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2023年6月30日金曜日

図書館戦争 THE LAST MISSION (2015)

有川浩原作の「図書館戦争」の実写版シリーズの第3弾ですが、映画版としては2作目。一連のシリーズは、いずれも監督が佐藤信介、脚本が野木亜紀子が担当、主演も岡田准一、榮倉奈々のコンビです。

手塚慧(松坂桃李)が率いる未来企画のセミナーで感化された図書隊員が、図書館内で焚書を起こします。隊員は手塚慧の指示によって、笠原郁(榮倉奈々)を共犯と証言し査問にかけられるように仕向けます。手塚は郁を呼び出し、良化隊と図書隊の激化する戦闘の無意味を語り、図書隊が武装解除し図書館が文科省傘下に入ることが唯一の解決だと説きますが、賛成しない郁を駆け付けた堂上(岡田准一)が連れ出してしまいました。

茨城県知事から、「表現の自由」をテーマにした展覧会の開催に合わせて、関東図書隊が所有する「図書館法規要覧」の貸出が要請されます。今や一冊だけになったこの本は、図書隊設立の法的根拠であり、自由の象徴でした。図書隊は厳重管理のもと要覧を茨城県の図書館に運びますが、そこへ良化隊の大群が攻撃をしてきたのです。

館長は未来企画に洗脳され、一時預かりとなった要覧を良化隊に譲り渡すことにしていたのです。良化隊は「自分たちの本」を取り戻す名目のもと、図書隊を壊滅することが真の目的で総攻撃を仕掛け、次から次へと図書隊員は倒れていく。堂上と郁は、要覧を持って図書館を脱出し展覧会会場に街を走るのでした。

原作は比較的若年層に人気が高いようですが、映画も観客の大多数が10~20歳代でした。また、原作がある映画化作品では、しばしば原作との乖離、出演者のイメージの不一致などが評判を落とすことがあります。しかし、このシリーズに関しては、ほとんどその手の批判は見受けられません。

とにかく原作も含めて、この映画の評価は、前提となった世界観を受け入れられるか否かにかかっています。そもそも図書館員が武装して、実弾を使った戦闘をするというのは、法律論的にもかなり無理がある設定。世間が無関心だから、図書館だけでも表現の自由を守り抜くというのも、あまりに一般市民をバカにしている。

ですから、基本設定をあまり深く考えずに、そういうパラレル・ワールドの話と割り切れば、けっこう痛快なロマンス付戦闘アクション映画としてよくできているシリーズだと思います。さすがの岡田准一のアクションもたっぶり見れますし、榮倉奈々、栗山千明ら女優陣もはまっています。

一つだけ文句を言いたいのは、「LAST MISSION」としているなら、悪法たるメディア良化法の終焉を描いてほしかった。この結末なら、図書隊と良化隊の戦いはイタチごっこのままだと思います。

2023年6月29日木曜日

図書館戦争 BOOK OF MEMORIES (2015)

有川浩原作の「図書館戦争」の実写版シリーズの第2弾で、こちらも監督が佐藤信介、脚本が野木亜紀子が担当、主演も岡田准一、榮倉奈々のコンビです。ただし、映画ではなく、2作目の映画版公開に合わせて、TBSテレビで映画のプロローグ的なスペシャル・ドラマとして放送されました。

笠原郁(榮倉奈々)は、突然の両親の訪問によって、自分の職種が戦闘部隊であることがばれてしまいます。母親は怒り、親子の溝が深まってしまうのでした。

中澤毬江(土屋太鳳)は高校生の時聴覚を失いますが、こどもの頃から知り合いだった図書隊員の小牧(田中圭)が勧める本を読むことでたくさんの勇気を取り戻していました。しかし、小牧が耳の不自由な女子が主人公の本を勧めたことから、聴覚障害者に対する虐待という理不尽な理由によって良化隊に拘束されてしまいます。

この事件を陰で仕掛けたのは、メディア統制の主導権を握りたい文部科学省の息がかかる未来企画というグループで、リーダーは手塚慧(松坂桃李)、図書隊員の手塚光(福士蒼汰)の兄でした。慧は過去に優秀な図書隊員でしたが、図書隊の良化隊の戦闘に意義が見いだせず突然やめていたのです。

図書隊は毬江に記者会見を開かせ真実を語らせることで小牧を救出し、郁は本に対する想いをあらためて自覚し、図書隊にいる自分の意味を再確認できたことで母親と和解することができました。小牧を利用して図書隊を弱体化させることに失敗した慧は、次のターゲットを郁に定めるのでした。

というのが、スペシャル・ドラマ。主役が小牧と毬江というサイド・ストーリーが中心で、もちろん見ていなくても映画は楽しめるようになってはいますが、派手な戦闘シーンがあるわけではありませんが、「本を守る」ことの意義が深まる重要な展開です。

映画に初登場するキャラが紹介されているので、出来れば見ておいた方がより映画を楽しむことができるというものです。特に手塚慧については映画版の鍵を握る重要人物です。また、情報通の柴崎(栗山千明)が、正式に発足した諜報部に所属することになったことも知っておいた方が良さそう。

一見、地味なストーリーですが評判は高く、ファンの中では一番好きだという意見も多いようです。

2023年6月28日水曜日

図書館戦争 (2013)

原作は有川浩の人気シリーズで、アニメ化もされていますが、実写版ならキャスティングは誰がいいかとアンケートを取った時、まさに主役の二人の俳優の名前が挙がったそうです。まさに、原作にぴったりの配役で、実際に実写版が作られ、映画2作とテレビのスペシャル1作のシリーズとなりました。監督は佐藤信介、脚本は野木亜紀子。

まず、このストーリーの世界観を理解しておかないと、荒唐無稽と言って終わってしまう。大事なのは、まず「図書館の自由に関する宣言」というもの。1954年に日本図書館協会で採択された実在する物で、全国の図書館に掲げられています。

1 図書館は資料収集の自由を有する
2 図書館は資料提供の自由を有する
3 図書館は利用者の秘密を守る
4 図書館はすべての検閲に反対する

図書館の自由が侵されるとき、われわれは団結して、あくまで自由を守る。

さて、1988年、メディアに溢れる悪意を持った公序良俗を乱す言葉の数々を規制するため、メディア良化法が制定され。良化特務機関(通称メディア良化隊)により、不適切な書物が検閲され破棄、燃やされるようになってしまいます。

1999年、メディア良化隊と関係があると推定されている謎の武装グルーブによって、日野市立図書館が急襲され、右脚を失う重傷を負った仁科以外の図書館員12名が殺害され、ほぼすべての蔵書が焼失しました。仁科(石坂浩二)は、すべての本と図書館を守るために、図書隊を組織し良化隊と対峙することになりました。

さて、これくらいの知識を整理して置いて、本編の話。2014年、高校生の笠原郁(榮倉奈々)は本屋で気に入った図書を良化隊に奪われそうになった時、図書隊の隊員の機転によって取り戻すことができます。郁はその時の図書隊員を「王子様」の呼び、2019年、自らも関東図書隊に入隊したのです。

指導教官になったのは鬼教官で知られた堂上篤(岡田准一)で、厳しい指導の元、郁は良化隊との実弾戦闘を伴う特殊部隊に配属されるのです。部隊長の玄田(橋本じゅん)、やさしい先輩の小牧(田中圭)、同期のエリートの手塚(福士蒼汰)、女子寮で同室の情報通の柴崎(栗山千明)らと、次第に信頼関係を作っていきます。

小田原私設図書館主が亡くなり、メディア良化法成立を巡る重要資料などが関東図書隊が守る武蔵野第一図書館に移管されることになりました。良化隊には不都合な資料があるため、これを奪うため図書館に攻撃を仕掛けてくるのです。

日本各地の図書館、特に新潟県の十日町情報館が主たるロケ地になっていて、広くてモダンな館内はなかなか見事です。自分の知っている図書館は、いかにも昭和の雰囲気で、隔世の差があります。

戦闘は図書隊は専守防衛に徹し、基本的に銃撃も図書館敷地内に限定され、威嚇射撃が基本。それに対して法務省管轄の良化隊は、鎮圧目的にどんどん攻め込んでくるというのですから、図書隊は圧倒的に不利な状況。このあたりはかなり絵空事感があります。

最近は本が売れなくなった時代ですから、本に対する執着はあまり伝わらないようなきがしますが、ネットに氾濫する様々なメディアに置き換えれば、ある程度世界観の理解もできるかもしれませんね。

2023年6月27日火曜日

アイアムアヒーロー (2016)

大泉洋主演となれば、コメディ・タッチの映画かと思ったら・・・何と、ゾンビ映画。正直、苦手なジャンル。監督は佐藤信介で、多くのコミック原作の実写化で原作ファンも納得させる映画を連発している人。

この作品も、もとは花沢健吾によるマンガが原作。脚本は野木亜紀子。特殊メイクやCGを駆使して、邦画としてはかなり頑張った視覚効果が凄い・・・ですが、アメリカ映画と違ってホラー色は控えめで、ダメ人間が尊厳を取り戻すのがテーマ。

鈴木英雄(大泉洋)は売れない漫画家。何を書いても採用されず、アシスタントをして暮らしていて、一緒に暮らす恋人からも叩き出されてしまう。そんな折、世間で謎の感染による病気が急速に始まっていました。発症した人は、ゾンビ化して誰かれかまわず別の人を噛み、噛まれた人も同じ症状になるのです。

英雄はアパートに戻ると、何と恋人が発症して襲ってきました。趣味で所持していた猟銃だけを持って何とか逃げ出した英雄は、多くのゾンビ化した人々、ZQN(ゾキュン)が暴徒化して無秩序化した街の中を走り続けるのです。偶然にも高校生の比呂美(有村架純)を助け、高所なら感染しないという噂を頼りに富士山に向かいます。

しかし、その途中何と比呂美が発症する。前日、発症した赤ちゃんに噛まれていたのですが、感染力が弱く、比呂美は意識は薄れ気味でしたが何とか人間としての理性を保っていました。そして、二人は富士アウトレット・モールにたどり着きます。

モールには生き残った人々が、伊浦(吉沢悠)をリーダーとしてZQNの攻撃をかわしていました。伊浦は、英雄の猟銃を取り上げ比呂美にボウガンを撃ち込みます。看護師の小田つぐみ(長澤まさみ)は、比呂美を助け、伊浦のやり方に反発する。しかし、サンゴ(岡田義徳)が猟銃を奪い、伊浦に食料調達の先頭を命じるのです。

伊浦は地下駐車場の暗闇で姿を消し、中央指令室に入り込むと館内放送で大音量で音楽を鳴らし、その音につられてZQNたちは地下になだれ込み、英雄らの食料調達班を襲うのでした。地上でもバリケードを突破したZQNが、生き残った人々を襲い、小田は比呂美を匿い必死で無線で助けを求めるのでした。

映画化されたのは、原作のごく一部。英雄は知り合った人々と、事態の解決に向けて奔走するらしいのですが、当然原作は読んでないのでわかりません。映画では、何とかアウトレットを脱出するところまでで、英雄がヒーローとして覚醒するところまでが描かれます。

最初は「俺の名前は英雄(えいゆう)と書いてヒデオ」と自己紹介していた鈴木は、最後には「名前はヒデオ、ただのヒデオ」と言うところがポイント。最後のZQNの群衆との対決は、なかなか壮絶の一語に尽きますが、比呂美やツグミにとっては、まさに英雄がヒーローになったというところ。

撮影は韓国のアウトレット・モールで行われたそうで、さすがに日本ではこれだけの撮影は難しいというところ。CGもふんだんに使われているわけですが、かなりリアリティが感じられ、ハリウッドにも負けていません。

