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2023年8月2日水曜日

沈黙のパレード (2022)

9年ぶりにガリレオが戻ってきました。東野圭吾原作の天才物理学者、湯川学(福山雅治)が難事件を解決に導く本シリーズの映画第3弾です。今回も、封切り直前に、テレビでスペシャル・ドラマ「禁断の魔術」が放送されています。

スペシャルでは、湯川の相棒になる女性刑事は新木優子が演じていますが、映画では何と「容疑者Xの献身」以来、14年ぶりに柴咲コウが演じる内海刑事が帰ってきたのは嬉しいポイント。湯川・内海の名コンビが揃うだけで、より物語に厚みが出るように思います。

教授になった湯川は実験のため東京都菊野市に長期滞在し、町の居酒屋「なみきや」の常連客になっていました。なみきやを営むのは、並木祐太郎(飯尾和樹)と真智子(戸田菜穂)の夫婦で、5年前に歌手デヴュー目前だった長女の佐織(川床明日香)は行方不明になっていました。

なみきやに集まることが日課のようになっている人々の中には、祐太郎の親友で佐織を幼い時から可愛がっていた食品加工会社社長の戸島修作(田口浩正)、書店を経営し佐織とも仲良しだった宮沢麻耶(吉田羊)、佐織と恋人同士だった高垣智也(岡山天音)、そして佐織を歌手として育てていた新倉直紀(椎名桔平)と留美(檀れい)夫妻らがいました。

静岡県で民家が放火・焼失し、焼け跡から佐織の白骨化した遺体が発見されたことで、なみきやはあわただしくなります。犯人は蓮沼寛一(村上淳)と考えられ、湯川の友人である草薙俊平(北村一輝)や内海薫らは彼を逮捕します。

蓮沼は15年前に12歳女児誘拐殺人で逮捕歴があり。当時の担当刑事は草薙でした。蓮沼は取り調べでも裁判でも完全黙秘により、最終的に無罪を勝ち取ったのでした。今回も蓮沼は沈黙を続け、送検できないと判断され釈放されます。そして、これみよがしになみきやに現れ、並木夫婦や他の常連たちを気持ちを逆なでするのです。

年に一度の菊野市の祭りの当日、なみきやの常連も参加して、多くの仮装したグループが趣向をこらした山車と共にパレードをするのを湯川も見物して楽しんでいました。パレードが終わろうとする頃、蓮沼が住み着いた倉庫のような場所で、彼の死体が発見されました。現場の状況から湯川は、小さな穴から液体窒素を室内に入れ、酸素欠乏により蓮沼が窒息死したと考え、草薙らの前で実証してみせます。

最も強い動機を持つのは並木夫婦ですが、アリバイが成立。液体窒素をどうやって手に入れ、運んだかということも単独犯では不可能と考えられました。戸島の工場には液体窒素があり、何人かのリレーによってパレードの山車に隠して運び、また別の誰かが液体窒素を噴出させた・・・しかし、新倉直紀が蓮沼に佐織を殺したことを白状させるために、液体窒素のバルブを開放し認めさせましたが死なせてしまったと自首してきたのです。

最初の事件で蓮沼を有罪に持っていけなかった草薙の後悔、そしてそのために再び誰かに犯罪を犯させてしまった苦悩。それにも増して、佐織を直接知る人々の警察に対する不信、蓮沼に対する憎しみ。それらの狭間で、湯川と内海は真実を探り出さなければならなくなります。物語では、佐織の死に対する責任が誰にあるのか、さらに隠されていた信実があぶり出され混迷を深めていくのです。

映画版「ガリレオ」は、物理学を駆使して難事件を解決するだけではなく、これまでも人間・湯川学を描くことに注力してきたわけで、この作品でも推理ドラマとしては謎解きはあっさりしていて、むしろ湯川と、特に今作では草薙の人柄を描くことが重要な要素になっています。そういう意味では、1作目の雰囲気に近い重苦しさが全編を貫いている。

原作者が「被害者を愛した善良の人々が力を合わせたら、湯川でさえも手こずるような謎が生まれるのではと考えた」と語っているように、相手が天才学者でなくても束になってかかってくれば、湯川でさえもそうは簡単に正解を見つけられないという作品になっています。

もしかしたら最後の「福山ガリレオ」作品かもしれませんが、独特のキャラクターが際立つ探偵物であり、その中で映画ではドラマ性を強く押し出す展開が大きな魅力。もう少し新作を見てみたいという気持ちになります。