不満を持っています。ロイ隊長(音尾琢真)は人格者ですが、人を殺したことが無い。そのため、敵を殺せずに部下を死なせた過去に苦しんでいる。
マイク(戸次重幸)はホークの部下で、話すことができせんが視力は抜群。捕虜になって拷問を受けて死んでしまいます。ロイ隊長は死んだマイクを前に、「我々は復讐のためではなく、誇りのために戦うのだ」と声を上げます。
ハイド(安田顕)は、NSFの公用語の英語がうまくないため無口。マイクとは唯一心が通じる仲間でした。生真面目な性格で「何のために生きるのか」を真剣に考えている。彼が目を覚ますと・・・日本人の普通の若者、モリ、オオイズミ、シゲ、オトオらの仲間からヤスケンと呼ばれ、普通にバカ騒ぎするのが好き。
ヤスケンはリアルな戦争の夢を見たと話します。そこは、誰もが本気で死と向き合って、生きるために必死になっている世界でした。今の自分に疑問をもったヤスケンは酒をあおり寝込んでしまうと、再び彼はNSFのハイドになっていたのです。
NSFの日本侵攻は成功したかに見えましたが、舞台内にドイツが送り込んだ裏切り者のシュバルツ(戸次重幸)によって、一気に形勢が逆転します。そして、ハイドは旧日本軍が開発した特攻兵器である桜花を発見し、ハリス(戸次重幸)の操縦する飛行機から切り離され突撃していくのでした。
まず最初に目を引くのは、リーダー森崎の演出。舞台は全体に斜面になっていて、一番奥に中央だけが空いたパネルが並んでいるだけです。斜めになっていることで、奥行きが広がりいろいろな場面設定に利用されています。
そして、その場面を象徴的に表現するために使われているのが照明です。この照明の使い方が天才的としか言いようがない。ダイナミックに動かして、色を変えることで状況を説明するだけでなく、登場人物の心情なども表している。時には、真っ暗な中で大勢が懐中電灯の光を使って光の動きを表現する辺りは素晴らしい。
小道具として拳銃、小銃までは使いますが、当然飛行機は舞台に出てこない。しかし、役者が操縦桿を握って中腰になるポーズで飛行機の動きを表現するのですが、見えない機体がまるでそこに飛んでいるような錯覚を起こさせるのは見事です。
全員が複数の役をこなしています。中心となるナックスのメンバーは2~3役で、比較的わかりやすいのですが、全体の人数が多い舞台では混乱してわかりにくいところ。特に戸次は死ぬ度にハイドに寄り添う別の役で再登場するので、集中していないとわからなくなります(意図的に狙っている?)。
内容はNSFという架空の軍隊にいる若者たちと、現代日本の若者たちを対比させて、「生きる意味」をあぶり出していくというのがテーマ。戦争がヤスケンの夢なのか、あるいはハイドの夢が今の日本なのか、あるいはもしかしたらハイド(HIDEのカタカナ読みは日本名ヒデ)の回想なのかと思わせることで視聴者に考えさせています。まだアマチュア劇団の域を脱していない感じはしますが、若さの勢いみたいなものは十分に発散していて、最近の円熟した舞台よりも熱い思いがあふれているように思います。
まず最初に目を引くのは、リーダー森崎の演出。舞台は全体に斜面になっていて、一番奥に中央だけが空いたパネルが並んでいるだけです。斜めになっていることで、奥行きが広がりいろいろな場面設定に利用されています。
そして、その場面を象徴的に表現するために使われているのが照明です。この照明の使い方が天才的としか言いようがない。ダイナミックに動かして、色を変えることで状況を説明するだけでなく、登場人物の心情なども表している。時には、真っ暗な中で大勢が懐中電灯の光を使って光の動きを表現する辺りは素晴らしい。
小道具として拳銃、小銃までは使いますが、当然飛行機は舞台に出てこない。しかし、役者が操縦桿を握って中腰になるポーズで飛行機の動きを表現するのですが、見えない機体がまるでそこに飛んでいるような錯覚を起こさせるのは見事です。
全員が複数の役をこなしています。中心となるナックスのメンバーは2~3役で、比較的わかりやすいのですが、全体の人数が多い舞台では混乱してわかりにくいところ。特に戸次は死ぬ度にハイドに寄り添う別の役で再登場するので、集中していないとわからなくなります(意図的に狙っている?)。
内容はNSFという架空の軍隊にいる若者たちと、現代日本の若者たちを対比させて、「生きる意味」をあぶり出していくというのがテーマ。戦争がヤスケンの夢なのか、あるいはハイドの夢が今の日本なのか、あるいはもしかしたらハイド(HIDEのカタカナ読みは日本名ヒデ)の回想なのかと思わせることで視聴者に考えさせています。まだアマチュア劇団の域を脱していない感じはしますが、若さの勢いみたいなものは十分に発散していて、最近の円熟した舞台よりも熱い思いがあふれているように思います。
2025年8月28日木曜日
ラストマン-全盲の捜査官 (2023)
話題になった邦画で、「グランメゾン・パリ」、「キングダム」など、テレビドラマで「TOKYO MERシリーズ」、「ストロベリー・ナイト」などなど、多くの脚本を手掛けているのが黒岩勉です。主にフジテレビ関連の仕事を中心に、ミステリー色のある作品が多く、近年はオリジナル作品も注目されます。
このドラマは、2023年にTBS「日曜劇場」で放送されました。全盲のFBI捜査官と警視庁刑事が異色のバディになるという斬新な設定と、福山雅治と大泉洋というW主演が話題になりました。2025年秋には劇場版の公開を控えています。
相互協定によりFBIの捜査官である皆実広見(福山雅治)が来日しました。もともとは日本人である皆実は、10歳のときに両親を強盗殺人事件で亡くし、自らもその時の怪我が原因で失明してしまいました。大学で心理学に長けていたためFBIにプロファイラーとしてスカウトされ、難事件を最後に解決できる「ラストマン」として活躍していたのです。
皆実の世話役に指名されたのは、警視庁の護道心太朗(大泉洋)で、祖父は元警視庁長官の清二(寺尾聡)、兄は次期警視庁長官確実と言われている京吾(上川隆也)、甥は捜査一課佐久良班の正義感の強い泉(永瀬廉)という名門警察一家の中にいて、警察ノンキャリアの道を選ぶ高い検挙率を誇る変わり者です。心太朗は、実は護道家の養子で、実の父は皆実の両親を殺害した犯人として服役中で、その事件を担当した管理官が護道清二でした。
皆実は最新テクノロジーを駆使して、視力が無くても多くの情報を音声化して驚異的な速さで取り込むのです。佐久良主任(吉田羊)は、当初は事件に勝手に首を突っ込む皆実と心太朗を苦々しく思っていましたが、少しずつ協力するようになります。アメリカでの皆実の活躍に勇気づけられた過去がある吾妻(今田美桜)もIT支援で皆実をサポートします。
物語は41年前の皆実家の事件の謎を主軸として進行していきます。日米の警察が協力するためお互いに人材交流をするというのはあり得る話だとは思いますが、いくら優秀だとは言え全盲の皆実が最初のメンバーというのが、もちろん父親の事件の謎を解き明かしたい皆実の作為があっての人選なのですが、設定的には強引な印象を持ちます。
また、皆実がハイテク機器で常人並み、時にはそれ以上に肉体的な活躍をするのはちょっとやり過ぎのような感じ。その辺りを受け入れられるのであれば、過去の事件と絡み合った人間関係がしだいに解き明かされていく過程はよくできています。
コメディ色の強い大泉洋は頑ななどちらかというと暗いキャラで、むしろ福山が軽めに笑いを取るようなところは新鮮です。また大泉との共演が多い吉田羊とのコンビも楽しいところだと思います。
2025年8月26日火曜日
ミハル (2003)
TEAM NACSの本公演は、1996年から始まり2021年までに17回を数えています。一般にDVD等で入手して視聴可能なのは2004年の第10回「LOOSER」からで、それ以前のものは基本的に見ることはできない・・・のですが、ナックス沼にはまった方は、是非にも見たいものだと思うかも、いや思うはず。
1996年の第1回は解散公演とされ、森崎博之・安田顕の大学卒業・就職記念としてTEAM NACSの旗揚げと同時に解散するものでした。1997年の第2回は、演劇の夢を捨てきれなかった森崎・安田が戻って来た復活公演です。
そして1998年の第3回公演からは、彼らはアマチュアからの卒業を決意し、舞台の様子は撮影・編集され、ビデオ(VHS)として限定的に販売するようになります。今やネット時代となり、それらのビデオテープの映像は動画配信サイトで運が良ければ見つけることが出来るかもしれません。
さて、第9回公演となったのは脚本・演出が戸次重幸による「ミハル」でした。
暗い舞台の中にスポットライトで浮かび上がる二人の男。一人はしゃがみこみ、もう一人は拳銃を相手の頭に向けています。全体の照明が点灯すると、そこはホテルの一室。ピンポンと音がして、ホテルのベルボーイの小宮(戸次重幸)が入ってくると、目の前の光景に動転し興奮して電話にかけより110番にかける。すると拳銃を構えていた安藤(音尾琢真)の携帯につながり、二人が刑事でありもう一人は後輩の岡田(大泉洋)と判明します。
安藤は匂いで相手の嘘を見抜く力があり、岡田は痛みの刺激で相手の過去の記憶を読み取る力があるという。岡田は小宮があまりに疑うので、小学校の時に好きな女の子の縦笛を盗んで今でも大事にしていることを読み取って驚かせます。
そこに撮影日を間違えたカリスマAV男優のキノコ山本(安田顕)が登場します。さらに売れない小説家でドラマの脚本を書くためにホテルに缶詰めになっていた長峰源五郎(森崎博之)も入って来て、やたらと刑事たちにちよっかいを出すのです。山本は実は引退した殺し屋、長峰はかつて恋人を殺した過去があることが明らかになります。
3か月前に、警察に突入された3人の実行犯が人質全員を殺害するという銀行強盗事件が発生しました。その場を指揮を執ったのは安藤で、彼は発砲許可が出る前に犯人を射殺したのです。安藤は幼い時に目の前で強盗に家族を殺された過去があり、犯人が生きて捕まっても遺族の苦しみが減るわけでは無いと考えていたのです。
銀行強盗事件では1億5千万円が消えていて、重傷を負った唯一の生存者である警備員の田中を怪しむ安藤は、彼を監視するためにこのホテルに滞在していたのでした。
高低差の無い一室を舞台にしたシチュエイション・コメディですが、戸次作品でもメンバーそれぞれのキャラクターを生かした配役とギャグがさく裂します。タイトルの「ミハル」は女性名ではなく、向かいの建物にいる容疑者を「見張る」という意味。
出だしは爆笑の嵐で、少しずつシリアスな展開となり、緊張感が途切れずにラストまでもっていく構成はなかなかよく出来ている作品だと思います。後年の「悪童」につながるような舞台で、一人一役でわかりやすいと思います。
特殊能力で過去のトラウマをあぶり出すというのはやや安易なところがあり、本来はしっかりと台詞と演技で少しずつ明らかにしていくべきかもしれません。ただし、上演時間の節約と笑いを取るネタとして機能しているので、TEAM NACSの作品としてはありなのかもしれません。
1996年の第1回は解散公演とされ、森崎博之・安田顕の大学卒業・就職記念としてTEAM NACSの旗揚げと同時に解散するものでした。1997年の第2回は、演劇の夢を捨てきれなかった森崎・安田が戻って来た復活公演です。
そして1998年の第3回公演からは、彼らはアマチュアからの卒業を決意し、舞台の様子は撮影・編集され、ビデオ(VHS)として限定的に販売するようになります。今やネット時代となり、それらのビデオテープの映像は動画配信サイトで運が良ければ見つけることが出来るかもしれません。
さて、第9回公演となったのは脚本・演出が戸次重幸による「ミハル」でした。
暗い舞台の中にスポットライトで浮かび上がる二人の男。一人はしゃがみこみ、もう一人は拳銃を相手の頭に向けています。全体の照明が点灯すると、そこはホテルの一室。ピンポンと音がして、ホテルのベルボーイの小宮(戸次重幸)が入ってくると、目の前の光景に動転し興奮して電話にかけより110番にかける。すると拳銃を構えていた安藤(音尾琢真)の携帯につながり、二人が刑事でありもう一人は後輩の岡田(大泉洋)と判明します。
安藤は匂いで相手の嘘を見抜く力があり、岡田は痛みの刺激で相手の過去の記憶を読み取る力があるという。岡田は小宮があまりに疑うので、小学校の時に好きな女の子の縦笛を盗んで今でも大事にしていることを読み取って驚かせます。
そこに撮影日を間違えたカリスマAV男優のキノコ山本(安田顕)が登場します。さらに売れない小説家でドラマの脚本を書くためにホテルに缶詰めになっていた長峰源五郎(森崎博之)も入って来て、やたらと刑事たちにちよっかいを出すのです。山本は実は引退した殺し屋、長峰はかつて恋人を殺した過去があることが明らかになります。