まぁ、ゾンビは苦手ですが、笑うところは無い大泉洋の精一杯のアクション映画ということで、続編も期待したくなる作品でした。

2023年6月26日月曜日

鍵泥棒のメソッド (2012)

内田けんじの監督・脚本作のシチューエーション・コメディ。完璧主義の殺し屋「コンドウ」と人生ダメダメの役者桜井武史がひょんなことから立場が入れ替わり、そこへ何事にも几帳面な結婚を急ぐOL、水嶋香苗が絡むという、何が起こるか想像できないストーリーです。

桜井は堺雅人、コンドウは香川照之と来れば、この翌年のドラマ「半沢直樹」が大ヒットしました。香川さん・・・ちょっといろいろありますが、OLが広末涼子で最近お騒がせ中です。まあ、それはいいとして、前半が香川と広末、後半が堺と広末が絡む展開の妙みたいなところもなかなかよくできています。

高級品を紹介する雑誌編集長をしている香苗は、何事にも几帳面。ある日、急に数か月後に結婚すると宣言します。しかし、予定は立ててみたものの、相手はこれから探すというので部下はびっくり。何事もうまくいかず自殺にも失敗した桜井は、たまたま財布から出てきた無料券で銭湯に出かけます。一方、コンドウは用意周到に会社社長岩城を刺し殺し、帰る時に返り血を浴びているのに気がつき、通りかかりに銭湯を見つけました。

ところが、浴場に入った途端、石鹼で滑ってコンドウは転倒し頭を打って救急車で運ばれる。桜井は、咄嗟に脱衣場のロッカーの鍵を自分のとすり替えてしまいました。コンドウは記憶を失ってしまい、持ち物から桜井ということになってしまいます。退院したところで、偶然に香苗に道を尋ねたことがきっかけで、香苗は彼の記憶を取り戻す手助けをすることになる。

一方、本物の桜井はコンドウの高級マンションに行ってみる。いろいろな衣装や、さまざまな身分証明書、さらには拳銃を発見し驚きます。そこへヤクザの工藤(荒川良々)から電話がかかって来る。岩城の始末は見事だったが、岩城の女が2億円を隠しているので、その場所を調べ女も始末して欲しいと追加の依頼をされてしまいます。

コンドウと彼が何者か知るためにいろいろ調べるうちに、香苗はコンドウの几帳面で努力家なところに惹かれ始めていました。コンドウも親身になってくれる香苗に惚れてしまいます。桜井は、岩城の女、井上綾子(森口遥子)に近づき、殺されるから逃げるように話してしまいますが、そのことが工藤にばれてしまいピンチを招く。

本来クラシック音楽が大好きなコンドウは、たまたま香苗がかけたクラシックの曲を聞いているうちに記憶が戻るのでした。コンドウがマンションに戻ると、工藤の元から逃げ延びた桜井がやって来て、二人はついにそれぞれのヤバイ状況を把握したのでした。

内田監督は脚本家として実に良い仕事をしていて、実際、この作品では日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受傷しました。鍵泥棒の鍵は銭湯のロッカーの、あの平たいやつのことですが、それぞれが人生の鍵を交換してしまったことも込められていそうです。メソッドは桜井が、そして桜井よりコンドウが深く勉強した演技論のこと。これもお互いが他人の人生を演じる状況に絡めてある。

これらの状況設定だけでもワクワクさせられますが、前半で感じられる違和感みたいなものが、後半に入ると見事に納得させられ大どんでん返しですっきりして、ハッピーエンドになだれ込むというのは、前作「アフタースクール」と同じで、実に見事。

この作品もシチュエーション・コメディと呼べるジャンル。直接的なドタバタで笑わせる(スラップスティック・コメディ)のではなく、ありえない状況のなかで自然と滑稽味が出るタイプのもの。人と人が入れ替わってしまう話はよくありますが、その中にラブコメ要素を取り入れつつ、それぞれの人生の良し悪しを客観的に見つめ直す内容は、まさに内田マジックと呼べそうです。

2023年6月25日日曜日

アフタースクール (2008)

アフタースクールは「放課後」。中学校の同級生たちを巡る大人になってからの「放課後」の冒険?みたいなサスペンス映画。監督と脚本の内田けんじによる、大どんでん返しが見事な作品です。

梶山商事に勤める真面目な木村一樹(堺雅人)は中学時のマドンナ、佐野美紀(常盤貴子)と結婚して、もうじき子供が生まれる。中学の同級で、今はその中学の教師として勤める神野良太郎(大泉洋)は、近所のよしみで何かと木村と美紀の面倒を見ています。

出産も間近、ある日木村は行方をくらましてしまう。しかし、偶然に会社の同僚に横浜のホテルで謎の女性(田畑智子)と連れ立っているところを写真に撮られてしまい、それが社長の大黒(北見敏之)に伝わります。

大黒は側近の唐沢に、すぐに木村を探し出せと命じます。唐沢は、探偵の北沢雅之(佐々木蔵之介)に捜索を依頼。北沢は、同級生と偽り中学に現れ、神野に木村探しを手伝わせるのです。北沢は新宿のヤクザ、片岡(伊武雅刀)に弱みがありましたが、依頼主が大黒であることを突き止め、さらに大黒と片岡がつながっていることを知ります。

木村と一緒にいたのは片岡の店でNo.1ホステスだったアケミで、片岡の元を逃げ出し木村と結託して大黒から大金を巻き上げようとしているのではないかと推察するのです。北沢にうんざりした神野は、夜になって家に帰ると、何とそこには木村がくつろいでいました。

え~、どういうこと!! という感じで、ここからは意外な事実が次から次へと出てきて、いやいや、騙されました。映画的に無駄なシーンぽいところが多々あって、何か変だなとは思ったんですが、結末がわかるとなるほどという感じ。

最後は美味しい所を大泉洋が持って行ってしまうので、主演は大泉ということでしょう。同級生としての絆のような幸福を知らず、初めから世間をひねくれて見つめているのが佐々木。いつも貧乏くじをひいていて、ちょっと可愛そうなのが堺というところ。

今ではそれぞれが主役を張れる人気俳優ですから、まとめて3人が見れるだけでも、随分と楽しい映画です。コメディが得意に俳優さんたちですが、ここではあからさまに笑わせるようなところはありません。ただ、全体の流れが半分コメディみたいなもので、そこから生まれる可笑しさがにじみ出る感じ(いわゆるシチュエーション・コメディ)。それにしても、映画としてのまとまりは、少しだけ見劣りする部分は無いわけではないのですが、脚本の妙味は抜群で、終わり方も理想的な映画です。

2023年6月24日土曜日

サイレント・トーキョー (2020)

秦建日子による「And so this is Xmas」を原作とし、連続爆弾テロ事件を描くクライム・サスペンス。監督は「SP」シリーズを手掛けた波多野貴文で、見ていると群衆のシーンなどは何となく雰囲気が似ています。

最初に言ってしまうと、けっこう重厚なテーマがあって、犯人の動機なども一筋縄ではいかない。それを正味90分程度にまとめ上げたのは褒めてあげたいところではありますが、まぁ普通は1時間×5回程度の連続ドラマでいくのが適当な感じがしました。

12月22日、恵比寿の商業施設の広場。爆弾を仕掛けたとというメールを受けてテレビ局のスタッフ、来栖(井之脇海)と高沢(金井勇太)が行ってみると、山口アイコ(石田ゆり子)と名のる女性がベンチに座っている。アイコは自分の代わりに高沢を座らせ、ベンチに爆弾が仕掛けてあり、30キロより軽くなると爆発すると言うのです。しかし、警察が撤去しようとした途端、爆発が起こりますが、音と光だけの疑似爆弾でした。

さらにアイコは来栖にブレスレットを装着させ、それも爆弾で、自分たちは監視されていて犯人の言うとおりにしないと爆発すると言い、来栖に犯行声明をしゃべらせ総理大臣との会見を要求するビデオを公開します。要求が通らなければ、12月24日午後6時、渋谷ハチ公前広場を爆破する。恵比寿のは脅かしだったが、今回は戦争だという内容でした。

しかし、世界情勢を考えるとこれからは戦争ができる組織を持つことが必要だと唱えるタカ派の総理(鶴見辰吾)は、一切犯人の要求にこたえることはない。渋谷署の刑事、世田(西島秀俊)、泉(勝地涼)らは聞き込みの中で、須永(中村倫也)という青年に目を付けます。

そして、いよいよその時間になり、渋谷のスクランブル交差点は野次馬が大勢集まり、警察が必死に通行を規制しようとしますが、お祭り騒ぎの様相を呈していました。そして、いよいよその時間となり・・・一瞬の間をおいて、大爆発が起こり一帯は修羅場と化すのでした。

石田ゆり子と西島秀俊に爆弾とくれば、真っ先に「MOZU」を思い出しますが、今回は二人の接点はありません。寡黙で心の隙を見せない須永に絡むのが、広瀬アリスと加弥乃と言うOL二人組。さらに重要な役所で、ある意味主役と言えるのが佐藤浩市なんですが、なかなか説明しにくい。

最初に言ったように、一番の問題はこの内容でこの時間では短すぎるということ。渋谷の大爆発からエンディングまで、事件としては半日以内の出来事になると思いますが、犯行の動機を説明することにほとんど費やされるので、いろいろな事件解明までのステップがあまりにも簡単。

しかも、重要な登場人物が、現在と過去(20年程度昔?)で配役が異なることで、えっ? これ誰の話? という感じになってしまうことがやっかい。世田刑事の過去にも何かありそうなんですが、事件と関連は無いのであえて盛り込む必要があるのか疑問がある。

一番の見所は渋谷大爆発。巨大なそっくりなセットと大勢のエキストラを動員しての撮影だったそうで、知らないとよくぞこんな撮影ができたもんだと驚いてしまいます。爆発そのものはCG合成ですが、さすがに肉片が飛び散らないお行儀のよいシーンです。

まぁ、テレビのスペシャル・ドラマと思えばがんばったと褒めたいところですが、映画としてはちょっと・・・

2023年6月23日金曜日

ミッドナイトイーグル (2007)

原作は高嶋哲夫。あえてジャンルを決めるなら、山岳国際クライム・サスペンスという・・・まあ何だかわからない感じですが、「クライマーズ・ハイ」の脚本も書いた成島出が監督。豪華なキャスティングで、なかなか硬派の展開を見せてくれます。

某国の工作により、アメリカ軍の核兵器を搭載したスティルス爆撃機が真冬の北アルプスに墜落。それを山岳写真を撮るためにキャンプをしていた西崎優二(大沢たかお)は、偶然に目撃し不鮮明ながらも写真におさめます。

西崎は戦場カメラマンとして、多くの写真を公開してきましたが、目の当たりにした惨状に写真では人の命は救えないと絶望し、山に逃避していたのです。そのため妻の病気も知らず、死に目にも会うことが出来ませんでした。雑誌編集をしている妻の妹、有沢慶子(竹内結子)は、そんな西崎を許せず、西崎の息子の世話をしていました。

西崎の後輩、上司を殴って地方に飛ばされた新聞記者、落合信一郎(玉木宏)は、西崎から連絡を受け、色々入って来る断片的な情報から、何かとてつもない重大事件が起こっていると考え、西崎と連れ立って吹雪で閉ざされている墜落現場に向かうのでした。

落合は、西崎が撮影した写真を啓子に送り調べるように頼みます。その結果、米軍の爆撃機であることが判明、墜落するように横田基地に潜入した工作員に接触します。彼はその際重傷を負っていて、仲間を裏切って恋人と共に逃亡するつもりでした。

自衛隊からも墜落現場に部隊が向かいますが、某国工作員の待ち伏せに遭い佐伯三等陸佐(吉田栄作)以外は全滅してしまいます。西崎と落合は佐伯を助けて、工作員の襲撃をかわしながら、何とか墜落現場に到着します。

