2012年12月9日日曜日

県庁の星 (2006)

織田裕二と柴崎コウの主演の、当時まぁまぁ話題になった映画です。最近の映画のほとんどがそうであるように、西谷弘監督はテレビ出身。ただし、もともとのテレビドラマはありません。この一本のなかで、話は完結します。

二人が少しずつひかれていく恋愛ドラマ的な要素がありますが、それはあくまでもおまけ。自然と笑えるシーンが出てきますが、コメディというわけでもない。

根底にあるのは、かなり痛烈な現代社会の風刺です。そして、必ずしも成功物語での美談でもありません。そこを、嫌味なくサラっと描いてみせたところが、好感の持てる作品として評価できます。

県庁職員で、「お役所仕事」がバリバリでできると評価されている織田が、市民への政治的ポーズのために一般企業のノウハウを吸収するという名目で、地元のしがないスーパーマーケットへ出向することになります。

前半はスーパーの実情を描き、まずは一般企業のよくないところ、つまり利益優先で社会に対しても責任を回避している部分の話となっています。ただし、織田の役所感覚とのズレのなかに笑いを盛り込むことで、直接は役人の体質批判が中心となります。

中盤は、役所での出世も「玉の輿」だった結婚も失い失意に打ちひしがれる織田が、市民のために目覚めスーパーの営業回復のために奔走する話。もともと仕事ができる男ですから、目的意識がはっきりするとその手腕は遺憾なく発揮され、スーパーの職員も意識改革されていく。

そして、最後は県議会に乗り込んだ織田が、直接的に役所批判を展開し、利権にまみれた議長と対決することになります。そのなかで市長だけが織田の話を聞こうといいう姿勢を見せ、役所も意識改革を始めるきっかけとなる・・・というところで終われば、まさにドラマ的な展開でめでたしめでたし。

ここからはネタバレのようなことですが・・・

最後の最後、いかにもやさしげな酒井和歌子の市長は「前向きに検討する」だけ、いかにもわるそうな石坂浩二の議長が織田の改革案をゴミ箱に捨てるところは痛烈です。どんなにがんばっても、役所仕事はかわらない。国のレベルでも、政治と言うのは市民とはかけはなれたところに存在しているというメッセージとなっているようです。

それでも、織田はそれを予想していてへこまない。柴崎を初めてデートに誘い、さわやかさをエンディングに残すことで、後味を悪くしないようにしたことが映画としての完成度を高くしているように思います。

熱血漢の似合う織田と、どこか冷めた柴崎というキャスティングにも助けられ、なかなかよくできた映画ではないかと思います。監督のさらなる成長への期待も含めて、★4つ半くらいあげたい感じでした。