夏季臨時休診
夏季臨時休診のお知らせ
8月14日(金)~8月19日(水)臨時休診します。
2026年7月10日金曜日
Before the Flood (1974)
1973~1975年は、アメリカ近代史の中で、政治・経済・文化のいずれもが大転換を強いられた激動の3年間と言われています。リチャード・ニクソン現役大統領の犯罪が露見したウォーターゲート事件を手始めに、国民の中に強い政治不信が生まれます。また、国民の不満を外に向ける役割も果たしていたベトナム戦争が終結し、事実上の「敗戦」を経験したアメリカには虚無感が広がります。
そして、公民権運動は有色人種や女性の地位向上をもたらし、白人男性社会の構図を脅かしました。さらに第1次オイル・ショックによりガソリン価格が高騰し、ガソリン消費大国のアメリカは大きな打撃を受け、不況と物価上昇により経済は低迷しました。
1776年7月4日にイギリスからの独立宣言をしたアメリカは、1976年の建国200周年を目前にして、それまで培った価値観が揺らいでいたのです。人工妊娠中絶が合憲とされ、同性愛も「病気」として扱わなくなるなど、現在に続く多様性の容認が始まりました。既成の権威や資本主義、物質主義に異議を唱える「カウンターカルチャー」の象徴だったヒッピー文化は、その矛先を失い急速に衰退します。
ボブ・ディランは、60年代前半に突然現れカウンターカルチャーの舵取りを任されたわけですが、交通事故を契機に後半は世間の目から逃れた内省の時代を経て、70年代に入るとその変化を表に出すようになりました。この時期はアメリカ全体としては「Me (私)の時代」と呼ばれるようになりますが、社会の混迷から全体の改革よりも自分を見つめ直し自分をよくしていこうと考えるようになり、ディランは再び時代の象徴のように見られることになるのです。
1974年年明け早々、1月3日、18,000人の大観衆を集めたシカゴ・スタジアムで、1966年以来となるディランのツアーが始まりました。ツアーの概要は、わずか6週間前に告知され、チケットは郵便での受付のみとなったため、各地の郵便局はパニックになったと言われています。ツアーに同行したのは1966年のツアーでも一緒だったThe Bandですが、The Bandはすでにスターとなって今回はバックバンドではなく共演という位置づけになりました。
ツアーは、1月3日から2月14日までの43日間、北米各地で40公演という超過密スケジュールで行われました。11月の「PLanet Waves」のレコーディングでは、雰囲気を大事にした比較的コンパクトな演奏でしたが、ツアーでは大会場でものすごい数の観客を相手にしなければならないので、ディランもThe Bandのメンバーも負けないように大音量の派手なロックで畳みかけるつもりで準備をしていました。
シカゴで始まった第一声はデヴュー間もない頃に作られた「Hero Blues」で、今では「The Bootleg Series Vol.9 The Witmarl Demos」でフォーク版を聞くことができますが、当時の人々はまったく知らないであろう曲です。しかし、ミディアム・テンポのブルース・ロックは観客を十分に盛り上げることに成功しています。続く「Lay, Lady,Lay」もオリジナルのカントリー調から見事なロックに変貌しています。
ジミ・ヘンドリックスのカバーを参考にしたという「All Along the Watchtower」まで、一気に畳みかけたかと思うと、そこからは一転してディランのソロ・パートとなりアコースティック・ギターとハーモニカだけの従来のステージで、「The Time s They Are A-Changin'」や「Song to Woody」などを歌います。間にThe Bandのみの演奏を数曲ずつはささんで、最後は再びエレクトリック・パートでロックに変貌した「Like a Rolling Stone」などを歌いました。
2024年に、正式にアサイラム・レコードが録音していたツアー音源が「1974 Live Recordings」として27枚組CDボックス・セットとして発売され、ツアーのほとんどの演奏を聴くことが可能になりました。ただし、このセットの残念なところはThe Band単独の演奏はすべてカットされているところです。ディランに負けないほどに成長した彼らの演奏を含めてのツアーなので、ディランだけだと流れがバラバラな印象があります。
そういう意味では、ディランとしては初めてのライブ盤として1974年6月に発売された「Before the Flood (偉大なる復活)」の方が、ライブ全体の雰囲気が伝わりやすく作品として悪くはないと思います。とは言え、当時は、ディラン・ファンからすればThe Bandの単独パートは不要だという意見かあったのはもっともなことだと思います。このアルバムは、大部分がツアーの千秋楽、2月14日のイングルウッドで収録されています(一部が同じ場所の前日の演奏)。
ツアーとしては興行的には成功したと言えるのですが、実はディランもThe Bandもツアーが進めば進むほど自分たちの音楽が商業的に利用されているという気持ちが強くなっていました。それぞれが、自分自身を演じているというような、冷めた視点で見るようになり、必ずしも楽しいものではなくなったらしい。
アルバム・タイトルは「洪水の前」ですが、これは建国200年を目前して混沌と化した社会をリセットするための「洪水」であり、ディランは世間の注目の中で、「ノアの箱舟」の役割を担わされることになってしまうのです。
ちなみに、ジャケット写真は観客がライターに火をつけて掲げている写真が使われ、現代のライブではライトアップはお馴染みの光景ですが、この手の仕掛けがコンサートで行行われた元祖と言われています。
Most Likely You Go Your Way and I'll Go Mine
Lay Lady Lay
Rainy Day Women #12 & 35
Knockin' on Heaven's Door
It Ain't Me Babe
Ballad of a Thin Man
Up on Cripple Creek*
I Shall Be Released*
Endless Highway*
The Night They Drove Old Dixie Down*
Stage Fright*
Don't Think Twice, It's All Right
Just Like a Woman
It's Alright, Ma (I'm Only Bleeding)
The Shape I'm In*
When You Awake*
The Weight*
All Along the Watchtower
Highway 61 Revisited
Like a Rolling Stone
Blowin' in the Wind
Bob Dylan (vo, guitars, harmonica, ), Robbie Robertson (ele.g, vo)
Garth Hudson (org, p, clavinet), Levon Helm (vo, ds)
Richard Manuel (vo, p, ele.p, org, ds), Rick Danko (vo, b)
* The Band only
February 13, 14, 1974 Los Angels Forum, Inglewood, CA
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