2025年10月27日月曜日

リボン (2022)


本名は能年玲奈。今は「のん」という名前で芸能活動をしています。そのあたりは、いろいろ大人の事情があるようですが、すでに「のん」としての実績がたくさんあるので、それはそれでいいんじゃないかと思ってしまいます(本人には申し訳ないないかもしれませんけど)。

主たる活動は女優ですが、2019年にYouTubeで「おちをつけなんせ」という初監督・初脚本・主演作を発表しています。こちらもそこそこ楽しい仕上がりでしたが、これは監督・脚本としては2作目ですが、劇場公開用の初商業作品です。

「おちをつけなんせ」で両親を演じた菅原大吉・春木みさよが、本作でも両親役で登場します。友人の平井に山下リオ、中学の同級生に渡辺大知、妹のまいに小野花梨、そして主役の浅川いつかにのんというのがキャストのすべて。特撮には樋口真嗣、カメオ出演と予告編政策は岩井俊二という具合に、有名な方々が応援して作られています。

2020年4月に新型コロナウイルスのパンデミックにより、初めての緊急事態宣言が出され、多くの人が自粛生活とソーシャル・ディスタンスを余儀なくされ、その影響をまともに受けた美大生の生活を描きました。多摩美術大学が全面的に協力しています。

美術大学生4年のいつかは、緊急事態宣言により大学が閉鎖されたため、製作中の作品を持ち帰ることになりました。親友の平井は作品が大きすぎて、そのまま置いておくしかありません。心配する母親がアパートに見舞いに来ますが、いつかの作品を遊びで書いたゴミだと思って捨ててしまいます。母親と喧嘩して、ごみ捨て場から絵を回収したものの、それを描き続ける気力は失ってしまういつかでした。

さらに父親、妹がアパートに訪ねてきます。人と喋る機会が無くなってしまったので、家族でも声を出せることは悪くはありません。公園に行くと、何度か同じ男性と会うようになりました。そして、彼は中学の同級生だった田中であると名乗ります。彼は初めていつかの絵を褒めてくれた人物だったのでした。

実は、平井はときどき大学に忍び込んで絵を描き続けていたのです。そして何とか持って帰りたいといつかに相談してきます。しかし、大きすぎて持ち出すことはできないし、持って帰っても置く場所はありません。二人は大工道具を用意して、見つかったら退学覚悟で再び大学に忍び込むのでした。

コロナ禍のさまざまな制約を受けたドラマ・映画などはすでにいろいろありますし、コロナ禍そのものが映像化されることも今でこそありますが、コロナ禍の真っただ中に、真正面から自粛生活のフラストレーションを映像化したのものは珍しいと言えそうです。

いろいろな日常が停止してしまい、忍耐を強いられる生活を強制された人々がたくさんいたわけで、この作品に登場する美大生はまさにその典型なのかもしれません。それは、芸能界の人々も同じで、いつかのセリフにも「世の中には芸術なんて無くても困らない人がいる」という言葉に集約されているようです。

いつかの気持ちの浮き沈みは、CGで彼女の周囲を舞うリボンとして描かれています。時にはゆったり舞い、時には矢のように真っすぐ刺さるように向かう、たくさんだったり、1本だけだったり、美大生のアートな雰囲気をうかがわせることに役に立っている面白い効果です。

のんの監督・脚本の技量については、可もなく不可もなくという感じでしょうか。コロナ禍の中の制約を受けつつ、コロナ禍を描くという、鉄は熱いうちに打つというかなりのチャレンジであることを考えれば、上出来と評価されるべきかもしれません。自らの活躍の場を自ら開拓していくという強い信念があってのことでしょうから、今後も期待したいと思います。