3か月前に、警察に突入された3人の実行犯が人質全員を殺害するという銀行強盗事件が発生しました。その場を指揮を執ったのは安藤で、彼は発砲許可が出る前に犯人を射殺したのです。安藤は幼い時に目の前で強盗に家族を殺された過去があり、犯人が生きて捕まっても遺族の苦しみが減るわけでは無いと考えていたのです。
銀行強盗事件では1億5千万円が消えていて、重傷を負った唯一の生存者である警備員の田中を怪しむ安藤は、彼を監視するためにこのホテルに滞在していたのでした。
高低差の無い一室を舞台にしたシチュエイション・コメディですが、戸次作品でもメンバーそれぞれのキャラクターを生かした配役とギャグがさく裂します。タイトルの「ミハル」は女性名ではなく、向かいの建物にいる容疑者を「見張る」という意味。
出だしは爆笑の嵐で、少しずつシリアスな展開となり、緊張感が途切れずにラストまでもっていく構成はなかなかよく出来ている作品だと思います。後年の「悪童」につながるような舞台で、一人一役でわかりやすいと思います。
特殊能力で過去のトラウマをあぶり出すというのはやや安易なところがあり、本来はしっかりと台詞と演技で少しずつ明らかにしていくべきかもしれません。ただし、上演時間の節約と笑いを取るネタとして機能しているので、TEAM NACSの作品としてはありなのかもしれません。
2025年8月23日土曜日
LOOSER 2022 (2022)
TEAM NACSの結成25周年記念プロジェクトの最後を飾るのは、何と全国進出の足掛かりとなった2004年の第10回公演「LOOSER〜失い続けてしまうアルバム」のリメイクです。しかも、ただ再演するなんて安易なものではありません。
多くのテレビ・ドラマや映画で活躍する脚本・田中眞一、監督・木村ひさしを迎えて、舞台作品のテイストを生かしつつ、まったくの新しい映像作品として再構築されました。完成された映像は 配信と舞台挨拶付き劇場上映という形で公開されました。
登場するのはメンバー5人ですが、一人一人が18年前の舞台よりより多くの役柄をこなすことになりました。
森崎博之 = チンピラ2、事務所マネージャー、近藤勇、宮部鼎蔵、松平容保、原田左之助、斬られる長州藩士
安田顕 = 時空警察、相手の侍、芹沢鴨、古高俊太郎、永倉新八、北添佶摩
戸次重幸 = シゲ、山南敬助、吉田稔麿、池田屋惣兵衛
大泉洋 = チンピラ1、監督、謎の男、土方歳三、坂本龍馬、藤堂平助
音尾琢真 = 時空警察、沖田総司、桂小五郎
もう、何だこりゃという感じなんですが、カットごとに撮影された映像作品なので舞台と違い役の入れ替えは容易です。一番役が多いのはリーダーの森崎博之ですが、どれを演じても森崎なところがいかにもという安心感があります。逆に、安田顕は、6役をしっかり演じ分けているのには感心します(そのうち3役は死んじゃうのに)。
音尾琢真の沖田と桂の二役は舞台と同じでどちらも重要な役所ですが、18年前と比べると気負いがなく楽しんでいる感じ。同じく大泉洋も土方と坂本の入れ替わりの謎が早くに明かされていて、いずれの役も苦み走った顔が超かっこいい。最後にちょっと出る藤堂で、いかにもそれらしいおちゃらけをちょっとだけ見ることができます。
このストーリーの主人公はここでも戸次重幸で、現代人のシゲは中年になっても売れない役者。さすがに役者を続けることに嫌気がさしていて、借金取りのチンピラに追いかけられるわ、妻には去られてしまうわの散々な人生を送っています。小さい神社のお供えの饅頭をくすねた途端に、社の中に吸い込まれてしまいます。
シゲは気がつくと160年前、青い新選組の羽織を着た山南敬助になっていました。事態が飲み込めないシゲは、皆から訝しがられます。あちこちで問題を起こす芹沢を粛清することになり、土方が芹沢を介錯するところを目撃します。様子がおかしい山南を見て、土方は山南が未来人だと見抜き、着ていた赤い羽織を裏返しに着直し自分が坂本龍馬であることを教えます。そして、荒廃したさらなる未来から、池田屋事件を新選組の失敗に導き未来を変えるためにやって来たというのでした。
竜馬の剣が山南に振り下ろされた途端に、シゲは光の中に吸い込まれ気がつくと現代に戻っていたのです。不思議な夢を見ていたのかと思うシゲでしたが、少しだけ幕末の歴史を勉強してみます。そして、まるで死んでいるかのように生きている今より、あの夢の中の時代に惹かれ始めていることに気がつくシゲなのです。呼び出されたかのように再びあの神社の前に立つと、再び光の中に吸い込まれていくのです。
気がつくと、今度は長州藩邸にいるシゲ。桂小五郎らからは吉田稔麿と呼ばれ、来ている羽織の色が違う。彼らと料亭に向かうと、そこへ坂本竜馬が現れ尊王攘夷の演説を行い京都焼き討ちの詳細は池田屋で相談すると言いますが、シゲは勇気を振り絞って、今は敵対している薩摩と薩長同盟を結び新しい日本を作るのが桂のすべきことであり、京を混乱に陥れ天皇を拉致することはかえって批判されるだけだと異を唱えるのです。
ここで坂本竜馬、いや実は土方でもある未来人の謎の男は、吉田が山南、いやシゲであること気がつくのです。その時、近藤率いる新選組が改めのため登場します。桂らを裏から逃がすと素早く羽織を裏返し土方になる坂本龍馬。逃げそこなったシゲも羽織を裏返すと、再び山南と呼ばれるのです。土方は捕えた古高を拷問しますが、古高は池田屋での決起集会のことは口を割りません。しかし、土方は日時も場所も知っていると言い古高を切り捨てるのでした。
そして、ついに池田屋に集まる攘夷派を一網打尽にするため新選組は店の周囲を固めるのです。シゲは、羽織の着方で新選組にも長州藩士にもなれるなら、羽織を着なければ? と思いつき、何とかこの争いを回避するため、羽織を脱いで池田屋の主人になりきるのでした。しかし、一度動き出した歴史の歯車は誰にも止めることはできないのです。
映像作品ですから、いくらでもロケやセットを組んでリアリティを出すことは可能なはずですが、ここでは撮影所の中の存在しないはずのステージが舞台と言う設定。周りには現実的な撮影機材などが置かれ、セットとして組まれたのは1つの屋敷だけ。これを場面ごとに異なる場所として利用していくという、まさに演劇的手法が用いられています。
またいくらでもメンバー以外の客演を入れることが可能であるはずなのに、細かい役所までTEAM NACSに振り分けています。大勢がいるはずの場面でも、「いる体」で押し切ってしまうところが、いかにも舞台を見ているような錯覚を起こさせます。しかし、映画的な処理によって、舞台(やそのDVD)よりもより臨場感のある場面が展開します。
2004年版では「チョンマゲもチャンバラもない」が売りになっていましたが、今回は殺陣のシーンがあるのも興味深い。やはり実際に(演技として)斬り合うというのは、緊張感が一気に増しています。またそれぞれの台詞もはっきりと聞き取れることも、舞台とは違う良さかもとれません。
リメイクとは言え、そもそも何で土方と坂本が同一人物なのかという点が、大きく改変されていて、シゲのタイムスリップを含めて合理的な理由付けがされているところが素晴らしい。オリジナルをしっかりとリスペクトしつつ、さまざまな役を経験してメンバー5人が確実に大物に成長したことを実感させてくれる作品に仕上がっていると思います。
2025年8月22日金曜日
マスターピース〜傑作を君に〜 (2021)
TEAM NACSは、大学の演劇研究会の仲間5人組で結成され、1996年に旗揚げ公演を行いました。2005年まではほぼ毎年新しいステージを行っていましたが、全国を回るようになって毎年というのは無理が出てきました。以後は2~3年毎の公演日程が組まれるようになって、ついに結成25周年となる記念すべき2021年に第17回本公演を迎えることになりました。
しかし、2000年初頭から始まったコロナ禍は、エンタメ業界には大きな影響を及ぼし、多くの舞台やコンサートが開催目前で中止せざるを得ないことになりました。この本公演も、少なくとも2年前には計画が始まり、各地の会場をおさえたりしていたはずなので、メンバーおよび関係者は本当に開催できるのか本当に心配したことでしょう。
幸い文化・芸能活動の自粛は2021年2月に一定の条件下で解除され、3月初めに稽古が開始されました。何度も何度もPCR検査を行い安全を確認しつつ、4月5日の初日から6月6日の千秋楽までメンバー、スタッフ、そして観客に何事もなく駆け抜けたことは、ある意味賞賛に値するものだったのかもしれません。
成功の理由の一つとしては、今回は出演者はメンバー5人だけの会話劇だったこともあるかもしれません。脚本は、自身も俳優として活躍し映画・テレビの脚本を手掛けている喜安浩平に依頼され、「悪童」の時に関わったマギーが2度目の演出を行いました。昭和20年代後半の熱海の旅館を舞台に、TEAM NACSとしては得意なジャンルのコメディに仕上げられ、暗い雰囲気が覆う時勢に元気を届けられたのかもしれません。
昭和27年の年末に、熱海の温泉宿に新作映画の脚本を執筆するために、温泉を楽しむだけでなかなか筆が進まない諸澤(森崎博之)、ベテランだが不運にも関係した映画が完成したことが無い乙骨(安田顕)、真面目で恋愛経験の乏して灰島(大泉洋)、そして彼らのお目付け役としてプロデューサー見習いの茶山(戸次重幸)が集まりました。
彼らは恋愛物の時代劇を共同執筆しなければならないのですが、一向にアイデアが浮かばない。以前俳優を志しましたがあきらめて旅館の風呂番になった猫屋(音尾琢真)は、彼らの仕事がはかどるように協力(邪魔?)をするのでした。
灰田は、協力的な旅館の女中のアキ(安田顕)に、できたところまでの読み合わせなどを手伝ってもらううちに、しだいに惹かれていきます。大晦日になって、茶山の元に1月3日までに脚本ができないならこの企画は中止するという電報が着ます。
ちょうど同じ旅館の離れにも、同じように籠り切りで姿を見せない同業者がいることに気がつきます。それが偶然に「羅生門」で成功を収めた黒澤明監督であることがわかり、彼らは俄然負けていられないとはりきる・・・のですが、やはりいつまでたっても終わりが見えてこないのです。
メンバーは主たる配役以外に全員女中としても登場しますが、同時にステージにいることができないことが笑いどころになっています。主役は大泉洋ですが、自分の恋愛感情と書いている脚本の内容が少しずつリンクしていくところが本題と言えそうです。そして相変わらず驚愕の演技を見せるのが安田顕で、今回は主演女優賞を差し上げたいくらいです。特に何か仕掛けでもあるのか疑いたくなる女声は驚くしかありません。
随所に黒澤監督に対するオマージュが散りばめられていますが、コミカルな場面としっとりした場面のバランスが良いのは脚本・演出の賜物。途中で全員で枕投げをするところで、ほとんど本気で投げ合っているのは、まさにTEAM NACSらしさ全開で嬉しくなりました。
しかし、2000年初頭から始まったコロナ禍は、エンタメ業界には大きな影響を及ぼし、多くの舞台やコンサートが開催目前で中止せざるを得ないことになりました。この本公演も、少なくとも2年前には計画が始まり、各地の会場をおさえたりしていたはずなので、メンバーおよび関係者は本当に開催できるのか本当に心配したことでしょう。
幸い文化・芸能活動の自粛は2021年2月に一定の条件下で解除され、3月初めに稽古が開始されました。何度も何度もPCR検査を行い安全を確認しつつ、4月5日の初日から6月6日の千秋楽までメンバー、スタッフ、そして観客に何事もなく駆け抜けたことは、ある意味賞賛に値するものだったのかもしれません。
成功の理由の一つとしては、今回は出演者はメンバー5人だけの会話劇だったこともあるかもしれません。脚本は、自身も俳優として活躍し映画・テレビの脚本を手掛けている喜安浩平に依頼され、「悪童」の時に関わったマギーが2度目の演出を行いました。昭和20年代後半の熱海の旅館を舞台に、TEAM NACSとしては得意なジャンルのコメディに仕上げられ、暗い雰囲気が覆う時勢に元気を届けられたのかもしれません。
昭和27年の年末に、熱海の温泉宿に新作映画の脚本を執筆するために、温泉を楽しむだけでなかなか筆が進まない諸澤(森崎博之)、ベテランだが不運にも関係した映画が完成したことが無い乙骨(安田顕)、真面目で恋愛経験の乏して灰島(大泉洋)、そして彼らのお目付け役としてプロデューサー見習いの茶山(戸次重幸)が集まりました。
彼らは恋愛物の時代劇を共同執筆しなければならないのですが、一向にアイデアが浮かばない。以前俳優を志しましたがあきらめて旅館の風呂番になった猫屋(音尾琢真)は、彼らの仕事がはかどるように協力(邪魔?)をするのでした。
灰田は、協力的な旅館の女中のアキ(安田顕)に、できたところまでの読み合わせなどを手伝ってもらううちに、しだいに惹かれていきます。大晦日になって、茶山の元に1月3日までに脚本ができないならこの企画は中止するという電報が着ます。
