2023年6月13日火曜日

クライマーズハイ (2008)

原作小説は横山秀夫。横山が上毛新聞社の記者時代に実際に遭遇した、1985年8月12日の未曽有の大事故であった日航ジャンボジェット123便機墜落事故を題材にしています。ただし、事故そのものを描くのではなく、事故によって振り回される新聞記者たちのさまざまな苦悩に焦点を当てたもので、ストーリーとしてはフィクションです。

とは言え、監督の原田眞人は、ドキュメンタリー・タッチを部分部分で織り交ぜ、見る者を1985年のあの夏に引き戻し、あたかも報道の裏側での出来事を真実かのように伝えてきます。一方で、主人公と親友、その息子たちとの関係を過去と現在を織り交ぜることで、映画であることを思い出させます。

群馬の北関東新聞社の記者、悠木和雅(堤真一)は、8月11日、翌日に営業部の安西(高嶋政宏)と谷川岳衝立岩登攀を予定していましたが、ジャンボ機が消えたとの緊急情報が入り、急遽、日航全権デスクに任命されます。

県警担当の佐山達哉(堺雅人)は、自ら進言して神沢(滝藤賢一)を連れ立って墜落現場に向かいます。御巣鷹山の深い森は、人を簡単には寄せ付けない。やっとのことでたどり着いても、そこのあまりにも凄惨な現場でした。やっとのことで送られた二人の記事は、〆切に間に合わず1面から落ちてしまうのです。

悠木と幹部(螢雪次郎、中村育二、遠藤憲一ら)の間で、記事の扱いや取材方法などでことごとく対立する中、悠木は遺族が最も知りたがっていることを乗せ続けることが、地方紙の使命であると考え、なかば強引に記事を載せ続けるのでした。

編集部の佐多(尾野真千子)は、大学時代の教授が事故調査委員会にいることを知り、早くから圧力隔壁の破壊が原因かもしれないというスクープを取ってきました。対立していた編集部は、初めて一丸となってこのスクープを朝刊に載せるべく、ギリギリまで佐山と佐多の連絡を待つのでした。

ストーリーとしては、安西は待ち合わせていた日に、くも膜下出血で倒れ昏睡状態になっていました。現代パートでは、成人した安西の息子(小沢征悦)が、悠木を連れ立って谷川岳衝立岩に挑むパートが随所に散りばめられています。父親を知らない悠木は、自分の出自(母親が売春婦)のこともあり、息子との接し方がわからず、二人の関係は断絶に近い状態でした。

しかし、登攀中に滑落した悠木は、息子が父親の助けにと残していてくれたハーケンによって救われます。クライマーズ・ハイとは、登山者が登ることに夢中になり過ぎて極限状態になり、様々な感覚がマヒしてしまう状態のことで、悠木は今までの自分が家族に対してもそうだったことに気がつく。初めて息子と真正面から向き合う気持ちになるというところで、この映画は終わります。

一つの新聞が出来上がるまで、他社との関係だけでなく、社内でも部署によって激しい攻防が繰り広げられていることが垣間見ることが出来ます。しかも、その攻防は毎日繰り返されているというのですから、驚きを隠せません。

この事故をリアルタイムに知る者としては、第三者であっても、あの夏、本当に毎日このニュースに釘付けになりました。そのようなニュースが、記者たちをはじめとした新聞社のどのような努力によって伝えられていたのか、あらためて大きな感慨があります。

悠木親子のパートは本筋からは不要と考える方もいるかもしれませんが、悠木と言う人物をより深く描くことで、映画としてより完成されたものになっていると感じます。もしも事故の話だけならば、ノン・フィクションのドキュメンタリーで事足りるということだと思います。力のこもった若き堤真一、堺雅人の演技も素晴らしい。また、社員を子犬と呼ぶ新聞社のワンマン社長の山崎努の怪演も、映画として見所です。