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2023年8月7日月曜日

麒麟の翼 (2011)

今を代表する推理作家、東野圭吾は「ガリレオ」シリーズの他にも、映像化された人気作品が多数あります。刑事「加賀恭一郎シリーズ」もその一つで、2004年から5年かけて連載された「新参者」は9作の連作短編が集まった物。特徴的なのは、各短編が別々の事象を扱っているのですが、関連し時系列も前後するところ。そして、最後まで読んで初めて一番大きな謎が解き明かされるというところが面白い。

2010年に阿部寛主演で「新参者」がテレビドラマ化され、この時も日本橋に最近引っ越してきた「新参者」の女性が殺された事件を追いかける加賀が、いろいろな謎を全10話で追いかけ、最終回ですべての謎がつながる構成になっていました。

翌年、TVではスペシャル・ドラマ「赤い指」が製作され、さらに劇場版「麒麟の翼」が公開されました。「新参者」の事件より数年前を扱う「赤い指」では、加賀が敏腕刑事だった父親の隆正とは、母親の失踪をきっかけに関りを持たなくなり、父親が末期がんであっても一度も見舞いに行っていないことが語られています。これがシリーズ全体に関わる謎になっているのも興味深いところ。

日本橋。ここは、かつて五街道(東海道・中山道・日光街道・奥州街道・甲州街道)の起点として江戸の要所で、もともとは木製の橋が架けられていましたが、1911年に現在の石造りになり、橋柱には青銅製の麒麟像が飾られ、ここから飛び立つという意味を込めて翼が付けられています。加賀もまた紆余曲折を経て、「新参者」事件から日本橋署に赴任した新参者でした。

日本橋の麒麟像の下で、青柳武明(中井貴一)が腹を刺され亡くなりました。また、その直後に付近の公園で、青柳の鞄を持っていた八島冬樹(三浦貴大)は警察官に見咎められ逃げ出したところをトラックに轢かれ意識不明の重体になってしまいます。

所轄の加賀は警視庁捜査一課の松宮脩平(溝端淳平)と組まされる。二人は従兄で、松宮は刑事として加賀を尊敬していますが、加賀は「警視庁のお前が指示してくれ」と言いつつも、知りたいことがあると勝手な行動を取るので、松宮はいつも振り回されるのです。

八島は福島の養護施設で一緒だった中原香織(新垣結衣)と同棲していて、半年前に青柳の会社の工場を派遣切りで失職していました。実は、八島は工場の安全ルール無視の操業が露見するのを防ぐために、負った怪我の労災隠しで首を切られたのでした。

青柳は家庭では、長男の悠人(松坂桃李)からうとまれる存在でした。半年前から青柳は、日本橋七福神巡りをして毎月色変わりの百羽の折り鶴を奉納していたのです。悠人は、そのことに気がつくと、父親の最後のメッセージを理解します。悠人はある事件をきっかけに、父親が期待していた水泳を辞めていたのです。

労災隠しの恨みから八島の犯行と思われましたが、加賀は悠人が水泳を辞めた理由に大きな鍵があると考え、ついに「キリンのツバサ」を発見するのでした。

まずキャスティングですが、2009~2010年にデヴューした新進気鋭の若手俳優がたくさん起用されていることに注目です。その後人気俳優になった三浦貴大、松坂桃李、菅田将暉、山﨑賢人らの若々しい演技が見ることができます。加賀恭一郎の父親に山崎努、父親を担当する看護師に田中麗奈、加賀の上司に松重豊、加納の部下に鶴見辰吾などが脇を固めています。

推理物で探偵役、それもシリーズで登場する場合は、その人物像が魅力的でないと興味が半減します。加賀恭一郎の場合は、シリーズを貫く本人にまつわる謎が垣間見えるところからして異色。聞き込みで得られた情報のちょっとした違和感も逃すことなく、一見無関係に思えるような質問に対する答えの中から事件の真相に近づいていく過程が面白い。また、日本橋界隈を日頃から歩き回って街を知り尽くしていることも捜査に大いに役立っていて、見ている側も「ブラリ散歩」を楽しめるところが、映像として楽しめます。

身寄りのない二人が東京に出てきて挫折していくストーリーと、何不自由無いように見えた家族が実は家庭内で疎遠になっていく現代にありがちな問題が絡み合っていく構成はさすが人気作家だけのことがあります。

犯人は誰かというのは、推理ドラマの主要テーマではありますが、この映画では確かにその部分についてもうまく展開しています。ただし、それ以上に、家族のことを知っているようで知らないことがあったり、家族だからこそ信じ切る大切さと難しさみたいなものが、映画の中に溢れているように思いました。