しかし、すでに工作員の手によって、核兵器を爆発させるための特殊時限爆弾が起動していました。もしも爆発すれば、直接的な被害は半径数十キロ、放射能汚染は首都圏を含めて日本に壊滅的な被害をもたらしてしまうのです。しかも、三人の周囲には武装した大勢の工作員が取り囲んできました。

そもそも戦闘素人の二人が危険を冒して墜落機体のところに行く動機は何? というところから理解しないと、とてもありえない映画で終わってしまいます。西崎は戦争カメラマンとして真実を伝える使命に絶望し、そのため妻子を失う。もう一度、自分の生きる目的を再確認する必要がありました。

落合は、国家的隠蔽事案をスクープしようとして、圧力に屈してしまったことがずっと心の重荷になっている。この事件をとことんあきらめないことが、やはり自らの証明だと考えているのです・・・って、それだけなのかなぁ。佐伯も、西崎の写真を見て自衛官として平和を守ることの決意を新たにしたと告白します。

戦うことを止めてしまった西崎を非難した啓子も、実際に危険の中に身を投じることになり、そして無線で聞こえてくる西崎の声の中に、しだいに彼の心情を理解していくのでした。そういうところでは、脚本はぎりぎり許せるし、実際の冬山でのロケもそれなりにがんばっている。

ただ、政府の対応が何ともしまらない。そもそも総理大臣が藤竜也なんですが、最初から無精ひげ面で、いいところで関西弁というのはどういうわけなんだろう。総理との交渉は佐伯じゃなくて西崎が中心というのももやもやします。防衛省が協力したにもかかわらず、自衛隊はほとんど無力で、せっかく吹雪の中にヘリコプターを飛ばすものの、結局無理ですと帰ってしまう。

一番困ったのは、結末。サスペンスじゃなくて、完全にお涙頂戴路線に走ってしまいました。見終わって、後味の悪さが残ります。もうちょっと、何とかできないですかね。

2023年6月22日木曜日

マスカレード・ナイト (2021)

東野圭吾原作の「マスカレード」シリーズの映画化第2弾。今回も、刑事の木村拓哉とホテルマンの長澤まさみのコンビが事件をめぐって活躍します。監督も前作に続き鈴木雅之が担当しています。


警察に匿名の密告があり、調べるとその通りに殺された死体が発見されます。ロリータ・ファッションの若い女性で、特別な装置による感電死でした。さらに、大晦日にホテル・コルテシア東京で開かれる年越しのカウント・ダウン仮装パーティに犯人が現れるという密告が続きます。 

そのため、再び刑事たちはホテルの各部署に潜入捜査を行うことになるのです。当然、新田刑事(木村拓哉)は再びフロント係。前回、新田の担当になったホテル側の山岸(長澤まさみ)は、よろず相談を一手に引き受けるコンシェルジェに昇格し、ロビーのフロントとは離れた場所にいる。かわりに新田の相手をするのは、超真面目な大ベテランの氏原(石黒賢)でした。

氏原は、新田に一切客対応をしなくて良いと厳命します。しかたがないので、新田は山岸に相談する客の内容を嗅ぎまわって、うるさがられるという感じ。ホテルに来る客は、皆ある意味「仮面」をつけているのですが、仮装パーティとなると本当に仮面をかぶっていて見分けも付けられないという困難な状況。

今回も、一癖二癖あるいろいろな客が集まってきました。女性へのプロポーズために、レストランの通り道をバラで飾るように山岸に頼み込む男性。彼はふられてしまうのですが、その直後に、今度は別の女性客との間を取り持ってくれと頼んできます。窓から見える看板の顔を見えなくしろと言う女性。夫婦で予約してやってきた女性は、いつまでたっても夫が現れず謎めいています。後生大事にゴルフ・バッグを自ら抱えた中年男性。いつもは浮気でホテルを利用しているらしい男性は、今夜は妻とこども連れ。そこに浮気相手もさりげなく登場。


警察は、パーティの券を持っている人々の素性を一人一人調べます。そんな中で所轄の能勢刑事(小日向文世)の手助けもあって、まったく同様の手口による3年前の未解決の殺人事件が発覚し、密告文の内容から密告者についても絞られてきます。新田は、密告者は殺人者を脅迫していて両者がパーティで接触すると考えました。

23時にパーティが始まり、警察が怪しい人物をマークする中、いっこうに決定的な証拠が見つからない。新田はついに賭けに出るのでした。

今回も、警察側は渡部篤郎、篠井英介、梶原善、そしてホテル側は鶴見辰吾、石橋凌。タイトルで木村とタンゴを踊るのは中村アン。登場する客は、田中みな実、沢村一樹、勝村政信、木村佳乃、麻生久美子、高岡早紀、博多華丸らの豪華なキャスティング。

今回は、警察がホテルに潜入し従業員になりきるというコンセプトはやや希薄。真偽がはっきりしない密告だけでですから、普通は、客としてパーティに紛れ込むというのが常識的な方法かと思います。従業員として動けば、確かに事前にいろいろと情報は収集しやすいものの、いざというときの制約もあります。

また山岸は前作でもフロントとしてそこまで客の頼みを聞くか、という感じだったので、わざわざコンシェルジェにする必要があるのかモヤモヤします。その分、新田との絡みも多少無理が生じているような感じ。

また、前作と違って事件の犯人がホテルの客の中にるという前提で話が進むので、それならもう少し事件そのものを丁寧に扱わないと親切ではないように思います。動機やホテル内での出来事も複雑なので、解決に向かう部分があっさりしすぎ。

まぁ、木村と長澤を見る映画と割れ切ればいいんですけどね。少なくとも、このシリーズのキムタクは従来のカッコよさとは一味違う魅力があることは間違いない。長澤も突き抜けた詐欺師と違って、きりっとした演技がなかなか見ものです。

2023年6月21日水曜日

マスカレード・ホテル (2019)

東野圭吾の「マスカレード」シリーズが原作。主演は刑事役の「HERO」の木村拓哉とホテルマン役の「コンフィデンスマンJP」の長澤まさみ、監督は「HERO」の鈴木雅之というフジテレビ系列最強スタッフが終結した作品。

一見無関係に見える3つの殺人事件が、残されたメモにより連続殺人としてつながります。遺されたメモは次の事件が起こる場所の緯度と経度を示す数字が書かれていました。そして次の事件が起こるのが、ホテル・コルテシア東京と判明した警察は、捜査員を様々なホテル従業員となって潜入捜査を開始します。

フロントの担当になった新田刑事(木村拓哉)の教育係となったのは山岸(長澤まさみ)。ホテルマンはいかにお客様に素晴らしい時間を過ごしていただくかが大事で、どんなに無理難題を頼まれても「無理です」は禁句。ホテルの客は「仮面」を被っていて、ホテルマンはそれを承知で客を信じるのが仕事。一方、刑事はその「仮面」を剥がし人を疑うのが仕事。当然二人は衝突するのですが、新田はしだいにホテルマンの作法を身につけていきます。

ホテルには本当に様々な客がやって来る。タバコ臭いと部屋のアップグレードを要求する男、バスローブを盗んだように装うカップル、ストーカーを近づけないでと頼み込む女性、目が不自由なことを装う老婆、結婚式のためドレスを選びに来た新婦などなど・・・

新田は最初の事件の被害者の関係者を疑っていますが、彼には完璧なアリバイがある。以前新田と組んだ所轄の能勢(小日向文世)は、自由に動けない新田の代わりに着々と足で捜査を続け協力します。そして、アリバイを崩し最初の事件の犯人を特定しますが、逆に3つの事件がそれぞれ独立している疑いが生じ、事件は混迷を深めていくのでした。

客として登場するのは、前田敦子、濱田岳、笹野高史、高嶋政宏、菜々緒、宇梶剛士、橋本マナミ、生瀬勝彦、松たか子・・・・などなど、誰がどこに出てくるかを見るだけでも楽しめます。警察関係者は渡部篤郎、篠井英介、ホテル関係者は石橋凌などなどです。

古きハリウッドにならってグランドホテル形式と呼ばれるこの手の形式は、それぞれの登場人物をいかに手短に描けるかが重要。そのあたりのまとめかたはうまい。それぞれに短いドラマがしっかり読み取れます。そのために、むしろ最初の3つの事件については、省けるだけ省いて、特に最初の犯人などは映像として登場すらしない。

推理劇としては、ああ確かに手掛かりはあちこちにばらまいていたなとわかるんですが、横道を深堀するため、展開がわかりにくくなってしまったのを良しとするかどうかは評価が分かれるところかもしれません。

単なる刑事ドラマではなく、相反する心情を持つ二人がギリギリの接点で協力するという発想はオリジナリティがあって興味深い。そこのやり取りを見せるための土台として事件があると思えば、こういう作りもありだと考えます。

2023年6月20日火曜日

天空の蜂 (2015)

原作は東野圭吾による書下ろしクライム・サスペンス。監督は「SPEC」シリーズなどで知られる堤幸彦。

原子力発電に頼り豊かな生活を送っている我々は、一方で原子力に危機感を募らせている。東日本大震災でそのリスクを嫌と言うほど味わった日本人に、あらためて原子力と正面から向き合っていけるのかを問う、社会性の強いテーマを持ちつつ、アクション映画としての娯楽性も追求した作品。

錦重工の技術者、湯原(江口洋介)は、妻と息子の高彦を伴って、自らが設計に携わった新型大型ヘリコプター、通称「ビッグB」の自衛隊への引き渡し式に向いました。

かなり早くに到着したため、暇を持て余した高彦は格納庫に入り込みビッグBに乗り込んでしまいます。しかし、その時無人のはずのビッグBが始動し、高彦を乗せたまま空高く舞い上がってしまう。ビッグBは福井県敦賀にある新陽原子力発電所の上空に達すると、ホバリングして停止するのでした。

そして日本政府に対して、「天空の蜂」を名乗る者からFAXが届きます。その内容は、新陽以外のすべて原子力発電所を非可逆的に使用不能にすること。受け入れなければ、爆薬を積載しているビックBを新陽に墜落させるというものでした。

ビッグBが燃料切れで墜落するまで8時間ほどの猶予しかありません。新陽に集まったのは、湯原らの他に元湯原の同僚だった、原子力技術者の三島(本木雅弘)もいました。所長の中塚(國村隼)、消防関係者なども含め懸命の回避策が話し合われます。

ニュースでこどもが乗っていることが報じられると、天空の蜂から救出のチャンスが与えられ、最大限接近した自衛隊のヘリコプターから、決死の自衛隊員が何とか高彦をキャッチして救出することが出来ました。錦重工内の捜査員は、誰かの協力が無ければ今回の事件は不可能と考え、社員一人一人をチェックしていくうちに、総務課女性社員の赤嶺(仲間由紀恵)の関与が浮かび上がる。

地元警察は、ラジコン操作に熟練した元自衛官の雑賀(綾野剛)を特定し住むアパートに急行します。踏み込まれそうになった雑賀はアパートを爆破し、コントローラーを持って逃亡するも道に飛び出したところをトラックにはねられ死亡します。墜落まで2時間を切っている中、壊れたコントローラーは新陽にいる湯原のもとに届けられ、湯原はコントローラーを修復しようと試みるのでした。

原子力発電所の安全神話は、大震災で脆くも崩れ去りました。この映画(原作は)、安全性に対して正面から疑問を投げかけるもので、震災が無ければその製作は容易には認められなかったかもしれません。

こどもが乗っているという時点で、こどもが何とかするみたいな解決を図れば荒唐無稽な陳腐なものになってしまったかもしれませんが、多少非現実的ではありますが物語の半ばで救出されたことで何とか興味を後半に引き継ぐことが出来ました。

