2012年12月4日火曜日

プリンセストヨトミ(2011)

日本の男優で、この何年かで最も乗りに乗っているのは50歳代なら役所広司。40歳代は、戦国時代で、唐沢寿明や織田裕二、あるいは中井貴一らとともに、注目されるのは堤真一かと。

けっこうコミカルな演技やちょっととぼけた役柄もこななしますが、どちらかというと影があるどっしりとした役での好演が光ります。声のトーンが低いので、登場するだけでうわついた感じがなくなり、場面がしまる。

「クライマーズハイ(2008)」では、仕事一筋で家族との関係をうまく作れなかった不器用な父親を演じましたが、昨年の「プリンセストヨトミ」では父親の最後の願いを無視したことを後悔する息子を演じています。

この映画は、会計検査院が大阪のOJOという組織への補助金を監査していくうちに、大阪城夏の陣で断絶したはずの豊臣家の末裔を守る大阪国の存在に気がつくという話。メインプロットだけ聞くと、サスペンス映画かと思いがちですが、実はだいぶ違う。

自分の勝手な解釈かもしれませんが、OJOの存在とか、大阪国の存在とか荒唐無稽の題材は、あくまでもストーリーを進めていくためのマクガフィンです。マクガフィンとはヒッチコックの映画手法で、観客をひきつける小道具みたいなもので、それ自体にはあまり意味がないもののこと。

この映画のテーマは、父親から息子へ連綿と続いていく「守りぬく」べきものの伝承を通して家族の絆を問うというものです。

映画の最大の盛り上がりは終盤に大阪国国民と対峙する堤真一と中井貴一との対話シーンです。ここで、大阪国の真の存在が語られ、堤の父親との関係での後悔が説明されます。なかなか緊迫感のある堤真一らしい役どころで、堤の面目躍如という感じです。

ただ、残念なのはせっかくのキャストを揃えておきながら、スタッフの力に物足りなさを感じてしまう。監督は鈴木雅之、ほとんどテレビの仕事ばかりで、そのジャンルではけっこう人気ドラマの演出をてがけています。

映画オリジナルの作品はもこの映画が始めて。時間があるテレビのように一つの場面が長めで、かったるいところがしばしば気になります。大阪国の説明も、中井貴一の台詞回しに頼りすぎで、もっと視覚にたより観客の想像力をうまく利用すべきでしょう。

というわけで、 この映画は堤と中井の現在乗っている男優の対決を通して、父子の関係を考えてみる映画として見れば★4つ。大阪国という架空の歴史ミステリーに基づくサスペンスとして見れば★2つというところでしょうか。