2023年6月4日日曜日

キサラギ (2007)

自殺したとされるアイドルを巡って、筋金入りの5人ファンが1周忌の集いを行い繰り広げられる密室推理劇。監督は佐藤祐一。この作品で重要な脚本は古沢良太です。

B級アイドル、キサラギ・ミキは、1年前、突然この世を去ってしまいます。一周忌を主宰したのは「家元」さん(小栗旬)で、そこに集まったのはやたらときりっとした「オダ・ユージ」さい(ユースケ・サンタマリア)、お調子者の「スネーク」さん(小出恵介)、田舎で農業を営む「安男」さん(塚地武雅)、そして中年男の「いちご娘」さん(香川照之)の面々。

最初は、楽しい思い出話で盛り上がっていましたが、オダ・ユージが突然、「自殺するのはおかしいと思わないか。ましてや、焼身自殺なんて」と言い出します。一同は、確かに「らしくない」と同意しますが、オダ・ユージはさらに「色々調べた結果、誰かに殺された可能性が高い。そして、その犯人を見つけるために今日の会に来た」というのです。

オダ・ユージは、キサラギ・ミキはストーカー被害に遭っていたが、警察はまったく相手にしてくれなかったことを言い出します。しかし、家元はそんなことはないと否定し、自分が警視庁の情報部の者で、キサラギ・ミキに関連する情報はすべて知っていると言うのです。

オダ・ユージは、警察が何かの隠蔽工作をしたと主張し、いちご娘をそのストーカーとして名指しするのです。全員の追求に、ついにいちご娘は部屋に侵入したことは認めますが、キサラギ・ミキが亡くなった時間には、無銭飲食で警察の留置場にいたと証言。家元が職場に電話をしてすぐに確認されました。

いちご娘は、キサラギ・ミキのアパートを訪れた、なれなれしくミキに接する男を目撃したと言い出します。スネークが持っていた生写真から、その男はスネーク本人で、商品の配達でアパートに上がり込んだことがあることわかりましたが、彼もアリバイがある。

スネークは、誰かのためにクッキーを焼いていたと話します。オダ・ユージは、それは幼馴染で結婚の約束をした「やっくん」のためだと言います。あまりにファンを越えたことを知っているオダ・ユージが、ついにデブッチャーと、かつてファンに呼ばれていたマネージャーであることが判明します。

みんな、事情はどうであれ、キサラギ・ミキと個人的な接点があるのに、家元は自分と安男さんだけがまったくのファン以上ではないことを悲しみます。ところが、何と安男さんは「僕がやっくんです。毎日電話をしていました」と発言し、全員が驚愕するのでした。

さてさて、この後も驚くべき告白が有ったりして、次第にキサラキ・ミキの死の真相が明らかにされていくのですが、やはりこの映画は監督よりも脚本の素晴らしさが際立つ作品といえそうです。

舞台は家元のアパートの倉庫みたいな一室だけ。登場人物も、基本的に5人だけという、はっきり言って演劇向きの内容。回想として、多少部屋から出たシーンがありますが、映画的なアドバンテージはありません。それでも110分の間見続けられるのは、脚本の勝利と言うほかありません。古沢良太は、もともとは2003年に舞台劇としてオリジナルのストーリーを組み立てました。

基本的に、場面転換の少ない演劇を映画化すると、陳腐なものになってしまうことが多い。例えば、ヒッチコックの名作「ダイアルMを回せ」ですら、正直、グレース・ケリーの魅力でもっているところがあります。

映画として見れば、この作品も地味ですし、カットが変わっても写る場所は同じで角度が変わるだけ。ストーリーの面白さ、くどすぎないギャグ、そして何気なく散りばめられた「伏線の回収」が醍醐味と言えます。

そして、五人の俳優が、まさに適材適所でうまくはまっているところが素晴らしい。監督には申し訳ないのですが、脚本の古沢良太が只者ではないことを知らしめた作品ということです。