最終的な犯人の動機については、多少ばたばたと提示されて説得力不足感はありますが、もともと政府が要求を呑むはずがないと考えていたのなら、もう少し過激な行動もあってもよかったのかもしれません。エピローグで湯原と成長した息子(向井理)のシーンは、震災を印象付ける目的だと思いますが、やや蛇足感はあり余分。

それでも、今一度、原子力発電のリスクを思い出し、どう向き合っていくのかを考える一つの機会として、意義深い映画だと考えます。

2023年6月19日月曜日

アンダルシア 女神の報復 (2011)

外交官黒田康作シリーズは、映画から始まり、連続ドラマを経て最終章の映画第2弾です。前作は、観光地を巡りつつも単なる観光映画に終わらず黒田康作のキャラクターを鮮烈に印象付ける、ある意味スター、織田裕二の醍醐味を楽しませてくれました・・・が、興行的には今一歩でした。

久しぶりの日本での仕事を終えて、黒田が活躍するのはスペイン。監督は前作から引き続き西谷弘。連続ドラマの視聴率もやや低調でしたが、第2作も興行収入は第1作の半分。それでも第1作ほどではありませんが、邦画のクライム・サスペンスとしては悪い出来ではないと思います。

パリ・サミットで、マネーロンダリングの規制強化を狙う日本の外務大臣(夏八木勲)のサポートをしていた外交官、黒田康作(織田裕二)は、雪に閉ざされるアンドラ公国(スペインとフランスの間の小国)で、警視総監の息子、川島(谷原章介 )が殺されたため急遽向かわされることになります。

実は、川島の死は自殺でしたが、地元のビクトル銀行の新藤結花(黒木メイサ)は、ホテルで強盗に襲われたかのように偽装し、パソコンを隠して第一発見者を装います。現場にはインターポールの神足誠(伊藤英明)も派遣されてきました。

しかし、アパートで男に襲われた新藤は、黒田に助けられバルセロナの領事館に保護されることになります。黒田はフリー・ジャーナリストの佐伯(福山雅治)から、ビクトル銀行がマネーロンダリングに関与しているいろいろな黒い噂、そして神足が日本で不正を内部告発したため飛ばされたことを聞き込みます。川島はビクトル銀行の手先に騙されマネーロンダリング目的で、巨額の投資詐欺に遭っていたのでした。

新藤は、領事館の安達(戸田恵梨香、前作から出世)の目を盗んで逃亡。新藤にGPSを仕込んでいた神足は追い、それを見かけた黒田もバルセロナ市内を追跡します。二人に捕らえられた新藤は、偽装工作を自供し保護を望みます。

取り調べに向かう最中、三人は武装集団に襲撃され、警察の中にもビクトル銀行と通じている者がいることが判明。新藤は、ついにアンダルシアで行われるビクトル銀行と国際テロ組織との取引があることを話す。しかし、新藤は黒田を騙し、神足に取引を申し出るのでした。

テレビは視聴率、映画は興行収入が正義なので、評価が低いのはしょうがない。実際、低評価の理由は、謎が複雑すぎてかわりにくいこと、主役の織田裕二以上に黒木メイサ、伊藤英明がストーリーの中で目立っていることがありそうです。

複雑なのは、マネーロンダリングにまつわる銀行間の競争だけでもややこしいのに、そこへ日本の警察や政界のスキャンダルにまで幅を広げてしまったことがある。まあ、最終章ですから出来るだけ話を盛りたかったということでしょうか。今回も、スペイン語が飛び交うので、字幕なしでの視聴が困難なことも、関係しているかもしれません。

美しいヨーロッパの風景をいろいろ見れるのは愉しみのひとつですが、このシリーズはあくまで舞台の一つとして利用するだけで、観光地巡りは深入りしていないところは潔い。もう少し、黒田の外交官として活躍を中心に続編があってもよかったかもしれません。

2023年6月18日日曜日

アマルフィ 女神の報酬 (2009)

フジテレビ開局50周年記念として、かなり力のこもった(お金がかかった)映画。何しろ、全編イタリア・ロケで、イタリア名所巡りは当然のこと、スタジオ撮影もイタリアで行われました。

キャストも豪華です。主演の外交官、黒田康作は織田裕二、娘を誘拐されるのは天海祐希、ほとんど最初からネタバレなので隠しませんが、犯人は佐藤浩市、イタリアの日本大使館の職員が小野寺昭、佐野史郎、大塚寧々、伊藤淳史、そして戸田恵梨香。外務大臣は平田満、黒田の友人の記者に福山雅治、黒田の上司は電話の声だけですが中井貴一。さらにコンサートで歌うのは、当時人気絶頂のサラ・ブライトマンです。

原案は真保裕一で、織田裕二とは「ホワイトアウト(2000)」以来。ただし、実際の脚本も担当しているものの、これを自分の作品としたくないという意向でクレジットされていません。ですから、何とこの映画は脚本家のクレジットが無いという珍しいものでいろいろと物議をかもしました。

実は映画公開と前後して、DoCoMo動画として「アマルフィ・ビギンズ」という5話からなる約45分のサイド・ストーリーがあります。黒田康作という人物を紹介するためのもので、北京で行われている日中貿易交渉を邪魔するマカオの裏社会のボスと交渉する特命を受けた黒田が、カジノ王クーリーとポーカー対決をするというもの。

この話によって、10年前のメキシコ大使館人質事件で、黒田は独自の判断から人質一人を死なせてしまったことがわかります。以来、黒田は表立って解決できない難題を専門に担当する一匹狼の外交官として世界各地を転々としているらしい。しかし、クーリーは、一人を死なせたが、黒田が動かなければ全員が死んでいたと理解を示すのでした。ここへの出演は松重豊、山本未來です。松重は最近は飄々とした演技が人気ですが、ここでの強面の迫力は見物です。

マカオの件を片付けた黒田は、上司からの電話でクリスマス目前のイタリアに飛べと指令さました。ちょうどG8外務大臣会議が開催されることになっていて、何らかのテロが起こる可能性が示唆されていたのです。で、ここからは映画本編の話。

会議に出席するための川越大臣を迎えるので大使館はてんてこ舞い。イタリアに到着したばかりの黒田もミーティングに参加し、会議関係の警備などを確認していきます。その頃、日本から娘のまどかを連れた旅行者、矢上紗江子がローマに到着するやいなや、美術館で娘を誘拐されてしまうのです。

したかたがなく、黒田は邦人保護のため紗江子の面倒を見ることになってしまいます。身代金を持って二人はローマ中を引き回され、さらにローマから南下した海岸沿いの町、アマルフィに向かうのです。紗江子の元には、かねてからの知り合いである藤井が見舞いに訪れますが、その後から紗江子は黙り込んでしまうのです。

様々な情報から、いずれも国中のセキュリティを担っているミネルヴァ警備会社の内部に何かあると考えた黒田は、監視カメラのオリジナルを確認するために、すべてをコントロールしている会社の中枢部に入りますが、何と紗江子がいきなり警備システムをシャットダウンしてしまうのでした。

さてさて、全部で30億円くらいかかったらしい豪華絢爛たる映画なんですが、興行収入は36億円。何か、フジテレビとしてはがっかりな結果でした。

監督の西谷弘は基本的にフジテレビの演出家ですが、フジテレビがらみの映画の仕事は多数あって、それなりに堅実な成果を出していますが、この映画に限ってはやはり現地スタッフが多数入ったこともあり、どうも雑な仕事ぶりが目につきます。

とは言え、「踊る」以後の織田裕二のシリアスなキャラクターとしては、やることに多少無理はありますが、それなりに魅力があることは否定しません。この後、連続ドラマにもなって、さらに映画版第2作まで作ってますから、「踊る」以来のヒットを狙う亀山千広社長(この映画の時は執行役員)の力は相当入っていた・・・けど空回りということでしょうか。

2023年6月17日土曜日

自宅居酒屋 #70 無限キャベツ (麺無し)


マルちゃんの東洋水産から出ている「無限××」シリーズは、お手軽に大量の野菜を食べれるお手軽なところが人気のヒット商品です。似たようなものが、後追いで各社から登場していますが、元祖を上回るものは無いように思います。

セットにはインスタントラーメンを揚げたような、長崎皿うどんのような麺と醤油ラーメンの粉スープみたいなもの、そしてごま油みたいなものがセットになっていて、これに野菜を加えて和えるだけ。

ただ、揚げ麺が入る食感も楽しいのですが、カロリーがちょいと気になる。だったら麺無しで、自分で作れはいいじゃんかということになるわけ。

今回は定番のキャベツ。食べたいだけ千切りにします。別の容器にたれ・・・というかドレッシングを用意します。インスタントラーメンのスープの素がもしも余っていたら、それを使うと楽勝です。

塩少々、擦り下ろしたにんにく少々、同じく生姜少々、豆板醤少々、砂糖極少々。これらを混ぜるのに少量の水を加え、混ざったら同じくらいの量のごま油とお好みでイリゴマを入れたら出来上がり。

塩は最初少なめで、最後に味見して必要なら追加するのがおすすめ。各調味料はお好みで変更してください。いろいろと調味料を混ぜるのが大変と思うなら、合わせ中華味の元を使用してもOKです。ただし、水っぽくしないことがポイント。

千切りキャベツにたれをかけて、よく混ぜれば完成。今回はアクセントに海苔を少し混ぜました。麺無しでカロリーをきにせず、まさに無限に食べられる感じです。

2023年6月16日金曜日

自宅居酒屋 #69 ザーサイ・サラダ


中国の漬物と言えば、メンマとザーサイが思いつくんですが、食べる形になると形が似ているけど、中身は全然違うもの。

メンマは筍を乳酸発酵させたもの。一方、ザーサイ(搾菜)は、アブラナ科の植物のコブ状になった茎の部分。桃屋の瓶詰めがお手軽に手に入れやすいのですが、最近はスーパーでも単純なげんこつのような塩漬けも売られています。

サーサイの塊が手に入ったら、是非食べてみたいのがサラダ。まずはうすくスライスしたら、千切りにします。塩漬けはけっこう味が付いているので、これをしばらく水にさらして塩抜きをします。

お好みで、きゅうりとか長ネギとかと合わせてもOK。ごま油をかけ回し、いりごまをふって、味が足りなければ少量の塩で整えてください。

食感を楽しむと同時に、ちょっとだけザーサイのほろ苦さみたいなものが癖になる一品です。

2023年6月15日木曜日

羽付き焼餃子


いつの頃からでしょうか、餃子の「羽付き」が広まったのは。

冷凍餃子として売られているものの中には、油入らず、水いらず、フライパンに並べるだけで簡単に羽付きで仕上がる物があり、確かにきれいにできる。

ところが、自分で餡を包んで作る場合、あるいはそこまで親切ではない冷凍品では、自分で羽付きにするのは意外に難しい。

まあ、普通に小麦粉を溶いた水を入れて蒸せばいいわけですが、小麦粉の分量も、少なければ羽らしくならないし、多ければいつまでもパリっと出来上がらない。

そこで、ふと思いついて、やり方を変えてみました。

フライパンに油をひいたら、餃子を並べる前に、小麦粉をできるだけ均等に薄くまいてしまいます。粉に油が染み込んでから加熱を始め、餃子を並べたら適量の水を加え、最初の数分間は蓋をして蒸し焼きにします。

直接フライパンに触れていない部分にある程度火が通ったら、蓋を取って火力を弱め、後はお好みの焦げ方になるまでじっくり焼き上げます。

これがことのほかうまくいくんです。詳しい理屈はわからないのですが、小麦粉の中のグルテンの変化に違いが関係あるだろうと想像します。


2023年6月14日水曜日

64 - ロクヨン (2016)

