夏季臨時休診

夏季臨時休診のお知らせ 8月14日(金)~8月19日(水)臨時休診します。

2026年7月4日土曜日

Pat Garrett & Billy the Kid ~ Dylan (1973)


1972年はボブ・ディランは、他人のライブやセッションへのゲスト参加などが中心で、自らの創作活動はやや控えめです。それというのも、何と映画の話が舞い込んできて、そちらにかなり力を注いでいました。

ディランと面識があったルディ・ワーリッツァーが書いた「ビリー・ザ・キッド」の脚本が、MGMでの映画化されることになり、監督はサム・ペキンパーに決定しました。ビリー・ザ・キッドについてはもともと興味があったディランは、ワーリッツァーを通して映画の音楽担当の希望を伝えます。ペキンパーはディランの音楽に感激し、音楽の依頼だけでなく、追加の役柄を設定してディラン本人の俳優としての出演まで決めてしまいました。

11月に家族と撮影地であるメキシコのドゥランゴへ移住したディランは、撮影の中で感じたインスピレーションにのっとって作曲を行ないます。翌年1月にはメキシコのスタジオで最初のセッションを持ち、2月にはカリフォルニアのバーバンクで最終セッションをおこない映画のサウンド・トラックを完成させます。特に劇中に使われた「Knockin' on Heaven's Door」は世界的なヒットとなり、多くのカバー・バージョンが登場しています。

とは言え、何しろ映画のサウンド・トラック・アルバムですから、ボーカル曲は全10曲中3曲だけで、あとはインストゥルメンタルではディラン目当てのファンには欲求不満にしかなりません。コロンビア・レコードも、発売を急いでいたのでなおさら中途半端感が出てしまいました(海賊盤で出回ったこれらのセッションの全貌では、他に2曲のボーカル曲がありますが、何故かお蔵入りになっています)。

その急いだ理由というのは、ディランとコロンビア・レコードの契約問題です。大プロデューサーのジョン・ハモンドに認められて、ボブ・ディランがコロンビア・レコードと契約したのは1961年10月26日のことでした。それから10年が経過して、アルバム「ニュー・モーニング」のリリースをもって最初の契約が基本的に満了したわけですが、ディランはコロンビアに対して少しずつ不満を抱いていたのです。契約を継続したいコロムビアは、多額の前渡金(アルバム1枚につき40万ドル)を提示しましたが、ディランが強くこだわった過去のバックカタログ(旧音源)の権利返還は拒否したのです。

当時力をつけてきた新興プロデューサー、デヴィッド・ゲフィンは、破格の待遇を提案しディランの引き抜きにかかります。ゲフィンは、自身が設立したアサイラム・レコードへの移籍の条件として、前渡金はありませんがアルバム1枚の売り上げごとに80セント純利益分配率を提示しました(当時の相場は20~40セント)。

しかも、原盤権(マスターテープ)の権利をディラン本人が所有するとしたのです。これはレコード会社が楽曲を再利用する時に、アーティストの意向を無視してできないということです。さらに、全面的なツアーの企画・運営をサポートすることも確約し、契約は1作ごとでいつでも辞められるというものとしました。


形の上では法的にも何ら問題を残さずに、1973年秋にディランはアサイラムと契約をします。しかし、ディランを失ったコロンビアは、ただちに報復目的で強力な対抗措置を取るのでした。それが11月のアルバム「Dyran」の緊急発売です。「Self Portrait」と「New Morning」のセッションでアルバムに使われなかった6曲のカバー曲と3曲のトラディショナル・ソングが収録され、ディランのオリジナルはまったく含まれませんでした。

まさに原盤権を持つコロンビアが、アーティストの意向をまったく無視して、公にするつもりのない「ゴミ」のようなものばかりを集めてアルバムを作ったのです。当然、このアルバムに対する評判は最悪で、ディランのアーティストとしての評価を十二分に下げる効果は絶大でした。ディランの新天地でさぁこれから、という出鼻をくじくことに成功したのです。当然、プライドを傷つけられたディランはこのアルバムに対しては、激しい怒りと拒絶の姿勢を取り、完全無視の態度をとります。

もっとも現在は単独のCDとしても発売されていて、ある意味ボーカリストとしてのディランを知ることができるアルバムとして再評価されているところがあります。それにしても、エルビス・プレスリーの代表曲「好きにならずにいられない」を歌ってしまうところは、怖いもの知らずというか、ディランらしいところなのかもしれません。

1973年のディランは2枚のアルバムが登場しましたが、いずれも実に立ち位置が難しいものでした。しかし、ディランの音楽史の中では大転換期にあたり、このような大混乱も大スターに成長したからこそのものであり、1974年からの反転攻勢を考えると一つの起爆剤にもなったのかもしれません。

"Pat Garrett & Billy the Kid"

Main Title Theme (Billy) (instrumental)
Cantina Theme (Workin' for the Law) (instrumental)
Billy 1
Bunkhouse Theme (instrumental)
River Theme (instrumental)
Turkey Chase (instrumental)
Knockin' on Heaven's Door
Final Theme (instrumental)
Billy 4
Billy 7

Bob Dylan (g, vo, harmonica), Byron Berline (back.vo, fiddle)
Fred Katz (cello), Ted Michel (cello), Gary Foster (recorder, flute)
Carl Fortina (harmonium), Jolly Roger (banjo), Bruce Langhorne (aco.g)
Roger McGuinn (g), Carol Hunter (g, back.vo), Booker T. Jones (b)
Terry Paul (b, back.vo), Jim Keltner (ds), Russ Kunkel (perc)
Priscilla Jones, Brenda Patterson, Donna Weiss – backing vocals

November, 1973, Mexico ~ Feburuary, 1973, Berkley

☆☆☆☆・・・・・・


"Dylan"

Lily of the West
Can't Help Falling in Love
Sarah Jane
The Ballad of Ira Hayes
Mr. Bojangles
Mary Ann
Big Yellow Taxi
A Fool Such as I
Spanish Is the Loving Tongue

☆☆☆・・・・・・・