ちょうど同じ旅館の離れにも、同じように籠り切りで姿を見せない同業者がいることに気がつきます。それが偶然に「羅生門」で成功を収めた黒澤明監督であることがわかり、彼らは俄然負けていられないとはりきる・・・のですが、やはりいつまでたっても終わりが見えてこないのです。
メンバーは主たる配役以外に全員女中としても登場しますが、同時にステージにいることができないことが笑いどころになっています。主役は大泉洋ですが、自分の恋愛感情と書いている脚本の内容が少しずつリンクしていくところが本題と言えそうです。そして相変わらず驚愕の演技を見せるのが安田顕で、今回は主演女優賞を差し上げたいくらいです。特に何か仕掛けでもあるのか疑いたくなる女声は驚くしかありません。
随所に黒澤監督に対するオマージュが散りばめられていますが、コミカルな場面としっとりした場面のバランスが良いのは脚本・演出の賜物。途中で全員で枕投げをするところで、ほとんど本気で投げ合っているのは、まさにTEAM NACSらしさ全開で嬉しくなりました。
2025年8月21日木曜日
がんばれ!TEAM NACS (2021)
結成25周年を迎えたTEAM NACSが記念プロジェクトとして、WOWWOW開局30周年とタッグを組んだ企画です。2021年6月に、1回30分全9回で連続ドラマとして放送され、9月には再編集された劇場版が映画としても公開されています。
2020年はコロナ禍の自粛期間中で、当然目立ったステージ活動は不可能でした。TEAM NACSが所属するOFFICE CUEのタレント総出の2年ごとのお祭り「CUE DREAM JAMBOREE」も2020年は中止になっています。しかし、25年目の爪痕を残したい彼らはまずはバラエティ仕立てのドラマという形でファンを喜ばせくれました。
25周年企画として音尾琢真がWOWWOWに売り込んだのは、彼が長年温めてきた「バック・トゥ・ザ・戦隊・フューチャーズ」でした。音尾が監督となり、ドクレッドに森崎博之、ドクブルーに大泉洋、ドクピンクに戸次重幸がキャスティングされ、吉田羊演じる女帝デロリアンとその部下である安田顕演じる馬糞男と戦うというストーリー。しかし、こだわり過ぎる音尾は、吉田羊には馬糞の泥の中に入らせようとします。
さらに、3人のヒーローには10m以上の高さの時計塔からロープを伝って滑り落ちるように指示します。3人はさすがに危険すぎるとごねるので、音尾は危険が無いことを証明するため自ら時計塔に上ってテストをすることにしますが、その結果顔から馬糞溜に落ちて音尾は怪我をしてしまい企画は頓挫するのです。
TEAM NACSはミーティングを行い、音尾案に代わる企画を考えるのですが、大泉は記念となる北海道を元気にする曲を作ってミュージック・ビデオを作ろうといい、戸次は新メンバーを募集するオーディションを行いたいと言い出します。
戸次の仕切るオーディションには、大黒摩季、コロッケ、タカアンドトシ、武田真治、菊地亜美などなどの有名人も参加し大喜利状態。結局、戸次好みのバストの大きな女性ばかり20人を合格させてしまいます。大泉は、瑛人、山口一郎(サカナクション)、そして細川たかしらに曲を依頼するものの、なかなか意図が伝わらず、結局自分で作るしかなくなります。
メンバーはそれぞれの意見を尊重したいものの、各人のわがままもエスカレートして、雰囲気はどんどん悪くなる一方です。ついにそれぞれが後に引けなくなり、解散するしか選択肢は無くなってしまうのです。リーダーの森崎はこの状況に苦悩するのでした。
何の予備知識無しに見ると、脚本が無いドキュメンタリーと思うような作りです。そして、メンバー同士の仲が悪くなっていくことを、本当に心配すること必至です。
これは逆に5人のメンバーのお互いのリスペクトがあるからこそできる内容で、彼らの仲の良さを逆手にとってキャラクターを前面に押し出している面白さがあります。
ただし作り込んだステージと比べれば、緊張感は少ない。純粋なバラエティと比べれば、突き抜けた感が足りない。TEAM NACSのコアなファンでないと、テレビ版だと270分は長いし、映画版で155分でも辛いかもしれません。
つまり、この作品を楽しむためには、TEAM NACSが大好き、あるいはメンバーの最低一人のファンである必要があります。それさえクリアできれば、そこそこ面白い。結成25周年を迎えても変わらない彼らの関係性がよくわかる作品になっています。記念プロジェクトはさらに続きます。
2020年はコロナ禍の自粛期間中で、当然目立ったステージ活動は不可能でした。TEAM NACSが所属するOFFICE CUEのタレント総出の2年ごとのお祭り「CUE DREAM JAMBOREE」も2020年は中止になっています。しかし、25年目の爪痕を残したい彼らはまずはバラエティ仕立てのドラマという形でファンを喜ばせくれました。
25周年企画として音尾琢真がWOWWOWに売り込んだのは、彼が長年温めてきた「バック・トゥ・ザ・戦隊・フューチャーズ」でした。音尾が監督となり、ドクレッドに森崎博之、ドクブルーに大泉洋、ドクピンクに戸次重幸がキャスティングされ、吉田羊演じる女帝デロリアンとその部下である安田顕演じる馬糞男と戦うというストーリー。しかし、こだわり過ぎる音尾は、吉田羊には馬糞の泥の中に入らせようとします。
さらに、3人のヒーローには10m以上の高さの時計塔からロープを伝って滑り落ちるように指示します。3人はさすがに危険すぎるとごねるので、音尾は危険が無いことを証明するため自ら時計塔に上ってテストをすることにしますが、その結果顔から馬糞溜に落ちて音尾は怪我をしてしまい企画は頓挫するのです。
TEAM NACSはミーティングを行い、音尾案に代わる企画を考えるのですが、大泉は記念となる北海道を元気にする曲を作ってミュージック・ビデオを作ろうといい、戸次は新メンバーを募集するオーディションを行いたいと言い出します。
戸次の仕切るオーディションには、大黒摩季、コロッケ、タカアンドトシ、武田真治、菊地亜美などなどの有名人も参加し大喜利状態。結局、戸次好みのバストの大きな女性ばかり20人を合格させてしまいます。大泉は、瑛人、山口一郎(サカナクション)、そして細川たかしらに曲を依頼するものの、なかなか意図が伝わらず、結局自分で作るしかなくなります。
メンバーはそれぞれの意見を尊重したいものの、各人のわがままもエスカレートして、雰囲気はどんどん悪くなる一方です。ついにそれぞれが後に引けなくなり、解散するしか選択肢は無くなってしまうのです。リーダーの森崎はこの状況に苦悩するのでした。
何の予備知識無しに見ると、脚本が無いドキュメンタリーと思うような作りです。そして、メンバー同士の仲が悪くなっていくことを、本当に心配すること必至です。
これは逆に5人のメンバーのお互いのリスペクトがあるからこそできる内容で、彼らの仲の良さを逆手にとってキャラクターを前面に押し出している面白さがあります。
ただし作り込んだステージと比べれば、緊張感は少ない。純粋なバラエティと比べれば、突き抜けた感が足りない。TEAM NACSのコアなファンでないと、テレビ版だと270分は長いし、映画版で155分でも辛いかもしれません。
つまり、この作品を楽しむためには、TEAM NACSが大好き、あるいはメンバーの最低一人のファンである必要があります。それさえクリアできれば、そこそこ面白い。結成25周年を迎えても変わらない彼らの関係性がよくわかる作品になっています。記念プロジェクトはさらに続きます。
2025年8月19日火曜日
PARAMUSHIR〜信じ続けた士魂の旗を掲げて (2018)
昭和20年8月15日、日本は降伏し戦争は終結・・・していなかった。この事実は、ほとんど語られることがありません。しかし、その結果として、いわゆる「北方領土問題」が生じたことについては、自分を含めて多くの日本人が問題の根源については理解不足かもしれません。
1945年4月、当時のソビエト連邦は「日ソ中立条約」を一方的に破棄し、8月8日に日本への宣戦布告をしました。これは日本の敗戦が濃厚になったことで、自国の領土獲得を狙ったものであることは明らかでした。まず満州から樺太に侵攻したソ連軍は、8月14日の「ポツダム宣言」受諾後も攻撃を続け、8月18日にはカムチャッカ半島に最も近い占守島(しゅむしゅとう)に上陸し、日本守備隊と交戦しました。その後もその隣の幌筵島(ぱらむしるとう)から千島列島を南下し、択捉島・国後島・色丹島・歯舞群島までを9月5日までに占領したのです。
TEAM NACSのリーダー、森崎博之は「HONOR〜守り続けた痛みと共に(2007)」の事前調査中に、旧日本軍の戦車「チハ」の写真を見つけたことから、今回の原案を掘り起こしました。TEAM NACSの舞台としては、初めてまだまだ歴史という記録の中に埋もれていないはずの、人々の中に記憶が残る題材が用いられました。太平洋戦争の中でも最終局面に突如始まったソ連侵攻による北海道割譲危機は、北海道出身で北海道で育ったメンバーにだからこそ伝えたいメッセージとなりました。
今回は脚本は重鎮、林民夫に依頼され、演出は森崎博之が担当しました。ここで語られる占守島・幌筵島における戦闘は、通常取り上げられる戦争とは意味合いが全く違っていました。大多数の戦争物は「お国のために」、「天皇陛下」のために命を捨てる覚悟で戦い、玉音放送によって終了します。しかし、この戦いは玉音放送から始まり、戦う大義を失ったにも関わらずもう一度戦わなければならなくなった兵士たちが、何のために戦えばいいのか、何のために命をかければいいのかを探ることになるのです。
軍人一家の落ちこぼれの小宮勝四郎少尉(森崎博之)は、何とか家名を残せという重圧の中で、実戦経験を伴わない空回りをしています。人間味豊かな水島哲軍曹(大泉洋)は、戦争が終わったと聞いて家族の元に帰りたい。本土の空襲で家族を亡くし戦う意味を失った桜庭仁平上等兵(安田顕)は、幌筵島の勤労女子たちが避難できるまで何としてでも防衛線を死守すると決意します。
こどもが産まれたばかりの若い田中誠二等兵は、戦闘は怖くて仕方がないが、家族と再会するためには戦わなければならないと決心します。そして、臆病だった自分を責める死んだ仲間の亡霊に悩まされる矢野正三整備兵(音尾琢真)は、戦車チハを通してかつての仲間への贖罪としたいのです。
彼ら5人はソ連侵攻による混乱の中で、たまたま出会い、一時の休息の中でお互いを語り合うことで、最初はバカにされていた小宮はしだいに認められるようになります。水島は戦わなければならない気持ちと家族の元に帰りたい気持ちの間で揺れ動くのですが、ついに桜庭の決意に同意し、帰るためにはまず戦うという選択をするのです。
今回の公演では若手俳優たちが15人客演しました。5人だけでも演じれるかもしれませんが、戦闘場面がある以上、舞台で大きな迫力を見せるために大人数は効果的です。またそのうち3人は女性で、桜庭の決意に説得力を出しています。また最終局面で戦闘により一人一人が倒れていく4分間にも及ぶ台詞の無い異例のシーンは、女性3人の合唱が入ることで見る者の心を大きく揺さぶるのです。
今回の主役はおそらく桜庭を演じた安田顕だと思いますが、エピローグ・シーンでは役者としての天才をいかんなく発揮して大注目です。外部の脚本ではギャグは少なくなり、また今回のテーマが大変重たいため笑いどころはほとんどありませんが、主として森崎と戸次が台詞の端々にときどき小ネタを挟み込んでいて、全体の雰囲気を崩さない程度に息抜きの間も用意されています。
いつも数か月間で60回近い公演を行う彼らの健康面の強靭さに驚くと書いたばかりでしたが、実は今回はかなり苦労があったようです。1か月弱の短めの稽古期間中に音尾とアンサンブルキャスト数人がインフルエンザに罹患してしまいました。また大雪により稽古を切り上げざるをえなかった日もありました。森崎と戸次はプチぎっくり腰です。
中でも一番大きかったのは、初日1週間前に大泉が右ふくらはぎの肉離れを起こしたこと。あの大泉洋が完全に笑いを忘れる事件で、普通に動けるには3週間程度かかるところを、何とか初日に間に合わせたことには敬意を表します。
結成時20~25歳だったメンバーも、この公演では42~47歳。加齢による衰えは隠せないのでしょうが、その分いろいろなテクニックは身につけ、いまだに新しいものに挑戦している姿勢は素晴らしい。一つ終わっても、また次という具合に期待が膨らみます。
1945年4月、当時のソビエト連邦は「日ソ中立条約」を一方的に破棄し、8月8日に日本への宣戦布告をしました。これは日本の敗戦が濃厚になったことで、自国の領土獲得を狙ったものであることは明らかでした。まず満州から樺太に侵攻したソ連軍は、8月14日の「ポツダム宣言」受諾後も攻撃を続け、8月18日にはカムチャッカ半島に最も近い占守島(しゅむしゅとう)に上陸し、日本守備隊と交戦しました。その後もその隣の幌筵島(ぱらむしるとう)から千島列島を南下し、択捉島・国後島・色丹島・歯舞群島までを9月5日までに占領したのです。