原作は横山秀夫。最初に書店で単行本が並んだ時に、「64って何?」という素朴な疑問がありました。パソコン? 64bit? それとも任天堂? など、的外れな想像をするだけで、のちに昭和64年のことと知り、ふぅ~んと思ったものでした。

昭和64年、1989年は、昭和天皇(裕仁天皇)が年末から体調が思わしくなく、1月7日に崩御されたため、わずか1週間で終わりました。翌日から平成が始まったわけで、当時の小渕恵三内閣官房長官が、色紙を高々と差し上げた光景は今でもよくメディアで使われています。

その1週間しかない昭和64年に発生した少女誘拐殺人事件と、その時効がせまる平成14年に再び関連をした事件が発生し、両方に関わる人々の苦悩を描く、社会派推理ストーリーです。

映画は、前後編に分かれ相次いで公開され、合わせて4時間という大作。監督はピンク映画から転身した瀬々敬久で、近作は「ラーゲリより愛を込めて」です。監督と久松真一が共同脚本を担当し、原作とは異なる結末となっています。

昭和64年1月5日、雨宮芳男(永瀬正敏)の幼い娘が誘拐され、県警の松岡(三浦友和)らが捜査にあたったが、身代金は奪われ、さらに少女は遺体となって発見されました。結局、犯人不明のまま、あと1年で時効成立となる平成14年に時間が進みます。

64の事件で捜査員の一人だった三上義信(佐藤浩市)は、今は警察の広報官に追いやられ、公安関係者の家族が加害者である交通事故の情報の公開を記者クラブ(永山瑛太、坂口健太郎ら)から迫られます。

自分の出世のために汚点を残したくない県警本部長の辻内(椎名桔平)、警務部長の赤間(滝藤賢一)らは、三上の進言を取り合うことはなく、近くやってくる警視庁長官のイベントとして雨宮家を訪問するので了解をもらってこいというのです。

三上が雨宮のもとを訪ねると、警務課調査官の二渡(仲村トオル)が64事件関係者の周囲で動いていることがわかりました。そして、当時の捜査に従事した日吉(窪田正孝)が誘拐犯の電話を録音しそこねて、そのことを報告しようとした幸田(吉岡秀隆)の意見に反して、その事実が隠蔽されたことを知ります。

一方、記者クラブとの対立は深まる一方でしたが、三上は自らの判断で交通事故の加害者の住所・氏名を公開します。そして、自ら調べた亡くなった被害者の人生も語り、ないがしろにされやすい被害者のことも忘れないで欲しいと考えていました。やっと、記者らは三上を信じることで和解しますが、その直後、新たな誘拐事件が発生。しかも、まるで64をなぞったかのような展開をしていました。

ここからが後半。三上は、被害者の安全のために記者クラブと報道協定を結ぶことになりますが、三上にすら被害者の身元などが一切知らされないままで、記者会見でも責任者といえない者が登壇する状況に、再び警察と記者たちの溝が深まるのです。

三上は、捜査状況を知るために必死に努力し、可能な限り記者たちに情報を流すために奔走します。何とか捜査指令車両に同乗した三上は、被害者の父親である目崎正人(緒形直人)が身代金を持って移動する中、犯人の電話の声に聞き覚えがありました。また、自分を含め多くの人が無言電話を受けていたことから、64関係者で犯人の声を知る物が犯人を探し出すため電話をし続けていたと想像します。目崎は、64の時と同じ指定された場所に車を疾走させるのでした。

前半は、昭和64年の事件の説明で30分。残りの90分は、警察と警察署に詰めている記者クラブとの対立の話がメイン。その中で、いまだに過去の事件、通称「64(ロクヨン)」に縛られている人々の構図が浮かび上がってくるという展開。そして、いよいよ現在の事件が発生して、続きは後編で、ということ。

後半は、一転して現在の誘拐事件の捜査と、情報を出さない捜査本部と報道陣の対立、そしてその間に割って入り64を含めた事件の全貌にたどり着こうとする三上の行動が急ピッチで描かれます。前半が静なら後半は動という具合に、はっきりと異なる展開を見せます。

そのため、前半が冗長でだれる、そして後半が急ぎ過ぎて淡泊すぎると感じる批判が多く見かけられます。確かに二つの誘拐事件に絞れば、おそらく2時間、多くても2時間半に収まる内容だと思います。しかし、これはあくまでも推理ドラマとしての場合であって、もともと犯人はほぼ誰もが予想できるものですから、そもそも視点が間違っているように思います。

原作は未読ですが、もともと三上の一人称の視点で展開しているストーリーなので、基本的に通常の刑事ドラマのような捜査の進捗状況が逐一示されるはずがない。実は、三上は自分の娘が家出して行方不明という状況があり、雨宮の娘を失うことの絶望を初めて理解したことで、二つの事件を通して被害者・加害者の両方への湧き出る想いが主軸にあると思います。

責任の重さからずっと殻に閉じこもってしまった日吉、告発を封じられ警察へ絶望した幸田、その隠蔽された出来事から新しい事件につながるので、情報を広く公開しない警察と記者たちの対立に現実味が出てくるし、間に入って苦悩する広報官たち(綾野剛、榮倉奈々ら)にドラマが生まれてきます。

ただ、警察上層部の保身と現場の刑事や広報官を駒としか考えない発言や行動は、描き方がいかにもステレオタイプであまり感心しません。また、一方的に情報が下りてくるのを待つだけの記者にも不満が残る。

全体的には、多くのエピソードがそれぞれを補完するはずなんですが、多少バラバラ感は否めません。どれもが、演出としては過剰な感じで、大げさな感じがもったいない。それに対して、いつもはやややりすぎな演技が多い佐藤浩市が、比較的おちついた雰囲気に見える。

やはり一人称で語られる犯罪映画にそもそも無理があるように思いますので、映画としては「不朽の名作」とまでは持ち上げることは難しいところ。そもそも昭和64年にこだわること自体が弱いようにも思います。視点を変えて、雨宮中心に2時間ドラマに組み直すのもありかもしれません。

2023年6月13日火曜日

クライマーズハイ (2008)

原作小説は横山秀夫。横山が上毛新聞社の記者時代に実際に遭遇した、1985年8月12日の未曽有の大事故であった日航ジャンボジェット123便機墜落事故を題材にしています。ただし、事故そのものを描くのではなく、事故によって振り回される新聞記者たちのさまざまな苦悩に焦点を当てたもので、ストーリーとしてはフィクションです。

とは言え、監督の原田眞人は、ドキュメンタリー・タッチを部分部分で織り交ぜ、見る者を1985年のあの夏に引き戻し、あたかも報道の裏側での出来事を真実かのように伝えてきます。一方で、主人公と親友、その息子たちとの関係を過去と現在を織り交ぜることで、映画であることを思い出させます。

群馬の北関東新聞社の記者、悠木和雅(堤真一)は、8月11日、翌日に営業部の安西(高嶋政宏)と谷川岳衝立岩登攀を予定していましたが、ジャンボ機が消えたとの緊急情報が入り、急遽、日航全権デスクに任命されます。

県警担当の佐山達哉(堺雅人)は、自ら進言して神沢(滝藤賢一)を連れ立って墜落現場に向かいます。御巣鷹山の深い森は、人を簡単には寄せ付けない。やっとのことでたどり着いても、そこのあまりにも凄惨な現場でした。やっとのことで送られた二人の記事は、〆切に間に合わず1面から落ちてしまうのです。

悠木と幹部(螢雪次郎、中村育二、遠藤憲一ら)の間で、記事の扱いや取材方法などでことごとく対立する中、悠木は遺族が最も知りたがっていることを乗せ続けることが、地方紙の使命であると考え、なかば強引に記事を載せ続けるのでした。

編集部の佐多(尾野真千子)は、大学時代の教授が事故調査委員会にいることを知り、早くから圧力隔壁の破壊が原因かもしれないというスクープを取ってきました。対立していた編集部は、初めて一丸となってこのスクープを朝刊に載せるべく、ギリギリまで佐山と佐多の連絡を待つのでした。

ストーリーとしては、安西は待ち合わせていた日に、くも膜下出血で倒れ昏睡状態になっていました。現代パートでは、成人した安西の息子(小沢征悦)が、悠木を連れ立って谷川岳衝立岩に挑むパートが随所に散りばめられています。父親を知らない悠木は、自分の出自(母親が売春婦)のこともあり、息子との接し方がわからず、二人の関係は断絶に近い状態でした。

しかし、登攀中に滑落した悠木は、息子が父親の助けにと残していてくれたハーケンによって救われます。クライマーズ・ハイとは、登山者が登ることに夢中になり過ぎて極限状態になり、様々な感覚がマヒしてしまう状態のことで、悠木は今までの自分が家族に対してもそうだったことに気がつく。初めて息子と真正面から向き合う気持ちになるというところで、この映画は終わります。

一つの新聞が出来上がるまで、他社との関係だけでなく、社内でも部署によって激しい攻防が繰り広げられていることが垣間見ることが出来ます。しかも、その攻防は毎日繰り返されているというのですから、驚きを隠せません。

この事故をリアルタイムに知る者としては、第三者であっても、あの夏、本当に毎日このニュースに釘付けになりました。そのようなニュースが、記者たちをはじめとした新聞社のどのような努力によって伝えられていたのか、あらためて大きな感慨があります。

悠木親子のパートは本筋からは不要と考える方もいるかもしれませんが、悠木と言う人物をより深く描くことで、映画としてより完成されたものになっていると感じます。もしも事故の話だけならば、ノン・フィクションのドキュメンタリーで事足りるということだと思います。力のこもった若き堤真一、堺雅人の演技も素晴らしい。また、社員を子犬と呼ぶ新聞社のワンマン社長の山崎努の怪演も、映画として見所です。

2023年6月12日月曜日

半落ち (2004)

推理作家、横山秀夫の代表作の一つが「半落ち」です。2002年直木賞候補となりながら、選考委員会が一方的に内容に「事実誤認」があるとし落選、議論を巻き起こしました。監督は佐々部清。2005年日本アカデミー賞最優秀作品賞、最優秀主演男優賞を受賞しています。

半落ちは警察用語で、容疑者が自供することを「落ちる」と呼び、すべてを話せば「完落ち」、まだ何かを隠している場合を「半落ち」といいます。

群馬県警本部に、優秀で人望のある警察官、梶聡一郎(寺尾聡)がアルツハイマー病が悪化していく妻、啓子(原田美枝子)を殺害した三日後に自首してきました。捜査一課指導官の志木(柴田恭兵)が取り調べに当たりますが、殺害事実については簡単に供述するものの、自首するまでの二日間のことについては黙秘するのでした。

志木はその二日間に歌舞伎町に出かけていたらしいことを突き止めますが、警察上層部は警察官による殺人事件というスキャンダルを怖れ、妻に「殺してくれ」と頼まれやむをえず行った嘱託殺人として早期に決着をつけようとします。圧力に屈しそうになる志木を見て、梶は自ら「妻に頼まれた。二日間は死に場所を探して街を彷徨っていた」と供述するのでした。

梶は地検に送致され、担当する佐瀬検事(伊原剛志)は梶の供述に疑問を感じ、上司である小国検事正(西田敏行)に供述書は捏造ではないかと進言します。しかし、ちょうど検察事務官の犯罪が露見したばかりで小国は佐瀬の動きを抑えるのでした。

地方新聞社の中尾洋子(鶴田真由)は、偶然佐瀬と警察のやり取りを聞いてしまい、双方が公にしたくない事実を隠蔽している疑念を持ちます。

弁護士の植村(國村隼)は、人権弁護士として名を上げたいがために、妻の姉、康子(樹木希林)から弁護依頼を取り付け梶に接見しますが、ほとんど何も語ってもらえません。逆に梶は退室間際に「あなたには守りたい人はいますか」と尋ねるのでした。

