さて、その一では膝の老化について勉強し、私達一人一人がどうすればこれを予防できるか考えてみました。しかし、どう頑張っても痛みが出ることは有りますから、病院に行くことは多いと思います。実際整形外科の外来で、その日の新患の2~3割りは膝が痛いお年寄りです。
「おや、田中さん。どうしました」
「最近膝が痛くてしょうがないんですよ。鈴木さんはどうされたのです」
「私もなんですよ。階段が辛くてね」
「お灸がいいと薦められてやってみたんですけど」
「あら、低周波がいいそうですよ」
「じゃ、今度やってみようかしら」
「でも、水泳がいいと言う人もいるのよね」
「田中さん診察室にお入り下さい」
「あら、呼ばれたわ。それじゃお先に・・・」
なんて会話がされるのは珍しくはありません。田中さんも鈴木さんもいろいろな治療方を聞きかじっています。スーパーマーケットの試食品コーナーみたいな物といったら失礼でしょうか。しかし、本当のところ何が一番いいのかはわかっていません。今回は、病院で行っている実際の治療方を紹介していくことにしましょう。
病院に行くとたいていはレントゲン写真を撮られます。そして、膝の隙間が無くなっているとか、骨の出っ張りができているとか云われます。そして、臨床症状としての痛みが中心の場合には、とりあえず、何等かの痛みを抑える薬を使おうということになります。
程度の軽い物では、湿布・塗り薬といった外用薬が使われます。これらの薬の中には消炎鎮痛剤が含まれており、老化した関節の中に生じた炎症反応を抑えて痛みを軽減します。湿布は貼ったときに冷たい感じがするものと、だんだん暖かくなってくるものとがあります。これは、基本的には貼って気持ちが良ければ、どちらでも構いません。積極的に冷やすことは避けたほうがいいのですが、湿布のひんやりした感じは最初だけで冷却しているわけではありません。一方暖める貼り薬は、皮膚への刺激が強いのでかぶれやすく注意が必要です。もう少し痛みが強い場合は、これらの消炎鎮痛剤の内服薬を使用します。一般に消炎鎮痛剤は胃粘膜を荒らすことが多いので、原則として食後に服用して下さい。
ところで、よく関節に「水が溜まる」ことがあります。これは関節水腫という状態で、関節内の炎症反応によって関節のまわりをとりかこんでいる関節の袋の中に関節液が過剰に貯留したために生じます。「水は抜けばくせになる」と考えている方がよくいますが、もちろん関節の袋はそのまま存在しているわけですから炎症が残っていれば再び溜まってくるのは当然です。しかし、当然だからほっといてよいと考えるは間違いです。関節液が溜まりすぎると、関節がぱんぱんに張って動きが悪くなり、動くときの痛みが強くなります。そして長く続くと関節は固くなってきますから、よけいに痛くなるという悪循環をします。ですから毎週のように針を刺す必要はありませんが、あまり溜めてもいいことはありません。故人曰、「ためていいのはお金だけ」。
同じく針を刺すにしても、薬を膝関節内に注入する場合があります。普通は、がさがさしてきた軟骨のうるおいを保ちなるべくスムースに関節面が動くようにするための薬や、関節内の炎症をなるべく抑えるためのステロイド剤を単独あるいは一緒に使います。使い方も短期集中で使う方法やどうしても痛い時だけ使う方法など様々です。いずれにしても老化による変化は絶対に元に戻りませんから、薬で痛みが減っても、「勝って兜の緒をしめ」ることが大切です。
これらの保存的治療で効果がない場合には、手術的治療が必要になります。簡単なものから3つだけ紹介しましょう。最初は、炎症を起こしている関節の袋の内側の膜を切除し、凸凹になった関節面を削って滑らかにする方法です。これは簡単に云うと、関節の中の大掃除と考えれば良いでしょう。とりあえず効果が有りますが、またゴミは溜まりますから、効果の持続はやってみなければわかりません。ただし、高齢の方や、あまりおおげさな手術をしたくない方には良い方法です。
次は、膝の下ですねの骨を切って、すこし角度を外に向けてつなげ直す方法があります。膝関節での大腿と下腿との角度を変えて関節の接触する場所をなるべく痛んでいないところに変えるというものです。関節の形がある程度残っている場合には大変効果が有り、普通は何年も効果が持続する優れた方法です。最後に、変形がひどい場合、これは自分の関節はあきらめて人工関節に取り替えます。動きには多少制限が出ますが、人工の関節に神経は通っていませんから痛みは無くなります。
いろいろ治療について考えましたが、人生に限りがある以上、老化は避けられませんから、いちど痛みが出はじめたら、これとうまく付き合っていくことが大切です。現在の自分に必要な活動力をよく認識して、あるときは守りに徹し、またあるときは積極的に攻撃して、忍び寄る年波を押し返しましょう。