TEAM NACSのリーダー、森崎博之は「HONOR〜守り続けた痛みと共に(2007)」の事前調査中に、旧日本軍の戦車「チハ」の写真を見つけたことから、今回の原案を掘り起こしました。TEAM NACSの舞台としては、初めてまだまだ歴史という記録の中に埋もれていないはずの、人々の中に記憶が残る題材が用いられました。太平洋戦争の中でも最終局面に突如始まったソ連侵攻による北海道割譲危機は、北海道出身で北海道で育ったメンバーにだからこそ伝えたいメッセージとなりました。
今回は脚本は重鎮、林民夫に依頼され、演出は森崎博之が担当しました。ここで語られる占守島・幌筵島における戦闘は、通常取り上げられる戦争とは意味合いが全く違っていました。大多数の戦争物は「お国のために」、「天皇陛下」のために命を捨てる覚悟で戦い、玉音放送によって終了します。しかし、この戦いは玉音放送から始まり、戦う大義を失ったにも関わらずもう一度戦わなければならなくなった兵士たちが、何のために戦えばいいのか、何のために命をかければいいのかを探ることになるのです。
軍人一家の落ちこぼれの小宮勝四郎少尉(森崎博之)は、何とか家名を残せという重圧の中で、実戦経験を伴わない空回りをしています。人間味豊かな水島哲軍曹(大泉洋)は、戦争が終わったと聞いて家族の元に帰りたい。本土の空襲で家族を亡くし戦う意味を失った桜庭仁平上等兵(安田顕)は、幌筵島の勤労女子たちが避難できるまで何としてでも防衛線を死守すると決意します。
こどもが産まれたばかりの若い田中誠二等兵は、戦闘は怖くて仕方がないが、家族と再会するためには戦わなければならないと決心します。そして、臆病だった自分を責める死んだ仲間の亡霊に悩まされる矢野正三整備兵(音尾琢真)は、戦車チハを通してかつての仲間への贖罪としたいのです。
彼ら5人はソ連侵攻による混乱の中で、たまたま出会い、一時の休息の中でお互いを語り合うことで、最初はバカにされていた小宮はしだいに認められるようになります。水島は戦わなければならない気持ちと家族の元に帰りたい気持ちの間で揺れ動くのですが、ついに桜庭の決意に同意し、帰るためにはまず戦うという選択をするのです。
今回の公演では若手俳優たちが15人客演しました。5人だけでも演じれるかもしれませんが、戦闘場面がある以上、舞台で大きな迫力を見せるために大人数は効果的です。またそのうち3人は女性で、桜庭の決意に説得力を出しています。また最終局面で戦闘により一人一人が倒れていく4分間にも及ぶ台詞の無い異例のシーンは、女性3人の合唱が入ることで見る者の心を大きく揺さぶるのです。
今回の主役はおそらく桜庭を演じた安田顕だと思いますが、エピローグ・シーンでは役者としての天才をいかんなく発揮して大注目です。外部の脚本ではギャグは少なくなり、また今回のテーマが大変重たいため笑いどころはほとんどありませんが、主として森崎と戸次が台詞の端々にときどき小ネタを挟み込んでいて、全体の雰囲気を崩さない程度に息抜きの間も用意されています。
いつも数か月間で60回近い公演を行う彼らの健康面の強靭さに驚くと書いたばかりでしたが、実は今回はかなり苦労があったようです。1か月弱の短めの稽古期間中に音尾とアンサンブルキャスト数人がインフルエンザに罹患してしまいました。また大雪により稽古を切り上げざるをえなかった日もありました。森崎と戸次はプチぎっくり腰です。
中でも一番大きかったのは、初日1週間前に大泉が右ふくらはぎの肉離れを起こしたこと。あの大泉洋が完全に笑いを忘れる事件で、普通に動けるには3週間程度かかるところを、何とか初日に間に合わせたことには敬意を表します。
結成時20~25歳だったメンバーも、この公演では42~47歳。加齢による衰えは隠せないのでしょうが、その分いろいろなテクニックは身につけ、いまだに新しいものに挑戦している姿勢は素晴らしい。一つ終わっても、また次という具合に期待が膨らみます。
2025年8月18日月曜日
悪童 (2015)
TEAM NACSにとっては、第15回となる本公演。
それにしても気がついたのは、「COMPOSER ~響き続ける旋律の調べ (2005)」以降は全国を回って「ツアー」をしていて、数年ごとに約60ステージをこなしているわけですが、誰も病気したり怪我して休むことが無いというのが凄い。基本的に5人という少ない人数の演劇集団で、しかも一人で何役もこなしたりするので、一人欠けたら休演するしかありません。
今回の「悪童」では、TEAM NACSはまた新たな挑戦をしています。前作「WARRIOR~唄い続ける侍ロマン(2012)」では、原案はリーダー森崎ですが、初めて外部の脚本家を入れました。そして、今作では脚本は映画「探偵はBARにいる」シリーズ、テレビ「リーガルハイ」、「コンフィデンスマンJP」などで大人気の古沢良太にオリジナル脚本を依頼、さらに演出は俳優としても活躍しているマギーに依頼しました。
マギーはTEAM NACSに先駆けて6人組の演劇ユニット、ジョビジョバを主宰しており、学生だったTEAM NACSメンバーも憧れる存在だったようです。完全に外部の脚本・演出を入れたことで、メンバーの負担が軽減し、演技に集中できたことは大きい。また演技を客観的に指導されることも、彼らの新しい魅力を引き出すことに役立ったようです。
今や廃墟となり明日から取り壊しが決まっているレジャー施設、竜宮に吉村雄太郎、通称チャック(戸次重幸)が立てこもりました。中学校の卓球部でチャックと仲間だった市役所職員の西崎直樹、通称ニシ(音尾琢真)は説得するため廃墟に入りましたが、チャックは部長の紺野治、通称コンちゃん(森崎博之)、幽霊部員だった江口幸一、通称エロっち(大泉洋)、副部長の巻光博(安田顕)、そして転校してしまった左和哉、通称とん平を連れてこいと言うのでした。
チャックはとん平以外の集まった4人に理由を説明します。皆、この竜宮で楽しそうに遊んでいたが、存在感の薄い自分は母親からも禁止されていたため来たことが無い。卒業したら皆で一緒に遊びに来ると約束してくれたがいまだにその約束が果たされていない。自分は病気になって明日をも知らぬ体なので、今日はあの時の約束を守って、一緒に遊んでもらいたいというのでした。
皆がそんなことに付き合えるかと言い出すのですが、チャックは誰だってやりたかったことがあるはずだと言うので、一人一人が当時を思い出していくのです。そして、コンちゃんの口から、とん平が転校したのは飛び降り自殺未遂のせいだったことが語られます。コンちゃんは、病院で飛び降りた原因は卓球部の仲間のせいだけど、それが誰かは詮索しないでほしいと言われたというのです。
話をしていくうちに、それぞれの悪行が明らかになっていきます。とん平からお金を巻き上げていたエロっち、ゲームでからかっていたチャック、ごみクズと呼んで厳しく当たっていた巻、それを見て見ぬふりをしていたコンちゃん、そして幼馴染だったとん平をそんな過酷な環境に仲間入りさせてしまったニシ。話しているうちに、全員がとん平が辛い思いをする原因を持っていることがわかるのです。
一人一役で、それぞれのキャラクターを作り上げていく会話劇というスタイルは、TEAM NACSとしては初めての試みです。セルフ・プロデュースではないのでギャグは少な目なので、TEAM NACSらしさが物足りないと感じるかもしれませんが、トータルとしての面白さは彼らならではのものだと思います。
しだいに見えてくる事柄が真実なのか否かという、ある種のサスペンスがとても面白い。このあたりのパズルは、さすがの古沢良太の面目躍如というところでしょう。古沢も「スタンド・バイ・ミー」のように事件が起こっても結局たいしたことではなかったというスタイルを目指したそうで、ちょっとしたことが小さなどんでん返しを何度も起こすうちに大きな山崩れになりそうな一歩手前で大どんでん返しをします。
いずれにしても、結成して20年近くなろうという彼らの、いまだに新しい一面を見ることができることは興味深い。また、年月がたったからこそ、それを可能としている彼らの貪欲さには驚かされる。5人だからこそできる、5人でないとできない芝居はまだまだ尽きることはなさそうです。
ちなみに、「CUE DREAM JAMBOREE 2016」では、大泉洋脚本による「悪童 Episode 0」が演じられています。登場人物の中学校時代、本公演で語られた卓球部員だった時の「思い出」を中心としたストーリーと立て籠もり事件から5年後を組み合わせた内容です。ただし、これはあくまでもお遊びなので、見ないと困るというほどのものではありません。
それにしても気がついたのは、「COMPOSER ~響き続ける旋律の調べ (2005)」以降は全国を回って「ツアー」をしていて、数年ごとに約60ステージをこなしているわけですが、誰も病気したり怪我して休むことが無いというのが凄い。基本的に5人という少ない人数の演劇集団で、しかも一人で何役もこなしたりするので、一人欠けたら休演するしかありません。
今回の「悪童」では、TEAM NACSはまた新たな挑戦をしています。前作「WARRIOR~唄い続ける侍ロマン(2012)」では、原案はリーダー森崎ですが、初めて外部の脚本家を入れました。そして、今作では脚本は映画「探偵はBARにいる」シリーズ、テレビ「リーガルハイ」、「コンフィデンスマンJP」などで大人気の古沢良太にオリジナル脚本を依頼、さらに演出は俳優としても活躍しているマギーに依頼しました。
マギーはTEAM NACSに先駆けて6人組の演劇ユニット、ジョビジョバを主宰しており、学生だったTEAM NACSメンバーも憧れる存在だったようです。完全に外部の脚本・演出を入れたことで、メンバーの負担が軽減し、演技に集中できたことは大きい。また演技を客観的に指導されることも、彼らの新しい魅力を引き出すことに役立ったようです。
今や廃墟となり明日から取り壊しが決まっているレジャー施設、竜宮に吉村雄太郎、通称チャック(戸次重幸)が立てこもりました。中学校の卓球部でチャックと仲間だった市役所職員の西崎直樹、通称ニシ(音尾琢真)は説得するため廃墟に入りましたが、チャックは部長の紺野治、通称コンちゃん(森崎博之)、幽霊部員だった江口幸一、通称エロっち(大泉洋)、副部長の巻光博(安田顕)、そして転校してしまった左和哉、通称とん平を連れてこいと言うのでした。
チャックはとん平以外の集まった4人に理由を説明します。皆、この竜宮で楽しそうに遊んでいたが、存在感の薄い自分は母親からも禁止されていたため来たことが無い。卒業したら皆で一緒に遊びに来ると約束してくれたがいまだにその約束が果たされていない。自分は病気になって明日をも知らぬ体なので、今日はあの時の約束を守って、一緒に遊んでもらいたいというのでした。
皆がそんなことに付き合えるかと言い出すのですが、チャックは誰だってやりたかったことがあるはずだと言うので、一人一人が当時を思い出していくのです。そして、コンちゃんの口から、とん平が転校したのは飛び降り自殺未遂のせいだったことが語られます。コンちゃんは、病院で飛び降りた原因は卓球部の仲間のせいだけど、それが誰かは詮索しないでほしいと言われたというのです。
話をしていくうちに、それぞれの悪行が明らかになっていきます。とん平からお金を巻き上げていたエロっち、ゲームでからかっていたチャック、ごみクズと呼んで厳しく当たっていた巻、それを見て見ぬふりをしていたコンちゃん、そして幼馴染だったとん平をそんな過酷な環境に仲間入りさせてしまったニシ。話しているうちに、全員がとん平が辛い思いをする原因を持っていることがわかるのです。
一人一役で、それぞれのキャラクターを作り上げていく会話劇というスタイルは、TEAM NACSとしては初めての試みです。セルフ・プロデュースではないのでギャグは少な目なので、TEAM NACSらしさが物足りないと感じるかもしれませんが、トータルとしての面白さは彼らならではのものだと思います。
しだいに見えてくる事柄が真実なのか否かという、ある種のサスペンスがとても面白い。このあたりのパズルは、さすがの古沢良太の面目躍如というところでしょう。古沢も「スタンド・バイ・ミー」のように事件が起こっても結局たいしたことではなかったというスタイルを目指したそうで、ちょっとしたことが小さなどんでん返しを何度も起こすうちに大きな山崩れになりそうな一歩手前で大どんでん返しをします。
いずれにしても、結成して20年近くなろうという彼らの、いまだに新しい一面を見ることができることは興味深い。また、年月がたったからこそ、それを可能としている彼らの貪欲さには驚かされる。5人だからこそできる、5人でないとできない芝居はまだまだ尽きることはなさそうです。