志木や中尾らが少しずつ調べていくと、梶夫妻には白血病の息子がいましたが、骨髄移植のドナーが見つからず亡くなっていたことがわかります。啓子のアルツハイマーは息子の死後に始まり、急激に悪化していました。夫妻は死んだ息子のためにと、骨髄バンクのドナー登録をしていました。

そして実際に梶がドナーとなり骨髄を提供していましたが、規則によって移植相手はお互いに知らされません。しかし、たまたま新聞に載ったドナー対する感謝の手紙によって、夫妻は移植相手を確信し、その少年が元気になったことで、二人は息子が帰ってきたかのように喜んでいたのです。

裁判官の藤林(吉岡秀隆)は、自らも元裁判官であった父親の認知症の介護をしていました。藤林は、認知症だからと言って殺してしまうことには大きな疑問を感じていました。しかし、裁判所もこの事件についてはあまり深入りしようとはせず、早々に結審する方針だったのです。

当然、警察、検察、弁護士、裁判所内部の思惑、あるいはスクープを狙う新聞記者そのものが、この作品のテーマではありません。人は何のために生きているのか、それぞれが守りたいものは何なのか、というかなり重厚な問いかけが語られます。

とは言っても、簡単に答えが出るものではありませんし、人それぞれ立場が違えば正解は必ずしも一致するようなものではない。2時間の映画では、ストーリーを追うだけで精一杯ですし、それもかなり駆け足ですから、二日間の謎の解くための足掛かりも簡単に手に入るような印象です。

ただ、それぞれに演技力のある実力派俳優を揃えたことで、うまく映画として落とし込んだ出来栄えと言えそうです。もっとも、そこが俳優に頼り過ぎた映画と言う評価になることも否定できません。また、原作の問題かもしれませんが、物語の根幹である謎を隠し通すことの重要性については、多少弱いと言う印象はぬぐえませんでした。

2023年6月11日日曜日

ストロベリーナイト (2013)

テレビのスペシャル・ドラマの評判が良かったので、連続ドラマ化された誉田哲也作の「姫川玲子シリーズ」が、最後に劇場版として登場しました。タイトルはスペシャル・ドラマと同じですが、原作となった「インビジブルレイン」が副題となっています。

シリーズを通して監督の佐藤祐市、脚本の龍居由佳里などは一緒。キャストも、連続ドラマ版と同じ。スペシャルドラマがテレビとしては限界に挑んだ感じで良く出来ていたので◎だったんですが、さてさて映画はと言うと・・・

都内で3件の殺人事件があり、暴力団竜崎組の跡目争いに関連した内部抗争が疑われます。しかし、姫川玲子(竹内結子)は「犯人は柳井健人」であるというタレコミ電話を受けますが、上司の今泉係長(高島政宏)や橋爪管理官(渡辺いっけい)から、柳井のことは忘れろと厳命されてしまうのです。

柳井は9年前に殺された柳井千恵という高校生の弟で、警察資料は柳井に関する資料が破棄されていました。古い新聞や雑誌を調べた姫川は、知恵が父親から性的暴力を受け殺されたらしいこと、その父親は捜査中に自殺したこと、被害者の一人が千恵の恋人だったことなどを知るのです。

姫川班の菊田(西島秀俊)、石倉(宇梶剛士)、湯田(丸山隆平)、葉山(小出恵介)に通常捜査を任せて、姫川は柳井健人を単独で調べ始め捜査会議にも欠席します。そして柳井のアパートを張り込みしていて、偶然に同じように柳井を探す牧田(大沢たかお)と出会う。実は、牧田は竜崎組の幹部で、お互いに背負っている「血の匂い」に惹かれ合うのでした。

柳井の追求を止めない姫川は、上層部により事件の担当を外されてしまいます。千恵の事件で、何らかの警察内部の隠蔽があったことを感じた姫川は、ついに姫川班にも口を開き、全員で密かに捜査を続け、ついに最初の事件で牧田が関与している決定的な証拠を見つけ出すのでした。

何しろ「見えない雨」がモチーフだからでしょうか、ほぼ全編にわたり屋外では激しい雨が降りつづけている・・・んですが、「インビジフルレイン」は姫川と牧田、そして柳井の心の中のトラウマのことなのでしょうから、見える雨にこだわりすぎの感(晴れたら撮影中止だったらしい)は否めない。

姫川と牧田の関係性も、体を許すくらいになってしまう(ような風の映像)ほどになるという説得力がよくわからない。菊田はあきらかに姫川に好意を寄せている演出なんですが、だったらもっと姫川に絡んでもいいんじゃないかと感じます。

冒頭はフラシュバックで始まるのですが、別々の人物の回想が時系列と関係なく登場し、竹内結子以外は誰の何なのかわからないので、これも何かのレイプが関係してること以外は混乱を招くだけになっているように思います。

映画的に頑張っているのは、登場する豪華なゲスト陣で、竜崎組は伊吹吾郎、鶴見辰吾、石橋蓮司、警察側は三浦友和、田中哲司、柴俊夫、そして柳井は染谷将太といった面々。今作は、シリーズの中では姫川の「禁断の恋」に焦点を当てたものということで、異質な内容かもしれませんが、正直に言えば映画的な物足りなさが残りました。

2023年6月10日土曜日

ストロベリーナイト (2010)

誉田哲也の警察小説「姫川玲子シリーズ」が原作。映画ではなくて、フジテレビの単発のスベシャル・ドラマで、後に連続ドラマ化され、さらに映画化もされるくらいヒットしたシリーズでした。

ただし、誉田作品にはかなり過激な犯罪描写が多いらしく、それを映像化するとなるとかなり問題らしい。特に映画ならともかく、地上波のドラマとしてはそのままでは放送コードに引っかかる可能性が高い。

かといって、そこをスルーしてしまえば原作の魅力の大きなポイントが消えてしまうわけで、そういう意味ではおそらくスタッフは可能な描写の限界に挑んだのかもしれません。冒頭から、かなり凄惨な場面が登場するので、見る人を選ぶところもあります。

竹内結子が演じる主人公は、姫川玲子、30歳。警視庁捜査一課殺人犯捜査十係姫川班主任の警部補。たたき上げで、警部補までなるからには切れ者ですが、女性というだけで悔しい思いもたくさんしてきています。

姫川は高校生の時、連続レイプ事件の被害者であり、今でもそのトラウマを抱え母との確執の原因にもなっています。事件後、親身になってくれた女性刑事(国仲涼子)が、その犯人逮捕の際に殉職したことで、自分も警察官になることを決めました。姫川は、勘の良さと犯人の心情の推察する力に長けていて、地道な捜査を好む連中から嫌われることになります。

一番の魅力は姫川のチーム、彼女を敵視する警察内部の人間などの魅力がしっかり描かれていること。もちろん、登場人物の重要度によりその深さは様々ですが、単なる猟奇殺人事件の犯人捜しではないドラマの奥行きが只者ではありません。脚本は龍居由佳里。監督(演出)は、「キサラギ」の佐藤祐市。

姫川班のメンバーは、まじめすぎる菊田(西島秀俊)、班の生え抜き大塚(桐谷健太)、ベテランの石倉(宇梶剛士)らで、上司の係長の今泉(高島政宏)、所轄の井岡(生瀬勝久)、監察医務院の國岡(津川雅彦)などが姫川の理解者。管理官の橋爪(渡辺いっけい)は姫川を「お嬢ちゃん」と呼び軽視し、日下班主任の日下(遠藤憲一)も功を巡って敵対します。また五係主任の元公安の勝俣(武田鉄矢)も姫川には強く当たります。

公園の池のほとりに、ブルーシートで巻かれた惨殺死体が放置されていました。腹を切り裂かれていたことから、姫川は池に沈めた時に浮かばないための処置の推察。であれば、さらに別の遺体が池に沈んでいると考えます。

姫川の想像通り別の遺体が見つかり、さらに別の場所で似たような遺体が9体発見されるのです。殺された連中は、いずれもこの半年くらい異様にテンションが高く、定期的に死亡したと考えられました。大塚はネットの書き込みから殺人ショー「ストロベリーナイト」と呼ばれるサイトが関係していることを突き止め、その黒幕を探し出そうとして逆に射殺されてしまうのでした。

正味100分の放送枠に収めるため、多少犯人を追い詰めていく過程は強引な印象はありますが、それでも最低限の伏線はしっかりおさえてあり、問題になるような破綻はありません。

基本的に。姫川のかっこよさが魅力ですし、彼女のトラウマが影響する捜査手法などの妙味を楽しむということであれば、テレビドラマとしては出色の出来と言えそうです。本当に竹内さんかっこいい・・・・(残念)

2023年6月9日金曜日

梅雨入り


昨日は、強い日差しで気温も上昇。

空を見上げたら、何とこの時期に入道雲!!

もう、真夏やん!! ・・・・って、思ったら梅雨入りしたんだそうで。

先週でもよかったんとちゃいますか、梅雨入り。昨日になったんで、まぁ、一応、平年並みみたいなところで落ち着きました。

確かに、日が暮れてから雨が降り始めましたけどね。

何にしても、しばらくジメジメ、ムシムシが続くと言うのは、毎年のことながら辛いですよね。


2023年6月8日木曜日

探偵はBARにいる 3 (2017)

シリーズ3作目。前2作の監督だった橋本一が降りて、今作は主として大河ドラマ「鎌倉殿の13人」などのNHKでの仕事が多い吉田照幸が担当しました。脚本は今まで通り古沢良太です。なお、副題はありません。

3作の中では最も充実した内容で、一番良い・・・と思います。ストーリーの展開は凝っていますが、矛盾はなく、このシリーズの特徴の一つである地方のハード・ボイルド感がよく出ている。

ただし、監督が交代したせいか、アクション、エロスと言った東映ハードボイルト感はやや後退しているところは、賛否が分かれるところかもしれません。

札幌ススキノで探偵稼業をしている「俺」(大泉洋)は、バー「ケラーオオハタ」を根城として、バーにかかってくる電話によって仕事の依頼を受ける。高田(松田龍平)は大学の研究員ですが、ほとんど仕事らしい仕事はせず、何かにつけ俺の仕事を手伝っています。

いきなりハードな場面からスタート。毛ガニを運搬するトラックに同乗する女子大生のレイコ(前田敦子)。トラックの前に停車していた車に運転手が近づくと、いきなり銃撃されてしまう。意味ありげに毛ガニの甲羅を取り除くシーンで場面転換(いかにも何か隠していた感)。

今回の依頼は高田(松田龍平)の後輩の学生から、恋人のレイコが行方不明のため探してほしいというもの。気楽に引き受けて、俺(大泉洋)が調べ出すとレイコはモデルのバイトをしていたらしい。事務所は体裁を変えた売春クラブのようなところで、俺が出向くと帰りに襲われてしまうのです。

事務所を仕切っていたのは岬マリ(北川景子)と名乗る女で、実は昔、自暴自棄になっていた頃に俺のかけた言葉によって生きる目的を見つけたのでした。この事務所は暴力団とつながりがある北城グループの傘下にあり、マリはトップの北城(リリー・フランキー)の女なのです。

マリを尾行すると、レイコを匿っていたことがわかりますが、マリは最初の事件が解決したらレイコを自由にすると言うのです。そして、今度は北城グループのNo.2が死体で発見されます。表向きは、彼がボスを裏切り、覚醒剤を隠した毛ガニを奪ったものの、処分に困り自殺したと思われました。

しかし、俺はこれらの事件の犯人は、いろいろな情報から、いずれもマリではないかと本人に直接問い詰めます。マリは逆に俺に助けてほしいと言うのでした。俺がかつてかけた言葉によって、マリは生きる目的を見つけ出し、そのために北城グループを潰そうと言う考えだったのです。

