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2023年8月27日日曜日

大誘拐 RAINBOW KIDS (1990)

これは老け役と言えば、北林谷栄と言われた、大女優の晩年の大傑作コメディ映画。北林谷栄は明治44年生まれで、若い時から老け役として定評があり、昭和のドラマでは一番知られた「おばあちゃん」でした。原作は天藤真の小説で、監督・脚本は岡本喜八。

戸並健次(風間トオル)、秋葉正義(内田勝康)、三宅平太(西川弘志)の三人の若者はケチな犯罪の前科があり、和歌山一の大富豪の老婆、柳川とし子刀自(北林谷栄)を誘拐して、身代金で社会復帰をしようと画策します。散歩に出たとし子と女中見習いの紀美(松永麗子)の前に飛び出し誘拐しようとしますが、とし子は見張りの手間が増えるだけと言いくるめられ紀美は逃がしてしまう。

紀美の話で、あわててとし子のこどもたち、国二郎(神山繁)、可奈子(水野久美)、大作(岸部一徳)、英子(田村奈巳)が集まって来て、県警本部長の井狩大五郎(緒形拳)は捜査を開始します。とし子は「あんたらの隠れ家なんてすぐ見つかる」と言って、とりあえず昔柳川家の女中をしていた中村くら(樹木希林)の家に犯人を引き連れて隠れます。くらもとし子に協力するのです。

さて身代金をどうするかととし子に聞かれた戸並は5千万円と言うと、とし子は柳川家の当主としてそれは安すぎるので百億円じゃないとだめと怒り出すのです。完全にとし子のペースに飲まれている三人は、しかたがなくその額で連絡するが、さすがに柳川家でもその額に驚くしかない。

井狩はテレビに出演し、誘拐団に対して毅然とした態度で「現実的な額での交渉を希望する。刀自が無事であることを証明してもらいたい」と語り、もうほとんどとし子に操られているような三人は、何ととし子をテレビに出演させることにします。これもとし子が主導で警察を出し抜き、山奥までテレビの生中継車を導き、自分の土地などをすべて処分すれば作れる額だと話すのです。

家族は大急ぎで資産を整理して百億円を用意します。「犯人だった」三人とも、肝の坐ったとし子に素性を明らかにしてしまいます。とし子の指示で身代金の受け渡し方法も決まり、百億円を積んだヘリコプターが飛び立ち、簡単に人が立ち入れないような吉野の山奥を迷走させられ、井狩は混乱する情報の中で、しだいにとし子の意思を感じるのでした。

犯罪のからくりを暴くという意味では、もちろん突っ込み所は無いわけではありませんが、それなりにうまくまとまっていて大きな破綻はありません。RAINBOW KIDSは、誘拐団をとし子が「虹の童子」と名付けた所からきています。

犯人の三人は、小悪党ですが根は素直でいい奴ら。資産家だけどとても優しさに溢れたとし子、その4人のこどもも遺産を狙うような嫌味な人間ではなく、誘拐された母を心配し、だけど少しでも出費を減らせないかと四苦八苦する。元女中のくら、現在の屋敷の関係者、ヘリコプターのパイロットすら、とし子の人柄を慕っていて、むしろ積極的にとし子の大冒険を応援するのです。

つまり、根っからの悪人は一人も出てこない犯罪ドラマで、テレビなどを通して見えていた北林谷栄の印象をそのまま集大成したような展開が楽しい。樹木希林も、晩年の人間味が傑出する前のとぼけたキャラが前面に出ていて懐かしい。硬派な役が多かった緒形拳も、実に珍しいやさしい刑事というのも楽しみの一つです。