ちなみに、「CUE DREAM JAMBOREE 2016」では、大泉洋脚本による「悪童 Episode 0」が演じられています。登場人物の中学校時代、本公演で語られた卓球部員だった時の「思い出」を中心としたストーリーと立て籠もり事件から5年後を組み合わせた内容です。ただし、これはあくまでもお遊びなので、見ないと困るというほどのものではありません。
2025年8月13日水曜日
WARRIOR〜唄い続ける侍ロマン (2012)
TEAM NACSにとっては前作から3年ぶりの「ニッポン公演」と銘打った本公演で、今回は戦国時代を舞台に名を馳せた武将たちの生き様がテーマ。タイトルの「(英語) ~ ××続ける××」はリーダー森崎のスタイルで、原案・演出も森崎が担当していますが、初めて脚本は外部の宇田学に依頼して作り上げました。
自分は戦国時代は得意じゃない。登場人物が多い上に、あちこちでくっついたり離れたりでごちゃごちゃしてよくわからない。ですから、最低限の歴史教科書に書かれていることくらいしか知らないのです。この作品では、戦国時代のごく一般的な史実を下敷きしていますが、物語として多くの改変が行われていますので、まずは物語の状況設定を理解するのには若干の時間を必要とするかもしれません。
今川義元についたのが徳川家康(安田顕)と明智光秀(大泉洋)。織田信長(戸次重幸)には柴田勝家(森崎博之)と豊臣秀吉(音尾琢真)です。桶狭間の戦いで攻め入った織田軍勢により、今川義元と 徳川家康は殺される。今川のもとで合戦図を描いていた又兵衛(安田顕)は捕らえられるものの、家康とそっくりだったことから、信長に脅されて家康の影武者として三河に送り込まれます。
自分は戦国時代は得意じゃない。登場人物が多い上に、あちこちでくっついたり離れたりでごちゃごちゃしてよくわからない。ですから、最低限の歴史教科書に書かれていることくらいしか知らないのです。この作品では、戦国時代のごく一般的な史実を下敷きしていますが、物語として多くの改変が行われていますので、まずは物語の状況設定を理解するのには若干の時間を必要とするかもしれません。
今川義元についたのが徳川家康(安田顕)と明智光秀(大泉洋)。織田信長(戸次重幸)には柴田勝家(森崎博之)と豊臣秀吉(音尾琢真)です。桶狭間の戦いで攻め入った織田軍勢により、今川義元と 徳川家康は殺される。今川のもとで合戦図を描いていた又兵衛(安田顕)は捕らえられるものの、家康とそっくりだったことから、信長に脅されて家康の影武者として三河に送り込まれます。
光秀は捕らえられ信長が本拠地にしていた清須城に監禁されますが、城には今や信長の正室となっているかつての妻、濃姫がいたのです。信長は濃姫を人質に、光秀を従わせるのです・・・といったところまでをイントロダクションとして頭にいれておく必要があります。
史実と異なる重要な変更点は、桶狭間で家康が死んで、あとは影武者が家康になり切るというところと、光秀と濃姫が元夫婦だったというところ。その上で、主要人物のそれぞれの侍としての生き様が浮かび上がってくる構成になっています。この内容だと、さすがにTEAM NACSの5人だけで何役も演じ分けるのは無理があるため、追加のキャストが15人ほど動員されています。
配役が明記されていないので、間違いがあるかもしれませんが、家康の正室築山を演じるのは大野朱美、濃姫は田中温子という女優さんが当てられました。メンバーの女装もなかなかのものなのですが、本物の女性の華も舞台で生えますね。その他のキャストも多いので、合戦シーンなども厚みがある舞台となっています。
ここでの主役は安田の徳川家康・・・というか本来は絵師だった又兵衛が、家康の影武者にさせられ、好むと好まざるとに関わらず戦いの中に放り込まれていく。恐怖で人を支配する信長に翻弄され妻と子供を殺すことになり、武士「家康」として覚醒するのです。
一番の悪役は音尾の豊臣秀吉。信長は天下をとれるかもしれないが、それを維持していくことはできない。天下を保てるのは自分だと考え、策略をめぐらして本能寺で信長を亡き者とする真の黒幕として暗躍するのです。
そして、戸次演じる織田信長がはんぱなくかっこいい。今回は信長は笑わせるシーンはなく、一貫して凛々しい姿を見せ続けてくれます。大泉の明智光秀も見事な殺陣もたくさんあり、意外な濃姫との強い関係が素敵でした。ちなみに冒頭で頭巾をかぶった男が、家康から半蔵と呼ばれていましたが、ラストシーンでその正体が判明します。なるほど、そういう解釈だったかと・・・
森崎の柴田勝家は、今回は演出で大変だったせいか、全編を通してコメディ・リリーフ的な役回りに終始していますが、そこが要所要所でTEAM NACSらしさを感じるポイントになっています。舞台演劇としては、一作ごとに完成度がさらに上がっているステージで、特に外部脚本を用いたことはより濃いストーリーになって、TEAM NACSの最高傑作という人もいるようです。
タイトルの「WARRIOR」は戦士という意味ですが、ここでは戦いで侍が斬り込むときの叫び声にかけてあります。TEAM NACS + 15のウォリャーを思う存分楽しむことができます。
2025年8月11日月曜日
山田家の人々 (2003)
TEAM NACS深追いシリーズとしては、今回はやや番外編的なもの。
2002年から北海道テレビで放送されたバラエティ番組で「ドラバラ鈴井の巣」というのがあって、ドラマ・パートとバラエティ・パートを合体させたもの。鈴井はTEAM NACSが所属する北海道の芸能プロダクション、CREATIVE OFFICE CUEの社長の鈴井貴之のことで、 総合企画を担当しています。
番組では6~9話くらいで完結するドラマとそれにまつわる面白メイキングなどを放送したのですが、その中で作られたのが大泉洋企画・脚本の「山田家の人々」というホーム・ドラマでした。ところが、これが難産で締め切りを過ぎてもいっこうに大泉から脚本が上がってこない。大泉は主題曲の作詞・作曲も引き受けていて、それも含めて時間がかなり無くなっていた中でのかなり大変な作業になったようです。
大泉の実体験をかなり取り入れた話で、全9話でドラマ部分だけで約2時間という映画並みの尺になっています。「ドラバラ」の基本はTEAM NACSの5人を中心に、不足は同じプロダクションのタレントで補うのが原則でしたが、今回は本気度が違うということで、鈴井の第1回監督映画「man-hole (2001)」に主演した三輪明日美を東京から呼び寄せています。
山田青果店の創業者は今は隠居している山田春三(大泉洋)、ダジャレ好きで短気の二代目は春弘(鈴井貴之)です。長男はミュージシャンになるといって家を飛び出した太郎(森崎博之)、次男は二浪して大学を目指している洋一(安田顕)、そして母亡き後は大黒柱として面倒な家族を支えている長女の千春(小橋亜樹)らが山田家の人々です。
高校の時に東京に転校した明日美(三輪)を好きだった洋一は、東京の大学を目指していましたが賑やかな家族の中でなかなか勉強に集中できません。いつまでも売れない太郎が戻って来て、春三と一緒に面倒を起こしたりもします。そして勉強部屋の雨漏りを治すため、成金の後藤利喜男(音尾琢真)主催のボーリング大会の賞金目当てに家族で出場したりします。
そして突然、千春が細川光(戸次重幸)とできちゃった婚すると言い出し、春弘は爆発してしまいます。しかし、春弘は相撲勝負で何度もあきらめずに向かってくる光を認め、ついに二人の仲を許したのでした・・・というストーリーで、ちなみに洋一はしっかり振られてしまいますが、まぁまぁ面白い話になっています。
それだけなら、わざわざ紹介するまでもないのですが、このストーリーには続編があって合わせると泣きそうになる家族愛のドラマとしてより完成度が高くなるのです。続編は舞台劇として演じられました。
TEAM NACSが所属しているCREATIVE OFFICE CUEでは2002年から所属アーティスト総出演でお祭り騒ぎをする「CUE DREAM JAM-BOREE」というステージを2年ごとに行っていて、北海道のローカル・タレントだけの北海道だけで行われるイベントにもかかわらず、ものすごい人数を動員しています。TEAM NACSの五人が中心となり、それぞれがテレビで演じたキャラクターを再現したり、また披露したオリジナル曲を歌ったりするイベントです。
2006年のステージは大泉洋が総合プロデュースをして、千春と光の結婚式から5年後という設定で「山田家の人々」のその後が演じられました。お祭りステージということで、ふだんの演劇公演ほど練られてはいませんし、アドリブ満載の爆笑ステージで後藤利喜男主催の歌謡コンクールに出場するという設定で、たくさんの歌が披露されるようになっています。
春三が亡くなって新盆を迎えた山田家。洋一は北海道で大学を卒業し、テレビ局に就職ししょーもないバラエティ制作に携わっています。太郎は青果店の三代目として春弘と働いていました。千春と光の間には千光(河野真也)というちょっとでかすぎる(?)こどもがいます。
いろいろと不思議なことが起こったり、千光が誰かと会話したり・・・洋一も春三と楽しく話す夢を見たりするのです。実は春三の魂が帰って来て、いろいろといたずらをしていたのですが、春三は亡くなった時仕事でいなかった洋一に会いたくて戻って来たのでした。春三は千光に洋一宛の手紙を託して消えていきました。
安田顕は演技者として「変態」かつ「天才」と仲間内で評価されているんですが、このお祭りステージですら手を抜くことはなく、しっかり涙を流して泣く所はさすがとしか言いようがない。チャンスがあれば本編だけでなく続編も合わせて見ることで大泉の「天才」も感じ取れることと思います。
2002年から北海道テレビで放送されたバラエティ番組で「ドラバラ鈴井の巣」というのがあって、ドラマ・パートとバラエティ・パートを合体させたもの。鈴井はTEAM NACSが所属する北海道の芸能プロダクション、CREATIVE OFFICE CUEの社長の鈴井貴之のことで、 総合企画を担当しています。
番組では6~9話くらいで完結するドラマとそれにまつわる面白メイキングなどを放送したのですが、その中で作られたのが大泉洋企画・脚本の「山田家の人々」というホーム・ドラマでした。ところが、これが難産で締め切りを過ぎてもいっこうに大泉から脚本が上がってこない。大泉は主題曲の作詞・作曲も引き受けていて、それも含めて時間がかなり無くなっていた中でのかなり大変な作業になったようです。
大泉の実体験をかなり取り入れた話で、全9話でドラマ部分だけで約2時間という映画並みの尺になっています。「ドラバラ」の基本はTEAM NACSの5人を中心に、不足は同じプロダクションのタレントで補うのが原則でしたが、今回は本気度が違うということで、鈴井の第1回監督映画「man-hole (2001)」に主演した三輪明日美を東京から呼び寄せています。
山田青果店の創業者は今は隠居している山田春三(大泉洋)、ダジャレ好きで短気の二代目は春弘(鈴井貴之)です。長男はミュージシャンになるといって家を飛び出した太郎(森崎博之)、次男は二浪して大学を目指している洋一(安田顕)、そして母亡き後は大黒柱として面倒な家族を支えている長女の千春(小橋亜樹)らが山田家の人々です。
高校の時に東京に転校した明日美(三輪)を好きだった洋一は、東京の大学を目指していましたが賑やかな家族の中でなかなか勉強に集中できません。いつまでも売れない太郎が戻って来て、春三と一緒に面倒を起こしたりもします。そして勉強部屋の雨漏りを治すため、成金の後藤利喜男(音尾琢真)主催のボーリング大会の賞金目当てに家族で出場したりします。
そして突然、千春が細川光(戸次重幸)とできちゃった婚すると言い出し、春弘は爆発してしまいます。しかし、春弘は相撲勝負で何度もあきらめずに向かってくる光を認め、ついに二人の仲を許したのでした・・・というストーリーで、ちなみに洋一はしっかり振られてしまいますが、まぁまぁ面白い話になっています。
それだけなら、わざわざ紹介するまでもないのですが、このストーリーには続編があって合わせると泣きそうになる家族愛のドラマとしてより完成度が高くなるのです。続編は舞台劇として演じられました。
TEAM NACSが所属しているCREATIVE OFFICE CUEでは2002年から所属アーティスト総出演でお祭り騒ぎをする「CUE DREAM JAM-BOREE」というステージを2年ごとに行っていて、北海道のローカル・タレントだけの北海道だけで行われるイベントにもかかわらず、ものすごい人数を動員しています。TEAM NACSの五人が中心となり、それぞれがテレビで演じたキャラクターを再現したり、また披露したオリジナル曲を歌ったりするイベントです。
2006年のステージは大泉洋が総合プロデュースをして、千春と光の結婚式から5年後という設定で「山田家の人々」のその後が演じられました。お祭りステージということで、ふだんの演劇公演ほど練られてはいませんし、アドリブ満載の爆笑ステージで後藤利喜男主催の歌謡コンクールに出場するという設定で、たくさんの歌が披露されるようになっています。
