2009年5月4日月曜日

Pierre Barbizet / Chabrier Piano Works

クラシックというジャンルの中では、圧倒的にドイツ・オーストリア勢力が強いわけで、華やかなる文化を誇るフランスですら、後進国的な扱いとなってしまいます。

実際、フランス人の作曲家で一般に名が知れているのは、19世紀なかばに活躍した「幻想交響曲」のベルリオーズあたりからではないでしょうか。

もともと音楽が、宗教的な発展から貴族の楽しみに広がったことを考えると、イタリアやドイツが宗教的な先進国だったということなんでしょうか。

音楽が一般に浸透することに貢献した歌劇というジャンルは、もともとはイタリアが本場。モーツァルトもドイツ語の歌劇を作りたくてしょうがなかったということからも、当時のヨーロッパの流行の伝わり方が想像できて楽しい。

さて、話を戻すとベルリオーズと同世代にはラロ、グノー、オッフェンバックなどがいますが、いずれもよく知られた有名な曲はわずかです。また、音楽的にもドイツ系音楽、つまり古典派・ロマン派の続きという部分が多く、フランスとしてのオリジナリティはそれほど多くはありません。つまりフランス音楽の萌芽期と言えるかもしれません。

19世紀後半に主に活躍した次の世代になるといよいよ熟成期となり、サンサーンス、ビゼー、シャブリエ、フォーレといった、いかにもフランスらしい作曲家が登場してくるのです。しかし、後年のフランス音楽の特徴を少しずつ内包しているものの、まだまだロマン派の発展型という色彩が強い。

そして19世紀末になってきてドビッシーの登場によりフランス音楽が完全に開花することになります。いわゆる絵画の印象派という考え方を音楽に取り入れたことが最大の特徴とされ、いわゆる「不協和音」も含むようなありとあらゆる音の組み合わせを取り入れた近代音楽の始まりというわけです。

20世紀になってサティ、デュカス、ラベルがこのフランス流の音楽をいろいろな形で発展させ、現代のプーランク、メシアンなどへ続いてくることになります。と、いうのが勝手に自分が解釈したフランス音楽史。多少の間違いはあるでしょうけど、まぁ当たらずとも遠からずというところだと思います。

そんなわけで、何となくフランス音楽を整理してみたところで、ピアノ独奏曲の役割を考えてみましょう。19世紀なかばの萌芽期にはオーケストラが中心で、ほとんどピアノ独奏曲は登場しません。しかし、成熟期の作曲家はピアノ独奏曲を発表するようになります。

このあたりには、ショパンが晩年をパリで過ごすことが多く、しだいにピアノ独奏という形態がフランスの作曲家に浸透していったことも大きな要因と考えられます。

そして作曲をする道具としてピアノが主として使われることを考えると、まずピアノ曲があって、フランス人作曲家はその中でいろいろな実験を始めたのではないでしょうか。オーケストラ編成にまでもっていけない曲が増え、ピアノ曲のまま発表するケースが増えたのかもしれません。

ドビッシーの曲は、ピアノ独奏のものとオーケストラ編曲されたものがけっこうあるのです。このあたりは興味深く、同じ曲でも渋みのあるソロと大変華やかなオーケストラの両方が楽しめます。この当たりはまさにフランス音楽の多面性を表しているように思います。

特にピアノ独奏のジャンルを発展させたのがサティであり、さらに次の世代のプーランクです。比較的親しみやすいメロディを持っているのですが、つかみどころのないような浮遊感があります。このあたりが、はまった人にはたまらないのでしょうね。

個人的には、もちろん嫌いではないのですが、大好きかと言うとそうではありません。古くさい聴き方かもしれませんが、まずはっきりとした主旋律があって、そこから入っていっていろいろな発展を楽しみたいと思うのです。ですから、浮遊感が強すぎるとBGMとしていいのですが、なかなか気持ちが入らずまじめに聴くのが疲れてしまいます。

フランス音楽が好きな方には申し訳ないのですが、自分の場合はこんなスタンスで聴いているのです。と、まぁいつになく長い前置きでしたが、本日紹介するCDはシャブリエのピアノ独奏曲全集なのです。

整理したようにフランス音楽史の中では、比較的早い段階に登場し、「スペイン狂詩曲」がほとんど唯一のヒット曲みたいなもの。しかし、スペインを題材にしたこの華やかな曲が後進に与えた影響は大変大きいと考えられています。

シャブリエは、昼間は役人として職務をまっとうし、それ以外の時間を音楽に捧げるという生活を両立していた異色の作曲家と言われています。このあたりにも、フランスの多面的にいろいろなものを吸収する包容力を持ちつつ、そこから独自の文化を形成していく自活力の強さを感じます。

曲はとにかく明るい。いつでもリビエラあたりでバケーション気分とでも言いましょうか。シャンゼリゼでカフェに座って、通りゆく若い女性を眺めて楽しんでいる感じかもしれません。まぁ、少なくとも恋人同士の語らいのBGMではありません。堅苦しくなく、音楽を楽しむための音楽を求めている方は一聴の価値ありです。