新田次郎は、諏訪市出身の日本の山岳小説の巨匠。高校生の頃に数冊読んで、ずいぶんと山のすごさを教えてもらったものです。映画にもなった「八甲田山死の彷徨」は有名です。
その映画版の撮影に当たったのが木村大作。自然の厳しさと隣り合わせの美しさを、見事にスクリーンの中に映しだしました。もともとは黒澤組の撮影助手として、その技術とセンスのよさで黒澤明監督からも一目おかれていた人物。
その木村大作が、70歳を過ぎて初めて撮影だけでなく、自ら監督した映画として評判になったのがこの映画。撮影にまつわる、監督のこだわりから来る壮絶なエピソードはずいぶんとメディアの芸能ニュースを賑わせました。
確かに美しい。こういう画面を見れるのがテレビと映画の違いだと思うような、素晴らしい映像美学が全編を貫いている。おそらく納得できる絵が撮れるまで、じっくりと時間をかけ、一瞬のためにものすごい時間と労力と費用がかかっているんでしょう。
テレビ出身のにわか映画人には作れないような、これが映画だというような作品ではあります・・・が、しかし、残念ながらつまらない。なんでしょうか、映像の美しさだけが際立っていて、中身の肝心なストーリーの展開がつまらない。
新田次郎の史実に基づいた原作があり、基の話としては問題は無い。やはり撮影監督はあくまでもカメラマンであって監督ではないという、つまらない結論になってしまうのかもしれません。
前半は剣岳初登頂をめざすための下見。これが長い。剣岳そのものには入らないのですが十分に山登り気分を見せてくれるので、後半本登頂では、まだ登っているのかという感じです。
雪崩に襲われたり、ところどころに緊張する場面が出てくるのですが、全体のテンションが均一で特に盛り上がるところがない。山岳会との初登庁競争も淡々としていて、全部カットしてもかまわないような感じ。
何しろ、最後の山頂直前の場面で、画面がとまるのは気持ちが一気に途切れてしまう。次のシーンではいっきに山頂に立ち、あまりの編集の荒さが目立ちます。
木村大作は、来年もう一度山岳映画に監督として挑戦するとのニュースが最近ありました。映画らしい映画を作れる最後の職人として、次回作に期待したいとは思います。