春三が亡くなって新盆を迎えた山田家。洋一は北海道で大学を卒業し、テレビ局に就職ししょーもないバラエティ制作に携わっています。太郎は青果店の三代目として春弘と働いていました。千春と光の間には千光(河野真也)というちょっとでかすぎる(?)こどもがいます。
いろいろと不思議なことが起こったり、千光が誰かと会話したり・・・洋一も春三と楽しく話す夢を見たりするのです。実は春三の魂が帰って来て、いろいろといたずらをしていたのですが、春三は亡くなった時仕事でいなかった洋一に会いたくて戻って来たのでした。春三は千光に洋一宛の手紙を託して消えていきました。
安田顕は演技者として「変態」かつ「天才」と仲間内で評価されているんですが、このお祭りステージですら手を抜くことはなく、しっかり涙を流して泣く所はさすがとしか言いようがない。チャンスがあれば本編だけでなく続編も合わせて見ることで大泉の「天才」も感じ取れることと思います。
2025年8月10日日曜日
天皇の料理番 (2015)
宮内省大膳職司厨長を務めた秋山徳蔵(1888-1974)の半生をフィクションを交えて描いた、杉森久英による小説が原作。TBSが60周年企画として日曜劇場で全12回で放送したテレビ・ドラマで、ドラマ化は1980年(主演・堺正章)、1993年(高嶋政伸)に次いで3度目となりました。
福井県越前の寒村で、あまりにもやんちゃ坊主だった秋山篤蔵(佐藤健)は出家したはずの寺からも破門となり戻されました。困った両親(杉本哲太、美保純)は、鯖江の海鮮問屋の娘、高浜俊子(黒木華)の婿養子にするのです。
しばらくは大人しくしていた篤蔵でしたが、仕事で出入りしていた鯖江連隊の厨房でコックの田辺(伊藤英明)と知り合い、彼の作ったカツレツの美味しさをきっかけに日本一の洋食の料理人になる決心をします。そして、ついに高浜家を飛び出して東京に出奔し、弁護士を目指す優秀な兄、周太郎(鈴木亮平)と彼の師である桐塚教授(武田鉄矢)の世話で、華族会館の厨房で小僧として働くようになります。
しかし、いつまでたっても鍋洗いばかりで料理をさせてもらえない篤蔵は、料理長の宇佐美(小林薫)が誰にも見せずに大事にしているレシピ・ノートを見たいという誘惑にかられ盗んでしまうのです。事の重大さに気がついた篤蔵は宇佐美にノートを返し謝罪しますが、宇佐美から「料理は真心」だという信条を教えられたことで少しずつ周囲の信頼を得るようになりました。そして、俊子はそんな篤蔵を見て、離縁して身を引く決心をするのでした。
その頃、周太郎は肺結核を発症し体調を崩し始めていました。篤蔵はこっそりと英国公使館厨房で料理の勉強を始めたのですが、華族会館には兄の見舞いと嘘を重ねていきます。ある日、公使館に出かけている時に、周太郎が病気療養のため故郷に帰ることを伝えに華族会館を訪れたことでついに篤蔵の嘘がばれ解雇されてしまいます。
篤蔵は森田仙之介(佐藤蛾次郎)・梅(高岡早紀)が経営する町の洋食屋、バンザイ軒で働き始め、これまでの知識を生かしたメニューが評判になるのですが、同時に直接客の反応が見えることで「真心」の本当の意味合いがわかってきます。真の料理人になるためにはフランスに行くしかないと決意した篤蔵は、周太郎の助けもあって何とか父親に渡航費用を工面してもらうのでした。
フランスでは仏駐在の粟野大使(郷ひろみ)の世話により、一流ホテルに潜り込めましたが、ここでも下働きばかりの上に人種差別を受けるのです。しかし料理長は篤蔵の技術が素晴らしいことを知り、粟野の手助けもあって日本人で初めてユニオンに加入し、ついにはホテル・リッツで仏料理界の頂点にいたエスコフィエの元で修行することができました。
その頃日本では大正天皇即位の祝宴が計画され、宇佐美らの強力な推薦で世界中の来賓に恥ずかしくない料理を日本でも振舞うことができることを証明するために、篤蔵に宮内省から帰国要請がありました。饗宴の儀では篤蔵のアイデアにより、2000人分のザリガニを北海道で捕獲して取り寄せたのですが、直前にザリガニが生簀から逃げ出すトラブルがあったものの、何とか成功させます。篤蔵からの手紙や新聞記事で、弟の成功の朗報を知った周太郎は静かに息を引き取るのでした。
東京に出て働いていた俊子と再び再婚した篤蔵は、そのまま宮内省大膳寮厨司長、つまり天皇の料理番として腕を振るうことになります。3人のこどもを授かりますが、自分が天皇の料理番をしていることが知られると、いろいろなしがらみが出ることを心配して、こどもたちには秘密になっていました。
長男の一太郎が家族より仕事を優先する父親に反発するようになった頃、関東大震災が発生し、家を失った一家は多くの人々と共に皇居に避難し、人々のために一生懸命働く父親を見た一太郎は、初めて父親を尊敬することが出来るようになるのでした。しかし、震災後の過酷な生活の中で体力を落としていった俊子は、ついに心不全を起こし倒れてしまうのでした。
堺正章版も評判になったような記憶はありますが、やはり決定版はこの佐藤健の2015年版だと思います。すでに人気も高く、「るろうに剣心」シリーズも始まっていて乗りに乗っている佐藤健でしたが、テレビでは初めての大役に抜擢され、今でも彼の代表作と言えると思います。また、黒木華、鈴木亮平も、ここでの演技が高く評価され、その後の活躍のきっかけになったことは間違いありません。
調理場面は佐藤健がすべて自分でこなし、見事な包丁さばきをには感心します。また鈴木亮平は死期が迫る病人を演じるため、短期間に20kg減量を行い回を追うごとに痩せていく様には大変驚かされました。
TBSも相当に力を入れた企画だったとみえ、全12回のうち半分が時間を拡大しての放送で、実質的には14~15話くらいのボリュームがありますが、篤蔵の成長の一つ一つがドラマであり、無駄なところがほとんど無い展開なので、まったく長さを感じません。
ここに書き留めたストーリーの大筋は事実ですので、秋山徳蔵のダイナミックな人生そのものが、そのままドラマになっていることには驚くしかありません。まだ何者でもなかった日本が国として成熟していく過程で、人々も情熱を持って成長していたことに感動します。
2025年8月8日金曜日
TEAM NACS FILMS「N43°」 (2008)
この作品は、2008年にTEAM NACSが各地を回って上映ツアーを行ったオムニバス形式の映画で、2009年には劇場公開もされています。TEAM NACSのメンバー5人がそれぞれ企画・脚本・監督をした20~30分程度の短編映画となっていて、彼らが所属するCREATIVE OFFICE CUEが制作、同社長の鈴井貴之がプロデューサーを務めています。
大泉洋作品 「頑張れ! 鹿子ブルブルズ!」
5人全員が自分の名前と同じ高校の同級生役で登場。戸次はレストランを経営している大泉の元を急に訪れ、強引に連れ出します。そして、理由も言わずにゴルフのレッスン・プロをしている森崎、新興宗教の教祖をしている安田、ホストクラブを経営している音尾らも集めると、体育館でやっと集まってもらった理由を説明しました。彼らは高校で鹿子ブルブルズというバスケットのチームで一緒に戦っていたのですが、最後の試合で戸次のミスで勝利を逃したのでした。戸次は自分が病気で余命いくばくもないことがわかり、悔いを残したくないのでもう一度みんなでバスケットをしようというのでした。
音尾琢真作品 「神居のじいちゃん」
石狩川沿いの景勝地、旭川の神居古潭(かむいこたん)に住む高野勝次(夏八木勲)は、妻が川沿いの道で倒れて亡くなった時に駆け付けられなかったことがずっと心に引っかかていました。孫の由美(平田薫)は、そんな勝次の散歩に付いて行くと、たまたま自転車が壊れて困っていた木戸川和夫(森崎博之)と娘のひなた(大野百花)と出会います。不思議なことにひなたから妻が口にした言葉が出てきて、和夫はしだいに妻の残した想いを知ることになるのです。
戸次重幸作品 「部屋クリーン」
白黒の2Dアニメーションで、ゴミが散らかされた汚れた部屋が描かれています。そのアニメーションに不思議な扮装をした(戸次重幸)が実写合成で登場し、ゴミを巡ってのせめぎ合いをし始めます。勝負は片付けさんが勝ますが、きれいになったことで散らかしさんは体調を崩して苦しみだすのでした。
安田顕作品 「ヤスダッタ3D」
奇病により人が野生化したヤスダッタ(安田顕)の撮影にテレビ局が成功しました。房子(安田こずえ)はそれが夫であることに気がつきます。捜索隊のヤスダ隊長(安田顕)はヤスダッタの権威であるヤスダッタ教授(安田顕)を伴って、隊員(安田大サーカス)らと森に入りついにヤスダッタを捕えることに成功しました。房子は娘の靖子(安田唯乃)を伴って面会に向かうのです。
森崎博之作品 「AFTER」
2058年。数十年ぶりにTEAM NACSが復活することになりました。メンバーはみんな年老いてよぼよぼになっていましたが、老人森崎を中心に昔演じた「FEVER」の再演決定に若さを取り戻していました。しかし、老人森崎は心臓を悪くして入院することになってしまいます。若い頃彼らが通い詰めたカリー軒の三代目店主になっていた福屋(大泉洋)は、老人森崎に頼まれて彼の意図した演出をメンバーに伝えることになります。
大泉作品では全員が登場し、チームの関係性がよく出ています。内容的には・・・まぁ、普通。まずは挨拶代わりというところでしょうか。音尾作品は、名優・夏八木勲が登場するだけで、完成度が急上昇しています。妻の想い出の秘密という深いテーマがありますが、なかなかの力作です。
戸次作品はとてもかわっている。アニメにのせる実写合成で、台詞も加工して基本的には何を言っているのかはわかりませんが、見ていればストーリーはわかります。まぁ、ハートフルな結末はよく考えられています。安田作品はまさに「天才安田」の面目躍如というもの。登場する俳優がみんな安田姓というのが面白いのですが、裸で森の中を徘徊するヤスダッタという謎の生命体とか、よくもまぁ思いついたものです。
最後は50年後のTEAM NACSのストーリー。30歳代なかばになった彼らが80歳代にどうなっているのかという興味深いストーリーですが、よぼよぼになってもチームとして仲間として芝居を続けたいというリーダー森崎の強い思いが詰まった作品です。
チームナックスのメンバーそれぞれの個性が垣間見える、なかなか面白い作品が揃いましたが、さすがに映像監督としては全員が素人みたいなものですから、当然、スタッフたちの力添えによるところが大きいでしょう。
TEAM NACSの作品としては箸休め的なものですが、このような作品の制作を経験してメンバー一人一人が成長したのかなと思うと興味深い。ファンなら一度は見ておきたいというところでしょうか。
大泉洋作品 「頑張れ! 鹿子ブルブルズ!」
5人全員が自分の名前と同じ高校の同級生役で登場。戸次はレストランを経営している大泉の元を急に訪れ、強引に連れ出します。そして、理由も言わずにゴルフのレッスン・プロをしている森崎、新興宗教の教祖をしている安田、ホストクラブを経営している音尾らも集めると、体育館でやっと集まってもらった理由を説明しました。彼らは高校で鹿子ブルブルズというバスケットのチームで一緒に戦っていたのですが、最後の試合で戸次のミスで勝利を逃したのでした。戸次は自分が病気で余命いくばくもないことがわかり、悔いを残したくないのでもう一度みんなでバスケットをしようというのでした。
音尾琢真作品 「神居のじいちゃん」
石狩川沿いの景勝地、旭川の神居古潭(かむいこたん)に住む高野勝次(夏八木勲)は、妻が川沿いの道で倒れて亡くなった時に駆け付けられなかったことがずっと心に引っかかていました。孫の由美(平田薫)は、そんな勝次の散歩に付いて行くと、たまたま自転車が壊れて困っていた木戸川和夫(森崎博之)と娘のひなた(大野百花)と出会います。不思議なことにひなたから妻が口にした言葉が出てきて、和夫はしだいに妻の残した想いを知ることになるのです。
戸次重幸作品 「部屋クリーン」
白黒の2Dアニメーションで、ゴミが散らかされた汚れた部屋が描かれています。そのアニメーションに不思議な扮装をした(戸次重幸)が実写合成で登場し、ゴミを巡ってのせめぎ合いをし始めます。勝負は片付けさんが勝ますが、きれいになったことで散らかしさんは体調を崩して苦しみだすのでした。
安田顕作品 「ヤスダッタ3D」
奇病により人が野生化したヤスダッタ(安田顕)の撮影にテレビ局が成功しました。房子(安田こずえ)はそれが夫であることに気がつきます。捜索隊のヤスダ隊長(安田顕)はヤスダッタの権威であるヤスダッタ教授(安田顕)を伴って、隊員(安田大サーカス)らと森に入りついにヤスダッタを捕えることに成功しました。房子は娘の靖子(安田唯乃)を伴って面会に向かうのです。
森崎博之作品 「AFTER」