前2作で不満が残ったヒロインは、今回は前田敦子・・・じゃなくて、北川景子。スマートな態度をとる美人で、でも一心に思いつめ固い決意を秘めている女性ということでは、ベストなキャスティングではないでしょうか。

ただ前田敦子に関しては、ほぼ本筋に絡まない。巻き込まれたお気楽な女子大生という扱いなのは、ややもったいないところ。もう少し、使い方があったんじゃないかと思ってしまいます。

おふざけシーンは控えめで、全体が締まっている印象です。相変わらず、ド派手ではありませんが、俳優同士の殴り合いのアクションはがんばっている。北城グループの最強の格闘家(志尊淳)とは、最初は「強いもん。かなわない」と弱音を吐く高田が、リベンジ・マッチでは当然勝つのですが、ちょっと勝ち方に笑いの要素が混ざったのは残念かもしれません。

高田がニュージーランドに研修留学する話が序盤からあり、このシリーズも見納めかと思いましたが、最後の最後、エンドロールの後にちゃんと落ちがありました。

2023年6月7日水曜日

探偵はBARにいる 2 ススキノ交差点 (2013)

前作のヒットですぐさま続編の製作が始まりました。橋本一監督、古沢良太脚本。そして主演の二人も続投です。

札幌ススキノで探偵稼業をしている「俺」(大泉洋)は、バー「ケラーオオハタ」を根城として、バーにかかってくる電話によって仕事の依頼を受ける。高田(松田龍平)は大学の研究員ですが、ほとんど仕事らしい仕事はせず、何かにつけ俺の仕事を手伝っています。

さて、今回の事件は、ススキノのオカマバーで人気者だったオカマのマサコ(ゴリ)が、得意の手品の全国大会で優勝。ところが俺やたくさんの仲間に盛大にお祝いをされた翌日、他殺体で発見される。

友人として犯人を捜そうとする俺は、同じ目的を持った河野弓子(尾野真千子)と出会い、彼女を依頼人として本格的な捜査に乗り出します。弓子はプロのバイオリン奏者で、ファンだったマサコの仇をとりたいと言うのです。

いろいろと聞き込みをしていくと、脱原発の急先鋒として道民から絶大な支持を得ている政治家、橡脇孝一郎(渡部篤郎)が何らかの関与があることがわかる。

しかし、その途端、街中の人々が敵となり、俺は襲撃される事態になってしまう。馴染みのヤクザは、橡脇陣営、反橡脇陣営、そして手柄をたてて橡脇にいい顔をしたいフリーの連中の3つのグループを敵に回したと教えてくれます。

俺、高田、弓子はマサコの生い立ちを追って室蘭に行ったりして、次第に橡脇が昔マサコと付き合っていた過去を清算するために殺したのではないかと考え、ついに橡脇の事務所に乗り込むのでした。

さて、今作は・・・申し訳ありませんが、かなり苦しい展開で、シナリオとしては「どうする古沢」状態です。スキージャンプ台の上で脅されているシーンから始まるのですが、ほとんど意味がわからない。いきなり緊迫感を出したかったのかもしれませんが、そこから再びスキージャンプ台のシーンに戻るまでの回想が長い。

全体に無くても困らないシーンが多すぎて、尺かせぎとしかいいようがない無駄のせいで、全体のテンポが悪い感じがします。そして、それぞれの登場人物が動き回る理由がよくわからないので、ひとつひとつの行動に説得力が無い。

アクション・シーンとしては面白いのですが、一般市民までが襲撃に加わるというのも考えられないし、政治家のキャラ設定もいい人なのかアクドイ人なのか何だかよくわからない。

一番問題なのは、犯人。2時間の映画で、95分間見せられていた展開とほとんど無関係に犯人が判明してしまう。今までの時間は何だったのかと疑問がわいてきます。また犯人の退場の仕方もなんかなぁです。

さらに、今回もヒロインのキャスティングがイマイチという気がします。尾野真千子は素晴らしい女優さんで嫌いじゃありませんが、バイオリン奏者としてイメージからはほど遠い。そんなわけで、続編に傑作無しとよく言われる通りの作品かなというところでした。

2023年6月6日火曜日

探偵はBARにいる (2011)

東直己の推理小説、「ススキノ探偵シリーズ」を実写化した道産子ハード・ボイルドです。制作の鈴木武幸は、10数年前に映画化の構想を持ちますが、ぴったりの俳優が見つかりませんでした。しかし北海道出身の大泉洋が人気が出て、まさにこの役にぴったりということでオファーしたらしい。

監督の橋本一は、テレビを主戦場としていて、特に「相棒(テレビ朝日)」で中心的役割を担っています。そして、脚本が古沢良太。原作の味を最大限に生かすシナリオで、大泉洋のキャラと相まっておそらく原作のファンも納得の出来栄え。

札幌の歓楽街、ススキノがメインの話なので、撮影は全編北海道で撮影されました。雪の残る道を走り回る出演者は大変だったようです。

札幌ススキノで探偵稼業をしている「俺」(大泉洋)は、バー「ケラーオオハタ」を根城として、バーにかかってくる電話によって仕事の依頼を受ける。高田(松田龍平)は大学の研究員ですが、ほとんど仕事らしい仕事はせず、何かにつけ俺の仕事を手伝っています。

2年前、地上げのトラブルから店に放火され、スナック経営の近藤京子が殺されました。そして1年前、地域の振興に多大な尽力をした霧島(西田敏行)が何者かに殺されてしまいます。そして、俺のもとにコンドウキョウコと名乗る人物から電話がかかってきたのです。

何度か不思議な依頼を受けますが、そのたびに俺は暴漢に襲われたりして危険な目に合う。しだいに、今回の依頼が過去の2つの事件と関係があることがわかってきます。霧島の未亡人となった、今は高級クラブのママになっている沙織(小雪)が何か知っているらしい。

俺は「探偵は依頼人を守る」という信念から、コンドウキョウコを守るために、さらに事件の深みにはまっていくのでした。

第一印象は、かつての東映アクション映画、特に松田優作出演作のテイストがあるということ。松田優作の遺児、松田龍平が出ているのも感慨深いところです。暗い雰囲気の夜の店、ちよっとだけ色っぽいところもあり、ジャズ調のBGMがぴったりです。

冒頭から、けっこう激しいアクション・シーンがありますが・・・・大泉洋もなかなか体が動くもんですね。松田龍平もけっこうがんばっている。とは言え、松田優作張りの喧嘩は無理と言うもので、すぐ謝ったり、誤魔化そうとしたり、あるいは気絶してしまうこともあります。長年、大泉洋の出演を待ち続けたというだけあって、この役はまさに彼のために用意されたキャラで、もう他の俳優が演じることは想像できないくらいはまっている。

残念なのは、コンドウキョウコの正体ですが、どう考えても声色は・・・です。また小雪をキャスティングした時点で、この人は悪役のはずはなく、何か大きな影を背負った人だろうと思えてしまうところ。つまり、小雪はネタバレ・キャラなので、最後の結末も予想出来てしまいます。

まぁ、それはそれとして、警察とは違い相手も探偵には遠慮しませんので、それなりにスピードのあるシーンと、がらりとくだけるコメディ・パートのバランスが良く取れていて楽しい映画になっています。

2023年6月5日月曜日

ミックス。 (2017)

映画って・・・いや、そんなことを語れる立場ではないだろうと怒られそうですが、監督のものなのかプロデューサーのものなのかとよく議論されますが、基本的に自分は監督のものと思っている。

ですから、制作を兼任する監督であれば、評価はともかく見るべき作品と言える。例えば、クリント・イーストウッドを好きなのは、まさにそこ。日本だったら、是枝裕和などが思いつきます。

さらに完璧さを求めるならば、当然、脚本も担当してもらいたい。小説と違って映像がある分、文章に起こして台詞で説明しなくても伝わるポイントを絞り込むことが映画の醍醐味の一つ。そこは脚本の力が大きく働くところ。

今まで、あまり脚本家には注目していなかったんですけど、日本で今、最も注目されている脚本家の一人が古沢良太。2023年のNHK大河ドラマ「どうする家康」の原案・脚本を担当しているので、まさに話題性急上昇です。

テレビでは、「リーガル・ハイ(フジテレビ)」や「デート〜恋とはどんなものかしら〜(フジテレビ)」が古沢のオリジナル脚本でヒットしました。映画では原作者が別にいる「ALWAYS三丁目の夕日」シリーズ、「探偵はBARにいる」シリーズが知られています。

でも、やはり古沢の真骨頂は、自分のアイデアから生まれたオリジナル脚本物。この映画は、スポ根、いやロマンス、コメディ、もしかしたら人間成長ドラマ・・・いろいろな要素が「ミックス」されて、ある意味定型的な展開ですが、引き込まれる要素が散りばめられた良作と言えます。

不器用で会社の卓球部のエースにふられ、失意のまま帰郷した富田多満子(新垣結衣)。鬼コーチだった母(真木よう子)に鍛えられ卓球の天才少女と言われていましたが、中学校の時、母の死と共に卓球を辞め、普通の幸せを夢見ています。どこかに元彼(瀬戸康史)への未練も残している。

元ボクサーの萩原久(瑛太)は、妻(山口紗弥加)の上司を勘違いで殴って離婚。仕事を転々として、土木作業現場の仕事に就くことになり、偶然に多満子と出会います。元妻と彼女の連れ子に未練を残している。

死んだ母が営んでいた卓球クラブは、経営難で残った会員はわずか。元ヤンで医者の妻になった吉岡弥生(広末涼子)は、セレブな生活を装うことに疲れています。トマト農園を営む落合夫妻(遠藤憲一、田中美佐子)は、亡くした卓球好きのこどもが忘れられない。優馬(佐野勇斗)は、落ちこぼれの高校生で打ち込めるものが無い。

彼らはクラブを繁盛させるために、全日本大会に出場し注目を集めるために、ミックス・ダブルスのペアを組み練習を始めるのですが、さすがにそんな簡単に勝てるわけがなく、全員初戦敗退してしまいます。

しかし、もう一度自分を取り戻すため1年後の大会に向けて猛練習を始めるのでした。行きつけの中華料理屋の夫婦(蒼井優、森崎博之)が元中国代表の落ちこぼれだったことがわかり、彼らのコーチのもとみるみる力を付けていくのでした。

いよいよ大会が迫ってきたという時、元彼に復縁を迫られる多満子。元妻から大会当日にある就職面接を紹介される萩原。それぞれが残していた未練を克服するため、大会出場を土壇場でキャンセルしてしまいますが、それは新たな未練の始まりでもあったのです。

監督は、古沢良太との仕事が多い、主としてテレビの仕事をしている石川淳一。スタンダートな演出で、可もなく不可もなくですが、奇をてらったことはしないので安心感はあります。映画と言う短い時間を有効に使うため、回想シーンの使い方はうまい。

新垣結衣のファンの人は、セーラー服姿だったり、変顔だったり、試合の鬼気迫る表情などが見れるのも楽しみでしょう。多満子の父親に小日向文世、工事現場主任に斎藤司、元彼の新ペアに永野芽郁、対戦相手に吉田鋼太郎、中村アン、鈴木福、谷香音、生瀬勝久、そして本物の卓球選手も多数登場というところも見所になっています。

2023年6月4日日曜日

キサラギ (2007)

自殺したとされるアイドルを巡って、筋金入りの5人ファンが1周忌の集いを行い繰り広げられる密室推理劇。監督は佐藤祐一。この作品で重要な脚本は古沢良太です。

B級アイドル、キサラギ・ミキは、1年前、突然この世を去ってしまいます。一周忌を主宰したのは「家元」さん(小栗旬)で、そこに集まったのはやたらときりっとした「オダ・ユージ」さい(ユースケ・サンタマリア)、お調子者の「スネーク」さん(小出恵介)、田舎で農業を営む「安男」さん(塚地武雅)、そして中年男の「いちご娘」さん(香川照之)の面々。

