2023年8月18日金曜日

ナミヤ雑貨店の奇蹟 (2017)

人気のミステリー作家、東野圭吾の小説の映画化です。ですが、こんな話も作るんですか、と驚きます。ミステリーというよりファンタジー。東野調の人間物語をより温かくさわやかな後味。

矢口敦也(山田涼介)、小林翔太(村上虹郎)、麻生幸平(寛一郎)の三人はコソ泥をして逃げる途中で、古い商店街の入り口にある今は空き家となっているナミヤ雑貨店に朝まで隠れることにしました。すると、降りたシャッターの郵便受けから急に手紙が落とされたのです。

三人は、ここはやばいと思い外に出ますが、どんなに走っても再びナミヤ雑貨店の前に戻ってきてしまうのでした。しかたがなく手紙を開封すると、差出人は魚屋ミュージシャン(林遣都)とあり、稼業の魚屋を継がず大学も辞めて東京で音楽活動をしているがこのままでいいのだろうか、という相談が書かれていました。

店内にあった古い雑誌を見ると、ナミヤ雑貨店の店主、浪矢雄治(西田敏行)は小さい物から大事まで様々な町の人々の悩み相談を受けていたらしい。簡単な相談は店の前の掲示板に回答を貼り出し、特に深刻なものについては横の牛乳瓶受けの箱に入れるようにしていました。翔太と幸平はこんなときでないと人の相談になんてのることは無いからと、返事を書くのでした。

魚屋ミュージシャンは、一度曲を聞いてほしいとシャッターの前でハーモニカで自作の曲を演奏します。それを聞いた三人は、その曲が歌手の水原セリ(門脇麦)が恩人の曲だと紹介していたものだと気がつくのです。セリは弟と二人で児童養護施設の丸光園で育ち、丸光園が火事になった時弟を助けて身代わりに亡くなったのが魚屋ミュージシャンだったのです。

ある時、雄治が受け取った相談は、不倫でできたこどもをどうすれば良いかというものでした。しばらくして、雄治は相談者が生まれたばかりの女の子を道連れにして自動車で海に転落して亡くなったという新聞記事を見つけます。雄治は余命3ヵ月で入院していましたが、自分の無責任な回答によって、他人の人生を不幸にしたと悩み、息子の貴之(萩原聖人)に頼んで、店に戻ってみるのです。

店には雄治の昔の恋人だった皆月暁子(成海璃子)の姿があり、そして次から次へとかつて悩みを相談した人々からの手紙がが郵便受けに入って来るのでした。暁子は丸光園の創設者で、二人は「未来からの手紙」によって楽しい時を過ごすのです。実は雄治の三十三回忌に、雄治の遺志により貴之が1日限りでその後の人生がどうだったかの回答を募集したのです。

その中に、母親が不倫して生まれたこどもからの手紙がありました。事故で助かった彼女は、丸光園に引き取られたのです。高校生の頃、母親の事故の新聞記事を見つけショックを受けますが、一緒に育ったセリが園長から預かったという雄治の返事に勇気づけられたと言うのでした。そして、最後に郵便受けに落とされた手紙は白紙でした。

次に三人が受け取った手紙は、クラブで働く田村晴美(尾野真千子)からのものでした。晴美は丸光園で育ち、身寄りのない自分を育ててくれた人に恩返しするため客の愛人になるか迷っているというものでした。敦也は「過去からの手紙」を受け取っていることに気がつき、表に回って白紙の手紙を郵便受けに入れてみますが、中にいた翔太と幸平は白紙の手紙は入って来なかったというのでした。

以下は結末です。



今度は敦也が、晴美へ地道に働くことを勧める返事が書きます。そして、80年代以降のバブル景気とその崩壊を下敷きに経済を勉強するように勧めます。晴美は事業が成功し、丸光園にも多くの協力をします。しかし、現在の園長は、補助金を横領し、丸光園を売却しようとしていました。実は三人も丸光園の出身者で、丸光園を晴美が潰そうとしていると勘違いして晴美の自宅を襲っていたのです。

全てが丸光園とつながっていることに気がついた三人は、自分たちが襲ったのが晴美であったことに気がつき、夜が明けて自分たちの過ちを認めるため晴美の元に戻ることにします。敦也は、雑貨店を出る時にふと牛乳瓶受けをのぞくと手紙がありました。それは雄治からのもので、白紙の手紙の主に対する物でした。その手紙の内容は・・・最後に難題の相談を貰いました。白紙は自分の道が見えていないあなたの心を反映しているけど、あなたの未来は白紙ですから、可能性は無限です・・・


こうしてあらすじを整理しても、いろいろな時代が錯綜する構成はなかなか理解しにくいところがありますが、意外とその不思議な時間の流れが自然に受け入れられるような気がします。

ただし、この映画を見て良しとするのか否とするのかは、シャッターの郵便受けの外と中で時間軸が異なることの理解ができるかにかかっています。当然、現代の若者である三人は、最初どういうことなのか理解できず、返事を書くのも退屈しのぎ的なお遊びにすぎません。

しかし、魚屋ミュージシャンの歌が、自分たちが知っている曲で、なおかつその作者は火事で亡くなっていることから、しだいにこの現象を事実として受け入れていくようになります。ただし、このあたりの描写が簡単過ぎるかもしれません。

監督は廣木隆一で、ポルノ映画出身で恋愛物を得意とする多作の監督。1980年の商店街という設定ですが、ちょっと街並みが古臭い。どちらかというと60~70年代前半で、けっこう違和感がある。それでも、かなり大掛かりな昭和のセットを用意したことには拍手しておきたい。

西田敏行、尾野真千子らの好演は当然のことながら、やはりここでも山田涼介の演技力には感心させられます。ジゃニーズ系タレントの中では、木村拓哉、二宮和也に次ぐ三強と評価しておきたいと思います。