2058年。数十年ぶりにTEAM NACSが復活することになりました。メンバーはみんな年老いてよぼよぼになっていましたが、老人森崎を中心に昔演じた「FEVER」の再演決定に若さを取り戻していました。しかし、老人森崎は心臓を悪くして入院することになってしまいます。若い頃彼らが通い詰めたカリー軒の三代目店主になっていた福屋(大泉洋)は、老人森崎に頼まれて彼の意図した演出をメンバーに伝えることになります。
大泉作品では全員が登場し、チームの関係性がよく出ています。内容的には・・・まぁ、普通。まずは挨拶代わりというところでしょうか。音尾作品は、名優・夏八木勲が登場するだけで、完成度が急上昇しています。妻の想い出の秘密という深いテーマがありますが、なかなかの力作です。
戸次作品はとてもかわっている。アニメにのせる実写合成で、台詞も加工して基本的には何を言っているのかはわかりませんが、見ていればストーリーはわかります。まぁ、ハートフルな結末はよく考えられています。安田作品はまさに「天才安田」の面目躍如というもの。登場する俳優がみんな安田姓というのが面白いのですが、裸で森の中を徘徊するヤスダッタという謎の生命体とか、よくもまぁ思いついたものです。
最後は50年後のTEAM NACSのストーリー。30歳代なかばになった彼らが80歳代にどうなっているのかという興味深いストーリーですが、よぼよぼになってもチームとして仲間として芝居を続けたいというリーダー森崎の強い思いが詰まった作品です。
チームナックスのメンバーそれぞれの個性が垣間見える、なかなか面白い作品が揃いましたが、さすがに映像監督としては全員が素人みたいなものですから、当然、スタッフたちの力添えによるところが大きいでしょう。
TEAM NACSの作品としては箸休め的なものですが、このような作品の制作を経験してメンバー一人一人が成長したのかなと思うと興味深い。ファンなら一度は見ておきたいというところでしょうか。
2025年8月5日火曜日
下荒井兄弟のスプリング、ハズ、カム。 (2009)
TEAM NACSの作品は、これまでは基本的にリーダーの森崎博之が脚本・演出を担当することが多かったのですが、これは珍しく大泉洋が脚本・演出を行いました。
実は大泉には「前科」がある。2003年に所属しているCREATIVE OFFICE CUEの社長、鈴井貴之の企画する北海道テレビの「ドラバラ鈴井の巣」で、大泉の原案・脚本の「山田家の人々」というドラマが作られたとき、ギリギリを超えても仕上がらない大泉の脚本で大迷惑をかけたのです。
今回も心配されたことだと思いますが、とりあえず間に合いました。ただし、稽古が始まるとチーム内で意見がぶつかることが増え、大泉は一時は脱退も考えたりしたようです。
大泉は五人が揃うことを客が喜んでくれるのなら、いっそのこと皆が兄弟だと面白いと思ったというところから始めました。森崎作品と比べると、さすがにコメディ色が強くなっていますが、家族をテーマにして今まで以上にチームとしての結束力を高めた作品になっています。
下新井家は男5人兄弟で、長男が大造(森崎博之)、次男が大洋(音尾琢真)、三男が剛助(安田顕)、四男が健二(大泉洋)、そして五男が修一(戸次重幸)です。20年前に高校生だった大洋は父親と喧嘩して飛び出してから音信不通。修一はそのころからずっと引きこもり生活。10年前に父が亡くなり、以後大造が父のギター教室を引き継いでいますが、生活は楽ではありません。
物語は父親の法事のために、妻の加代(戸次)を伴った剛助が家に戻ってきました。剛助は、高額な借金返済のため、加代にたきつけられ大造を説得して家を売りたいと考えていました。剛助は、おくてで独身の大造に加代の知り合いの女性を紹介して家を売るように仕向けるつもりなのです。
一方、同じく久しぶり戻ってきた修一は、婚約者の城ケ崎郁代(音尾)を大造に合わせようとしていました。家中に盗聴器を仕掛けて家族の動向をすべて把握していたのが健二で、これらの裏話を聴いた健二は、大造に修二が見合い相手を連れてくると嘘をつきます。
郁代が見合い相手だと勘違いした大造は舞い上がってしまいますが、修二に間違いを指摘され意気消沈して部屋に引っ込んでしまいました。剛助が加代の友人、鬼塚藍(森崎)を連れてきますが、そこへ突然にやくざ風の大洋が姿を現します。
全員が大騒ぎになっていると、大造が今日はもう気分が悪いと言って今日は帰ってくださいと言い、兄弟5人を残してその場はいったん落ち着きます。大造は何しに戻ってきたと大洋を問い詰めますが、大洋はのらりくらりとちゃんと答えようとはしません。そして、突然家に2発の銃弾が撃ち込まれるのです。
実は大泉には「前科」がある。2003年に所属しているCREATIVE OFFICE CUEの社長、鈴井貴之の企画する北海道テレビの「ドラバラ鈴井の巣」で、大泉の原案・脚本の「山田家の人々」というドラマが作られたとき、ギリギリを超えても仕上がらない大泉の脚本で大迷惑をかけたのです。
今回も心配されたことだと思いますが、とりあえず間に合いました。ただし、稽古が始まるとチーム内で意見がぶつかることが増え、大泉は一時は脱退も考えたりしたようです。
大泉は五人が揃うことを客が喜んでくれるのなら、いっそのこと皆が兄弟だと面白いと思ったというところから始めました。森崎作品と比べると、さすがにコメディ色が強くなっていますが、家族をテーマにして今まで以上にチームとしての結束力を高めた作品になっています。
下新井家は男5人兄弟で、長男が大造(森崎博之)、次男が大洋(音尾琢真)、三男が剛助(安田顕)、四男が健二(大泉洋)、そして五男が修一(戸次重幸)です。20年前に高校生だった大洋は父親と喧嘩して飛び出してから音信不通。修一はそのころからずっと引きこもり生活。10年前に父が亡くなり、以後大造が父のギター教室を引き継いでいますが、生活は楽ではありません。
物語は父親の法事のために、妻の加代(戸次)を伴った剛助が家に戻ってきました。剛助は、高額な借金返済のため、加代にたきつけられ大造を説得して家を売りたいと考えていました。剛助は、おくてで独身の大造に加代の知り合いの女性を紹介して家を売るように仕向けるつもりなのです。
一方、同じく久しぶり戻ってきた修一は、婚約者の城ケ崎郁代(音尾)を大造に合わせようとしていました。家中に盗聴器を仕掛けて家族の動向をすべて把握していたのが健二で、これらの裏話を聴いた健二は、大造に修二が見合い相手を連れてくると嘘をつきます。
郁代が見合い相手だと勘違いした大造は舞い上がってしまいますが、修二に間違いを指摘され意気消沈して部屋に引っ込んでしまいました。剛助が加代の友人、鬼塚藍(森崎)を連れてきますが、そこへ突然にやくざ風の大洋が姿を現します。
全員が大騒ぎになっていると、大造が今日はもう気分が悪いと言って今日は帰ってくださいと言い、兄弟5人を残してその場はいったん落ち着きます。大造は何しに戻ってきたと大洋を問い詰めますが、大洋はのらりくらりとちゃんと答えようとはしません。そして、突然家に2発の銃弾が撃ち込まれるのです。
何か、こうやってあらすじを抜き出していると支離滅裂なドタバタのような感じがしますが、その奇想天外な設定の中でちゃんとすじが通っているところが、大泉の天才というところなんでしょうか。それにしても開幕と同時に登場する安田顕は、さらなる天才ぶりを発揮しています。これは見るしかないアイデアで、一気に舞台にくぎ付けになること間違いない。
大洋が現れて大騒ぎになるとき、舞台には鬼塚に扮する森崎がいるわけで、当分大造の森崎は出てこないとたかをくくっていたら、なんととんでもない方法で登場するところもこれまでのTEAM NACSには無い手法です。
今回も一幕の舞台ですが、これまでの比較的抽象的なセットではなく、よくある家のリビングが主体となっていて、ある意味往年のドリフターズのコントのような舞台になっています(まさにドリフと言いたくなる場面もありますが)。これらは彼らの進歩というよりは、TEAM NACSが今まで見せなかった別の面という感じがします。
ストーリーはこの後、なぜ大洋が家を出たのかという理由が判明し、家族とは何だろうというテーマが語られていくわけですが、ちゃんと誰もが納得できる着地点を用意してあることはさすがと言えます。
大洋が現れて大騒ぎになるとき、舞台には鬼塚に扮する森崎がいるわけで、当分大造の森崎は出てこないとたかをくくっていたら、なんととんでもない方法で登場するところもこれまでのTEAM NACSには無い手法です。
今回も一幕の舞台ですが、これまでの比較的抽象的なセットではなく、よくある家のリビングが主体となっていて、ある意味往年のドリフターズのコントのような舞台になっています(まさにドリフと言いたくなる場面もありますが)。これらは彼らの進歩というよりは、TEAM NACSが今まで見せなかった別の面という感じがします。
ストーリーはこの後、なぜ大洋が家を出たのかという理由が判明し、家族とは何だろうというテーマが語られていくわけですが、ちゃんと誰もが納得できる着地点を用意してあることはさすがと言えます。
2025年8月4日月曜日
HONOR〜守り続けた痛みと共に (2007)
そもそも舞台で行われる俳優の生の演技を楽しむのが演劇ですから、それを録画メディアで見るなんてことは邪道であることはわかっています。だからと言って、劇場にせっせと足を運ぶというのもなかなか難しいし、人気のある劇団の場合はチケットも入手困難だったりする。
舞台での演技というのは、おそらく隅々の観客にわかってもらうために、声は張りがちで、動きも大きくなりがちだと思います。そうなると自然体から遠く離れて「嘘っぽく」なるわけで、それを不自然に感じさせないようにできるかどうかは俳優の技量にかかっているのかもしれません。
メディアで観劇する場合は、主として台詞を話している俳優を中心として編集がされていることが多く、舞台の周辺の出来事は見れないことがあるかもしれません。しかし、目の動きや手の仕草など意外に細かい演技をしてたりするところがはっきりわかるという利点があります。一方で、俳優の方々には粗が見えてしまうというマイナス面もあるかもしれません。
いずれにしても、テレビドラマや映画と違って、やり直しのきかない一発勝負の緊張感が舞台の醍醐味であり、それはメディアを通しても伝わってきます。ですから、本流ではないかもしれませんが、演劇の楽しみ方としてメディアを利用することも否定されることではないと思っています。
さて、北海道出身の演劇集団であるTEAM NACSは、道内で人気を高めた後に東京に進出し成功をおさめ、全国的な人気を誇るグループになりました。もともとが大学の演劇研究会の仲間で結成され、時に外部の助演を頼る場合もありますが、一貫してメンバーは固定した五人だけというのは珍しい。一人一役の演目もありますが、人数が多いとは言えないのでしばしば一人で複数の役を演じ分けるところも特徴の一つになっています。
北海道から東京、そして全国に飛び出して。アマチュアの学生演劇レベルから着実にプロフェッショナルとしてレベルアップしたTEAM NACSでしたが、この作品はさらに演技力・表現力が格段に上がっています。これは、着実に全国区で知られるようになった各人が、個々のドラマ出演などで着実に腕を磨いた成果と言えるかもしれません。
タイトルの「HONOR」は英語で「名誉」という意味。架空の恵織(エオリ)村の森の中に、何百年も前から村人を神木として見守り続けた白樺の大木がオナーの木です。この木を巡って、一人の老人の強い思いと、それを実現させようとするこどもたちの70年間という長い年月を駆け抜けるリーダーの森崎博之脚本・演出によるストーリーです。
戦前の恵織村で、村祭りで披露する和太鼓仲間の五作(安田顕)、竜太(森崎博之)、倫太郎(大泉洋)、建造(戸次重幸)、そして紅一点のチエ(音尾琢真)でしたが、五作と竜太はチエに秘めた恋心がありましたが、二人とも徴兵され竜太は戦死、五作は足を不自由にしながらも何とか帰国します。
一緒に太鼓をたたく約束をしていたチエは不慮の事故の火災によって、五作に再会する直前に亡くなってしまいます。悲しみにくれる五作は亡くなった人々の魂が宿ると言われているオナーの木から離れようとしませんでしたが、村人はオナーの木が縁起が悪いと火をつけて焼き捨てるのでした。
それから数十年の時が流れ、恵織村の幼馴染のこどもたち、花男(戸次)、寺の跡取り秀一(大泉)、建造の孫で花火師になることを夢見る光太(音尾)、そして倫太郎の孫でミュージシャンを目指したい高志(森崎)がいました。花男は五作から太鼓を習っていたのですが、五作は村人から変わり者扱いされていました。
中学生を卒業して、秀一を残して他の3人は都会に出て行ってしまいます。成人した彼らは、秀一からの五作の健康状態の悪化の知らせによって再び村に集まってくるのでした。4人は五作の想いを知り、五作の望みを実現してあげようと四苦八苦するのでした。
