2026年9月5日土曜日

Tempest (2012)


ボブ・ディラン、71歳、前作から3年ぶりの新しいスタジオ・アルバムです。この年齢でも創作意欲が衰えていないことが凄いと思いますが、この間もステージに立ち続けるペースは落ちていないことは、さらなる驚きです。

2010年は、2月にオバマ大統領主催の公民権運動追悼イベントに出演し、3月には9年ぶりの来日公演を観客との距離が近いライブハウスで行い、5月から11月末まで世界中を回ってステージをこなしています。これらのライブの合間に、すでに新作のアイデアが生まれています。2011年になっても、3月から11月まで、4月の初めての中国でのライブを含めて89公演を行い、この間に70歳の誕生日を迎えました。

2012年の年明けから、ディランは新しいアルバムの録音に入ります。今回も、Jack Frost名義のセルフ・プロデュース、レギュラーのツアー・バンド・メンバーを中心に、ロス・ロボスのデヴィッド・イダルゴを迎えてのセッションになりました。作業は、例によって一発録りに近い形で行われ、3月には終了しています。

1997年の「Time out of Mind」以後、完全復活したディランですが、以後のアルバムは「ボブ・ディラン」というアーティストを形成したルーツをたどり、再発見し再確認して再構築することで現代に再提示する作業の連続と言えます。今回もそのコンセプトは継続していますが、比較的ダークなストーリー・テリングに重きを置いたものとなりました。

2012年5月、ホワイトハウスにてバラク・オバマ大統領から、文民に贈られる最高位の栄誉である「大統領自由勲章(Presidential Medal of Freedom)」を授与されました。音楽関係者では、ボノ、ドリス・デイ、フランク・シナトラ、ブルース・スプリングスティーン、ヨーヨー・マ、アレサ・フランクリンなどが受賞しています。授賞式でのディランは、終始、無言・無表情でオバマ大統領も「それも彼らしい」と語っています。

この年の後半は、再び「Never Ending Tour」の毎日に戻りますが、9月にこの「Tempest」がリリースされると、またもや70代の巨人の新作は大絶賛されます。年老いてなお、前作を凌駕するようなアルバムを出せることに、多くの評論家や一般のファンは驚くしかありませんでした。

1曲目の歌詞だけはロバート・ハンターとの共作で、作曲時期は前作「Together Through Life」制作時のものかもしれません。ラジオから聞こえてくるようなスティール・ギターのイントロから始まり、懐かしい響きを持つ軽快な曲ですが、列車の汽笛が死や運命の象徴として歌われアルバム全体の雰囲気を示しています。以後のツアーでも毎回のようにセットリストに加わりました。

2曲目以後も、深夜過ぎの不穏な空気、荒廃した世界、男女の破局、血の代償、人の醜さ、権力欲への皮肉、三角関係の悲劇などをテーマにしています。そして14分超えの壮大なアルバム・タイトル曲で、「タイタニック号の悲劇」を想像を膨らませて虚実混在するドラマを歌い上げます。

ラストを飾るのはジョン・レノンに捧げた哀悼歌です。レノンの書いた歌詞のフレーズを織り込み、功績を讃え安らぎを祈っています。ガスリーの影響を強く残す1962年頃に、プライベート・テープやステージで歌っていた同名曲がありますが、それは労働者を歌うトラディショナルで別のものです。


Duquesne Whistle
Soon After Midnight
Narrow Way
Long and Wasted Years
Pay in Blood
Scarlet Town
Early Roman Kings
Tin Angel
Tempest
Roll On John

Bob Dylan (vo, g, pf)
Tony Garnier (b), Donnie Herron (steel guitar, banjo, vn, mandolin)
David Hidalgo (g, accordion, vn), Stu Kimball (g)
George G. Receli (ds), Charlie Sexton (g)

January ~ March, 2012, Santa Monica, California

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