2009年7月25日土曜日

関節リウマチ治療薬の考え方

治療薬の値段がだいたい頭に入ったところで、もう一度リウマチ薬というものを考えてみましょう。

よく、自分は患者さんに説明する時に、20世紀に発症した方と21世紀に発症した方では薬の使い方が全く違うんですよ、という台詞を使います。正確には、1999年に抗がん剤として使われていたメソトレキセートが登場したところが分岐点と言えます。

メソトレキセートは整形外科領域の代表的な悪性腫瘍である骨肉腫の治療にも使われるので、自分には大変になじみの深い薬です。大学病院に勤務していた頃に、なかば「腫瘍班」状態で多くの患者さんを担当した時期がありました。

メソトレキセートを使うことにすると、綿密な計画を立てて、本当に神経をすり減らしたものです。と言うのも、この薬は使った後に、もしも何もしなければ1週間以内に患者さんは死んでしまうだろうというくらいの副作用を出す薬なのです。

90年代の前半のその頃はメソトレキセートがリウマチにも効くらしいという話が出始めた頃で、正直言って「そんな馬鹿な」と思っていました。しかし、実際にリウマチ薬として登場するや、それまでの薬と比べて圧倒的な効果を証明したのです。

メソトレキセートは細胞の増殖に必要なDNA(遺伝子)の複製の原料となる葉酸を阻害する薬です。ですから細胞増殖の過常をきたす癌細胞に効果を出すわけですが、リウマチにおける異常免疫を起こす細胞も細胞増殖の激しいところなので効果がでるわけです。

これはリウマチという病気について言えば、比較的病気の原因に近い部分に作用していると言うことができます。もちろん根本的に原因がわかっていない以上、正確には根治的な作用とは言えません。

それに対して、最近まさにブームの様相を呈している生物学的製剤と呼ばれている薬はちょっと違います。

リウマチの患者さんの関節の中では、異常な免疫反応の結果、サイトカインと呼ばれる物質が増えて炎症を起こしています。生物学的製剤は、このサイトカインをブロックすることで強力に病気の勢いを抑制します。どちらかというと、原因よりも結果を消し去っているという感じが近い。

例えて言うなら、山の頂上から湧き水が出てくるとします。最終的には川となって、海に流れ込むわけですが、メソトレキセートのような薬は湧き水に蓋をして流れ出る量を減らそうとしている。生物学的製剤は河口に土手を築いて水が海に流れ込まないようにしている感じ。

いずれもある程度の漏れは必ずあります。根本的には、山の中でどこから湧き水が集まっているのかは誰にもわかりません。湧いてくる場所を押さえ込んでも、途中で雨水なども加わって水量は増えていますから、河口を押さえた方が効果的なのです。

どうです、かえって、わかりにくくなりましたか? いずれにしても、メソトレキセートから10年、生物学的製剤から5年が経過して、リウマチの治療もだいぶ熟してきた感があります。しかし、まだまだ多くの新薬の開発が進められているので、われわれリウマチ医はなかなか気が抜けません。

最近のトピックスは、そういう新薬の話と既存の生物学的製剤のパワーアップの話が中心になっています。本当は、患者さんにとっては副作用の怖いこれらの薬をどうしたらやめられるのかというのが知りたいところなんでしょうけれど、まだ一定の答えは見いだせていません。

結局、根本的な原因がわからない以上、どうなったら治っているというのが不明です。ですから、薬を中止しても良い状態の本当のところもよくわからないわけです。これだけ医学の最先端を活用しているジャンルにもかかわらず、手探りでいくしかないというのも情けない話で、患者さんには申し訳ないところです。