いよいよ12月。ここまで来ると、1年なんて、あっという間に過ぎてしまいます。
さて、「クライマーズハイ」ですが、 横山秀夫原作の2008年の日本映画。1985年、航空機史上最大の死亡事故となっている日航ジャンボ機墜落事故を題材にして、群馬県の地元の地方新聞社の記者が奔走する話。
しかし、この映画は事故のドキュメントではありません。新聞記者が、どれだけ記事を練り上げ、新聞を作っていこうとしているか。未曾有の事故の中で混乱を極める、新聞記者の魂をうたいあげている映画です。
最後には、スクープに確信が得られなかったために、全国紙に先に取られてしまい、ある意味敗北してしまいます。しかし、地元紙だからこそできること、地元紙だからこそ伝えなければならないことにこだわる主人公たちの話は、胸を打つ物があります。
タイトルは登山用語で、山に登っている時に興奮状態となって恐怖感が麻痺する状態のことだそうです。新聞に記事を載せていく課程を登山になぞらえて、興奮状態で紙面を作っていく様子に見立てているのでしょう。
ですから、いわゆる山岳映画ではありませんが、主人公が老いてからいわくのある登山に挑戦しながら、息子とうまく付き合っていけない状態を効果的にカットインしていくところが面白い。
本当は、不器用な父親が家族の絆を取り戻すための話がメイン・プロットで、そこへ若い頃の記者として経験したクライマーズハイのエピソードをフラッシュバックさせているのかもしれません。
以前にも書いたと思うのですが、日航機の事故は医学部6年生、国家試験前最後の夏に起こり、自分もリアルタイムに勉強そっちのけでニュースを見続けたのです。もちろん、事故の当事者とはまったく関係はありませんが、なにがしかの影響を残しているはずです。
映画の最後の方で、事故機に搭乗していた方が家族にあてて書いた殴り書きの遺書が紹介されていますが、この話も今でも鮮明に覚えていて、涙が出てしまいました。何が起こっているかわからない恐怖、そして死を覚悟して家族へ精一杯の感謝を伝える文章は、この映画の本当の始まりだったのかもしれません。