内田けんじの監督・脚本作のシチューエーション・コメディ。完璧主義の殺し屋「コンドウ」と人生ダメダメの役者桜井武史がひょんなことから立場が入れ替わり、そこへ何事にも几帳面な結婚を急ぐOL、水嶋香苗が絡むという、何が起こるか想像できないストーリーです。
桜井は堺雅人、コンドウは香川照之と来れば、この翌年のドラマ「半沢直樹」が大ヒットしました。香川さん・・・ちょっといろいろありますが、OLが広末涼子で最近お騒がせ中です。まあ、それはいいとして、前半が香川と広末、後半が堺と広末が絡む展開の妙みたいなところもなかなかよくできています。
高級品を紹介する雑誌編集長をしている香苗は、何事にも几帳面。ある日、急に数か月後に結婚すると宣言します。しかし、予定は立ててみたものの、相手はこれから探すというので部下はびっくり。何事もうまくいかず自殺にも失敗した桜井は、たまたま財布から出てきた無料券で銭湯に出かけます。一方、コンドウは用意周到に会社社長岩城を刺し殺し、帰る時に返り血を浴びているのに気がつき、通りかかりに銭湯を見つけました。
ところが、浴場に入った途端、石鹼で滑ってコンドウは転倒し頭を打って救急車で運ばれる。桜井は、咄嗟に脱衣場のロッカーの鍵を自分のとすり替えてしまいました。コンドウは記憶を失ってしまい、持ち物から桜井ということになってしまいます。退院したところで、偶然に香苗に道を尋ねたことがきっかけで、香苗は彼の記憶を取り戻す手助けをすることになる。
一方、本物の桜井はコンドウの高級マンションに行ってみる。いろいろな衣装や、さまざまな身分証明書、さらには拳銃を発見し驚きます。そこへヤクザの工藤(荒川良々)から電話がかかって来る。岩城の始末は見事だったが、岩城の女が2億円を隠しているので、その場所を調べ女も始末して欲しいと追加の依頼をされてしまいます。
コンドウと彼が何者か知るためにいろいろ調べるうちに、香苗はコンドウの几帳面で努力家なところに惹かれ始めていました。コンドウも親身になってくれる香苗に惚れてしまいます。桜井は、岩城の女、井上綾子(森口遥子)に近づき、殺されるから逃げるように話してしまいますが、そのことが工藤にばれてしまいピンチを招く。
本来クラシック音楽が大好きなコンドウは、たまたま香苗がかけたクラシックの曲を聞いているうちに記憶が戻るのでした。コンドウがマンションに戻ると、工藤の元から逃げ延びた桜井がやって来て、二人はついにそれぞれのヤバイ状況を把握したのでした。
内田監督は脚本家として実に良い仕事をしていて、実際、この作品では日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受傷しました。鍵泥棒の鍵は銭湯のロッカーの、あの平たいやつのことですが、それぞれが人生の鍵を交換してしまったことも込められていそうです。メソッドは桜井が、そして桜井よりコンドウが深く勉強した演技論のこと。これもお互いが他人の人生を演じる状況に絡めてある。
これらの状況設定だけでもワクワクさせられますが、前半で感じられる違和感みたいなものが、後半に入ると見事に納得させられ大どんでん返しですっきりして、ハッピーエンドになだれ込むというのは、前作「アフタースクール」と同じで、実に見事。
この作品もシチュエーション・コメディと呼べるジャンル。直接的なドタバタで笑わせる(スラップスティック・コメディ)のではなく、ありえない状況のなかで自然と滑稽味が出るタイプのもの。人と人が入れ替わってしまう話はよくありますが、その中にラブコメ要素を取り入れつつ、それぞれの人生の良し悪しを客観的に見つめ直す内容は、まさに内田マジックと呼べそうです。