当然、そこそこにナックスらしいユーモアが散りばめられた笑いどころは用意してありますが、真のテーマは故郷に込められた想いにあります。ハート・ウォーミングな展開は、実演ではたった一幕で結構時代が行ったり来たりするので複雑な構成になっています。一人で複数の役をこなすナックスのステージですが、それでもちゃんとそれぞれのキャラクターがしっかりしていて、さすがだなと思いました。
最初と最後のは5人による和太鼓の実演にも力が入っていますし、ナックスファンからも最も好きな作品との評価も数多くされている名作です。
舞台での演技というのは、おそらく隅々の観客にわかってもらうために、声は張りがちで、動きも大きくなりがちだと思います。そうなると自然体から遠く離れて「嘘っぽく」なるわけで、それを不自然に感じさせないようにできるかどうかは俳優の技量にかかっているのかもしれません。
メディアで観劇する場合は、主として台詞を話している俳優を中心として編集がされていることが多く、舞台の周辺の出来事は見れないことがあるかもしれません。しかし、目の動きや手の仕草など意外に細かい演技をしてたりするところがはっきりわかるという利点があります。一方で、俳優の方々には粗が見えてしまうというマイナス面もあるかもしれません。
いずれにしても、テレビドラマや映画と違って、やり直しのきかない一発勝負の緊張感が舞台の醍醐味であり、それはメディアを通しても伝わってきます。ですから、本流ではないかもしれませんが、演劇の楽しみ方としてメディアを利用することも否定されることではないと思っています。
さて、北海道出身の演劇集団であるTEAM NACSは、道内で人気を高めた後に東京に進出し成功をおさめ、全国的な人気を誇るグループになりました。もともとが大学の演劇研究会の仲間で結成され、時に外部の助演を頼る場合もありますが、一貫してメンバーは固定した五人だけというのは珍しい。一人一役の演目もありますが、人数が多いとは言えないのでしばしば一人で複数の役を演じ分けるところも特徴の一つになっています。
北海道から東京、そして全国に飛び出して。アマチュアの学生演劇レベルから着実にプロフェッショナルとしてレベルアップしたTEAM NACSでしたが、この作品はさらに演技力・表現力が格段に上がっています。これは、着実に全国区で知られるようになった各人が、個々のドラマ出演などで着実に腕を磨いた成果と言えるかもしれません。
タイトルの「HONOR」は英語で「名誉」という意味。架空の恵織(エオリ)村の森の中に、何百年も前から村人を神木として見守り続けた白樺の大木がオナーの木です。この木を巡って、一人の老人の強い思いと、それを実現させようとするこどもたちの70年間という長い年月を駆け抜けるリーダーの森崎博之脚本・演出によるストーリーです。
戦前の恵織村で、村祭りで披露する和太鼓仲間の五作(安田顕)、竜太(森崎博之)、倫太郎(大泉洋)、建造(戸次重幸)、そして紅一点のチエ(音尾琢真)でしたが、五作と竜太はチエに秘めた恋心がありましたが、二人とも徴兵され竜太は戦死、五作は足を不自由にしながらも何とか帰国します。
一緒に太鼓をたたく約束をしていたチエは不慮の事故の火災によって、五作に再会する直前に亡くなってしまいます。悲しみにくれる五作は亡くなった人々の魂が宿ると言われているオナーの木から離れようとしませんでしたが、村人はオナーの木が縁起が悪いと火をつけて焼き捨てるのでした。
それから数十年の時が流れ、恵織村の幼馴染のこどもたち、花男(戸次)、寺の跡取り秀一(大泉)、建造の孫で花火師になることを夢見る光太(音尾)、そして倫太郎の孫でミュージシャンを目指したい高志(森崎)がいました。花男は五作から太鼓を習っていたのですが、五作は村人から変わり者扱いされていました。
中学生を卒業して、秀一を残して他の3人は都会に出て行ってしまいます。成人した彼らは、秀一からの五作の健康状態の悪化の知らせによって再び村に集まってくるのでした。4人は五作の想いを知り、五作の望みを実現してあげようと四苦八苦するのでした。
当然、そこそこにナックスらしいユーモアが散りばめられた笑いどころは用意してありますが、真のテーマは故郷に込められた想いにあります。ハート・ウォーミングな展開は、実演ではたった一幕で結構時代が行ったり来たりするので複雑な構成になっています。一人で複数の役をこなすナックスのステージですが、それでもちゃんとそれぞれのキャラクターがしっかりしていて、さすがだなと思いました。
最初と最後のは5人による和太鼓の実演にも力が入っていますし、ナックスファンからも最も好きな作品との評価も数多くされている名作です。
2025年8月3日日曜日
それってパクリじゃないですか? (2023)
芳根京子主演の日本テレビの連続ドラマで、原作は奥乃桜子による小説。世間的にあまり知られていない大事な職業である弁理士について勉強できます。
中小企業の月夜野ドリンクでは、画期的なキラキラボトルを新開発しましたが、ライバルのハーッピースマイル社がほとんど同じ商品の特許を先に取得してしまい大騒ぎになります。開発部の藤崎亜季(芳根京子)は情報漏洩を疑われ、親会社から派遣された弁理士の北脇雅美(重岡大毅)は、亜季が情報を漏らしたと証言すれば「冒認出願」という形で特許を取り戻せると言います。
しかし、自分に非が無い亜季は証言を断りますが、北脇は別のルートを探るうちに社長(赤井英弘)が講演会でハーッピースマイル社の社員に試作品を見せびらかしている映像を見つけ出します。このことから、何とか特許を取り戻すことができ、亜季の無実も証明されました。
開発部の高梨部長(常盤貴子)は、かつて権利関係の重要事案に関係していたため、積極的に権利関係を掌握する知財部設立を後押しし、亜季を知財部に異動させます。そして北脇が出向の形で知財部のブレーンにつくことになりますが、何事も冷徹に仕切る北脇と自分に自信が持てず知財の知識ゼロの亜季は当然凸凹コンビとしてぶつかることになるのでした。
弁理士とは、「特許・実用新案・意匠・商標などの知的財産の権利取得・維持・活用業務を行うための国家資格」で、自分もこのドラマを見るまで知りませんでした。このドラマでは、その仕事内容が実によくわかりその重要性を知ることができます。
冒認出願は正当ではない者による特許出願のことで、権利者がその証拠を提示すれば拒絶できるというもの。他にもドラマの中では、商標出願や商標侵害の問題点、特許出願する際に似た事例が無いか調べる侵害予防調査、お互いの権利をうまく利用するためのクロスライセンス契約、特許が認められるために必要な基準などが、ドラマのストーリーと調和してわかりやすく示されています。
芳根京子のキャラクターは、ある意味得意中の得意と言えるもので、このようなお仕事ドラマは実にはまっています。開発部の中では隠れた存在で、自分はいつも二番手だと思っている。それでもやると決めたことには一生懸命になり、最後まであきらめません。知財というドライに割り切らないといけない仕事(それを体現しているのが北脇)ですが、人と人、心と心のつながりも忘れないというのが気持ち良い。
芳根ファンはもとより、誰でも知っていて損が無い大変勉強になるドラマで、なおかつストーリーとしても堅苦しくなくユーモアを交えて楽しく見ることができるのでお勧めです。
2025年8月2日土曜日
エレキの若大将 (1965)
これは若い人にはタイトルの意味がわからんかもしれない。エレキは電気のエレキですが、60年代にアメリカのベンチャーズの人気から日本でも大流行したエレキギター(電気ギター)のことで、今のバンドブームの元祖と言えるものを巻き起こしました。若大将というのは読んで字の如しですが、今でも若大将と言えば加山雄三の代名詞。
東宝は若手の中で加山雄三の溌剌としたイメージを利用して、若大将シリーズの映画をたくさん作りました。テレビがそれほど娯楽として定着していない時代ですから、一度ヒットした映画はシリーズ化されるのが恒例で、例えば松竹の「男はつらいよ」シリーズとか、東映の任侠ものなどは新作をほぼ年に2本ペースで公開していました。
加山雄三は昭和の大スター、上原謙の息子で、慶応ボーイです。大学卒業と同時に東宝で1960年に俳優デヴュー、翌1961年には早くも「大学の若大将」が作られシリーズ化しました。1962年の黒澤明の「椿三十郎」では若侍の一人でしたが、1965年の「赤ひげ」では三船敏郎に絡む準主役に抜擢されています。
主人公のニックネームが若大将で、悪友は青大将と呼ばれ田中邦衛が演じています。シリーズ前半は若大将は大学生で、マドンナ役は星百合子。後半は社会人になってマドンナは酒井和歌子に代わります。父親は有島一郎、祖母が飯田蝶子、妹が中真千子、若大将をサポートする友人が江原達治といった面々がレギュラー出演しました。
この頃の映画シリーズは、どれもはっきり言って同じ構成。ワンパターンですが、観客もむしろ予定調和を期待して楽しんていたと言えます。若大将シリーズは、女性にもてて何でもスマートにこなすスポーツ(A)万能な若大将が、清純な女性とひょんなきっかけ(B)で知り合いお互いに惹かれていきます。金持ちのボンボンでずるがしこい悪友が邪魔してトラブル(C)になりますが、最後に主人公は颯爽と解決(D)してめでたしめでたしというのがお決まりになっています。
この映画では(A)がアメリカン・フットボール、(B)がエレキ・ギター合戦、(C)が青大将のインチキと父親の店の倒産、そして(D)はレコード大ヒットと試合の勝利という具合にはめ込むとあらすじが完成。キーワードを変えるだけで、全部のあらすじは簡単に説明できてしまう。
シリーズ物は、映画製作各社が観客がさすがに飽きたというまで続けるのですが、若大将シリーズの場合アイドル映画の側面があるので、演じる加山雄三が年を取るにつれて設定に無理が増えてしまいました。それでも、高度成長期の日本人の代表的な娯楽の一つとして十二分に役割を果たしたと言えます。
特に本作は、実際に作品中で歌われた「君といつまでも」が大ヒットし、歌手・加山雄三の代名詞になったことで、シリーズの最高傑作にあげられることがよくあります。今の感覚ではおかしな部分はたくさんありますが、チャンスがあれば見て損はありません。
東宝は若手の中で加山雄三の溌剌としたイメージを利用して、若大将シリーズの映画をたくさん作りました。テレビがそれほど娯楽として定着していない時代ですから、一度ヒットした映画はシリーズ化されるのが恒例で、例えば松竹の「男はつらいよ」シリーズとか、東映の任侠ものなどは新作をほぼ年に2本ペースで公開していました。
加山雄三は昭和の大スター、上原謙の息子で、慶応ボーイです。大学卒業と同時に東宝で1960年に俳優デヴュー、翌1961年には早くも「大学の若大将」が作られシリーズ化しました。1962年の黒澤明の「椿三十郎」では若侍の一人でしたが、1965年の「赤ひげ」では三船敏郎に絡む準主役に抜擢されています。
主人公のニックネームが若大将で、悪友は青大将と呼ばれ田中邦衛が演じています。シリーズ前半は若大将は大学生で、マドンナ役は星百合子。後半は社会人になってマドンナは酒井和歌子に代わります。父親は有島一郎、祖母が飯田蝶子、妹が中真千子、若大将をサポートする友人が江原達治といった面々がレギュラー出演しました。
この頃の映画シリーズは、どれもはっきり言って同じ構成。ワンパターンですが、観客もむしろ予定調和を期待して楽しんていたと言えます。若大将シリーズは、女性にもてて何でもスマートにこなすスポーツ(A)万能な若大将が、清純な女性とひょんなきっかけ(B)で知り合いお互いに惹かれていきます。金持ちのボンボンでずるがしこい悪友が邪魔してトラブル(C)になりますが、最後に主人公は颯爽と解決(D)してめでたしめでたしというのがお決まりになっています。
この映画では(A)がアメリカン・フットボール、(B)がエレキ・ギター合戦、(C)が青大将のインチキと父親の店の倒産、そして(D)はレコード大ヒットと試合の勝利という具合にはめ込むとあらすじが完成。キーワードを変えるだけで、全部のあらすじは簡単に説明できてしまう。
シリーズ物は、映画製作各社が観客がさすがに飽きたというまで続けるのですが、若大将シリーズの場合アイドル映画の側面があるので、演じる加山雄三が年を取るにつれて設定に無理が増えてしまいました。それでも、高度成長期の日本人の代表的な娯楽の一つとして十二分に役割を果たしたと言えます。
特に本作は、実際に作品中で歌われた「君といつまでも」が大ヒットし、歌手・加山雄三の代名詞になったことで、シリーズの最高傑作にあげられることがよくあります。今の感覚ではおかしな部分はたくさんありますが、チャンスがあれば見て損はありません。
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