最初は、楽しい思い出話で盛り上がっていましたが、オダ・ユージが突然、「自殺するのはおかしいと思わないか。ましてや、焼身自殺なんて」と言い出します。一同は、確かに「らしくない」と同意しますが、オダ・ユージはさらに「色々調べた結果、誰かに殺された可能性が高い。そして、その犯人を見つけるために今日の会に来た」というのです。

オダ・ユージは、キサラギ・ミキはストーカー被害に遭っていたが、警察はまったく相手にしてくれなかったことを言い出します。しかし、家元はそんなことはないと否定し、自分が警視庁の情報部の者で、キサラギ・ミキに関連する情報はすべて知っていると言うのです。

オダ・ユージは、警察が何かの隠蔽工作をしたと主張し、いちご娘をそのストーカーとして名指しするのです。全員の追求に、ついにいちご娘は部屋に侵入したことは認めますが、キサラギ・ミキが亡くなった時間には、無銭飲食で警察の留置場にいたと証言。家元が職場に電話をしてすぐに確認されました。

いちご娘は、キサラギ・ミキのアパートを訪れた、なれなれしくミキに接する男を目撃したと言い出します。スネークが持っていた生写真から、その男はスネーク本人で、商品の配達でアパートに上がり込んだことがあることわかりましたが、彼もアリバイがある。

スネークは、誰かのためにクッキーを焼いていたと話します。オダ・ユージは、それは幼馴染で結婚の約束をした「やっくん」のためだと言います。あまりにファンを越えたことを知っているオダ・ユージが、ついにデブッチャーと、かつてファンに呼ばれていたマネージャーであることが判明します。

みんな、事情はどうであれ、キサラギ・ミキと個人的な接点があるのに、家元は自分と安男さんだけがまったくのファン以上ではないことを悲しみます。ところが、何と安男さんは「僕がやっくんです。毎日電話をしていました」と発言し、全員が驚愕するのでした。

さてさて、この後も驚くべき告白が有ったりして、次第にキサラキ・ミキの死の真相が明らかにされていくのですが、やはりこの映画は監督よりも脚本の素晴らしさが際立つ作品といえそうです。

舞台は家元のアパートの倉庫みたいな一室だけ。登場人物も、基本的に5人だけという、はっきり言って演劇向きの内容。回想として、多少部屋から出たシーンがありますが、映画的なアドバンテージはありません。それでも110分の間見続けられるのは、脚本の勝利と言うほかありません。古沢良太は、もともとは2003年に舞台劇としてオリジナルのストーリーを組み立てました。

基本的に、場面転換の少ない演劇を映画化すると、陳腐なものになってしまうことが多い。例えば、ヒッチコックの名作「ダイアルMを回せ」ですら、正直、グレース・ケリーの魅力でもっているところがあります。

映画として見れば、この作品も地味ですし、カットが変わっても写る場所は同じで角度が変わるだけ。ストーリーの面白さ、くどすぎないギャグ、そして何気なく散りばめられた「伏線の回収」が醍醐味と言えます。

そして、五人の俳優が、まさに適材適所でうまくはまっているところが素晴らしい。監督には申し訳ないのですが、脚本の古沢良太が只者ではないことを知らしめた作品ということです。

2023年6月3日土曜日

おみやげ


ディズニーランドは相変わらずの人気。

もちろん、ミッキー・マウスやドナルド・ダックといったキャラクターの魅力が大きいわけですし、またほかの遊園地にないようなアトラクションが楽しいことも大事なポイント。

でも、人気の原因で忘れてはならないのが「おみやげ」です。

もう、ディズニーランドへ最後に行ってからずいぶん経つ自分としては(少なくとも最後はシーができる前)、ひたすらおみやげをいただく身になっています。

きゃー、かわわいい!! という声が聞こえてきそうな独自の入れ物に入っていることが多いのですが、実は食べ終わってから捨てるに捨てられず困ったりすることがありませんか?

妙に変わった形の缶だったりするのでけっこう場所を取るし、実用的には使いまわしがきかないことが多い。数年とっておいたけど、結局捨てることになるんですよね。

この小さなあられが入った缶は、全体が和風の柄の布で覆われていて、おお~という感じがします。さすがディズニーランド。なかなか凝ったことをする。

さてさて、この缶の運命はどうなるのでしょうか。

2023年6月2日金曜日

大怪獣のあとしまつ (2022)

ゴジラでも、ガメラでも・・・はたまたウルトラマン・・・たくさんの怪獣が出てきましたよね。中には、ウルトラマンが宇宙に持って行ってしまったものもありますけど、多くは倒されて物語は終わり。

残った物は・・・怪獣の死体。中には全長100mなんてのもあるわけで、言われてみればその死体はどうなったのか。考えると、後片付けしないといけないよね・・・・

大変だろうなぁ・・・どうすんだよって、いいところに眼を付けた映画がこれ。放送作家から映画監督になった三木聡が監督と脚本。でもって、さぞかしい面白いかと思ったら、う~ん、ちょっともやもやが残りました。

日本を恐怖のどん底に陥れた大怪獣。謎の光によって死んでしまいます。遺された死体を片付ける任務を任されたのは特務隊という、自衛隊や警察とは別の組織。

その特務隊のエースが帯刀アラタ(山田涼介)で、かつて仲間だった雨音正彦(濱田岳)は総理大臣の秘書官、正彦の妻で新のかつての恋人だったユキノ(土屋太鳳)は環境大臣秘書。3年前に不思議な光を追いかけていた三人でしたが、光に包まれたアラタは行方不明、正彦は片脚を失っていました。2年後に姿を現したアラタは、行方不明だった2年間については語りません。

総理大臣(西田敏行)と内閣は、一癖も二癖もある人々で、責任を押し付け合うかと思えば、功を争うばかりでまともな作戦は思いつかない。ついに正彦が主導してミサイルを撃ち込む作戦が開始されますが、それがかえって人身への悪影響を及ぼすことを危惧するアラタは独自の行動を起こすのでした。

まず、風変わりな脇役がこれでもかと登場します。六角精児、眞島秀和、MEGUMI、菊地凛子、染谷翔太、二階堂ふみ、松重豊、オダギリジョーなどなど・・・どのように出てくるか興味がある方は是非本編をご覧ください。

さて、なんでもやもやなのか。基本的にはコメディなんですが、徹底して全員がシリアスな演技をしている。低レベルのおふざけを大真面目でされるので、何か笑うに笑えない。そして、最終的な解決なんですが・・・ネタバレになるので秘密ですが、結局それかという・・・

ただでさえ、あまりに笑えないギャグが矢継ぎ早に出てくるのに、最後を笑いで終わらないと、それまでの1時間45分がただの中身のないドタバタになってしまう。なるほど、そうやって後始末を何とかしたんですねという面白さが消し飛んでしまいました。

まあ、邦画としてはまあまぁなCGとか、一人だけギャグを言わない山田クンの頑張りとかはありますので、ファンの方は見てもいいかもしれません。

2023年6月1日木曜日

無限の住人 (2017)

木村拓哉主演、アクション時代劇。

監督は三池崇。暴力描写では日本で一、二を争う監督ですから、もう冒頭から木村拓哉が無数ともいえるチンピラを叩き斬る、斬る、斬る・・・

原作は沙村広明の漫画で、主人公の万次は不死の体を持つという設定。元々の原作がかなり長く、登場人物も多くてそのサイド・ストーリーも豊富な展開らしいので、映画では、はしょりまくって原作ファンからはかなり不評を買うのは当たり前の2時間20分です。

元々は武士でお尋ね者になった万次(木村拓哉)は、妹の花(杉咲花)との道中、やくざの集団に絡まれ花を死なせてしまいます、万次は集団を壊滅させますが、自身も瀕死の状態になってしまう。そこへ登場する謎の老婆、
八百比丘尼(山本陽子)により不死の体になる虫を体内に仕込まれる。

それから50年後、江戸中のすべての剣術流派を統一しようと目論む逸刀流の天津影久(福士蒼汰)によって父を殺された浅野凛(杉咲花、二役)は、親の仇である影久を倒すために、万次を用心棒として雇うのです。万次は花とそっくりな凛に驚きます。

逸刀流の黒衣鯖人(北村一輝)、凶戴斗(満島真之介)らを倒していく万次でしたが、受けた傷は虫の力ですぐに回復していました。しかし、閑馬永空(市川海老蔵、現團十郎)との対決では、虫の力を弱らせる薬を仕込まれ苦戦します。

実は閑馬永空も八百比丘尼から虫を仕込まれ不死の体だったのです。彼は死ねないことの苦しみを万次と共有しつつ、毒を自らに向け死んでいきます。また乙橘槇絵(戸田恵梨香)にも追い詰められますが、凛の万次を守ろうとする必死さに引き下がります。

凛と万次以外に、密かに逸刀流を倒すために暗躍してる集団がいました。尸良(市原隼人)、百琳(栗山千明)らで、万次らは目的は一緒でも彼らが金のために動いていることを知ると決別します。

尸良らを雇っていたのは公儀の手の物で、逸刀流を油断させ幕府に危険人物とされた影久を排除しようとしていたのでした。ついに影久を討伐するための幕府の大群が取り囲み、また影久を追う万次と花、影久を慕う乙橘槇絵らによる三つ巴の決戦が開始されるのでした。

さて、天下の木村拓哉の主演映画としては、困ったことに評判は必ずしもよくはない。いろいろな要因がありそうですが、ちょっと考えてみた。

監督の問題としては、バイオレンスが特徴の監督とは言え、やはりやり過ぎたといえます。キムタクの映画ですから、圧倒的に女性の観客が多いことでしょうから、そこに大量の血しぶきと切断された手足が飛ぶ演出はさすがにどうかと・・・

最初は白黒にして和らげたのかもしれませんが、これはちょっと見ていてきつい。ほとんどスプラッター映画状態です。大人数との立ち回りは「るろうに剣心」の映画にも度々出てきますが、剣心の剣は人を斬れない逆刃刀です。

そもそも三池監督を起用したプロデューサーがだめだめということなんですが、そういう映画にしたいなら、逆にキムタクをキャスティングしたこともプロデューサーの失策かもしれません。

それと、大変特徴的なキャラクターが登場するにも関わらず、彼らのシーンはそれぞれ数分間程度で、ほとんど人物像もわかない。これは長大なストーリーを省略しまくった監督と脚本家の問題でしょうか。

もともと無理があることはわかっていたはずなので、もっと登場人物を絞り込めなかったのかという感じ。あまりにバタバタと話が進むので、戦闘シーン以外はあらすじだけで走り抜けた感じになってしまいました。

そして主演、木村拓哉の問題にも触れざるをえない。思い出すのは2016年のSMAPの解散騒動です。この映画は、まさにその騒動の真っただ中で撮影が行われ、プロモーションはSMAP解散後の一人となった木村の初仕事みたいな感じでした。このあたりが、木村本人にも、ファンにもいろいろなストレスをかけていたことは容易に想像できます。

よく言われることに「キムタクは何をやってもキムタク」というのがありますが、これは批判というよりファンがそれを望んでいるという側面もある。この映画のキムタクは、実はキムタクらしさをかなり封印していると思います。役柄上当然かもしれませんが、そこも受け入れにくさの原因になっているのかもしれません。

さらに、どうしても気になるのは、キムタク演じる主人公が弱いことで、名のある敵との対決では必ず一度は「死んでいる」のです。不死という特殊能力はチートみたいなもので、主人公の背景が描き切れていないことも合わさって共感しにくい。

中華を頬張っていた杉咲花が、ブレイクしてここでもそれなりに注目できる演技を見せているところは、数少ない見どころに挙げておきたいと思います。