2023年8月8日火曜日

祈りの幕が下りる時 (2018)

東野圭吾の「加賀恭一郎シリーズ」を原作とするテレビ・ドラマ「新参者(2010)」の劇場版第2弾です。テレビでは2014年にスペシャル・ドラマ「眠りの森」が放送されているので、阿部寛の加賀恭一郎は4年ぶりということになります。

加賀恭一郎最後の事件という位置づけで、シリーズに一貫して流れる、加賀の母の失踪にまつわる謎が大きく関わって来ることになります。


1983年、田島百合子(伊藤蘭)は夫と別れこどもも置いて仙台に一人やって来ました。そしてスナックで働き出しますが、家族の話は口をせず心を閉ざしたまま2001年心不全で亡くなります。親しくしていて息子の住所を知っていたらしい綿部という男性が連絡を取り、加賀恭一郎は仙台にやって来ました。そして、綿部を探しましたがまったく手掛かりはありませんでした。

2017年、荒川の河川敷のアパートで、滋賀から訪れた押谷道子の腐乱死体が発見されました。部屋の住人であった老人は数日後に、少し離れた場所で絞殺され焼死体となって発見されるのです。押谷の営業先を訪れた警視庁捜査一課の松宮(溝端淳平)は、施設に居候する身元不明の女(キムラ緑子)が押谷とトラブルになったことを知ります。押谷は、女に中学の同級生だった浅居博美(松嶋菜々子)のお母さんでしょうと尋ねますが、女はすごい剣幕で押谷を追い出したのです。

東京に戻った松宮は、新進気鋭の舞台演出家となった博美を訪ねますが、押谷には逢ったが母親のことを言われ「母はいない」と突き返した、その女は父を自殺に追い込み家族を崩壊させたと話します。松宮は帰り際に、博美と剣道着姿の加賀が一緒に収まった集合写真を目にするのです。

松宮は、老人の部屋にあったカレンダーに日本橋近辺の橋の名前が毎月書いてあることを加賀に言うと、加賀は血相を変え、松宮が言うよりも早くその橋の名前を列挙するのでした。実は加賀の母親の遺品のカレンダーに同じような書き込みがあり、筆跡から亡くなった老人は綿部と推定されました。

橋の名前は毎月の待ち合わせをする場所を決めていたものらしく、加賀は日本橋「橋洗い」に集まる人々を写した膨大な量の写真の中から、綿部の姿を探すのですが、何と意外な人物、浅居博美を発見します。滋賀に向かった加賀は、博美の担任だった苗村(及川光博)が急にいなくなったこと、元妻が苗村が浮気相手に渡したと想像していたペンダントを博美が身につけていたことを突き止めます。

加賀にはいろいろな線がつながるにも関わらず、全体像はいつまでも見えてこない。何かが足りない・・・そして、残されたピースが「自分」であることに加賀は気がつくのでした。

あらすじを書いてみても、すごく複雑な人間関係が錯綜するため混乱します。加賀にとっては母親の失踪、そして浅居博美にとっては父親の自殺。30年近くさまざまな想いを抱きつつ、それぞれが母親と父親への想いをから日本橋にこだわり続けたストーリー。映画の推理物としては、犯人捜しよりも、何故このような事件が起こってしまったのかという人間ドラマが中心です。

ふと思い出したのが松本清張の「砂の器」です。事件の概要はもちろん違いますが、自分の過去にとらわれついに人を殺めてしまうという悲劇的な重苦しい事件の雰囲気が似ていると思いました。一連のシリーズを貫く、加賀の父との確執、母の失踪の謎が解き明かされることは、まさに「最後の事件」と呼ぶのにふさわしい内容でした。

しかし、初めてこのシリーズの映画を見る人には、重厚なだけで後半は謎の答えがどんどん明かされてしまう内容に少し物足りなさを感じるかもしれません。作る側は、そのあたりは多少割り切っているのかもしれませんが、逆に見る側も下準備としてテレビ・ドラマの「新参者」、映画第1作の「麒麟の翼」、出来ればテレビ・スペシャルの「赤い指」を見ておいた方がよさそうです。

いずれにしても、加賀恭一郎は大変魅力的なキャラクターなので、普通の刑事ものとしてワン・クール分くらいの原作が残っていますから、是非2nd Seasonを期待したいですね。